企業理念に基づく、障害の有無に関わらず
働きやすい職場環境づくりの取組
- 事業所名
- 秋田ダイハツ販売株式会社
(法人番号: 8410001000413) - 業種
- 卸売・小売業
- 所在地
- 秋田県秋田市
- 事業内容
- 自動車販売
- 従業員数
- 286名
- うち障害者数
- 13名
-
障害 人数 従事業務 聴覚・言語障害 2名 本社業務(新車点検)、店舗整備補助など 肢体不自由 1名 本社業務(部品仕分け) 内部障害 2名 本社業務(事務) 知的障害 6名 洗車業務、床洗浄、店舗整理など 精神障害 2名 洗車業務、店舗整理など - その他
- 障害者職業生活相談員
- 本事例の対象となる障害
- 視覚障害、聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害、精神障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所概要
秋田ダイハツ販売株式会社(以下「同社」という。)は昭和24(1949)年創業。トヨタ自動車株式会社を親会社に持つダイハツ工業株式会社のバックアップを受け、安定した経営基盤を有する。
現在、秋田県内に10か所の新車販売拠点を持つ地域密着のカーディーラーとして、地域の軽自動車の需要増に応えるよう、自動車やカー用品の販売及び整備などのサービスの充実と強化に取り組んでいる。『私たち秋田ダイハツ社員は「信頼」と「笑顔」あふれる会社を目指し、強い企業への変革に挑戦します』をスローガンに、社員一丸となって会社を盛り立て、お客様からの信頼を得るために営業・サービスを提供している。また、地域貢献の一環として、プロサッカークラブ「ブラウブリッツ秋田」オフィシャルスポンサー、「田沢湖マラソン」協賛、「ONE FOR AKITAプロジェクト」(秋田犬保護活動)協賛、「全国小学校ABCバドミントン大会秋田県予選」協賛等のスポンサー活動をはじめ、地域密着型プロジェクト健康安全運転講座を実施し、地域との接点の確保に日頃から努めている。
企業理念の一節である「社員一人ひとりが働いてよかったと思える会社にしよう」に基づき、障害の有無に関わらず、労働環境を重視した働きやすい職場環境づくりに取り組んでいる。なお、職場における労務管理は大企業基準で行われ、ワークライフバランスを推進している。
今後は社員が今以上にやりがいを感じられるようなハード面の環境整備を目指している。
(2)障害者雇用の経緯
平成24(2012)年に秋田市内の特別支援学校(以下「A校」という。)から教育の一環として「就業体験実習」(以下「就業体験」という。)への協力依頼があり、依頼に応えて1名の就業体験を受入れたことが障害者雇用に取り組むきっかけとなった。終了後に就業体験を受入れた部署に作業状況や意見を確認したところ、「生徒さんがとても頑張ってくれた」と大変好評であった。そこで同部署に当該生徒(以下「Bさん」という。)の採用について相談してみると「是非採用して欲しい」という言葉があったことからA校と相談、Bさんを翌春採用した。同社ではそれまでにも障害者雇用を行っていたが、ハローワークなどへ障害者専用求人を出し、その都度採用をする計画性に乏しいものであった。しかし、Bさんの働きぶりは良好で、社内では成功事例と捉え、計画的に障害者雇用に取り組むことになった。
計画的な障害者雇用を始めるにあたっては本社労務管理担当部署が中心となり、各部門長と連携・調整を取りながら進めていった。社内には障害の有無に関わらず仲間として受け入れていこうという意識・姿勢があり、社員の協力もあって順調に進んだ。そして、現在は13名の障害のある社員が働いている。
2. 障害者の従事業務と職場配置
(1) 従事業務
洗車業務、新車点検、店舗整理、事務など
(2) 職場配置
本社及び県内各店舗3. 取組の内容と効果
(1) 取組の内容
ア.募集・採用について
同社では主に県内の特別支援学校(以下「学校」という。)と連携した募集・採用を行っており、まず職場実習(以下「実習」という。)を行うこととしている。
