ひとりひとりの力を活かすユニバーサルな職場です
~やさしさを、私たちの強さにしたい~
- 事業所名
- 株式会社ニチイ学館 神戸ポートアイランドセンター ユニバーサルオフィス
(法人番号: 3010001025868) - 業種
- サービス業
- 所在地
- 兵庫県神戸市
- 事業内容
- 全国の介護施設及び事業所・保育施設・契約医療機関などの事業現場で使用するユニフォームの発注と管理、アンケート集計業務やデータ管理などの各部門の事務的業務を補完
- 従業員数
- 25名(令和4(2022)年2月末現在。法人全体については本文参照)
- うち障害者数
- 15名(令和4(2022)年2月末現在)
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 3名 事務センター業務、ユニフォームセンター業務(事務部門) 精神障害 6名 事務センター業務、ユニフォームセンター業務(配送部門) 発達障害 5名 事務センター業務、ユニフォームセンター業務(配送部門) 高次脳機能障害 1名 ユニフォームセンター業務(事務部門) - その他
- 障害者職業生活相談員
- 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、精神障害、発達障害、高次脳機能障害
- 目次
-
ニチイ神戸ポートアイランドセンター外観
1. 法人の概要
ニチイ学館は、昭和43(1968)年に医事業務受託事業を開始し、昭和48(1973)年に現在の株式会社ニチイ学館(以下「同社」という。)を設立した。「社業の発展を通して豊かな人間生活の向上に貢献する」という経営理念のもと、国内においては、医療関連事業(医療事務等)、介護事業(在宅系介護・居住系介護施設の運営等)、保育事業(保育所運営等)、ヘルスケア事業(家事代行サービス)、教育事業(語学・英会話)、セラピー事業(ドッグセラピー等)と幅広く事業を展開している。令和3(2021)年4月現在、本社(東京)と、全国に6支社、94支店、10営業所、全体の従業員数は約8万3千人である。
今回、筆者が訪れたのは同社の神戸ポートアイランドセンター内にあるユニバーサルオフィス、ユニフォームセンターである。
神戸ポートアイランドセンターは、医療産業都市・神戸市に研究開発、情報発信センターとして平成16(2004)年竣工した。神戸ポートアイランドセンターは、ニチイグループのブランドスローガン『やさしさを、私たちの強さにしたい』を実現する拠点でもある。介護事業のノウハウを活かし、全館バリアフリーで体育館は障がい者スポーツにも対応、高齢者や障がいのある子どもなども安心して食事ができるレストランや宿泊施設を有している。また近隣医療機関を利用される患者と家族の方へ宿泊施設の優待利用等の提供を行っている。
ユニバーサルオフィスは、障がい者雇用を中心とした業務推進を目的に、平成22(2010)年10月に開設されたもので、建物床面積は約1万8千㎡、全館バリアフリー設計により車いすでも安心して移動できる。正面玄関や窓は全面ガラス張りで見晴らしも良く、明るく清潔で広々とした職場である。
2. ユニバーサルオフィスについて
ユニバーサルオフィスは、同社がひとりでも多くの障がいのある方々の社会参加や自己実現に寄与するとともに、同社の全社員が障がいのある方々への理解を深め、会社と社員が協力して障がいのある方々の雇用を進める拠点として開設された。業務上の役割としては、社内の全事業が円滑に進むための補完的な業務を担当している。業務遂行に際しては障がいのある社員を中心とした業務体制をとるが、執行部門のひとつとして独立的・自立的に業務を担い、各事業に貢献することを目指している。そして、外注していた業務をユニバーサルオフィスで行うことで経費削減を実現するなどの実績を残している。障がいのある社員をほかの社員の補助的業務に就けるのではなく、障がいのある社員が中心となって働くことのできる部署を設けることが、障害のある社員の活躍につながるとともに、社内の理解を進めることにつながると同社は考えている。
3. 障がい者の従事業務と職場配置
ユニバーサルオフィスには、「ユニフォームセンター」と「事務センター」という二つの部門がある。次にそれぞれの業務内容や取組と、そこで働いている方の声を紹介する。
(1)ユニフォームセンター
ユニフォームセンターは、事務部門と配送部門で構成され、全国に展開している約10,000か所の事業所(約1,800か所の介護事業所と家事代行サービス、約300か所の保育事業所、約8,000か所の契約医療機関)に従事するスタッフのユニフォーム受注と貸出の管理を行っている。
具体的には、全国の事業所から発注書がファックスでユニフォームセンターに送られてくる。事務部門でそのデータ処理や出庫指示書を作成し、配送部門に指示する。配送部門では指示書をもとにユニフォームのピッキング、品目やサイズ確認、検査、ネームラベル熱着、たたみ、袋詰めなどを行っている。また個人別に結束、梱包、納品書封入などを行い、宅配便伝票を貼付し出荷する。加えて、全国の事業所から返却されてきたユニフォームの検品も行う。検品は、対象が再利用可能であれば、色あせや毛玉、丈直しのチェックを行ったうえでクリーニングに出す。汚れや損耗により再利用不可のものは、廃棄用コンテナに入れる。
