同社では就労支援機関（以下「支援機関」という。）の職員の同席を認めており、対象者の個性や特徴に係る情報を得る機会として活用している。対象者についても支援機関が同席した面接を行った。
なお、同社では採用後においても支援機関に相談するなど、連携をとっている。

・障害者の採用に際しては採用前に一定期間の職場実習を行い、通勤と実際の業務内容を体験したうえで、自分の個性や希望とマッチングしているかを本人に考えてもらい、同社への就職希望があるかを確認している。
・同社独自で障害別の「合理的配慮」にかかる指針を法令に沿った内容で設けており、社内に徹底し遵守している。
・なお、同社は特例子会社で、従業員のうち約8割が障害のある従業員。障害種別では知的障害のある従業員が約6割で最も多い。本社のほかに約3か所の就業場所がある（本社以外の就業場所を以下「事業場」という）。

社内では障害のある従業員を「スタッフ」、スタッフを指導・支援する従業員を「クルー」と呼称し、後述のA事業場にはクルー4、5名を配置している。クルーの業務時間はスタッフの勤務時間より前後各30分長く設定し、その時間内にクルーだけの朝夕のミーティングを行い、スタッフの体調（服薬状況を含む）や業務進捗状況等の情報を共有し、特定のクルーに負担や情報が集中しないよう配慮しつつ、クルー全体が常時連携できる状態を保っている。
クルーはスタッフの業務内容を各人にわかりやすい作業手順・環境となるよう調整するとともに、視覚的にわかりやすいマニュアルを作成している。また、スタッフが安定した業務遂行を継続できるよう指導・支援し、日々の進捗状況の確認と調整を行っている。
本社人事労務局には社内全体を横断的にサポートするカウンセラー（4名）を配置している。カウンセラーは、事業場に常駐し、スタッフの勤務状況を把握し必要な場合は随時、本人やスタッフとの面談などを行う。その他にも、月1回の定期的な個別面談を行い、各スタッフの話を聴いている。また、スタッフからカウンセラーへの相談をしやすくするための手立てとして「相談ボックス」（相談希望者が申し込み票などを入れるボックス）をカフェスペースなどの共同利用所に設置するなど、様々な工夫をしている。カウンセラーが知り得た情報はスタッフ本人の了解の元に人事労務局内で管理・活用しており、産業医・支援機関・家族との的確な連携を保つことにつながっている。また入社前に支援機関を利用していたスタッフについては、支援機関の支援員とスタッフとの面談を月1回設けており、面談状況について同社、支援機関との情報共有を図り安定した就労につなげている。

クルーはスタッフ一人ひとりに応じた業務の目標を設定し、支援している。その際、「納期」を設定することはスタッフによって負担になる傾向があるので、関連会社等から受託する際に納期の厳しいものは避けている。
クルーが業務進捗状況を確認しつつ、スタッフに応じた個別の対応（相談や業務量の調整など）をすることにより目標達成を図り、的確な納品を行っている。

・スタッフが自身の体調や服薬状況を把握し、自己管理することへのサポートが重要と考えており、18項目で構成した「セルフチェックシート」へ毎日（始業時と就業時）記入するように促している（後掲画像を参照）。クルーも記入内容を確認することで、早期の対応を可能としている。

・新型コロナ感染症拡大防止を目的として、在宅勤務（テレワーク）制度を導入し、出勤率を5割と設定しているが、在宅勤務日においても「セルフチェックシート」への記録は通常通り行っている。

・クルーの勤務時間は9時30分から17時30分までであるが、スタッフについては通勤にかかる負担（混雑等）を軽減する目的から、勤務開始と終了それぞれ30分短縮して10時から17時と設定している。なお、スタッフの障害特性等によってはそれ以外の勤務時間としている場合もある。

・同社では障害種別にかかわらず、勤務1時間ごとに10分間の休憩時間を設けており、クルーはその都度現場状況を確認し、過度の集中や緊張を避けて不調を防いでいる。また、作業を行う職場内では、リラックスして業務に臨めるよう音楽を流している。

・在宅勤務日においてもスタッフが業務に集中して時間外勤務が生ずることを避けるため、始業時のパソコン起動と、終業時のシャットダウンを確実に行い、報告を会社にメールで行うように定め、勤務時間の適正管理を徹底している。
また、出勤し続けることで生活リズムを維持したいという申し出があったスタッフについては、感染防止に配慮しながら通常出勤を認める配慮を行っている。

セルフチェックシート

A事業場には従業員が休憩時に使える「リカバリールーム」を設置している。A事業場は賃貸物件であるため物理的な制約はあるが、できる限り静かな場所を選び、居心地の良い設備を備えている。スタッフは必要に応じていつでも休憩できるよう配慮している。また、ほとんどの従業員が社内で食事を取るので、飲料自動販売機と自社制作のフラワーアレンジメントを配備した「カフェスペース」を設けている。リカバリールームとカフェスペースの壁紙はスタッフがデザインしたもので、町や森を優しい色調で表現した開放感のある絵柄であり、リフレッシュ・リラックスできる空間となっている。

リカバリールーム

カフェスペース

スタッフに職域拡大等の希望等がある場合には、クルーが本人の就労状況等を確認し、社内で検討した上で拡大するなど、さらなるキャリアアップを図っている。

業務上必要である「障害の特徴」や「配慮事項」については配属先のクルーである従業員間で情報共有している。スタッフの家族等に関する個人情報については人事労務局限りとしており、クルーには提供しないこととしている。

・スタッフのなかには疾患等のある者も少なくないことから、休職や復職についても工夫している。スタッフが休職した場合には、事業場から人事労務局に異動し、状況をみながら復職に至るまでのプログラムを段階的に進めていく。例えば、復職時の勤務再開にはカウンセラーが通勤に同行し支援するところから関わっている。

・就労継続にはスタッフやその家族の理解等が重要と考えており、会社の考えや社内の様子、スタッフの仕事の様子等を伝えるための「社内広報誌」を年2回発行している。
　また、本社では「ホームカミングデー」を設けてスタッフの家族に案内し、スタッフの活躍ぶりを実際に見ていただく機会を設けている。本人たちの仕事ぶりや会社の考え方等を直接見聞きすることは、家族が理解を深める良い機会であり、就労継続に役立つものと考えている。現在、ホームカミングデーは新型コロナ感染症の影響で準備作業が中断しているが、状況に応じ再開を予定している。

・同社では障害者の採用に際し職業コンサルタントの配置助成金制度と、企業在籍型職場適応援助者（企業在籍型ジョブコーチ）助成金制度を活用している。クルーやカウンセラーは障害者職業生活相談員、職場適応援助者や精神保健福祉士の資格を持ち必要に応じて支援している。