柔軟な働き方で、地域社会とつながる雇用に
- 事業所名
- 堀長木材商店
- 業種
- 製造業
- 所在地
- 和歌山県西牟婁郡すさみ町
- 事業内容
- 製材業
- 従業員数
- 6名
- うち障害者数
- 2名
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障害 人数 従事業務 知的障害 2名 製材補助 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次
-
事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
森林面積が県土の4分の3を占める和歌山県は「紀州・木の国」と呼ばれ、優れた木材「紀州材」産出の地である。紀南に位置する堀長木材商店(以下「同事業所」という。)は昭和27(1952)年に創業し、製材業を営んでいる。従業員数は全体で6名であり、うち2名が障害者である。同事業所は「人の役に立つことを大切に」が口癖だった現在の代表の父親が立ち上げたもので、創業当時は地域に多数あった製材所も、時代の流れとともに作業の機械化が進んだことで設備投資や後継者、従業員の確保ができないなどにより、多くの製材所は軒並み閉鎖を余儀なくされ、製材所数が減少している中、今日まで事業を継続してきた。
障害者雇用について考え始めたのは平成15(2003)年ごろで、同事業所代表(以下「代表」という。)の友人が交通事故で障害を負い、その後引きこもりとなってしまったことが契機であった。代表は、誰にでも起こりうることなのかもしれないと思い、何とか外に引っ張り出して、社会とのつながりを持ってほしいと、製材工程で出る端材を利用する創作工房を作り、友人に活動する場所を提供したことが同事業所の障害者雇用のきっかけとなった。
平成18(2006)年ごろからトライアル雇用を利用し始め、現在働いている障害のある従業員はトライアル雇用を通じて雇用した2名である。それ以前にも雇用したことはあったが、ある程度は勤務が続いたものの、調子のよい時と悪い時の差があり、悪い時には製材機械の出す音のせいか幻聴が聞こえるなどにより、やむなく退職するなど、雇用の継続に苦労したこともあった。
また、木材業界全体が厳しく淘汰されていく中で、経営が苦しい時もあったが、いまも働いている障害者のうちの一人であるAさんが、「この職場で働きたい。」と強い意欲を見せまじめに頑張っていてくれていたため、彼らの働く場所が必要だと感じ踏ん張った。
2. 障害者の従事業務と職場配置
障害者雇用を始めた当初は複数人でできるような仕事に従事してもらうのが良いと考えた。そこで、薪を束ねてもらう作業と、事業所内に炭窯(黒炭、白炭)を作り、製材の際に出る端材を燃やして炭にする作業を任せていたが、その作業で真っ黒になった作業着で帰宅した姿を見た障害のある従業員の家族がその作業を続けることを心配されたため、現在の従事業務である製材補助や梱包作業、薪をつくる作業へと業務内容を変更した。このように、働く当事者である障害のある従業員のことを第一に考え、業務内容について試行錯誤を続けてきた。
現在雇用している障害のある従業員はAさんとBさんの2名であり、どちらも知的障害のある方である。勤続年数はAさんが11年、Bさんは4年である。二人の従事業務は、木材を並べて梱包していくなどの製材補助作業や薪づくりの作業であり、Aさんはそれらに加えて、大型の機械で行う木材加工作業の補助にも従事している。木材加工作業は大型の機械を使う危険な作業であるが、Aさんは勤続年数が長く、作業の理解が深いので、ステップアップした作業もしてもらっている。また、加工作業は二人一組で行うものであり、Aさんは加工するための刃物に向き合うようなポジションは避け、加工前の木材を作業台にセットするという作業や刃物の反対側で木材を仕分ける作業をしてもらうなど、万が一の事故に備え、危険を伴わない作業に従事できるよう安全面に配慮している。このようにそれぞれの経験や能力に合わせた配置を行っている。
仕事を指示するだけでなく、慣れてきてできるようになった仕事はある程度任せるようにするなど、「障害があっても障害のない人と変わらない仕事ができるようになってほしい。」との代表の思いから、少しずつできることを増やし、誰もが成長できるような職場配置を意識している。
また、AさんBさんともに性格がまじめで「一生懸命作業に取り組んでくれており、黙々と作業を続けてくれるため助かっている。」と代表は言う。
