「人にやさしい英國屋」を、
お客様だけでなく従業員に対しても
- 事業所名
- 三和実業株式会社
(法人番号: 8120001080641) - 業種
- 飲食・宿泊業
- 所在地
- 大阪府大阪市
- 事業内容
- 喫茶専門チェーン店経営
- 従業員数
- 500名
- うち障害者数
- 2名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 1名 店舗厨房にて調理担当 高次脳機能障害 1名 店舗にて弁当製造販売担当など - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、高次脳機能障害
- 目次
-
事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
三和実業株式会社(以下「同社」という。)は、昭和36(1961)年12月に創業した喫茶専門チェーン店経営の会社である。大阪・東京・名古屋・京都・神戸に50店を出店(「英國屋」など)している。正社員は約100名、パート・アルバイトが約400名、合計で約500名規模である。店舗あたりの従業員数は、10名未満から40名程度までと幅広い。
(2)障害者雇用の経緯
10年ほど前、高齢の従業員(厨房勤務)の一人(以下「Aさん」という。)に膝の支障が出るようになり、仕事がうまくいかなくなってきたことがあった。本人は勤務の継続を希望していて、同社に相談があった。そこで、同社は社会保険労務士にも助言を受け、まず治療に専念してもらった。その結果、手術を受けて人工関節を入れることになり、身体障害者手帳を取得した。このことが同社の障害者雇用のきっかけである。
なお、同社では、治療開始前から継続して相談に乗り、本人の障害受容から職場復帰までを支えてきた。例えば本人は当初、「障害認定を受けると、会社で働けなくなるのではないか。居場所がなくなるのではないか」との漠然とした不安感を持っていたが、会社として雇用継続していくことを伝え、安心をしてもらった。また、障害者手帳取得に際しては市役所への手続きにも同行した。こうした経緯を経て、本人も障害福祉の諸制度(サポート体制)について知ることができ、更に不安感の解消につながった。
その後、もう一人、中途障害者の職場復帰も実現した。脳梗塞の後遺症による高次脳機能障害のある従業員(以下「Bさん」という。)であり、現在この2名が、障害者手帳を所持する従業員として働いている。なお、いずれの場合も、助成金やジョブコーチなどの支援制度は活用していない。
2. 障害者の従事業務と職場配置
現在雇用している2名とも店舗勤務であり、1名(Aさん)は厨房にて調理担当、1名(Bさん)は別店舗にて弁当製造販売などの担当である。調理担当のAさんについては、障害を有する前と同じ業務に従事している。一方、弁当製造販売担当のBさんについては、障害の特性に合わせ従前の従事業務(接客など)から変更している。
3. 取組の内容と効果
取材当日は、大阪市内のCAFE英國屋なんば本社で、経理総務部の中尾誠部長(以下「中尾部長」という。)にお話を伺った。以下の「取組の内容と効果」と「4 今後の展望と課題」はその内容をまとめたものである。
コロナ禍においてアクリル板をはさんでインタビューする筆者(左)と中尾部長
(中尾氏は撮影のためにマスクを一時的に外されている)
(1)「人にやさしい英國屋」を従業員に対しても
Aさんが復帰した当初、従業員のなかには、正直言って当初痛々しい目で見ていた者や、いわゆる「お荷物」的に捉えていた者もおり、「これは意識改革をせなあかん」と思った。もともと「親切な接客」を心がけていたが、「人にやさしい英國屋」というキャッチフレーズを作って、お客様に対してだけでなく、従業員に対してもそうした心構えを持っていこうと考え、社内に広げた。その結果、徐々に従業員の意識も変化してきた。
例えば、Aさんはしゃがむことが困難で、冷蔵庫の下のドアから物を取れなかったり、その部分の掃除ができなかったりということもあったが、若い学生アルバイトの人たちが「手伝いますから」と言ってくれた。ベテラン従業員よりも、若い人たちの方が積極的にサポートをしてくれた。彼らに尋ねると、「小中学校時代に、障害のある同級生がクラスにいたので」という声も聞くことができた。こうした若い世代からの発信を受けて、従業員全体が人にやさしくなっていったという効果がある。若い人たちの動きを見て、上の世代が自分たちの態度を恥ずかしく思い、変わっていったということである。こうした事例を、毎月発行している社内新聞でも取り上げた。
(2)PTA会長をしていた時の体験が原点に
中尾部長が中途障害になった従業員の職場復帰を支えたいと思った原点は、かつてPTA会長をしていた頃の体験である。小学生の野球チームがあったのだが、そのメンバーの中には聴覚障害があるお子さんもいた。授業では先生がマイクをつけ、その児童のイヤホンに直接音を届ける方法をとっていた。野球をする時は、後ろから声をかけられても分からないという事情もあり、一番後方の外野を守っていた。また、その子の母親が熱心で、毎回子どもたちに手話を教えてくれた。自分もそうした親子の姿に影響を受け、卒業式の挨拶で手話を交えて、その子に向けて話をした。これらのことが、障害のある人の可能性や、周囲の人全員でサポートに取り組むことの大切さについて実感する原体験となり、職場復帰への支援にもつながったと思っている。
4. 今後の展望と課題
