株式会社アオイコーポレーション（以下「同社」という。）は医療法人土佐楠目会と社会福祉法人土佐香美福祉会を中心とする土佐楠目会グループの企業であり、同社の前身である有限会社葵人形は昭和43（1968）年6月にひな人形の製造販売を行う会社として大阪市に創業した。その後、平成8（1996）年6月に有限会社アオイコーポレーションに社名変更し、平成15（2003）年6月にそれまでグループの外部に委託していた給食・配食サービス事業を香美郡土佐山田町で開始した。平成19（2007）年には、大阪市にある本社を香美市に移転し、平成22（2010）年には摂食機能が低下した高齢者向けの「介護食ふるる」の製造部門を本社内に設立し、平成24（2012）年には、株式会社に組織変更を行い、平成26（2014）年に安芸郡芸西村に総菜と介護食の製造を主とする高知セントラルキッチン（以下「セントラルキッチン」という。）を開設した。現在は、食に関連するサービスが売り上げの大半を占めるに至っている。
　障害者雇用に本格的に取り組み始めたのは、脇川企画業務部長（以下「脇川部長」という。）が着任した平成27（2016）年からである。委託先から引き継いだ社員に加えて新たに社員を採用し業務を拡大してきたが、次第に求人が困難となり、当初は人手不足の解消という意図もありスタートした。障害者の雇用を始めるにあたって、現場の社員からはこれまで保ってきた衛生管理体制の維持が懸念されるとの声も上がったが、現場の不安の払拭に努め、2名の障害のある社員を受け入れた。ただし、ほかの社員と同じ処遇で採用しており、休憩時間などを含めて、特別な配慮は困難であった。特別支援学校（以下「支援学校」という。）からの職場実習（以下「実習」という。）の受け入れやハローワークの紹介により障害のある社員も採用していたが、仕事の厳しさもあってか、なかなか定着しなかった。
　平成29（2017）年に一般就労（企業就労）を希望する障害者と同社の人材ニーズを齟齬なくマッチングする目的で、障害者就労支援事業所（就労移行支援事業、就労継続支援A型・B型事業）を運営する株式会社ワークチャンス（以下「ワークチャンス」という。）を同社の子会社としてセントラルキッチンの敷地内に立ち上げた。現在ワークチャンスは、土佐山田地区にウエルジョブ＆キッチンやまだ、ウエルジョブ相談センター、芸西地区に多機能型事業所ワークチャンスを設置し、地域に密着して就労支援から一般就労に至るまでシームレスに展開して定着を図っている。支援学校からの実習の受け入れも引き続き毎年行っているが、就職を希望する者については卒業後にワークチャンスを経て入社することで、定着率の向上が図られている。
　本稿では同社の障害者雇用について、セントラルキッチンでの状況と取組を中心に紹介する。

(1)セントラルキッチンにおける障害者雇用の概要
 　セントラルキッチンには現在4名の障害のある社員が在籍しており、いずれもワークチャンスから採用した社員である。令和元（2019）年9月に入社した知的障害のある社員（男性）は、朝6時から午後3時までの8時間勤務で、トラックにより配送される食料品などの検品作業を主に行っている。荷物が配送される時間帯は決まっているのでそれ以外の時間は、清掃作業や、他部署の応援に従事している。社員の75％は女性であるので、力の要る作業でも大いに活躍している。知的障害のある社員は高知市内から通勤しており、午前8時30分から午後5時30分までの8時間勤務で介護食の製造補助に従事している。肢体不自由の社員は、工場内においても怪我や転倒の危険性の少ないドライ仕様の床面のエリアで行われる業務に限定して従事することとし、早番の6時間勤務で早朝のお弁当を詰める業務を1年9か月従事している。精神障害のある社員は、午前8時30分から午後3時30分までの間、野菜の切り込み作業と作業終了後の部屋の清掃を行っており、1年6か月従事している。

（2）現場の体制について
　野菜の下処理作業の現場を例にとると、ワークチャンスから採用した障害のある社員が2名、給食・配食サービス事業でのベテラン社員が2名、ワークチャンスからの施設外就労者が2名、ワークチャンスの指導員が1名の合計7名で構成されている。また、下処理作業部門の職場長はセントラルキッチンの副工場長が務めており、相談事があった場合には適宜相談できる体制が整っている。障害のある社員とワークチャンスの利用者がともに働くことは、利用者にとっては身近なモデルとなり、障害のある社員にとっても先輩社員として仕事を教える立場となることで自信につながり、スキル向上に寄与している。また、セントラルキッチンは食品製造工場としてHACCPに沿った厳格な衛生管理を行っており、ルールをわかりやすく示すため写真付きの掲示などにより「見える化」を行っている。