翌年度に採用をしたい店舗などがある場合には、その店舗の付近の学校に職種と職務内容、実施店舗などを伝え、学校内で生徒の障害特性と職務内容の適性などを確認した上で連絡いただき、実習の対象者(以下「実習生」という。)を決定する。実習後その実習生が就職に前向きであれば、ハローワーク、学校と調整しながら採用に向けて準備を進めていく。採用予定の実習生の場合は実習を2回以上行うこととしており、1回目は学校の授業計画に沿った実習時期に実施、その後は、実習生が働く自信を持てるように実習を何回か実施する。また、冬季の通勤状況を確認するために、冬季にも一回は実習を行うこととしている。
同社の障害者雇用の考え方としては、障害者のために職務を用意するのではなく、現在必要な職務に合わせて障害者を雇用することを基本としている。そのため、障害者の増員を目的として採用しているのではなく、特定の職務を行う社員が必要になった際に採用している。例えば、カーディーラーの整備士の職務は、車の点検・整備から洗車、店舗の掃除などまで多岐に及んでおり負担が大きかった。そのため、洗車を専門に担当してくれる社員が欲しいという声があり、洗車中心の業務を行う洗車係として障害者を採用することにした。実際に採用後は、整備士の負担軽減につながるなど、良い結果が得られ、その後の障害者雇用につながっている。現在では洗車や社内清掃などで同社にとって必要不可欠な有難い人材である。
実際に採用を決定する際は、実習先の社員の判断を優先としている。実習中、実習先の社員は「この人と一緒に仕事をして行けそうか」という視点で実習生を指導する。また、実習生には「この仕事が合っているか、できそうか、ずっと続けていけそうか」を考えながら実習に臨むようあらかじめ伝えている。実習終了後、実習先の社員と実習生がお互いに「就業可能」と判断した場合に、前述のように採用に向けた準備に入るのである。
このプロセスが働く障害者(以下「障害のある社員」という。)を支える同僚、上司の責任感につながっていると感じている。
イ.配属先の調整
採用後の配置は基本的には、実習時と同じ部署に配属する。
配属後、障害のある社員は基本的には異動はしない。しかし、障害のない社員は異動することがあるため、身近にいた同僚や上司が異動した際に、それまでとは異なる環境の変化を敏感に感じ取り、精神的に不安定になって欠勤したケースがあった。その際は、異動の理由や、働く環境に心配がないことなどを丁寧に説明したことにより、障害のある社員は状況を理解し、安心して職場に復帰することができた。このように障害のある社員のなかには周囲の状況に敏感になることがあるため、実際に他意はなかったとしても、周りの社員の声のトーンやささいな表情で過敏に反応し強いストレスになることもあるので、何らかの変化があった場合には配慮することが必要である。
直近の配置予定としては、洗車係を必要としている店舗で1名が予定されている。店舗によっては洗車係を務めながら床洗浄や廃油タンクの処理、店舗内の美化を行っている障害のある社員もいる。また、お客様に納車予定の新車の準備作業を行う職務もある。洗車以外の職務については、障害のある社員の性格や得手不得手を確認しながら無理せず行うように配置先に伝えており、店長などの店舗管理者が対応している。
また、職務の拡大にも配慮しており、洗車係として配属された障害のある社員が国家資格である自動車整備士3級の取得を希望した場合には、資格取得に必要な実務経験を積ませている例もある。
車内清掃の様子(1) 車内清掃の様子(2)
特に、得手不得手がはっきりとしている障害のある社員にとって、職務内容と本人の特性とのマッチングが本人のやりがいを生み、またそれが周囲との調和にもつながり、会社としての成果を生み出すことになる。そのため、障害のある社員の特性に応じて、同じ職務の中でも仕事の幅を広げたり、少し狭めたりするなどの配慮が必要となる。また、障害のない社員とは知識や技術などの習得のスピードが異なるため、安心して職務に取り組めるよう指示や説明などを障害のない社員より早めにスタートをするように配慮している。
ウ.体調などの把握
