雇用率の達成に至るまでの取組について
- 事業所名
- 船場化成株式会社
(法人番号: 4480001001268) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 徳島県徳島市
- 事業内容
- ポリエチレン製品の製造販売
- 従業員数
- 228名
- うち障害者数
- 7名
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障害 人数 従事業務 知的障害 5名 製袋補助業務 精神障害 1名 製袋補助業務 発達障害 1名 製袋補助業務 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害、精神障害、発達障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
船場化成株式会社(以下「当社」という。)は、昭和34(1959)年に「船場ビニール株式会社」として設立し、昭和35(1960)年に現在の「船場化成株式会社」と商号を変更した。
基幹工場が徳島県阿波市西長峰にあり、月産1,000トン以上の製造を行っているポリエチレン製造メーカーである。
取り扱い製品はレジ袋・ゴミ袋・ファッションバッグ・ダイレクトメールといった日常的に使用できるものや工業用の大型のフィルムや食品加工用のフィルムなど、幅広く取り扱っている。
また、独自の製品開発力で、環境配慮型の商品であるバイオマス原料を使用した製品や、生産途中の端材(はざい)を原料とした再利用製品、薄くて強度がある製品など、既製品だけでなく、オーダーメイドのポリエチレンの製品を製造できることが特徴であり、アイテム数は20,000点以上を誇る。
従業員数228名のうち7名(令和3(2021)年6月現在)が障害のある従業員であり、企業理念の中の「第一の企業責任は『従業員』が満足し、従業員にとって『魅力のある企業』であること」を掲げており、全ての「従業員」が満足して長期的に働けることを目指している。
(2)障害者雇用の経緯
令和元(2019)年5月時点では、当社が雇用すべき障害のある従業員数4名に対し、安定して就業できているのは2名であった。そこで、経営者は「障害者法定雇用率の達成」を目標に掲げた。
また、職場定着に向けた環境整備なども重要であること、そして支援機関の活用ができていないことも課題と考えた。そのため、支援機関と連携しながら、採用から職場定着までの取組を進めることとした。
そこで、障害者の採用や定着について、徳島障害者職業センター(以下「職業センターという。)に相談を行い、集団就職面接会に参加することとなった。その中で数人が当社に興味を示していただけたので、まずは職場見学と職場実習(以下「実習」という。)を体験いただいた。実際に職場を見学し、作業を体験することは、就職希望者が当社を理解することと、採用後の適切な配置に役立つと考えたからであり、その後も当社では就職希望者には職場見学と実習を必須としている。
面接会からの方については実習結果なども参考に採否や配置を慎重に進め、2名の採用につなげた。また、特別支援学校(以下「支援学校」という。)の卒業予定者の実習についても積極的に受け入れを行い、2年間で4名の採用を実現した。その結果、現在当社は法定雇用率を達成している。
7名のうち2名は、就労移行支援施設(以下「支援施設」という。)からの入社であり、支援施設のジョブコーチによる支援を利用した。両名とも就業環境に慣れることに時間がかかると予想されたため、ジョブコーチのアドバイスも参考に、採用時の就業時間を短時間からスタートした。入社後、半年以内に各人の希望も踏まえ徐々に勤務時間を延長し、1名については、現在はフルタイムで就業している。2名には、機械音が気になる、朝方は作業精度が低いなど、それぞれに課題があったものの、障害特性に合ったペースでジョブコーチが支援を行い、本人と周囲の従業員とのコミュニケーションにも積極的に関わることで無理なく就業時間を延長できることにつながった。
また、支援学校からの卒業予定者(以下「新卒者」という。)の実習についても、支援学校との連携を強め、積極的に受け入れたことで、2年間で4名の新卒者の採用を行うことができた。