加工した材木の製品にはどうしてもささくれのようなものができてしまい、梱包作業の際に通常は見逃してしまうようなものであるが、AさんとBさんは一つ一つ丁寧にハサミでそれを取っており、その結果、出荷先の会社から「いつも丁寧な仕事をしてくれている。」と同事業所が高い評価と信頼を得られるのも彼らの努力のおかげであると代表は言う。
梱包された製品束ねられた薪3. 取組の内容と効果
(1)取組の内容
AさんとBさんはともにトライアル雇用を通じて雇用した方であり、すさみ町にあるB型就労継続支援事業所いなづみ(以下「いなづみ」という。)の利用者であった。雇用してから数か月は「いなづみ」の担当者に1~2週間に1回は職場に来てもらい、二人のフォローをしてもらうなど、同事業所では支援機関と連携しながら雇用後の対応もしっかりとし、障害のある従業員の意向を聞くような機会を積極的に設けている。また、障害者助成金を受給した実績があるなど、支援制度を積極的に活用している。
職場での取組(配慮)については、通常は午前8時からの出勤となっているが、季節の変わり目になると心身の不調を感じ、朝が起きにくくなってしまう方もいるので、そうした場合には午後1時からの出勤にするなど、出社時間を調整することもある。また、周りに人がいる環境の中では、作業の間違いを指摘されることなどが心配になり、周りの目を気にしてしまうことで作業が慎重になりすぎ、作業能率が落ちてしまう方もいる。そこで、通常は、土曜日は休みだが、人が少なく作業に集中できる土曜日を勤務日に振り替え、代わりに平日に休むことを認めるなど、その人の体調や意向に合わせて勤務日や勤務時間を柔軟に変更できるように対応している。
AさんBさんともに集中力がとても高いため、休憩の指示を出さないと黙々と作業を続けてしまうことがあるので、上司は休憩時間の様子をよく見て、休んでいない時には声掛けも忘れないように配慮している。
(2)取組の効果
本人の努力と、職場での柔軟な対応により、長く継続して働くことができているAさんは働きだしてから大きく変わったところがある。内向的で人見知りな部分もあったが、仕事を続けていく中で、自分に自信を持って物事に取り組めるようになり、代表が不在の時には代理で接客対応してくれるようにまでなった。その際には相手の会社名や担当者名を聞き、注文の品は何か、数量はいくつかをメモしてくれるなど非常に助かっていると代表は言う。特にAさんが休日に出勤することで、周囲の目を気にするAさんにとっても作業に打ちこみやすい環境が整うだけでなく、代表が不在の時などにも対応してくれるのでありがたいと感じているとのことである。また、仕事に積極的に取り組む姿も見られるようになり、周りからも信頼され、「番頭さん」と呼ばれ、職場で必要とされ欠かせない存在となっている。
また、そのようなAさんとBさんの一生懸命に働いている姿が他の従業員の刺激にもなり、職場によい影響を与え、「AさんとBさんの頑張りがほかの人にも伝わる。同業他社が後継者不足等の理由で廃業するなど厳しい状況ではあったが、二人がいたから苦しい時も頑張ってやってこられた。」と代表は言う。
代表が二人の障害特性に合わせて柔軟に対応し、安心して働ける環境を整え、信頼し少しずつできることを増やしていったことで、AさんとBさんは自分たちがこの職場に必要なのだと感じ、継続して働くことができたと考えられる。
4. 今後の展望と課題
今年度、Aさんが優秀勤労障害者として高齢・障害・求職者雇用支援機構の理事長努力賞を受賞した。「いなづみ」の利用者の高齢化や利用者数の減少は、住民の高齢化と人口減少が進み、働き手が不足するすさみ町の課題とも共通する。そうした課題の解決には障害者の雇用が進むことも必要と代表は感じており、「頑張ればこのような賞を受けられるので、「いなづみ」の利用者の方々にもこのようなことをきっかけに一般就労を目指していただきたい。」と代表は言う。実際に現在同事業所で勤務しているAさんとBさんはすさみ町の一般就労を目指す障害者の良い目標となっているとのことである。
取材の最後に、「人の役に立つことを大切に」という思いを胸に、代表は「今後も障害のある方も活躍できる職場を提供し続けていきたい。」と熱く語ってくださった。執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
和歌山支部 高齢・障害者業務課 今 岳登
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