・面接自体は対象者のみとで行ったが、これまでの経緯等の詳細については、対象者が利用している就労支援施設の施設長も同席した場で説明等を受けた。施設長には採用後も対象者が安定するまでに何度か来社いただき、相談等を行った。
・なお、同社はA行の事務センタービル内にあり、A行とは密接な関係があることから、障害者の面接には行員も同席している。

・本事例の事業所では、障害者の採用に際しては、その人がどういう人かを理解することを重視している。そして、「こうやりたい」「疲れたらこうしたい」等の要望には最大限応えるようにしている。
・その人を理解するため、応募者には職場実習を提案している。実習は必須ではないが、実際の職場で作業することは応募者にとってもメリットがあると考える。特に精神障害者の場合には、支援施設ではできていたことが環境が変わるとできない場合もあり、意味があると考える。対象者の場合には実習を行い、採用となった。

・同社では実務上同社のトップである役員のA氏（以下「A役員」という。）が中心となって障害者の受入れや指導等を行っている。採用後はまずA役員から担当業務や職場のルール等の説明を行い、作業手順や技術面については現場のスタッフが対応している。なお、2018年度から障害者リーダー制度を設けている。これは障害のある社員がリーダとして活躍することを目指すもので、大まかな指示はA役員やスタッフが出すが、具体的な作業内容はリーダー2名が指示している。
・統合失調症のある者を雇用するのは対象者が初めてであったため、本人・施設長から障害特性や要望等を聞き、勤務条件等を調整した。

障害者雇用の経験等をもとに、同社では以下の事項に配慮し、対応している。

1．指示を出す際は否定語は使わない。否定語は社員の心に刺さってしまうことがあり落ち込んでしまう。できるだけ肯定的な表現に言い換える。
2．障害のある社員は日誌を毎日書いてA役員に提出（報連相）する。社員が困ったことや気になることを書き、翌日A役員がコメントを返す。日誌の活用により悩みが小さなうちに解決できる。
3．発送準備は、誰がどの工程から入っても作業ができるよう、オリジナルで作製した付箋を使い、どの束がどの工程まで終わっているかわかるように工夫されている。

報連相の看板

オリジナル付箋

・5月の連休前に再発し入院。9月に復帰し、まず13：00から15：00の勤務とした。その後11：00からの出勤になっている。
・薬を服用している社員のなかには朝が弱い者があり、そうした者については無理をさせず来られる時間に来てもらうようにしている。
・基本的勤務時間は8：30から17：30だが、その人が働ける時間に常務が調整し、通えるようにしている。
・毎日書く日誌には「疲労度」を書く欄があり、体調の変化に本人・上司が気づきやすくしている。

体調がすぐれないときには、応接間、その隣の仕切られたスペースで勤務時間内でも休憩や仮眠が取れるようにしている。
休憩所、仮眠室は今後整備したいと考えている。

・担当業務や業務量の調整は主としてA役員が担当している。
・一日のノルマを課すのではなく、その日社内で行なっている作業から「今日できる分をやってくれればよい」とあらかじめ伝えている。作業ペースも本人の調子に合わせて自分のペースでやるように指示している。
・A役員の席はフロアの真ん中に設置してあり、わからないとき、困ったときは手を挙げるように伝えている。
・対象者は入社時は発送準備から始まり、次に「やってみたいことあるか」と声掛けし、就労支援施設で経験のあった名刺作製を担当した。安定してからは「PCが得意」とのことで為替エントリー作業を担当。現在は体調不良から復帰したばかりであるため、出勤時間を13時（もしくは11時）にしており、午後に職場全体で行う発送準備作業を行なっている。

・ワンフロアに様々な障害を持つ社員が一緒に働くという特例子会社ということもあり、障害についてオープンにしている。
・オープンに際しては、当該社員の了承を得たうえで、A役員からそれぞれの社員に特性を伝えている。
・A役員はドクターや障害者職業センターと相談した結果や、外部研修で得たものを社内で共有するなど、障害のある社員への適切な支援ができるスタッフの育成にも会社として取り組んでいる。