新卒者の4名については、入社当初よりフルタイム勤務であるが、フルタイムができたのは、在学中の実習を積極的に受け入れた結果である。そのうちの1名については、雇用するまでに実習を合計6回受け入れた。実習中も、就業体験と振り返りを実施するだけではなく、各回ごとに評価できる点や改善が必要な点などを本人にわかりやすい表現でA4一枚にまとめてフィードバックを行い、次回に生かしていった(こうした当社の指導方法も、支援学校などと相談しながら行った試行錯誤と改善によるものである)。その結果、入社直後より、フルタイムで勤務することにつながり、その後も職場環境への適応やコミュニケーションの方法、本人へどのような指示をすれば成長できるのかを担当教諭と協議を行いながら進めていった。
このように当社では支援施設や支援学校と連携して障害者雇用を進めてきた。また、より個別の支援が必要な方については職業センターのジョブコーチも活用した。そうした関係機関との連携体制を構築することで、実習段階から本人を的確に理解し、従業員として「働く」段階へ無理なく移行することができるようになっていると考えている。
また、職場定着を図るためにも関係機関との連携が重要と考えており、今後も職業センターのジョブコーチなどを積極的に利用し、働き続けられる職場環境の実現に注力していくこととしている。
2. 障害者の従事業務と職場配置
(1)障害者の従事業務
上記の体制が整う前までは、障害のある従業員に任せる業務は限定的であった。
例えば、段ボールの組立てや袋の枚数を数えるなどの、比較的単純で危険の少ない業務を任せていた。
しかし、単純業務のため、一定レベルに達するとやりがいを見いだせず、職場定着できない状態の繰り返しであった。
当時は障害のある従業員にどの業務を担当させるかは配属現場に任せていたため、なぜ限定的な業務しか任せられないのかを各現場の工程担当者へ尋ねたところ、「どのような業務を任せられるかがわからない」、「障害に応じた指導方法や接し方がわからない」などの意見が多く、また、各工程担当者は自らの仕事をしながら障害のある従業員への指導・教育を行っていたため、十分に指導・教育ができていない状況であることが分かってきた。
そこで、社内体制を改善するために、障害者職業生活相談員資格取得者が「現場担当者」となり、担当業務を客観的に判断できるような体制を整えた。
まず現場担当者は一人ひとりの障害特性などを把握するとともに、ジョブコーチを通じて障害に関する知識や適切な指導方法などについて学び、個々の特性に応じた担当業務の設定に注力した。
(2)職場配置と指導・教育
次に、障害のある従業員の配置と指導・教育についても改善を行った。
改善前は、担当業務を決めたらその業務の属するラインに配属し、各ラインの工程担当者がそれぞれに指導・教育を行ってきたが、改善後は現場担当者が障害のある従業員全員の担当業務と配置を決定し、一括して管理(個人別の状況把握や担当業務の変更)することとしている。また、指導・教育に関しても、現場担当者が中心となって対応することとした。むろん、配置も指導・教育も各現場の工程担当者との連携(情報共有や協議)と役割分担が不可欠であることから、現場担当者と各工程担当者は日常的に連携し、対応していった(下図参照)。
3. 取組の内容と効果
(1)取組の内容
障害のある従業員の障害特性を理解し、指導方法について知る現場担当者が指導・教育することで、新たに下記の業務を障害のある従業員に任せることができるようになった。
ア.カッターナイフを使った切断作業(知的障害、精神障害、発達障害)※( )内は現在の従事者の障害で、以下同じ。
ポリエチレンフィルムの端材をカッターナイフで切る作業。以前はカッターナイフを使用することが危険であるという理由から、障害のある従業員に任せることをちゅうちょしていた。
しかし、現場担当者が障害特性を理解し、正しい手順を反復して指導することで、この業務を任せられるようになった。また、ケガをするリスクを軽減させるために防刃手袋の着用を徹底するなど、作業環境面での改善も行った。
切断作業
イ.ラベルの印刷作業(知的障害)
