心を開き、何でも話せる環境づくりから定着が進んでいる事例
2021年度掲載
- 事業所名
- 弘果弘前中央青果株式会社
(法人番号: 1420001009352) - 業種
- 卸売・小売業
- 所在地
- 青森県弘前市
- 事業内容
- 地方卸売市場の開設経営、青果・りんご・花きの卸売、倉庫業務、
それらの付帯業務
- 従業員数
- 322名
- うち障害者数
- 6名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 1名 パソコン事務作業など 知的障害 2名 コンテナ作業、成果物包装作業など 精神障害 3名 コンテナ作業、運搬作業など - その他
- 障害者職業生活相談員
- 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、知的障害、精神障害
- 目次
-
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
弘果弘前中央青果株式会社(以下「同社」という。)は昭和46(1971)年12月の設立で、公共的市場として発足。以来、津軽地域の食品流通を担う公共的総合卸売市場として、新鮮で安全安心な食品の安定供給を第一に地域社会に貢献。環境に対する取組にも力を入れており、CO2削減の取組みや会社オリジナル商品「ハローキティ森のバナナ」の売り上げの一部を世界自然遺産白神山地の保全・環境活動をしている諸団体に寄付する活動など森林保全活動を行っている。さらに、国民体育大会を初めとする各種大会に出場し、活躍している女子スキーレーシングクラブの設置や弘前市との災害時応援協定の締結、社員の健康に対する様々な取組が評価され、県内市町村初の制度として弘前市がスタートさせた「ひろさき健やか企業」(※)に第1号として認定されるなど、様々な取組、地域貢献を行っている。
また、地域における障害者雇用の促進にも尽力しており、地域の職親会である「さくらジョブネット」の法人会員でもあり、農福連携の推進や弘前市における障害者のインターンシップ制度の導入や、共生社会の実現に向けた取組の強化に関する要請なども行い、障害者雇用の進展に向けた活動を行っている。※「ひろさき健やか企業」とは
弘前商工会議所、弘前商工会議所青年部、弘前大学、弘前市、青森銀行の「産学官金」が連携し、企業の健康づくりを支える県内
初の事業。認定条件は、「全従業員の健康診断受診」「胃・肺・大腸等がん検診の受診率が30%以上が1項目以上」などの5つの必須
項目を満たし、かつ「禁煙支援」「感染症の予防接種推奨」などの8つの選択項目のうち3つ以上を満たすこと。商工会議所などの推
薦を経て市が審査。認定期間は2年。
(2)障害者雇用の経緯
会社の指針でもある「誠実 奉仕」などの精神により、地域貢献と法令順守を果たしていくとの考えから、これまでも障害者雇用に取組んでおり、法定雇用率が引き上げられる中であっても、雇用率達成に努めてきた。その中で、5、6年前から職場定着がうまくいかないケースがあったことから、地域の障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)に相談。支援センターの助言もあり、それまでは身体障害者、知的障害者の雇用であったのを、そのほかの障害者の雇用も進めることとし、支援センターの支援を受けた精神障害者の職場実習(以下「実習」という。)を実施。実習終了後にはその人を雇用した。雇用に際してはジョブコーチ支援を活用するとともに、配属職場においては、障害の有無に関わらず、同じ職場の同僚として受け入れ、みんなの問題として取組むように会社から従業員に伝え、職場と人事担当部署や障害者職業生活相談員(以下「相談員」という。)が情報を共有・交換しながら支援センターと連携し、解決していく体制を整えた。こうした取組により、その後は障害のある従業員の定着が図られている。
2. 障害者の従事業務と職場配置
冒頭の表にあるように、現在6名の障害のある従業員が雇用されている。障害別の担当業務の概要は次のとおりであるが、担当業務の配置に関する配慮などは次項で紹介する。
(1)肢体不自由
・トレーサビリティ受付業務、パソコン入力など
(2)知的障害
・コンテナ洗浄・受渡しやフォークリフトでのコンテナなど運搬作業
・青果物の包装作業
(3)精神障害
・コンテナ洗浄、ゴボウなどの包装作業
・青果荷受、フォークリフトでの荷捌き3. 取組の内容と効果
(1)取組の内容
ア 募集・採用
障害者の採用に関しては、支援センターと連携しながら、ハローワークを通して行っている。採用に際しては実習が効果的と考えており、特別支援学校(以下「支援学校」という。)や障害者就労支援施設などからの応募者については実習を実施し、実習状況が良ければトライアル雇用を経て採用する。職場定着には採用後の支援も重要と考えており、採用となった者へは支援センターへの登録を勧めている。
また、面接時には、支援学校や就労支援施設の担当者の同席も可としており、応募者が緊張することなく安心して受け答えができるよう配慮している。
イ 担当業務や配置場の配慮、支援体制
障害のある従業員については、各人の障害特性や適性、各業務の内容などを考慮しながら、支援センターとも相談しながら担当業務や配置を決定している。また、各人の業務遂行能力に応じてジョブコーチ支援を活用し、職場定着がスムーズにいくような体制としている。
担当業務の決定の経緯や業務内容、配慮点などの具体例を次に紹介する。
(ア)パソコンの知識が豊富で得意な従業員は、青果物のトレーサビリティの受付業務やパソコン入力など、パソコンを使用した業務を行っている。
