（1）事業所の概要
　株式会社オムロン（以下「同社」という。）は、昭和8（1933）年に年立石一真氏（以下「立石氏」という。）が大阪で創業した立石電機製作所を前身とする。
　昭和35（1960）年に世界初の無接点近接スイッチを開発するなど、モノづくりのための機械を自動で動かすために必要不可欠な部品を開発し、人々の生活を豊かにする製品の普及をモノづくりのオートメーション（自動化）で支えてきた。培ったセンシング技術をもとに社会システム事業やヘルスケア事業にも事業を拡大しており、グループ全体の従業員数は約3万人である（国内の従業員数は前述のように約1.3万人）。
　平成30（2018）年には、国内のオムロングループの人事・総務・理財機能を集約したオムロン エキスパートリンクを設立。社内にダイバーシティ推進部を設置し、同部がオムロングループ全体の障がい者雇用における、戦略立案、採用、教育、職場支援などを行っている。
　本稿は、オムロングループにおける障がい者雇用に詳しい、オムロン京都太陽株式会社の前社長で、現在はオムロン エキスパートリンク株式会社ダイバーシティ推進部の宮地功氏（以下「宮地氏」という。）への取材に基づきとりまとめている。

(2)障がい者雇用の経緯
　創業者である立石氏は長年にわたり障がい者雇用に取り組んできた。立石氏が昭和34（1959）年に制定した社憲は「われわれの働きで　われわれの生活を向上し　よりよい社会をつくりましょう」を掲げているが、その精神と、職業を持つことによる障がい者の自立とチャレンジを支援した社会福祉法人太陽の家の創設者の中村裕医学博士の理念「No　Charity、But　a　Chance !～保護より機会を～」が共鳴し、昭和47（1972）年に日本初の福祉工場としてオムロン太陽株式会社（以下「オムロン太陽」という。）が合弁で設立された。オムロン太陽では個々のハンディキャップに適した人財配置や様々な技術と全員による創意工夫で、障がいのある人もない人もお互いの個性を尊重し、能力を存分に発揮して共に働く環境をつくっている。
　オムロン太陽だけにとどまらずオムロングループ各社でも障がい者雇用を促進し、働きやすい環境をつくってきた。
　その結果、令和元（2019）年6月1日時点のオムロン国内グループ全体の雇用率は2.8% となっている。
　オムロンの現代表取締役CEOの山田氏自身も、「ダイバーシティ(多様性)は企業発展の原動力」と社内外に発信し、障がい者雇用を推進している。平成30年には障がい者雇用率の算定において国内全関係会社を含めたグループ適用に移行した。そして、グループ全体の方針と支援体制を一本化してさらなる障がい者雇用の推進と活躍機会の拡大に取り組んでいる。

 

　オムロングループ各社では様々な障がいのある社員が様々な職種に従事している。
　詳しくは冒頭の障がいのある従業員の内訳表のとおりである。

 

 

(1)課題から取組の内容
ア　長期ビジョンの立案
　同社では、障がい者雇用を取り巻く社会の変化、自社グループの現状と今後の推移、事業の変化などを勘案し、2030年においても障がい者雇用の先駆者であるべく、障がいの有無にかかわらず、社員誰もが活躍し事業を通じて社会的課題を解決し、よりよい社会づくりへの貢献を目指すことと、その達成に向けて、グループ全体のプロジェクトで取り組むことを長期ビジョンとして立案している。そして、長期ビジョンに基づいた短期計画として課題検討やグループ各社の採用目標の設定、支援体制の構築、業務改善などを行っている。

イ　募集採用
　長期ビジョンの実現を前提とし、グループ各社の雇用状況、業務内容などを勘案した上で、各社とダイバーシティ推進部とで採用業種・人財の目標を設定する。それらを合わせてグループとしての募集を行い、ダイバーシティ推進部と各社の採用部門が連携して採用面接を行っている。

ウ　障がい者の業務・職場配置
　グループ募集の時点で、応募者は希望する会社と事業と希望職種を出すことができる。応募者の希望と採用部門とのニーズをマッチングさせたうえで採用試験を行う。したがって、基本的に採用時点でおおよその職場は決まる。入社後、集合研修、他部門での実習を経て本配属となる。このプロセスは、障がいの有無に関係なくオムロングループの採用に共通したプロセスである。ただし、応募者の障がい特性に応じた試験方法などでの配慮は行われる。

エ　働く職場の改善
　個々のハンディキャップ、能力、個性を最大限に活かせる人財配置や様々な技術、全員による創意工夫で、障がいのある人もない人も共に働きやすい環境をつくるという方針は今も変わらない。本人が能力を最大限発揮することで、イノベーションを創造し、事業を通じて社会的課題を解決し、よりよい社会づくりに貢献する。そのために現場では常に環境改善を続けている。
　まずは支援体制の整備として、グループ各社、各事業所に障害者職業生活相談員を配置し、本人の上司とも連携しながら支援できるようにした。さらにダイバーシティ推進部に支援専門員を配置し、困難な相談にも対応できるようにした。
　そして、平成28（2016）年から、障がいのある社員に対する合理的配慮面談を開始している。現在は国内オムロングループで働く障がいのある社員260名全員に対して年に1回、上司との合理的配慮面談を行い本人の意見を吸収するようにした。
　それ以外にも必要に応じて医療職（産業医など）との面談も行い、改善必要項目の抽出を行っている。出てきた改善必要項目は、各事業所で検討し、本人との調整のうえ改善実施項目を決定し 改善を実施している。そのほかの面談もあり、詳しくは下の「資料1」及び「資料2」を参照。
　各事業所で実施した改善は、ダイバーシティ推進部に集約し、課題ごとに分類した上で社内のポータルサイトに掲載し、社員のだれもが参照できるようにしている。このようにして雇用ノウハウの共有を進めて、グループ全体での改善を促進している。
 

 　　

　　　　　　　　　　　　　合理的配慮面談中の様子。面談を行う宮地氏（左）と面談を受ける障がいのある社員（右）

 

　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　資料1．合理的配慮面談などの目的と種類

 

　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　資料2．合理的配慮面談のフロー（流れ）

オ　合理的配慮事例の共有化の取組
　グループ各社で実施してきた合理的配慮(改善)を集約し、障がい特性別に「配慮確認ポイント」と「改善事例」をまとめた「合理的配慮事例集」を作成している。オムロングループ各社も閲覧できるようにして、改善ノウハウの共有をしている。以下に掲載した「資料3」及び「資料4」はその一部であり、この事例集はダイバーシティ推進部で取りまとめたものである。
 

 　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　資料3．「合理的配慮事例集」の一部(1)

  

 　　

 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　資料4.「合理的配慮事例集」の一部（2）

 

（2）取組の効果
　合理的配慮面談は、上司と本人が日ごろ話さない障がいについてや配慮への思いなどを話すきっかけとなり、あらたな気づきの場になりえている。また医療職面談により、医療的な観点からも障がい特性を改めて確認でき、具体的な配慮事項の決定につながり、障がいのある社員の働きやすい環境整備が進む上で有効である。

 

　合理的配慮面談の取組を通じて、各職場での相互コミュニケーションが促進されるとともに、職場環境改善のノウハウが蓄積されていく。今後はこうした学びを活かして、オムロングループ全体の障がい者雇用を促進していきたい。そのためには、全社員の理解促進と意識改革が必要。具体的には「障がいの社会モデル」を理解し、実際のバリアに気づき、バリア解消のための行動を起こす社員になることが必要。そのためにダイバーシティ推進部では、各職のスキルアップ研修を以下のとおりに毎年行うこととしている。