発達障害者のサービス業（オフィスサポート
業務等）における合理的配慮事例
- 事業所名
- 合理的配慮事例・2020213
- 業種
- サービス業
- 従業員数
- 38名
- 職種・従事作業
- 名刺作成（依頼内容確認・印刷・裁断・封入・発送）、共用会議室の運営管理（利用状況調査＝空き室になっている場合の予約者への確認、備品チェック等）、納品に関する検収業務など。 注）本事例の事業所（以下「A社」という。）は、製薬会社のオフィス業務を受託している会社（以下「B社」という。）の子会社であり、製薬会社も含めた特例子会社グループ適用認定を受けている。
- 障害種別
- 発達障害
- 障害の内容・特性
就労上の課題 - アスペルガー症候群：対人関係・コミュニケーションが苦手。
- その他
- 特例子会社
募集・採用時の合理的配慮
面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること
本事例の対象者（以下「対象者」という。）は、A社がハローワークに出した求人への応募者。また、対象者は就労支援機関や特別支援学校の支援を受けていた。そのため、面接の際にはA社からの希望により、関係機関の職員が同席した。
面接・採用試験について、文字によるやりとりや試験時間の延長等を行うこと
同席した関係機関の職員からは、面接に際しては、「何か補足はありますか？」と会社から聴いた時や、本人が言葉に詰まった時に、フォローがなされた。やりとりは口頭で、20分から30分程度実施した。
その他の配慮
・対象者が面接を受けた時期はA社の設立時期であり、面接後にはA社での職場実習を行い、採用に至った。
・A社がグループの特例子会社であることから、対象者の実習の際にはB社から受託したオフィス業務のなかから対象者に適した作業を選んで実施することができた。
採用後の合理的配慮
業務指導や相談に関し、担当者を定めること
対象者も含むすべての障害のある社員に対し、働きやすい職場環境の整備の一環として、スタッフとの定期面談を行っている。月1回、1人30分程度、スタッフと面談する時間を設け、仕事の確認や困っていることの相談を受けている。相談の担当は事業部の健常者スタッフ全員で当たっている。
また、社長と茶話会でざっくばらんに話をする機会も設けている。茶話会は1～2か月に1回、その前後の誕生日の人に集まってもらって行っている。
なお、以下の配慮等は障害のある社員に共通して講じられている配慮であり、対象者に限定したものについては明記している。
業務指示やスケジュールを明確にし、指示を一つずつ出す、作業手順について図等を活用したマニュアルを作成する等の対応を行うこと
・朝礼・夕礼の実施により情報の共有化を行っている。仕事によっては製薬会社やB社での作業になることもあるが、そうした際にもいったん、A社で朝礼を行ってから出向き、また夕礼にも戻って参加することとしている。
・また、業務内容と社員名のマグネットシートをホワイトボードに貼って日々の仕事を可視化し、他の人の動きも共有化している。さらに月単位のスケジュール表もホワイトボードで作成し、見通しが立つようにしている。
・作業に当たっては、紙ベースでのマニュアルの他、見本を示すようにしている。特に印刷物の場合、ずれや汚れ等について「これは○」「これは×」といった見本を貼り出して、視覚的に確認できるようにしている。
出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院･体調に配慮すること
調子が悪い時には看護師がいる診療所に行き休養室で横になれるようにしているが、そこまでのことではないが、少し休憩を取りたいときは、オフィス棟の2階と3階にあるリフレッシュコーナーを使ったり、執務室の一角をパーテーションで囲った休憩ブースで一人で過ごせるようにしたりしている。このように3段階の休憩場所、すなわち、休憩ブース（写真1、2） ⇒ リフレッシュコーナー（写真3） ⇒ 診療所（休養室）（写真4）といった休憩場所を提供することによって、ニーズに合わせた使い方ができるようにしている。なお、休憩ブースを使用中の場合は、ハートマークのグッズを掲げて外から分かるようにしている。
通院については、有給休暇の取得の他、夕方にフレックスタイムを活用して行ってもらう場合もある。有給休暇を取得して通院する際などは、あわせて支援機関にも立ち寄って報告や相談するように勧めることもある。
感覚過敏を緩和するため、サングラスの着用や耳栓の使用を認める等の対応を行うこと
聴覚過敏で、本人の申し出に基づきノイズキャンセリングイヤホン（本人の所有物）を使っている人もいる。その場合、呼びかけても聞こえないこともあるので、前に回って手を振って合図をしてから話しかけるようにしている。
