福祉事業(高齢者施設)における知的障害者の合理的配慮事例
- 事業所名
- 合理的配慮事例・2021204
- 業種
- 医療・福祉業
- 従業員数
- 125名
- 職種・従事作業
- 高齢者施設(以下「事業所」という。)の洗濯場の軽作業にはじまり、食事介助やおむつ交換等の介護補助を経て、現在は、1人で食事・入浴・排泄介助等の介護職に従事している。
- 障害種別
- 知的障害
- 障害の内容・特性
就労上の課題 - 本事例の対象者(以下「対象者」という。)は養護学校からの新卒採用で、在学中に職場実習(以下「実習」という。)を経験してはいるが就職するのは初めてであり、学びの場から働く場への意識への切り替えが難しく、採用後の就労場面で仕事に関係のない会話等が多く、集中力に欠けることがあった。
- その他
- 障害者職業生活相談員
募集・採用時の合理的配慮
面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること
対象者を採用した社会福祉法人(以下「当法人」という。)では、障害者の採用に際しては、本人とその家族、支援機関との面談や、職場実習を重視している。例えば養護学校の在籍者であれば、四者面談(当法人の担当者、本人・家族、学校担当者)を行った後に採用試験と実習を実施してから採用を決めている。採用試験は障害のない職員の採用試験と同様に面接・作文と適性試験を行っている。また、採用後の配置に関しては、実習の状況を勘案し、本人がどのような考え・希望を持っているかの確認を行い、配属先を検討している。
対象者の場合も四者面談と実習を経て、採用と配属先の決定を行った。
その他の配慮
1.養護学校等から依頼があった場合は、説明会等に参加し、当法人や各施設の概要や業務内容を説明している。
2.面接に際しては、応募者の状態に応じ家族の同席を可能にしている。(就労支援機関の同席は採用後から可能)
3.対象者は当法人が運営するグループホームの利用者であり、グループホームの支援も受けている。
採用後の合理的配慮
業務指導や相談に関し、担当者を定めること
対象者の現場における作業の指導担当者に関しては、仕事内容によるが、初めは洗濯場担当の職員が担当になり、そのとりまとめをリーダー職員が担い、問題や相談事においては主任が担うこととしている。また、当法人は、障害者のグループホームと障害相談支援事業所を併設しており、対象者はグループホームの利用者であることから、指導担当者は生活面においてはグループホーム世話人等と連携を図り、その他の課題については、相談支援専門員と連携するなどの相談体制を整えている。課題が発生した場合は、法人事務長が相談支援専門員やサービス管理責任者・障害者職業生活相談員の有資格者であるため、仕事や生活面からもサポートし、解決している。また、必要に応じて、ジョブコーチ支援の利用や地域障害者職業センターや養護学校等との連携も図り、課題の解決を図っている。さらに、外部研修等へ参加し、関係作りを進めるなど連携強化にも努めている。
本人の習熟度に応じて業務量を徐々に増やしていくこと
1.当法人は、障害者の採用に当たっては、障害のない職員の採用と同様の視点(適材適所と戦力化)を基本に置いて実施している。しかし、障害に応じた配慮は不可欠であることから、採用直後の3か月間は本人の力量や状態を見極めるために試用期間として本人の作業ぶりなどを細かく把握している。そして、知的障害のある職員の場合には、把握された内容を参考に次のような段階を設定して、職域の拡大、人材育成を進めている。
(1)採用より半年から1年:洗濯場や清掃の補助的な仕事
(2)採用後1年から2年:介護補助(移動や食事下膳)
(3)採用後2年から4年:介護補助(食事介助やおむつ交換の一部介助)
(4)採用後4年から6年:介護職(介護度の低い利用者に対し食事・入浴・排泄の一部介助を先輩職員と一緒に行う)
(5)採用後6年から8年:介護職(食事・入浴・排泄介助を1人で行う。また、本人の状況によるが早番勤務と遅番勤務を行う。その際は原則として職員3人体制とする)
(6)採用後7年から9年:介護職(食事・入浴・排泄介助を1人で行う。勤務も、本人の状況によるが早番と遅番を3人体制で行うほか、正規職員との2人体制で夜間勤務を行う)
障害のある職員各人の特性や状態にもよるが、前述の段階を経ることで何人かが(6)の夜間勤務ができるまでに成長している。
なお、介護関係の資格取得についても各人の状況を見ながら法人として支援している。
2.対象者の場合は、前述の流れとは少し異なっている。特別養護老人ホームでの実習経験があって食事や排せつ・入浴介助の一部補助まではできていたが、なかなかほかの職員と馴染むことができなかったので、その後のステップアップができないと判断し、本人が話好きであることを勘案し、一人で対応することが多いデイサービス部門に配置換えした。その結果、利用者への対応(作業手順の理解や応対等)は前の職場よりスムーズで、入浴介助も一人で行い、排せつや食事介助、送迎等の補助もこなせるようになり、十分に介護職として業務に就けるようになった。また、配置換え後においては、それまでグループホームでできなかった日常生活面の身だしなみや挨拶・食事当番等も、徐々にできるようになった。




図等を活用した業務マニュアルを作成する、業務指示は内容を明確にし、一つずつ行う等作業手順を分かりやすく示すこと
1. 対象者は基本的な読み書きの力は有していたため業務指示の内容も理解できており問題はなかったが、受け答えの言葉遣いが友達感覚になることが周りの職員は少し気になっていた。そのため、適切なコミュニケーション(言葉遣いやタイミング等)について上司が具体的に指導した。