そのほかにも様々な処理が必要で、業務は多岐にわたる。ユニフォームセンター業務は主に精神障がいや発達障がいのある社員が担当しているので、作業指示などについては様々な工夫をしている。まず、指示内容に一貫性を持たせるよう指示を出す者は指導員である係長とシニアリーダーに統一している。また指示内容などの理解を円滑にするため、写真付きマニュアルで手順を示したり、作業台や使用機器に目印やラベルシールで仕分けや種類別の位置をわかりやすく表示するなどの工夫を行っている。社員の体調や心理状態にも気を配っており、上司は毎日の朝礼で、社員の表情や声のトーン、言動などを見ながら、体調や精神的な変化などを感じ取り、気になれば声をかけ、話を聞くなど、きめ細やかに対応している。
ユニフォームセンター
ここで、ユニフォームセンター業務を担当しているAさんの声を紹介する。なお、Aさんは、精神障害のある30歳代の方である。
「ここに来る前は家業を手伝っていたときもありましたが、引きこもっていました。その後就労移行支援事業所を利用し、ハローワークでこの職場を紹介してもらいました。働いてもう6年以上になります。
担当している業務は、ユニフォームの貸出、ピッキング、ネーム貼りや梱包、送付状作成などです。立ち仕事が7、座り仕事が3くらいの割合です。最初はうまくいきませんでしたが、働き続けられているのは、上司や同僚の配慮があってです。うまくいかなくて上司に相談したときに力添えをいただけたからだと思います。それがなかったら続けられなかったかもしれないです。できるようになったのは2~3年たってからです。
意識していることは、周りを見ながら業務を行うことです。自分もまだ慣れないときや困ったことがあった時にフォローしてもらったので、年下の人にはコミュニケーションを取るように心がけて、仕事でこうした方がいいのではと思っていることを伝えるようにしています。
そのほかに意識しているのは体調管理で、睡眠を7時間以上は取ること、力加減を考えて働くことだと思っています。
今後心がけていきたいことは、毎日同じことをしているようでも違うことはよくあるので、違いがあっても的確に対処できるようになりたいです。もっと仕事がうまくなり、頼られるようになりたいです。そして50歳過ぎても働いていきたいですし、今より仕事をステップアップできればいいなと思っています。」
(2)事務センター
同社では顧客アンケートを初め、様々なアンケートを実施しており、事務センターの大きな業務として本社各部門の事務的業務補完として、アンケート入力業務がある。具体的には、各医療機関アンケート(年間約11万件)、介護事業CS調査(年間で約3万件)、各講座受講生アンケート(年間約2万件)の入力業務であるが、そのほかにも帳票類のファイリング、スキャン、内容チェック、シュレッダー作業などの様々な業務がある。事務センター業務は身体障がいや発達障がいのある社員が担当しており、デスクワークが主な仕事になっている。アンケートの種類ごとに業務内容に変化があるため、作業指示は口頭指示だけではなくパソコンのチャット機能でのコミュニケーションやメモや写真を使用することによって理解しやすいよう工夫し、円滑な業務遂行に努めている。
ここで、事務センター業務を担当しているBさんの声を紹介する。なお、Bさんは肢体不自由のある20歳代の方である。「特別支援学校卒業後に県立の能力開発校で訓練を受けましたが、その頃は就職氷河期だったこともあり苦戦しました。その後就労移行支援事業所利用を経て、こちらに就職することができ、もう11年目になります。
担当業務はデータ入力や電話応対、介護事業の拠点管理台帳の作成、月初や半期ごとの報告書作成です。たくさんのデータを扱いパソコンを使う作業なので、疲れたら席を外したり、水分補給したりしています。
仕事で意識していることは、挨拶や時間を守ることで、上司に報告・連絡・相談をしっかりすることも大切にしています。わからない時にはすぐ指示を仰ぎ、ひとりで抱え込まず解決できるようにしています。
体調管理は特別に気を付けていることはありませんが、日々睡眠をしっかりとるように心がけ、仕事で間違いがでないように気をつけています。
ここはバリアフリーで設備も整っており、エレベーターもありスペースも広く動きやすいです。車いすが使えるトイレがあちこちにあることも大変助かっています。人間関係にも恵まれ、上司からは優しくも注意すべき点はきちっと指摘していただくとともに、思いやりをもって接してくれます。ここで働くことができとても感謝しています。
これからはもっと社会人としてのスキルを上げていきたいと思っています。社内だけではなく社外メールや文書の作り方など、どこの企業にも必要なことをもっと上手になっていきたいです。」
4. 取組の内容と効果
(1)体制整備と研修などの実施
