可能性を限定せず、本人のやりたい気持ちを尊重する
それが彼らの、日本の、未来につながると信じて
- 事業所名
- 有限会社鹿屋電子工業
(法人番号: 9340002025119) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 鹿児島県鹿屋市
- 事業内容
- 電子部品製造
- 従業員数
- 273名
- うち障害者数
- 13名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 4名 検査工 知的障害 5名 設備オペレーター、検査工 精神障害 3名 設備オペレーター、検査工 発達障害 1名 ラベル貼り - その他
- 障害者職業生活相談員
- 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、知的障害、精神障害、発達障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
有限会社鹿屋電子工業(以下「当社」という。)は昭和55(1980)年に設立され、鹿屋市において自動車や電子機器に搭載される電子部品の加工・検査を実施している。
「報恩謝徳」を社是とし、いただいたご縁に感謝し、その恩に報いることを理念としている。また、社訓には「可能性を限定しない」を掲げている。この言葉には二つの側面があり、ひとつは高年齢者だからとか障害者だからなどといって可能性を狭めてしまわずに基本的には誰もが同じように働いてもらい、同じ作業を行ってもらうという側面、もうひとつは教育に多少の時間や配慮を提供しても社員一人ひとりの個性を活かし、社員がその力を最大限に発揮して自分なりに成長することを支援するという側面である。
(2)障害者雇用の経緯
当社の障害者雇用は在職中に障害を有することになった社員を継続して雇用することにより維持されている状態が長く続いていた。現社長の瀬戸口が社長就任に向けて経営を少しずつ任されつつあった平成26(2014)年に、「鹿屋・大隅地区障害者就職面接会」への参加を契機に、社として積極的に障害者雇用に取り組むこととなった。実のところ、面接会の参加案内が手元に届いたので、会の雰囲気やどんな応募者がいるのか知ることを目的に参加したため、障害に対する知識はほぼなく、準備もまだまだの状態であったが、後にわが社の障害者雇用に大きな影響を与えることとなる一人の応募者(Aさん)と瀬戸口は出会った。Aさんは精神障害のある方で、短時間の面談ではあったが瀬戸口はAさんの意欲や態度に社員としての可能性を感じた。そのため、面接会終了後にはAさんが支援を受けているおおすみ障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)に相談し、Aさんの採用に向けた取組を始めた。
その後、支援センターの担当者と連絡を取り、三者面談(Aさん、支援センター、当社)を行った。その際、支援センターの制度で職場実習ができることを知り、早速利用した。職場実習においては、Aさんのコミュニケーション力や作業能力に対する現場からの評判がすこぶる良かった。また、支援センターの担当者には、Aさんの雇用を考えるうえでの懸念や課題などに対し、親身になって相談に乗っていただいた。また支援センターは、Aさんに対しても実習状況の確認や困りごとなどに細かく対応していただき、当社としては心強かった。そうしたことから、まずは雇用してみよう、細かいことは雇用しながら対応していこうという考えに至り、Aさんを雇用することとなった。
また、時を同じくして、養護学校から職場実習の依頼があった。前例がないのでどうするか迷いはしたものの、この時もまずは受け入れてみよう、困りごとはその都度解決していこうという考えで受け入れることとしたのが現在も働いている知的障害のあるBさんである。
実際に職場実習を受け入れてみると、指示した作業自体は支障なくできたが、ちょっとした口頭指示が伝わりにくかったり、Bさんからの報告や質問、迷った時のしぐさなどが分かりにくいという課題があった。こういった課題をどのように解決できるのかわからず、その時の我々には少し荷の重い課題にも感じられ、会社としては採否の判断を迷っていた。しかし、実習後に本人から受け取ったお礼の手紙には、採用されることが前提の文面が綴られており、それに応えようと決断し、採用することとした。Bさんは現在7年目を迎えるが、所属部門には欠かすことのできない頼もしい戦力に成長し、現場のムードメーカーとなっている。この件がきっかけとなり、翌年以降も地域の養護学校からの実習受け入れ依頼があれば受け入れるようにしており、教育機関とのつながりができたことも当社としては大きな収穫であった。
