本事例の事業所（以下「事業所」という。）では、障害者の採用面接時に、当該障害者が利用していた就労移行支援事業所または特別支援学校の職員が同席し、得意なことと苦手なこと、どういったものまでが持ち運びできるかどうかなど、障害による配慮点について、補足説明を受けている。

面接では障害者に対して、想定される業務について具体的に説明し、同席者にも従事することが可能か確認してもらっている。
各人の適性を見極めるため、採用後は2週間をかけて全工程をひととおり体験させてみて正式に配置する場所を決めている。
なお、事業所では知的障害のある従業員が多く働いている。

障害のある従業員が配置された部署には必ず障害者職業生活相談員（以下「相談員」という。）を配置している。相談員は、障害のある社員の現場担当者として指導役・相談役を担い、常に困りごとなどの対応ができる体制にしている。

どのタイミングで業務量を増やすかは、毎日接している現場の相談員が判断して本人に働きかけるようにしている。
入社時に適性を見て配置しているとはいえ、可能な限り定期的に別の業務に配置換えを行い多能工化を図っている。多能工化することで、急なシフトの穴にも他部署の従業員がヘルプ（他部署への応援）できる環境を作っている。

・障害のある従業員が担当する業務は複雑でないものが多いため、マニュアル等の作成はしていないが、現場の相談員が初めにOJTでやり方を説明し、課題があればその都度対応するようにしている。

・対象者は数を数えることに困難があったため、洗濯後のリネンをたたんで一定数を束ねる業務を担当した際には、たとえば20枚のリネン束なら、20枚の「間に挟む紙」を用意してリネン、紙、リネン、紙…と交互に重ねていき、20枚の紙をすべて使い終わったら挟み込んだ紙を引き抜いて20枚の束を作る、といった工夫で困難を解消した。

出退勤時刻・休暇・休憩に関しては、障害のある従業員とそうでない従業員が同じシフトで支障はなく、障害のある従業員からも短時間や変形時間勤務等の希望は上がっていない。
体調面で調子が悪そうな場合は、本人の体調を最優先とし現場の相談員が声がけを行い早退させるなど対応している。その際に生じたシフトの穴は、残りのメンバーまたは他部署からのヘルプで対応できるよう、社内でフォローする体制を整えている。

・本人に障害があることは担当の相談員から部門の従業員に伝えているが、具体的にどういったことが苦手であるか等の詳細な情報については原則伝えていない。社内は障害のある従業員と障害のない従業員とが協調して仕事ができるよう心がけており、前述の対応によりおおむね支障はない。

・一方で個別の細かい対応が必要な場合にはその対応も行っている。障害特性で多動性のある従業員が作業のストレスからイライラがつのり、業務に支障が出るおそれがある場合には、まれなケースではあるがあらかじめまわりの従業員に障害特性や配慮事項について周知することとし、適切に対応できた。ちなみにこのケースでは、母親も同じ事業所で働いていたため、親子を距離が近い部署に配置して、その力を借りながら対応した。

障害のある従業員が安定した職業生活を送れるよう、相談員の配置に加え、障害者就業・生活支援センターとは頻繁にやりとりをしており、少なくとも月に1回は訪問してもらうようにしている。
また、学校からの職場体験を積極的に受け入れるようにしており、就業前から関係を密接にしておくことにより職場体験した生徒が入社してもミスマッチが少なくなるよう工夫している。