本事例の事業所（以下「事業所」という。）にとっては、今回が初めての障害者雇用であった。ハローワークを介し、本事例の対象者（以下「対象者」という。）と事業所のニーズがうまくマッチングし、スムーズに採用に至った。面接時間上の配慮は特に必要ではなかった。

面接は対象者のみとであった。ただし、事前の職場見学時にハローワークの職員、地域障害者職業センター（以下「職業センター」という。）のカウンセラーが同行し、本人同席のもと、事業所の担当者との間で対象者の状況や、配慮事項等に関する情報共有等が行われた。また、面接後には職場実習が実施され、対象者と事業所が理解し合うための時間を十分にとることもでき、採用が決まった。

体調への配慮については、医師の指示を踏まえ、対象者とのやりとりの中で決めていった。当初、万が一体調が悪くなった時に備え、作業場の近くに、簡易ベッドを用意し休憩ができる場所を設けたが、実際には使用にいたらなかった。

対象者を含め、3人のチーム体制で福祉機器のメンテナンス業務を行っている。管理者の社員が中心となり、対象者の指導にあたっている。対象者は、自分の体調の変化に気づき、体調が悪くなる前に、管理者に相談することができている。

作業場の様子

採用時に、医師の指示を踏まえ、50分作業したら必ず10分休憩するというサイクルで、一日6時間の週5日勤務とすることを、対象者ともよく話し合って決めた。通常の出勤時間は午前8時30分であるが、休憩時間と作業時間の区切りがよいように、対象者については8時10分を勤務開始時間とすることにした。また、定期的な通院やリフレッシュのために月1、2回程度休みをとることについても、管理者を始めまわりの社員は、対象者に必要な休暇であると考えている。

これまで、新たな業務に取り組む際には、対象者に実際に取り組んでもらい、体調への影響を確認しながら、担当作業の内容や作業量を判断するなどの配慮を行ってきた。たとえば、荷物の運搬作業では、どの程度の重さの荷物であれば持ち運べるか、疲れの具合はどうかなどを実際にやりながら確認してきた。
現在対象者は、車での荷物運搬作業も担当しているが、管理者や職業センターのカウンセラーは、車の運転に伴う体調への負荷や、取組みを始めるタイミングについて十分に留意しながら、対象者の作業内容の幅を広げてきた。今後は、機器の修理など技術が要求される作業や、管理者が担当している業務の多くをこなせるようになることを視野に入れながら、指導することも検討中である。

対象者と同じ作業場の社員だけではなく、疲れやすいなどの主な症状やそれに伴う配慮については、社員全体で共通理解を図っている。業務上、他の部署とのやりとりもあるが、「がんばってるね」などの声をかける社員もいることから、対象者も安心して職場の雰囲気に溶け込んで仕事ができている。

対象者は20代と若く、事業所が初めての就職である。事業所としても初めての障害者雇用ということもあり、指導を担当する社員は、対象者やカウンセラーとの相談等を通してニーズを把握し、一つ一つ職場環境を整えてきた。一方で、担当としては、挨拶や規律など社会人として身につけるべきことや、仕事に必要な技術の向上や責任感を持って働くことなどについて、どのレベルまでをどのように指導していけばよいかについて、年齢や経験、障害への配慮との兼ね合いから迷う時もあるとのことである。しかし、対象者の成長は本人にとっても事業所にとっても不可欠であることから、これまでの取組を踏まえ、新しいことにまずは取り組んでもらい、その状況に応じて本人との相談や調整を積み重ね、次のステップに進んでいくようにしていきたいとのことであった。