職場復帰に際し、以下の配慮を行った。

(1)担当業務と作業（就業）場所の変更
長時間の作業となる印刷業務に代わり、車いすに乗ったまま行うことができ、下肢への負担が少ない品質管理業務を担当させることとした。
作業場所についても、工場内に設置していた品質管理に用いる機器を、リハビリを行っていた施設の支援員（以下「支援員」という。）との相談で、事務所内で作業を行うことに変更し、機器の移動を行った。

就業中のAさん

(2)施設・設備の改修（スロープ、手すり等の設置）
Aさんの職場復帰に当たって、支援員に会社に来てもらい、施設の中で改修を行わなければならない部分等についてアドバイスを得た。その際、改修を担当する建築会社の社員も同席し、改修箇所の確認を行った。具体的な改修内容は次のとおり。

ア．駐車スペースの整備
従業員用駐車場は、社屋と50メートル以上離れており、砂利、雑草地で凸凹や水溜まりができやすい場所であることから、事務所裏にあった休憩室へと続く砂利敷きの通路を舗装し、Aさん専用の駐車スペースとして確保するとともに、安全面への配慮から、駐車スペースから事務所へ続く道もアスファルト舗装した。
Aさんは、職場復帰後は駐車スペースまで車で通勤し、車を降りてからは事務所までの距離は短いため、杖を使用して移動を行っている。

改修前

舗装して設けた駐車スペース

イ．手すり等の設置
事務所への入口前には、5段の階段があり、手すりが付いていなかったため、新たに階段の両脇に手すりを設置した。
また、階段と入口ドア前にある踊り場も、安全に配慮し、滑り止め塗装を行った。

手すりや滑り止め加工の実施前

手すりや滑り止め加工の実施後

ウ　洋式トイレの設置
事務所内男性用トイレはこれまで個室の和式トイレ1つ、小便器2つがあったが、車いす対応のトイレに改修するに当たり、トイレを洋式化するとともに、小便器を1つ撤去した。そして男子トイレ全体を個室化することで、既存スペースの中で車いすでの移動が容易になるようにした。
また、トイレ入口には段差があったため、その部分はスロープにし、車いすのまま中に入れるよう改修した。

従来の和式トイレ

新たに設置した車いす対応洋式トイレ

改修前の段差のある入口

改修後のスロープを付けた入口

・印刷工のときの勤務形態は変形労働制で勤務時間は8：30から17：00（休憩1時間）の7時間半であった。
・職場復帰後は体調面の不安があったことから、復帰直後は午前中のみの短時間勤務とし、工場が稼動している土曜日も休日とした。
・徐々に短時間勤務からフルタイム勤務へと移行していき、復帰から半年後には他の従業員や事故前まで従事していた印刷工のときと同様の変形労働制で週5日のフルタイム勤務（土曜日を含む）となった。

社長から従業員に対し、以下の事項を伝達した。

・復帰する予定日と本人の状態（下肢に障害があり、移動には車いすまたは杖を使用して歩行しなければならないこと、通勤は障害者用の自動車を使用することなど）を説明し、様々な配慮が必要であること。
・事故の後遺症により元の印刷工としての復帰は難しいことから、品質検査担当として復帰させること。
・復帰に当たって、駐車スペース、事務所1階トイレ、事務所への階段への手すりの設置などの改修を行うこと。

事務所内外の改修に際し、第一種作業施設設置等助成金を活用した（助成額385,000円）。