復帰事例であることから就労支援機関の支援は利用していない。しかし、復帰に向け、事業所では対象者との相談や社内調整を行っている（詳細は以下参照）。

事業所では以前にも中途障害者の職場復帰に会社として取り組んだことがあり、この事例が2件目である。
対象者については、脳梗塞発症後、職場復帰したいという本人の思いに応えて、「待っているよ」と声をかけるなどして、会社の姿勢を示していった。事業所では50店の飲食店を経営しているが、復帰時の配属先については、店舗規模を考慮して決めた。あまり少人数（従業員1、2名）の店舗だと、本人も周囲もお互いにしんどくなりやすいと考えたからである。そのため、復帰直後の店舗は、ある百貨店内の店舗（規模が大きめ）とした。
つまり、復帰直後の合理的配慮としては、店舗規模（働く従業員数）を考慮した配属先の選定ということがあった。

対象者は、脳梗塞発症前はある店舗の店長であったが、発症後リハビリを経て職場復帰した。復帰店舗は、前述のように百貨店内の店舗（以下「A店」という。）で、接客等のホール担当であった。また、復帰に際しては、対象者をサポートする従業員を決め、スムーズな復帰に向けた配慮をした。
しかし、コロナ禍で来客数が減少し、対象者やサポートする従業員の勤務シフトを減らさざるを得なくなってしまった。
そのため勤務店舗を変更し、現在は、公共施設内の店舗（以下「B店」という。）に勤務している。B店もコロナ禍で来客数が減っていたが、店長発案でテイクアウトの弁当販売に力を入れるようになり、公共施設の職員を対象に一定数の売り上げが確保できていた。
勤務店舗の変更にあたっては、A店では接客がメインであったが、接客上の課題（一度に注文をたくさん言われると間違うなど）があり、そうしたことを聞いたB店の店長（以下「店長」という。）が、「それなら、うちの店で」と対象者・人事部門に提案し、公共施設内の店舗に異動することになった。B店は、常時忙しいわけではないが、ここでの仕事は弁当作りに集中して取り組むという特徴があり、本人の特性にあった職場環境であると考えた。
こうした経緯もあり、店長が対象者との相談などを担当しており、対象者は分からないことがあれば、店長に相談するとのことができる。またB店には2名のアルバイト店員がおり、対象者が行う弁当詰めの前段の仕込みなどを行っており、分からないことがあればこの2名に聞くこともできる。このように個別での接客と異なり、弁当作りはチームで行う仕事なので、対象者にとって比較的働きやすい職場環境が確保できていると思われる。

弁当は12種類あるが、総菜を詰める組み合わせなど、それぞれ異なり覚えにくいので、対象者が自分でメモを取っている。完成品の写真も撮影したが、季節ごとだけでなく、その時々でも内容が変わるので写真はあまり役に立たず、メモを活用しながら、店長やアルバイトの2名に聞き、指示を仰ぐ方が分かりやすい状況である。

コロナ禍前は、週4日・1日6時間勤務であったが、現在は週3～4日で1日3時間半勤務になっている。通院は、2～3か月に1回、休みを取得し平日に行っている。通院の日は店長に伝え、店長はシフトを交代する配慮をしている。

弁当作りについては、仕事量が多すぎて困ることはないが、筋力が低下したため、手に力が入りにくく、ゴミ捨てなどの力仕事は難しい。力仕事はほとんどないが、例えば、お米のストッカーの上に重たいコーヒーマシンが置いてあり、これをどかす作業に当初は困ったとのことだが、現在は設置場所をうまくずらすといった工夫がなされている。
また、高次脳機能障害の後遺症により、急に話しかけられたりすると、すぐに返答ができないということや、計算が苦手という特性がある。電卓を使えば計算は可能だが、以前行っていたような暗算は難しい。レジの操作は複雑なため対応は困難だが、販売する弁当が全て同一価格なので、それを集計するような簡単な計算は可能であり行えている。
こうした特性も踏まえ、現在は弁当作りと、対面での販売に従事してもらっているが、本人が苦手なこと、負担の大きいことなどは、実際に一緒にしてみる中で分かってくることが多い。

店長は知っているが、アルバイトの2名については、障害の内容については特に伝えていない。ただし、アルバイトの2名も、「今日は、これでいきますよ」とナチュラルな感じで、その日の作業内容を伝えてくれていると、本人も言っている。また体調が悪い時は、店長に口頭で伝える関係ができている。