対象者は、職場実習を経て採用された。面接時は支援学校の先生も同席して、学校での様子等の聞き取りを行うとともに、採用後の仕事についての説明を行った。
コミュニケーションに障害があることは、学校より伝えられた配慮すべき最大のことであった。

対象者の保護者からも職場実習時に「事業所で働かせてほしい」との要望もあり、職場内では初めての障害者雇用で不安もあったが、事業所の社長が障害者の雇用について理解があり、採用に至った。

事業所のベテラン男性社員(現在の工場長。以下「現場担当者」という。)が採用当初から指導に当たり、対象者の行う作業を実際にやって見せてから、繰り返し繰り返し教えていった。製品の材料運び製品製造後にできるスクラップ（不用品）を指定の位置に運ぶ仕事を主に行うようになった。この業務を対象者が行うことにより、同じ製造部門の社員が自分の持ち場の業務に専念することができ、製造部門全体の作業効率が向上している。対象者の現場の担当者によると、対象者は20年間の勤務の中で、出勤後のあいさつを毎日欠かさず行い、元気に勤務しているとのことである。

対象者ができる範囲の作業から始めた。採用当初は製品の製造後にできるスクラップを外してカーゴに入れて、所定の位置まで運びまとめる作業から初め、その後に、本人の適性をみるため、製品のはさみカット、プレス補助、検品、手直し作業等や製造工程での補助の片づけ作業、製品の移動作業、清掃作業の補助作業も行なった。さまざまな作業を経験し、事業所の業務について広い知識をつけた上で、現在は、製品の製造部門での材料運びと製造過程でできるスクラップの処理作業により事業所内の生産性向上に寄与している。

現場担当者は、行う作業を実際に見せてから繰り返し繰り返し教えた。対象者は、数字に関する興味と関心が強く記憶力も高いので、製品の番号等を覚えることが得意である一方、製品番号で集めるよう指示しても自分の好きな日付を優先してしまうなど、自分で判断して指示と違う作業をしてしまう傾向があった。よって、口頭ではなく紙に製品番号を記載しての指示や、図や絵を示しての指示を行った。さらに、作業内容を写真におさめそれを貼っての指導や、集中できるように対象者の周りに囲いを設置するなど、対象者への明確な指示と集中しやすい作業環境の構築を行った。製品加工には細かな調整や熟練の技術が必要となるため、任せられる仕事かどうか手探りで本人のできる仕事を探しながら指導していった。

体は丈夫であり、病欠による欠勤はほとんどなく、毎日元気に自転車にて通勤している。休暇は他の社員と同じく事前に計画年休を取得している。通院することもなく、体調面での日々の特別な配慮は行っていない。困りごとがあれば業務日報に記載して相談することが出来るような環境が構築されているが相談はあったことがない。

事業所の担当者より、現場の従業員に対象者の障害特性について説明するとともに、仕事の指示をするときは、対象者に理解しやすいようになるべくゆっくり丁寧に話をするよう指導している。製造部門では同じ部門の社員も対象者の作業内容について傍らで気を付けて見守る体制ができており、何かあれば声掛けできるよう配慮されている。

対象者には、事業所の職場内でのマナーやルール、作業時間や休憩時間について、他の社員と同様に説明した。特に、安全対策では、工場内のフォークリフトの前や後ろを通るときには左右の安全確認を十分に行うことを徹底しており、事故の発生防止に努めている。対象者が前だけ見て歩いていく傾向があることから、フォークリフトの運転作業員にもその特性を周知し、対象者の安全確保に特に注意することとしている。
また、障害者就業・生活支援センターの支援員が、3か月に一度、対象者の仕事状況の確認のため来所している。来所時は支援員と対象者間で面談を行い、体調面や仕事の困りごとがあれば、事業所側にフィードバックできる体制になっている。