(3)職場の配置や従事する業務や勤務時間の設定について
　従事業務については、障害のある社員ごとの勤務時間の要望やスキルに合わせて配置している。ワークチャンスから入社した社員の場合、利用者として施設外就労を経験し、その時点で障害特性を踏まえて配置や従事業務を検討しているので、入社後に大幅に変更するケースはない。ただし、仕事に慣れて作業スピードが向上してくると、新たな作業を追加し、職域拡大を図っている。
　勤務時間については、セントラルキッチンは固定制、入居施設はシフト制である。障害のある社員にとって不規則な勤務は体調不良等につながる場合があるため、入社当初はセントラルキッチンで仕事と生活のリズムを整えながら業務に慣れてもらうようにしている。その後、社員からシフト勤務へ変更したい旨の希望があれば、現場と相談して入所施設へ配置替えを行っている。

（4）入社後のフォロー体制について
　ワークチャンスから同社に入社した社員に対し、困りごとが無いか、体調はどうかなど、脇川部長が積極的に声かけをして毎日コミュニケーションを取るようにしている。また、各部門の職場長から当該社員についての相談が脇川部長に上がることもあり、その場合も必要な業務の調整などを行っている。

 

　給食・配食サービス開始当初こそ、仕事量より社員の数が多い状態であったが、事業が拡大し、少子・高齢化のもとで社員の確保・定着が喫緊の課題となった。仕事のきつさゆえか10名採用しても1名しか残らないなどなかなか定着しないばかりか、新しく入った方がやっと現場に慣れてきたタイミングでこれまで働いていた人が辞めていくような状態で、今も社員数は5年前から大きくは増えてはいない。障害のある社員についても支援学校や就労支援施設などから入社いただいたが、現場が多忙で余裕がないこともあり定着率が低かった。
　そこで同社とは別にワークチャンスを設立し、一般就労を希望する方を受け入れ訓練を重ね、実習（施設外就労）を経て、雇用につなげる仕組を作った。ワークチャンスから入社した障害のある社員は実習で慣れた場所に引き続き勤務することで人間関係や仕事内容に関する不安なく仕事に専念できている。また、同社としては、仕事内容を理解した即戦力となる社員を確保できることとなっている。
　このようにワークチャンスとアオイコーポレーションが役割を分担することにより、近年は障害のある社員の定着率の向上につながっている。
　また、ワークチャンスで指導や調整を担当する社員はそのほとんどが同社からの出向者となっており、調理を始め食品製造現場を熟知した立場から作業の切り出しや、同社が市場に提供している製品の製造作業の一部をワークチャンスが訓練として請け負うことにかかわることで、実践的な訓練が実施でき、利用者のスキル向上にもつながっている。
　さらに、ワークチャンス利用者の実習の際には現場の社員に対し、ワークチャンスの社員から利用者の障害特性について事前にレクチャーを行うとともに、指導員が現場で気軽に相談できる体制をとっている。これにより、お互いに安心して業務に専念できる体制が構築されている。
　当初は衛生管理や作業工程への影響から障害者雇用に不安や懸念が多かった現場であったが、現在は、障害のある社員のスキルが広く理解され、野菜の洗いやカット作業の周辺業務を彼らが行うことで、調理などを行う社員の作業負担が軽減されている。また、より密なコミュニケーションが求められる職場となったことで前工程、後工程の部署間の齟齬や軋轢が少なくなり、人間関係が深まり、作業がスムーズになっている。現場は職人気質の調理師などが多いため、コミュニケーション面などで不安であったが、その点も問題なくコミュニケーションが取れている。こうした結果が、現場の生産性向上にも寄与している。

　実習を行った現場と入社後の職場が同じであるため、人間関係や環境面の変化がなく、馴染みやすいことがメリットではあるが、変化がなく、モチベーションの維持に課題があることがわかってきた。そのため、定期昇給や昇格という形で努力に報いる形として、モチベーションの維持向上を図っている。売上高は年々上昇しており、その成果を、障害のある社員を含め、すべての社員に還元できる形を探っている。
　地域に密着した障害者の雇用を促進したいとの思いがあって、少しずつワークチャンスの業務を拡大してきた。当社では昨年9月に新たに高知市内に工場を設立したが、お弁当の盛り付けなどについては、すべてそちらに移管し、セントラルキッチンは、お惣菜の製造に特化することとしている。新工場でも障害者雇用を進めることとしており、現在、ワークチャンスからの実習で4名が新工場で働いている。
　ワークチャンスとアオイコーポレーションの2つの車輪で、障害者雇用を進め、会社の生産性向上にも役立てたい。また、事業会社と福祉サービスの組合せで地域の雇用に貢献したいと考えている。
　一人ひとりの特性に合わせた仕事の切り出しには成功しているが、現場の責任者のなかにはどこまで障害のある社員に任せていいのか不安を感じている者が多く、新たな仕事を任せていくことをためらう者もいる。そのため、現場の責任者に対しては、リスクを回避することなく積極的にチャレンジをするトライ＆エラーを繰り返して進めるように会社として指示している。