(1)新規雇用に向けて、職場実習もスタート
これまでの同社の障害者雇用は、中途障害者2名の職場復帰のケースだけであり、新たな雇い入れという形では行ってこなかった。しかし、中尾部長が「アビリンピックおおさか2021」の喫茶サービス競技で審査委員を務めたことを契機に、高等支援学校に通う知的障害の生徒を最初の一人として、職場実習を受け入れることになった。
中尾部長はどこの店舗で受け入れようかと悩んだが、結局、実習生の交通の便の良い店で行うこととした。厨房で実習をしてもらったが、2週間後の店舗の反応は、障害のない人と特に変わらないということであり、過度な心配をせずに受け入れることの重要さを感じた。実習生も、店舗の雰囲気をとても気にいってくれ、「また、実習に来たいので、サイズが合うこの制服を持って帰って良いか」と聞くほどだった。
この経験から思ったことは、支援学校の生徒が、英國屋で実習をして英國屋を好きになってくれたら良いなということであり、更に今後英國屋で戦力として活躍してくれる人として雇用も検討していきたいと考えている。なお、実習に際しては、日誌を通じて、保護者と情報交換をしたが、保護者が毎日、本人の様子をしっかり書いてくれていた。その時、実感したのは、障害のある人のことを、家族だけが背負うということではなく、会社も含めた社会全体で支え、取り組むことの大切さである。
この実習の様子も、社内新聞で2、3回連続して取り上げ、また実習に来たいと実習生に思わせてくれた店舗の従業員に会社として感謝していることを伝えるとともに、実習が特定の店舗にだけ負担が集中することがないように、ほかの店舗にも実習に関する良いイメージが広がるようにした。
(2)社内表彰制度の活用などを通して、従業員の意識改革を更に
今後の展望としては、障害者雇用や実習について積極的に取り組んだ店舗を表彰していくことも考えている。そのことを通して、更に従業員の意識改革を行っていきたい。車いす利用のお客様が来られた時は、従業員は皆、「親切な接客」を大切にして、荷物を運んで差し上げるなど、率先してお手伝いするが、障害のある従業員に対しても同じように配慮ができるか、今後の課題でもある。
また、最初の一人の職場復帰が実現するまでは、障害者雇用というと難しいとも思っていたが、取り組む中で決して無理ではないということが分かった。意識改革の土壌を作れば障害者雇用を進めていける。そのことを、他社へのメッセージとしてお伝えしたいと思う。
5. 最後に ~「障害者に関する世論調査」の結果からも分かる、同社の取組の意義~
最後に筆者の感想を述べる。同社では職場復帰の事例をお聞きしたが、中途障害のケースで、医学的リハビリテーション(機能回復訓練など)から職業リハビリテーション(職場復帰とその後の支援)への移行が円滑にいっていない事例も少なくないと、経験上考えている。一方、同社の場合は、会社として職場復帰を応援する姿勢や具体的取組(市役所への同行など)があったからこそ、スムーズな移行が可能になったのだと思う。
また、そのことを支えた中尾部長の原体験として、PTA会長時代のエピソードが語られた。そして職場で率先してサポートしたのは、若い学生アルバイトの人たちであり、小中学校時代に共に学んだ経験(インクルーシブ教育)が、背景としてあることも分かった。
これらのことが示唆するのは、会社以外の場、PTAや地域活動での経験、また学校時代の体験が、その後、共に働く意識に自然とつながっているのではないかということである。
5年毎に実施されている「障害者に関する世論調査(内閣府/平成29(2017)年度)」では、「手助けの経験」について、次の結果が出ているが、このことを見ても、地域社会で、また子どもの頃から障害者と接する機会をもっていくことが、共に働く上で有効なヒントになり得るものと思われる。今回のインタビューでは実例から、それらを学ばせてもらった。
【障害のある人が困っているときに、手助けをしたことが「ない」と答えた者(677人)に、なかったのはどうしてか聞いたところ、「困っている障害者を見かける機会がなかったから」を挙げた者の割合が79.5%と最も高く、以下、「どのように接したらよいかわからなかったから」(12.0%)などの順となっている。(複数回答、上位2項目)】
また、同調査では、「企業や民間団体への要望」として、次の結果が出ている。【障害のある人のために企業や民間団体が行う活動について、どのようなことを希望するか聞いたところ、「障害のある人の雇用の促進」を挙げた者の割合が66.3%、「障害者になっても継続して働くことができる体制の整備」を挙げた者の割合が62.3%と高く、以下、「障害のある人に配慮した事業所等の改善・整備」(49.0%)などの順となっている。(複数回答、上位3項目)】
今回の事例は、まさに「障害者になっても継続して働くことができる体制の整備」に関わることであり、中でも注目したいのは、ソフト面である、従業員の意識改革に対するアプローチを続けている点が、卓越した実践といえるだろう。社内新聞や社内表彰制度は、多くの企業にもあると思うが、これらのシステムをうまく活用する視点は、ほかの企業のモデルともなり得るのではないだろうか。
そして、今後、実習などを通じて、知的障害者などの新規雇用にも取り組まれることを同社に期待したい。
執筆者:一般財団法人フィールド・サポートem.(えん)代表理事
/日本福祉大学実務家教員 栗原久
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