(イ)りんごなどの青果物の重さを量り、袋やトレーに詰める作業がある。青果物の種類や個数、重量、詰め方などがそれぞれ違うため、担当者は非常に多くの注意点・手順を覚えなければならない。そのため、作業は1グループ4名で行うが、障害のある従業員を配属する場合には1名を原則とし、ほかの従業員と一緒に声をかけ合いながら作業を行っている。
(ウ)障害のある従業員(以下「Aさん」という。)は、野菜や果物を入れる大きさが異なる3種類のコンテナの引渡しや受取り、フォークリフトでのコンテナ運搬作業を行っている。また、野菜用コンテナの洗浄なども行っている。次々に来るお客様へできる限りお待たせしないで受け渡すため、複数名で行う作業であり、間違いのないようにお互いに声を掛けながら対応をしている。また、フォークリフトの作業においても危険がないよう声を掛け合いながら行っている(下の写真はいずれもAさんの作業の様子である)。
受渡しの作業風景 フォークリフトでの運搬作業
ウ 職場環境に関する工夫など
(ア)コミュニケーションの徹底と業務日誌の活用
(配属職場での対応)
業務の性質上、グループやペアになって行うことが多い。また、フォークリフトが走行する職場であるとともに、食品を扱っていることから体調や衛生面は重要であるため、声がけや日頃からのコミュニケーションは大切である。
出勤時の挨拶や朝礼などで声がけする中で、体調や衛生面を判断したり、コミュニケーションが苦手な特性がある従業員に対しては、業務日誌に記入してもらうなかでその日の体調や仕事の状況を把握している。一日の状況や体調を把握したうえで帰りに声がけを行い、コミュニケーションをとる中で、困っていることや悩みがないかを確認し、未然に体調やメンタル不調の波がないよう気を配るよう心掛けている。
また、休みが続くようなときは、本人に電話連絡をするとともに、必要であれば、支援センターに相談し、早期に解決できるような体制をとっている。
(人事担当者、相談員の対応)
人事担当者と相談員は、休憩時間や勤務中に会った時などに、体調や困ったことや悩んでいることがないかなどの声がけを行い、状況を確認するとともに、支援センターと情報の交換・共有をしながら解決のために連携している。
(イ)心を開き、何でも話せる環境づくり
障害の有無に関わらず、ひとりの人間として向き合い、何らかのトラブルがあっても職場みんなの課題として課内の全員で心を開き、話し合いを行い、解決を行っている。
その間、人事担当者や相談員とも情報の交換・共有を行い、必要であれば、支援センターへつなげ、問題解決ができるよう連携をとっている。
(2)取組の効果(支援センターとの連携について)
支援センターとの連携により、障害特性に対する知識を現場で共有、確認できるようになり、何らかの課題が生じても早期の解決が図れるようになったことで、会社側の精神的負担の軽減と、障害のある従業員への適切な対応により、職場定着へつながった。ア 課題の早期解決
・職場で生じた課題のなかで、障害のある従業員の生活面の要因によるものについては、会社側だけでの対応が難しいこともあるため、支援センターにすぐに相談し、連携して対応している。こうした対応ができる体制が整備されたことで、スムーズに解決できるようになった。
イ 周囲の従業員の理解の進展と対応の変化
・ジョブコーチ支援を活用することで、同じ職場の従業員の障害特性に対する理解が進み、不安やトラブルを回避することができるようになった。
・障害のある従業員へ作業内容を指導するにあたり、作業内容を今一度見直すことや相手にわかるように丁寧な対応を心掛けるように考え、指示の仕方が上手になるなどの変化がみられるようになった。
・障害特性や障害のある従業員への理解が進むとともに、障害の有無に関わらず、同じ職場の同僚として、心を開き、何でも話せる環境づくりに努めた結果、より一層、職場が一体となり、仕事に取組めるようになった。
ウ 障害のある従業員の変化
・ジョブコーチ支援を活用することで、障害のある従業員が定期的な振り返りを行えるため、作業面や精神面で大変心強く、仕事に対する自信が持てるようになり、仕事への活力が増した。
エ 障害のある従業員の声
(前述のAさんで、担当業務はコンテナの受渡し、フォークリフトでのコンテナ運搬作業)
「最初、どう動いたらよいか不安でしたが、周りの方の支援があり、作業できるようになりました。色々なことに触れることができるため、いつも新鮮で、続けてよかったなと思っています。皆さんの期待にこたえられるように基本を忘れず、教えてもらったことをきっちりやることを心掛けて仕事をしていきたいと思います。」
4. 今後の展望と課題
いままでは、業務の人員配置や状況を見ながら配置を行ってきたが、少子高齢化などによる社会構造の変化・多様化による食生活の変化、農水産物の生産構造の脆弱化や食の安全に対する期待の高まり、環境問題や海外への青果物輸出入の対応など、様々な情勢の変化がみられる現状において、多角的な視点から業務を見ていかなければならない時代となってきている。そのような多様化するニーズに対応するために、障害者雇用においてもより一層、個性や障害特性を活かした採用や障害のある従業員の可能性を広げ、自己実現につながる職域拡大や職業能力開発、またそれらに対応するための職場環境づくりが今後の課題となってくると考えられる。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
青森支部 高齢・障害者業務課
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