同社では障がいのある社員の受け入れ体制の整備にも力を入れている。神戸ポートアイランドセンターのセンター長以下、専門的な資格を有しており、また、障がいの特性について理解を深めるための各種研修会に社員を参加させるようにしている。外部研修以外にも社内での勉強会も行い、障がい特性や支援方法についてのレベルアップに努めている。
<職位別の資格取得状況>
センター長 社会福祉士
課長 障害者職業生活相談員
係長 障害者職業生活相談員・ジョブコーチ・衛生管理者
係長 障害者職業生活相談員
主任 障害者職業生活相談員・ジョブコーチ
(2)採用から定着に向けた取組
募集・採用の際には職場見学会(以下「見学会」という。)を開催しており、ハローワークや就労移行支援事業所など(以下「支援機関」という。)にも案内している。見学会では業務説明と職場内の見学、質疑応答の場を設け、参加者(障がいのある方や支援者など)が同社の業務や雇用方針などについて理解したうえでの応募やマッチングにつながるよう情報提供を行っている。
採用後も支援機関と連携し、障がいのある社員の体調や勤務状況を共有しながら、なんらかの課題が起きても適切に対応できるよう心がけている。また、試用期間である入社後3か月間は、連絡票を用いてご家族と本人の体調や業務遂行の様子を共有している。
勤務日や勤務時間の設定についても個別に対応している。障がいのある社員との個別面談において本人の様子を確認しながら無理のないよう仕事に慣れてもらうようにしており、通常の勤務日は平日週5日(30時間)だが、体調や諸事情で相談があれば、状況に合わせ一時的に勤務日数を減らすなど、柔軟に対応している。試用期間終了後も定期的に個別面談を行い、きめ細かく本人の様子を把握し、対応するようにしている。
勤務日以外のことでも状況によってはご家族にも連絡を取り対応するとともに、医療面や生活面での課題があれば支援機関の担当者も交え面談し、定着支援を行っている。
(3)定着状況
障がいのある社員の勤続年数は今年(令和3年度)10年目の社員が4名、9年目が1名、8年目が3名で、そのほかの社員も3~6年目と長く勤務している方が多い。先に紹介した取組がそうした定着につながっているように筆者は感じた。
なお、同社の障がい者の雇用契約はまず単年度契約の有期雇用からスタートするが、3年後には無期雇用に移行する。勤務日・時間についても、本人の希望や勤務状況に応じて非常勤から常勤に移行することを可能としている。職域についても専門職などへのステップアップの道もあり、障がいのある社員がキャリアアップに挑戦することを会社としても期待しているとのことである。
5. 今後の展望と課題
ユニバーサルオフィスにおける障がいのある社員の業務が社内各部署の補完的役割を担い、評価されている。しかし、同社では障がいのある社員がなお一層の役割を担うことを期待している。
具体的には同社が推進しているDX化に伴うペーパレス化に対応するため、ユニバーサルオフィスが担う本社内事務作業のより一層の切り出しを課題としている。また、ESGやSDGs、地域貢献を踏まえた今後の役割と業務拡大も見据え、指導者の育成も併せて課題と捉えている。
6. 就労支援機関への要望や期待すること
障がい者雇用にあたり、ハローワーク以外にも支援機関などに職場見学会を案内している。これは支援機関と連携すると本人を理解し支援しやすいことや、支援機関の利用者は社会的なスキルがある程度身についているため、採用につながる場合が多いためである。ただ支援機関も数多く存在するが、機関によって対応に差を感じることもある。同社はあくまで民間の営利企業であり、そこで働くということは、合理的配慮は行うが、福祉施設ではないので、一定の厳しさがある。そうした企業側の状況と思いも知ってもらったうえで、障がいのある方にコミュニケーション能力や社会常識が身につくような指導を支援機関に求めたい。併せて、支援機関による生活面や医療面への支援も強化されれば本人も安心し、安定して勤務を続けることができると考えている。
7. 終わりに
取材時に、ユニバーサルオフィス開設時から働くBさんは「人や仕事に恵まれ感謝している」と弾けるような笑顔を向けてくださった。Aさんは精神障がいがあり、新しい環境に慣れるまで苦労されたということだが、仲間や上司の配慮で7年目の今まで働き続けることができたと穏やかにお話しされていた。
「忙しい時にはセンター長も私も皆と一緒になってピッキングや納品作業をするんですよ」とにこやかに説明された上坂課長代理と毛利センター長。本稿はおふたりへの取材を中心にまとめているが、お話からは社員の方々と現場を共にしながら、各障がいを理解するための努力を惜しまず、社会人としてそして戦力として障がいのある社員の力を引き出し、活かすためのプロセスを築き上げてきたやさしくも強い信念が伝わってきた。支援する立場の筆者も障がいのある方への適切な支援に加え、企業の方々とのより良い連携について更なる研鑽を積まなければと身が引き締まる思いであった。
執筆者:医療法人尚生会 (創)シー・エー・シー
北岡 祐子
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。