(1)事業所の概要
　医療法人和光会（以下「同法人」という。）は昭和26年に設立された。職員数は現在、363名となっている。
　同法人の中心となる恵寿病院は、「自分がしてもらって嬉しいことを患者さんに提供しよう。」を設立以来の変わらぬ目標として運営されており、立地は東長崎から愛野に続く国道251号線沿いの有喜（うき）港を臨む丘の上にある。この丘には恵寿病院の他に介護医療院「恵愛荘」、老人保健施設「恵仁荘」、特別養護老人ホーム「天恵荘」、盲養護老人ホーム「光明荘」、養護老人ホーム「福寿園」、グループホーム「恵」、企業主導型保育園「うきうき保育園」が集まっており、この丘全体が「うき福祉村」と呼ばれている。別に街中にも2つの地域密着型特別養護老人ホーム「諫早中央」、「諫早ニュータウン」があり、全体の施設が連携することで高齢者の様々なニーズにも対応できることが同法人を含む出口グループの最大の特徴である。

(2)障害者雇用の経緯
　同法人の運営の根幹に、会長が率先して体現する奉仕の精神があり、法人全体に職員を大切にする姿勢及び障害者雇用への理解がある。
　同法人に長く勤務する事務局長は「障害のある職員が自分の夢を少しでもかなえることができる場所であればと思っている。『早く仕事に行きたい』と思えるような職場づくりに今後も取り組んでいきたい。」と話す。
　同法人では、事務局長及び管理部門の部長（障害者職業生活相談員）を中心に、障害のある職員へのサポート態勢や、障害の程度に応じた人員配置など、個別に様々な配慮を行っている。障害者雇用に特化した求人を行っていないながらも、近隣からの紹介で入職し、30数年継続勤務している職員をはじめ、身体障害、知的障害、精神障害のいずれについても複数名の職員を雇用している。

 

(1)視覚障害のある職員　1名
　　介護業務を担当し、介護福祉士の資格を保有している。
(2)聴覚障害のある職員　1名
　　介護業務を担当し、介護福祉士の資格を保有している。
　　なお、夜間の勤務については、免除する配慮を行っている。
(3)肢体不自由のある職員　1名
　　調理業務を担当している。
(4)知的障害のある職員　2名
　　 ア　清掃業務とリネン交換を担当している。
　　イ　清掃業務を担当している。
(5)精神障害のある職員　2名
　　ア　介護業務を担当し、介護福祉士の資格を保有している。
　　 イ　清掃業務及び補助業務を担当している。

 

(1)募集・採用
　採用は、主にハローワークの紹介で採用している。採用に際しては障害者トライアル雇用などを活用しており、必要時には常用雇用への移行に向けた支援（ジョブコーチ支援など）を依頼している。また、特別支援学校（以下「支援学校」という。）からの職場実習（以下「実習」という。）を受け入れた上でも行っているが、最近は特にコロナ禍の影響で、なかなか実習の受け入れは難しい状況である。