印刷用の版やマスターサンプルを管理するためのラベルを印刷する作業であるが、ラベルにミスがあった場合には、製造工程に大きなトラブルを招く可能性があるため、任せられないとしていた。
しかし、知的障害のある従業員に印刷させたところ、現場担当者が内容を確認することでミスは十分防ぐことができ、それ以外は簡単なボタン操作で印刷ができることが分かったため本人の担当業務とすることができ、工程の業務効率化も図ることができた。ラベル印刷作業
ウ.マスターサンプルの管理業務(知的障害)
製品ごとにマスターサンプルという標準的な製品を保管し、製造されてくる製品との照合などを行うことにより品質を保持している。そのため、マスターサンプルの管理業務(現場への提供と返却確認、保管状態の確認、管理ソフトへの入力など)は当社にとって重要であり、紛失などのリスクを懸念し、障害のある従業員に任せてはいなかった。
しかし、現場担当者が返却時の確認や所定の場所へ戻すことを一緒に行う、入力内容を定期的に確認することなどにより、リスクは少なくすることが可能と判断し、任せることができるようになった。
マスターサンプルの保管状況の確認
エ.細かな包装業務(知的障害、精神障害、発達障害)
細かな包装については、手先が器用でなくてはできないという理由で任せていなかったが、端材を切る作業の時と同様に現場担当者が障害のある従業員に手順をはじめから丁寧に指導・教育することでスピードは少し遅いものの完成度の高い包装作業ができるようになった。
包装作業
(2)効果
ア.障害者雇用を進めたことによる一番の大きな効果と変化は、従業員の意識の変化である。過去の障害者雇用においては、「気を遣わなければならない」、「教育するのに時間がかかる」、「作業の完成度が低い」と考えていた従業員が多数を占めていた。
しかし、現場担当者が障害のある従業員への指導・教育を徹底し、担当業務を管理することで、業務遂行レベルが向上・安定し、障害のある従業員に十分業務を任せられるようになったと多くの従業員が感じている。
また、現場担当者が一人ひとりの障害特性を理解したうえで指導を行うことにより短期間で成長することを目の当たりにすることで、障害者の可能性に対する理解が深まった。
そして、既存の業務からの切り出しを行ったことで、各工程担当者などの業務軽減と専門的な業務に従事できる時間も確保できるようになった。
現在では、「(障害のある従業員は)一緒に働く同じ仲間」という認識に変化しており、「戦力」として期待をされるようになった。
イ. 正確な手順を理解すると「反復する作業について、高い集中力を持っている」ため、完成度の高い製品に仕上げることである。
ウ.現場担当者が障害のある従業員と障害のない従業員の間のコミュニケーションに関わることにより、コミュニケーションがとりやすくなった。現場担当者が両者間に入り、個々の障害特性を説明しながら、業務を進めるうえでの注意点等を伝えることで、適切な指示が行えるようになり業務効率が上がることに成功した。
また、現在では従業員の方から障害の特性を理解しようとするまでになり、障害者雇用に対して意識の変化が見てわかるほどになった。
4. 今後の展望と課題
今後の目標は、法定雇用率の達成でよしとすることなく、引き続き障害者を採用することと採用後の職場定着、そして障害のある従業員の「正社員」への登用である。
せっかく入社しても、同じ業務内容や雇用形態のままでは、仕事に対する面白みや情熱がなくなり、モチベーションが低下し離職する人がでてくるのではないかと考えている。そうならないために、業務の幅を広げていくだけでなく、「明確に成長している」「キャリアアップできている」といった実感を持てるような仕組みにしなければ、職場定着につながらないと感じている。
そして現在は、ステップアップとして「正社員」の登用のために「機械操作業務」ができるよう、障害のある従業員の成長に合わせた目標を設定し、業務に携わってもらっている。
障害のある従業員を「正社員」として登用できるよう、現場担当者と従業員と協力しながら、定着に向けて取組を進めていくこととする。
執筆者:船場化成株式会社 人事:経理課
黒川 真吾
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