障害のある社員の日常の労務管理に関しては所属部署の上司が窓口となっている。上司は必要に応じて本社労務管理の担当部署と情報共有し、障害のある社員の生活に係るサポートを本社に依頼するが、併せて、社内だけでは対応が困難になる場合には外部の支援機関や障害のある社員の家族に依頼することもある。
雇用形態や就業時間については障害の有無に関わらず同じ待遇であり、通院などで休暇が必要な場合には、有給休暇がとりやすいように配慮するなど個別に対応している。また、様子を見て体調が悪そうな時は所属部署の上司が声がけすることもあるが、本人から遠慮しないで申し出るようにも伝えている。しかし、障害特性によってはうまく自分の状況を伝えることができない障害のある社員もいる。例えば、聴覚が過敏なため騒音などにより偏頭痛の症状が出る精神障害のある社員がいるが、その症状が、休憩すれば仕事を続けられる程度なのか帰宅する程度なのかを伝えることができないケースがあった。そのため、あらかじめ本人と上司及び本社労務管理担当部署が相談し、自覚しやすい症状により状態を5段階に分け、その状況を本人が同僚に伝えることで(例.「今朝から頭痛があり、3段階だと思います」と伝える)、体調を早期に把握し対応することができた。ただし、段階に応じて「休憩する」や「帰宅する」などの対処法を決めてはいるが、機械的に対応するのではなく、本人の意向を尊重するようにしており、上司は本人にどうしたいか訊ねたうえで決定するようにしている。なお、休憩が必要な場合、安心して休める環境(条件)は人それぞれ異なることから、職場として準備できる環境は限界があるが、静けさや明るさなど、本人ができるだけ落ち着ける場所で休憩できるようにサポートしている。
エ.社内の支援者の配置など
所属部署の上司のほかにも、障害のある社員との相談などを担当する障害者職業生活相談員(以下「相談員」という。)を配置している。相談員は各店舗の障害者社員の人数などに応じて配置しており、人事異動などにより不在となった場合を想定し、定期的に社員に相談員の資格認定講習を受講させている。
人的体制のほかにも社内研修についての取組も進めている。
障害者を初めて雇用したときは、障害の知識や対処法を学んでいなかったため、障害のない社員と障害のある社員との間のトラブルの発生を危惧していた。そのため、何があってもすぐに対処できるように、採用担当者がいる本社に配属したが、実際にはトラブルなどは発生せず、障害のある社員の働く態度に接することでそうした危惧は誤りであったと気付かされた。
現在は、どのようなことに配慮して障害のある社員と一緒に働いていくかを理解するために、障害のある社員の採用内定後には、配属予定先の店舗・部署の社員を対象として、内定者が在籍していた学校の先生を招いて、本人の特性や指導する際に配慮すべき点について説明を受ける機会を設けている。
こうした取組は会社として障害のある社員の支援については他人任せにせず、自分たちで解決していくことが大切という考え方に基づいている。
また、障害のある社員が働いていくにあたって何かトラブルがあった場合の相談窓口は、一括し本社の人事担当者としており、本人及び配属先の上司などどちらからでも相談を受け付けている。
話が苦手な障害のある社員が人事担当者とコミュニケーションを取る際には、本人の同意のもとメッセージアプリを使うこともある。気軽に何でも伝えていいという前提であるため、障害のある社員から友人のような内容のメッセージが届くこともあり、そこから体調や生活リズムの状況把握や解決策を見い出すこともある。
同社では障害のある社員に特化した社内教育は行っていないが、障害の有無に関わらず全社員を対象に入社時安全教育を行い、安全の重要性を確認している。また、各店舗での日頃からの取組として、毎月安全に関するミーティングへの参加により安全の意識啓発を行っている。
オ.外部の支援機関などとの連携
障害のある社員に職場適応などの課題が発生した際は、当該社員に対する責任感と自分たちで解決しようという考えから、それまでの経験に基づいて各部署で様々工夫し、ミーティングなどでフィードバックしながら対応している。それでも限界があり、解決できない場合は、秋田障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターなど(以下「支援機関」という。)に相談し、ジョブコーチ支援などの支援を受けている。