また衣類に対する感覚過敏の方もいるが、制服ではないので本人に合った服を着てもらっている。
本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること
特例子会社なので障害についてはオープンになっているが、他の障害のある社員にどのように伝えるかの課題はある。本人には採用当初に、他の障害のあるメンバーにもオープンにして良いかどうか確認をしている。その上で、何か仕事上の課題があった時などに、「彼はこういう障害の特性があるからこういう配慮が必要」「今日は調子が悪いので」などと他のメンバーにも分かりやすく説明している。
その他の配慮
障害者就業・生活支援センターの担当者には、定期的に会社に来ていただき面談するほか、本人とも会ってもらい、リラックスする時間を設けている。出身母体の就労支援機関や支援学校ともつながりがある他、就労定着支援（就労移行支援6か月のフォローの後の3年間）も始まっている。
また、毎日10時と15時からの30分間に、自分のデスクでおやつを食べても構わない時間帯（＝もぐもぐタイム）を設け、過集中を防いでいる。その他、食堂（写真5）では、一人で食べたい人もいるので、カウンター席も設けている。
さらに、A社の主催でグループ企業の社員向け啓発講演会を開催し、グループの社員にも「どんな配慮が必要か」を知ってもらう機会としている。A社の障害のある社員が社内便を届けた際に、言動などに不安や疑問が生じることもあると思うので、こうした啓発の場は重要である。また、障害のある社員に対する研修（社会人基礎能力研修、IT研修、職場安全意識向上研修等）を行っているが、それだけではなく、障害のある社員自身による自主研修（電話マナー研修等）も行っている。これらは、本人の成長を支える仕組みである。
障害者への配慮の提供にあたり、障害者と話し合いを行った時期・頻度等の配慮提供の手続きの詳細
毎月1回の定期面談において、気になることがあれば、スタッフ全員で共有するようにしている。
その他、日報による状況把握を行っている。毎朝書いてもらう項目として「昨夜はよく眠れましたか」「今日の体調は？」「朝ごはんは食べましたか？」という欄がある。これは毎日の確認もさることながら、時系列で見ることで体調変化の予兆をチェックすることにもつながっている。
さらにこの日報には、夕方にその日行った業務と感想を記入する欄がある。10点満点の自己評価を書いてもらっているが、重要なのは、ずっと10点を付けている人がいきなり5点を付けたりしたときに、「どうしたのかな？」と気にかけることである。自己評価ゆえに、自分に厳しい人も、その逆の人もいるが、点数そのものよりも変化を見ることに意味がある。
配慮を受けている障害者の意見・感想等
【対象者の感想】
いくつかの業務を担当しているが、やりがいのある仕事として、納品物の検品作業がある。検品終了時に、相手の部署の方に「終わりました」と報告を入れるが、その時にお礼を言われると、「頑張ってるな」と思える。
難しさを感じる作業は、印刷された名刺を発送する業務で、納品書を三つ折りにして封入する時である。見本はあるが、折り目を合わせるのがなかなか苦手である。
ある仕事を急ぎでするために、他の仕事ができない時などは、周囲のメンバーに声をかけて手伝ってもらっている。
自分はアスペルガー（症候群）なので、人との関係でその場の空気を読むのが苦手である。また今日一日これをすれば良いというのが分かっていれば良いのだが、急に予定が変更されるのが苦手である。仕事の見通しについては、来月の予定表が配付されるが、日々については、ホワイトボードに貼り出し（見える化）してもらっているので、助かる。
将来的な希望としては、パソコンでエクセルの関数を使った仕事もしてみたい。
【対象者から他の障害者へのメッセージ】
障害をもっている人は結構ネガティブになっていることもあるが、そのかわり得意なこともあると思うので、そういうところを伸ばしていければ、結構、人生を楽に生きていけると思う。会社でもその特性を伸ばしていければ、有意義な人生を送れると思うし、働いていけるとも思うので、そのようにしていただけたらと思う。
【A社から他の会社へのメッセージ】
特性を生かし、自分の成長につなげてほしいし、それを会社の成長にもつなげるという両輪が大切と考える。
少しでも特性を知って話をすれば、障害のある社員は決して特別な人ではないということが分かった。
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