対象者は以前より障害者就業・生活支援センター（以下「支援センター」という。）を利用していたことや、採用に際しては地域障害者職業センター（以下「職業センター」という。）のジョブコーチ支援の活用が想定されたことから、採用面接には、両センターの職員や公共職業安定所（以下「ハローワーク」という。）の職員が同席し、対象者の受け答えを補足する形で、障害特性や就労上の配慮点等についての情報提供・質疑応答が行われた。

1.対象者は介護分野での就労は初めてであり、また、事業所でも配属予定部門での障害者雇用は初めてということもあり、面接後に10日間の職場実習を行った。実習では、対象者は体験的に業務への理解を深めることができ、事業所としても対象者の特性に合わせての業務調整の可否などを検討し、採用へとつなげた。

2.採用にあたっては、職業センターのジョブコーチ支援を活用した。

1.介護業務の経験が豊富な現場のリーダー的な職員を指導担当者とした。また、対象者の配置部署では障害者の雇用が初めてであることもあり、ジョブコーチのアドバイスを得ながら対象者への作業指導を行った。

2.対象者へ指示が同時に複数の職員から出ないように、対象者の指導や他現場職員からの意見聴取の窓口をひとつにし、対象者が困惑しないよう努めた。

1.採用当初はジョブコーチのアドバイスも参考に担当業務を決定し、その業務が円滑に遂行できるようになったら次の業務を決めるというように徐々に増やしていった。

2.業務遂行にあたっては対象者に応じた作業手順書等を作成し、確実性の向上などに活用した（詳細は次項でも紹介）。

3.介護サービス利用者（以下「利用者」という。）への対応の際には、利用者からの指摘に悩むこともあったが、周囲のフォローや担当する利用者の変更により乗り越えることができた。

1.事業所では職員のマニュアル的なものとして作業手順書（以下「手順書」という。）を使用している。しかし、対象者については既存の手順書では限界があることから、ジョブコーチの助言等も得ながら手順書の変更を行った。既存の内容では理解等が困難と思われる部分を、対象者に理解しやすいものに作り変えて使用した。

2.変更した手順書でもミスが続いたり、対象者が「分かった」といっても実際には理解されておらず、理解程度等が周囲に分かりにくい場合には、ジョブコーチと連携して、本人との面談、手順書の変更、作業環境の改善等を行い、ミスの減少等につながった。

3.一方、対象者が業務に慣れてくると手順書を見ずに記憶にもとづいて作業し、抜け等が起きることもあった。そうした際にはその都度手順書を見るようにというような指導を重ねた。その後、抜け等がなくなり、確実性は向上した。そうしたことから、現在は手順書から細かい作業手順を省略した簡便な作業表を作り、使用している（「作業表」参照）。

4.手順書以外にも対象者に応じた表等を使用している。一日の業務が円滑に遂行できるように日程等をまとめた資料を作成し、提供している（「1日の流れ」参照）。また、作業の記録や指示されたこと、不明点等を記載する作業日報により、状況把握や必要な調整に活用している（「作業日報」参照）。

作業表

1日の流れ（1）

1日の流れ（2）

作業日報

1.水作業による手荒れがあったので、受診を勧めると同時に、ビニール手袋を使用する作業方法の変更、症状が酷いときは水作業自体を少なくし、体調に配慮した。

2.退勤打刻を忘れたり、所定労働時間よりも早く退勤してしまうことがあったため、他の職員が気を配り、共に退社するように声かけなどを行った。

障害者と一緒に働いたことがある職員も多くないため、採用前の実習に入る時点で事業所（事務部）から職員に対し、「一緒に働く職員に対象者のことを理解をしてもらうため、障害の状況や就労上の配慮事項を伝えたい」旨を説明し、了解を得た。具体的には、知的障害であること、右耳が聞こえないことや作業の習得に時間がかかること等を一緒に働く職員に説明し、理解を得た。

採用前から支援センターの職員や職業センターのジョブコーチの支援を得た。採用後も一定期間就業場所を訪問してもらい、随時アドバイスをもらったり、対象者に直接指導や話を聞いてもらったりすることで、対象者の安定した就労につながった。