ジョブコーチ支援では、上司や同僚に対しては、その障害のある社員の障害特性、声のかけ方、対応の仕方やほめ方に至るまでの助言が得られている。
また、障害のある社員に対するジョブコーチによる専門的な支援の様子を見た社員が、支援の方法や在り方について、気付かされるケースもあった。
障害のある社員本人に対しては、社会人としてのマナー、身だしなみ、考え方、体調が悪い際の相手への伝え方や気持ちの切り替え方などの支援があり、実情に即したものとなっている。その際には、仕事に対する責任についても理解するよう支援している。
また、障害のある社員が卒業した学校との連携も重要である。学校は同社が求めている人材(実習生)を推薦するだけでなく、実習生本人の特性などについて実習時に情報提供してくれる。最初の段階で特性がわかっていることで、能力や適性、得手不得手の確認や必要な配慮が提供できる。
採用後においても一定期間、定期的に職場を訪問し状況の確認をしてくれる。職場適応上の課題が起きた場合にも相談に乗ってもらえる。実際に学校で指導していた経験から、対処法を具体的に示してもらえる。
支援機関や卒業した学校との連携と同様、障害のある社員本人の家族と連携することも重要である。特に学校卒業直後は社会経験、職業経験が少ないこともあり、日常生活・社会生活などでの家族のサポートが必要なことも少なくない。
(2) 取組の効果~障害者雇用の波及効果やメリット~
先に述べたように、各部門での障害のある社員はそれぞれの特性を活かした仕事で活躍しており、会社に貢献している。同社としては人件費に見合ったものと判断している。
社内の人間関係作りにおいても障害者雇用は寄与している。入社前に、障害の有無を問わず新入社員を本社に一同に集め、約2週間の導入研修が行われる。本社から遠方の参加者は借り上げた宿泊施設で共同生活をしながら行うため、障害のない新入社員は障害のある社員の手助けをしながらの研修となる。そこから同期の連帯感や仲間意識が生まれ、自然に支援や配慮の気持ちが醸成される。その結果、入社後に配属先が離れてからも同期への気遣いが感じられるなど人間関係が深まっている。
さらに、このような取組により、会社の社会的責任としての障害者雇用への理解が進む。
福利厚生面のメリットとして、障害のある社員にパラスポーツ(サッカー)の秋田県代表選手がおり、事前に遠征などの日程を知らせてもらうことで会社としての勤務シフトの調整を実施している。パラスポーツへの参加は個人の有給休暇の使用としているが、パラスポーツの遠征の際は、会社規定により激励金を支給するなどの支援を行っている。当該社員の活躍は社内外に知られており、社内のモチベーションの盛り上げにつながっている。
また、県外の同業他社より障害者雇用の取組を見学したい旨の申入れがあり、見学を受け入れ、経験などを伝えることで同業他社での障害者雇用の参考になるとともに、企業間の交流の一助となっている。
このような同社の取組が評価され、令和3年3月には、厚生労働大臣が障害者の雇用の促進や安定に関する取り組みなどが優良な中小企業を認定する制度の「もにす認定企業」として秋田県で初めて認定され、秋田労働局から認定通知書が交付された。
優良な障害者雇用に取り組む中小企業として認定されたが、同社の取組は決して設備投資を含め障害のある社員に特化したものはなく、企業理念に基づいて会社全体、社員全体に向けた当たり前の施策を行ってきたものである。そうした取組が、障害の有無に関係なく、社員の公平な一体感を共有することにつながり、社員のやる気につながっている。
4. 今後の展望と課題
同社では今後は洗車係と限定することなく、会社の配置計画に沿って多様な職種で障害者を雇用することを考えている。そして、同社で働く障害のある社員を大切にしながら、安心して楽しくずっと働いてもらえる会社であり続けるために社員一丸となって取り組んでいきたいと考えている。
執筆者:フリーライター 藤原 里香
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