(2)個別の担当業務と職場配置及び取組の効果
ア　Aさん
　聴覚障害のあるAさんは、介護業務を担当している。
　同法人は、法人全体でインカムトランシーバー（以下「トランシーバー」という。）を業務に使用しており、業務連絡はトランシーバーでなされるが、Aさんの障害に配慮して、骨伝導で会話が聞こえるイヤホン（以下「イヤホン」という。）を導入し、円滑に働くことができる環境を整備している。
　このことにより、業務連絡が発信されたことの把握は可能となっている。イヤホンがなければ、業務連絡がなされても、本人だけ何もわからないこととなるが、発信されたことがわかれば、本人も周囲に聞くことで連絡内容の把握が可能となっている。イヤホン導入は、トランシーバー導入当時、全社的な業務連絡のネットワークから、Aさんを除外することはおかしいと考えて整備を行ったもので、このことは本人の就労意欲にもつながっていると同法人では考えている。
　　　
イ　Bさん
　知的障害のあるBさんは、入社当初は清掃作業のみを担当していた。勤続年数が長くなるにつれ、徐々に業務がきちんとできるようになり、上司は次のステップ（職域拡大）を考えるようになったが、本人へその話をすると、当初は逡巡する様子であった。しかし、実際に始めると、周囲の職員が常に「やってくれてよかったと」など、感謝の言葉をかけ続けてくれるので、本人もやる気になり、徐々に職域を拡げ、現在ではリネン交換なども行うことができるようになった。最近ではさらに、必要備品の購入伺を起案するなど、積極性も出てきた。
　なお、Bさんに関するエピソードとして、歓迎会を行った際、本人は挨拶を前日遅くまで練習していたが、当日、数分間言葉が出てこないことがあった。その時に、職員全員が、特に話し合ったわけでもないのに、誰も何も言わず、ただ本人の言葉を待ち続けたことがあった。このような配慮が自然とできる職員の集まりであることが、障害者雇用を支える力であるとともに、誇りに思うと事務局長は話す。
　
ウ　Cさん
　知的障害のあるCさんは、支援学校から実習を経て採用された。勤務開始に当たり、本人の親や、支援学校の担当者及びジョブコーチと話し合ったところ、自宅からの通勤に関して途中のバスターミナルでの乗り換えについて、支援学校からの実習時に通った方法から変更することは、Cさんには難しいと予想された。そのため、実習の際と全く同じスケジュール・方法での通勤とし、その通勤で利用可能な公共交通機関の時刻表に合わせた勤務時間をCさんの勤務時間とした。また、本人がわかりやすいように勤務割表を作成し、提供した。
　また採用日以降は、管理部門の職員（現部長）を中心に、職員が毎日声をかけ続け、本人の勤務が円滑に継続できるようサポートした。これらの取組により、採用して今年で8年を迎え、現在も通勤は自分ひとりで行うことができており、本人の親からは、就職を大変喜ばれ、感謝されている。

エ　Dさん
　精神障害のあるDさんについては、主治医などと連携しながら雇用している。Dさんは勤務中に、幻聴などを感じている様子が見られるが、周囲の職員が本人の行動の理解に努めた上で、必要な会話を行い、状況に応じてしばらくそっとしておくなどの体勢が周囲にある。

オ　Eさん
　肢体に障害があるEさんは、入社当初は清掃業務に従事していたが、股関節の痛みが強かったため、本人と面談を行い、職歴なども勘案した上、調理業務（座って行う皮むき作業など）に配置転換を行った。また、身体面での負荷を軽減するため、週20時間未満の勤務としている。　
　定期的に通院の必要があり、休まざるを得ないことも多いが、周囲の職員は皆自然に、本人の次の出勤を待つ意識が備わっており、就労が継続できている。

(3)職場定着を支える取組
　特記すべき取組として、同法人で採用する全ての職員について、採用2週間以内に管理部門の部長と面談の時間を設け、不安払拭、悩み相談を行うことを徹底している。管理部門は玄関そばにあり、面談後も、部長自ら、朝の出勤時を中心に積極的に障害のある職員への声掛けを続ける取組を行っており、また職場全体が、声掛けを行う社風、システムになっている。
　障害のある職員から部長へは、プライベートの相談も多く寄せられるが、個人の秘密は厳重に保持することが伝えられている。プライベートの相談が行えるほど信頼ができ、相談できる部長（障害者職業生活相談員）がいることも、同法人の障害者雇用を推進する大きな支えとなっている。
　また、職員が集まる慰労会などの場においては、採用間もない時期には、親しい職員の横に配席するなど、職場全体で細心の配慮を行っている。
　また、同法人の障害者雇用に関しては、周辺地域（支援学校などの関係機関）からの紹介のほか、職員の家族からの紹介などもある。これは同法人の障害者雇用に対する姿勢と取組が、障害のある職員が安心して働ける職場であると周囲から認識されている結果だと考えられる。

 

　取材の最後に事務局長は次のように話された。
　「障害者雇用を進めるには、人材が最も重要だと考えている。現在、障害者雇用をおもに担当している我々も、引き継いだバトンをしっかりと次世代に渡す意識を持ち、安心して渡せる人材を育成しなければならないという思いの下、日々業務に臨んでいる。人材育成には積極性が重要だと考えており、それをどうやって引き出すかを常に考えている。先ほどのBさんのように、積極性をもって備品の購入伺をあげてくることはすばらしく、より多くの職員がBさんのようになっていけば、当法人はよりよいものになると思う。今後の展望も、人材育成の中にしかないような気がしている。」

　障害者雇用に取り組む同法人の姿勢と、社風をとてもよく表した言葉だと筆者は強く感じた。