2.作業の目的や手順については、コミュニケーションを取りながら本人にできることを確認したうえで、入浴や排せつの一部介助等を担当してもらい、業務や働くことへの理解につなげていった。
3.職員との人間関係でのトラブルもあり、対象者が悩んだ時期もあったため、主任等やグルーブホーム世話人との連携を図り、本人の想いを説明し、本人だけでなくスタッフも共通の認識を持つようにしている。
出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること
当法人では、障害のある職員を障害のない職員と同様の視点で受け入れているため、就業日数や時間、休暇、休憩については、入職当時からフルタイムで就業してもらうこととしている。そして、仕事に対する理解を深め職業人として成長するための職場での対応を「フォロー体制」(主任等の面談)とし、生活面についてもグル—プホームでの生活リズムを整えるための対応を「サポート体制」として、両面からの配慮・対応を行っている。例えば、グループホーム利用者が体調面での不調があれば本人から申し出て職場とグループホームが連携して対応する仕組みとしている。ただし、対象者は通院や体調面での課題があっても、本人から適切に報告・相談することはなかなか難しく、また、家族からの情報も少なかったため、周りの職員が本人の表情等を見ながら状況を把握し、必要な都度、本人に確認し、両面からの対応を行っている。
なお、グループホーム利用者については、通院等が自力では困難な場合にはホームが送迎等を行っている。
本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること
・当法人では高齢者介護事業や障害者支援事業(グループホーム)を行っていることから、法人職員は障害や配慮等について自然に理解をしているので、採用した障害のある職員について、ほかの職員には特段の説明を行ってはいないが、対象者については養護学校からの新卒採用であることを説明している。
・プライバシー保護の視点から上記の配慮をしているが、職員間のトラブル等が発生した場合は、障害のある職員の了解のもとに必要な情報を関係者に説明する場合がある。
・日常業務を通じて障害への理解を深める以外の取組も行っており、現在、年1回の障害者・高齢者虐待防止法の研修会を実施している。
その他の配慮
1.当法人は、障害者雇用を推進しており、併設して障害者事業(グループホームや相談支援事業)を平成24年から開始している。まず、働きやすい環境を作り本人たちの力量をいかせるように生活面のサポート(特に通勤面の配慮を考え)として、グループホームや相談支援事業所を開所している。このことが働く環境と生活面を一体的に把握し、仕事や生活の状況を共有でき、多少のトラブルや失敗もあっても適切に対応することができており、障害のある職員が長く就労できていることにつながっていると考えている。
なお、グループホームでは、本人たちが生活面でのできること(料理等の家事全般や外出や車の免許取得等)を増やし、成長に応じた体調管理を確実に行えるようにするとともに、働く喜びを理解し、自立できるようにサポートしている。
2.相談しやすい体制づくりとして、仕事に関することは主任に、生活に関することはグループホームの世話人・サービス管理責任者・相談支援員に相談することとしている。基本的には法人内で必要な対応がとれる体制を作っているが、必要な際には他機関との連携もとっている。そうした際には法人事務長が基幹相談支援センターや障害者就業・生活支援センター等へ協力依頼をしている。
障害者への配慮の提供にあたり、障害者と話し合いを行った時期・頻度等の配慮提供の手続きの詳細
1.上記でも述べたが当法人はグループホーム(複数)を運営しており、各グループホームでのミーティングやサービス管理責任者における毎月のモニタリングや日々の世話人の関りから利用者(同法人で働く障害のある職員)の状態を把握し、課題等が発生した時は、法人事務長を含めたうえで、仕事のことは職場で、グループホームのことはグループホームで話し合いを行っている。対象者については、以前は、身だしなみの問題で相談支援事業所やジョブコーチ支援を利用し対応している。
配慮を受けている障害者の意見・感想等
1.最初は掃除をしたり洗濯物を畳む仕事をしました。ご利用者様の名前を覚えるのが大変でしたが、毎日接しているうちにだんだん覚えました。オムツの種類を覚えるのも大変でしたが少しずつ覚えました。
2.デイサービスにかわってからは、名前を覚えるために送迎補助につきました。最初はホールでの見守りとお茶出し、入浴介助を習いました。今は入浴介助やトイレ介助・パソコンへの記録も一人でできるようになりました。出勤日のご利用者様の人数によっては、決まった時間に仕事が終わらないので、もう少し早くできるようになり、時間通りに退社したいです。
3.いつかは独り暮らしをしたいです。結婚もしたいです。料理のレパートリーを増やして、早く結婚をできるように頑張りたいです。
4.(職場の担当者からのコメント)
対象者にはお付き合いしている人もいて、いずれは結婚したいと思っている。そのために、車の運転免許を取得することが現在の目標である。お付き合いしている件で日常生活でのちょっとしたトラブルもあったが、最近はコロナでの外出自粛もあったことで少し落ち着いている。職場としても、本人の気持ちを尊重し、生活面でサポートしている。


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