本事例の事業所（以下「事業所」という。）では、特別支援学校（以下「支援学校」という。）の教諭や就労支援機関（以下「支援機関」という。）の支援員の同席を認めており、採用後も定期的な面談を行うなど連携を取っている。また、新卒採用の場合は、最終面接において応募者の家族の同席も認めており、対象者は支援学校の在校生であったことから、支援学校の教諭と家族が同席のもと面接を行った。
なお、事業所は特例子会社であり、ここで述べる配慮は対象者だけでなく、他の障害のある社員に対しても行っている。

採用前に一定期間の職場体験実習（以下「実習」という。）を複数回行い、実際の業務内容を体験する。この実習を通して、事業所は、本人の性格や体力、すでに働いている社員との相性などを観察し「この職場で長く働けるか」という視点でマッチング、採否の判断を行っている。一方、本人にとっては業務を体験したうえで就職を希望するかを考える機会となっている。また、実習中は支援学校の教諭や支援機関の支援員にも本人の様子を実際に見てもらい、相談や情報共有を行っている。

事業所では、日常的に指導にあたる者を「指導員」、障害のある社員を「スタッフ」と呼称している。指導員は担当するスタッフの業務場所に同行し、見守りをしながら必要に応じて支援を行っている。また、対象者に対しては、入社一年目は毎日、二年目からは適宜面談を行い、業務内容や体調について相談できる機会を作っている。

毎日の業務内容については、業務量や進捗状況、期限を踏まえて指導員が調整を行い、翌日分のスタッフ全員のスケジュール一覧表を作成し、掲示している。スタッフは出勤した際にスケジュール一覧表を見てその日の自分の業務を確認する。また、清掃業務は浴室とトイレで役割を分担するため、事業所内に役割分担表を掲載している。

全ての業務においてマニュアルを作成している。写真と説明文を用いて、誰もが理解しやすい内容にし、業務の説明は基本的にマニュアルを活用している。
マニュアルだけでは理解が難しい場合は、個別に指導を行う、チェックシートを作成するなどの対応を行い、スタッフ全員が全ての業務を行えるようサポートをしている。

指導員がスタッフの体調・気分などを把握するため、セルフケアシートを作成し活用している。
項目は以下のとおり。

・体調（五段階評価）
・気分（五段階評価）
・体温
・朝食を取ったか
・就寝時間
・起床時間
・服薬の有無
・伝達事項の有無（相談したいことなど）

スタッフは、勤務開始前に事業所のパソコン若しくは個人のスマートフォンでセルフケアシートを入力し、その内容を指導員が随時確認している。また、指導員が必要と判断した場合（体調や気分の評価が低い、就寝時間が遅いなど）は、スタッフからの申出がなくても個別に声を掛け体調を確認するようにしている。

スタッフが自分について紹介する「マイ取説（自分自身のプロフィール）」を作成している。職場に掲示し、主にスタッフ同士の関わりに活用している。
項目は以下のとおり。

・趣味・好きな話題
・話しかける時の注意点
・落ち込んだ時の自分なりの対処法
・落ち込んでいる時は○○してくれるとうれしい
・話しやすい人数は○○人です
・得意なこと
・苦手なこと
・ストレス発散法

事業所は令和2年（2020年）に事業を開始し、スタッフの多くは新卒採用である。年齢が若く社会人の経験も少ないことから、事業所は「社会人としての自立を促したい」という思いで、月に一度職場内での勉強会を開催している。勉強会では、ビジネスマナーやメンタルヘルス、コミュニケーションなどのテーマを通して自己理解を深める機会を提供している。