その後も支援センターや養護学校などと連携しながら障害者雇用を進め、現在13名の障害のある社員を雇用している。しかし、前述のとおり、知識や環境整備が十分でない中で障害者雇用を開始したこともあり、その都度必要だと思うことを試行錯誤しながら行ってきたもので、それらの対応が正しい方法であったのか自信を持てずにいた。そういった中で、支援センターから「養護学校との連携について」というテーマでの講演依頼や、鹿屋市の広報誌の障害者雇用特集に当社の取組を掲載したいとの依頼を受けたことで、自分たちがやってきたことが間違いではなかったという自信が持て、迷いを払拭するきっかけとなった。また、令和2年に鹿児島県知事表彰を受けたことも全社員の励みとなっている。
2. 障害者の従事業務と職場配置
13名全員が製造部門に勤務している。障害別の従事業務は以下のとおりである。
(1) 身体障害のある社員
4名が検査業務に従事している。
(2) 知的障害のある社員
2名が設備オペレーター、3名が検査業務に従事している。
(3) 精神障害のある社員
1名が設備オペレーター、2名が検査業務に従事している。
(4) 発達障害のある社員
1名がラベル貼り業務に従事している。3. 取組の内容と効果
(1)採用時の柔軟な勤務条件の設定について
当社は障害者を雇用する際、まずはパートタイムとして雇用することとしている。これは、当社が障害者雇用の第一目標として職場定着を目指しており、パートタイムであれば障害特性などに応じて勤務条件(勤務日数や勤務時間)を柔軟に設定できやすいためである。障害のある社員の場合、職場定着するまでには、半日だけの勤務や、週の労働時間を短くするなどの配慮が必要となる場合もある。だが、パートタイムではない雇用とした場合には、そうした配慮をすることが全社員に理解されることには限界がある。パートタイムであれば個別の配慮をすることに周りの社員の理解と協力が得られ、また障害のある社員自身も安心して働けるようになり、職場定着につながるのではないかと考えてのことである。
(2)支援センターとの連携について
当社は支援センターとの連携を重視しており、障害者の新規雇用に当たっては、障害者本人に支援センターへの利用登録してもらうことを雇用の条件としている。これは、支援センターも職場定着を目指して支援しているという点で当社の考えとニーズに合致している点が大きい。実際に支援を受ける中で、我々が気付きにくい視点でも支援センターがフォローしてくれることで職場定着が実現していると感じられたことも大きかった。例えば、会社側は障害のある社員の家族や私生活への関与に限界があるが、支援センターは家族も含めて面談を実施してくださったり、密な連絡を取ってくださったりしている。場合によっては、会社と障害のある社員本人、その家族、支援センターの四者で面談を行うこともあり、それがきっかけとなり本人と家族の関係性が向上した事例もある。また、精神障害のある社員の中には私的な事情で病気が再発し、入院治療するケースがあったが、会社側から病院に確認しても個人情報だからという理由で病状や経過を教えてもらえなかった。この時も支援センターが病院との窓口になり、必要な情報(病状や今後の見通しなど)を得たうえで連携して対応し、職場定着につなげることができた。このように、当社の障害者雇用にとって支援センターのサポートは必要不可欠なものとなっている。
(3)成長と定着を目指した職場の環境づくりについて
当社は高齢者雇用にも前向きに取り組んでいるところであるが、以前「高齢者にできる仕事を切り出して仕事を創出することはできないか」というお問合せを受け、お断りしたことがあった。
これは当社の社訓である「可能性を限定しない」に基づくもので、当社はその人や特性に見合う業務内容を作り出すようなことはしておらず、あくまでもほかの人と同じ作業の習得を目指してもらうことを重視している。これは、社員が当社を離れることになった場合に、できることが増えている状態にして送り出したいという思いからである。成功体験をすることで自分に自信を持って、人生を切り開いていってほしいという願いが背景にあり、障害のある社員についても同様である。
ただし、障害の特性などによってはハードルの高いこともある。そのため、当社は応募者には必ず支援センターや養護学校の制度を利用した職場実習を行うようにしている。職場実習は本人が希望する職種で行い、障害の内容にもよるがおおむね1週間から2週間で行っている。この職場実習では、現場の社員にも「自分たちで育てられそうか」という視点で判断してもらい、採用の可否についても現場の意見を尊重している。今までの実績では職場実習経験者の約8割が雇用に結びついているが、残りの約2割は不採用という結果になった。不採用となった事例は、現場の社員や管理監督者から見たときに「積極的に実習を受けている感じがしなかった」というものが大半であった。採用した者のほとんどは継続して働いている。本人の能力以前に、どうしても当社で働きたいという強い意思表示がある方を雇用しているというのが、定着率が高い要因のひとつではないかと分析している。
(4)障害者職業生活相談員による定着支援と支援事例について
入社後に行っている支援の柱としているのは、障害者職業生活相談員(以下「相談員」という。)によるおおむね月に一回の定期面談である。当社では、Aさんの雇用以降、すべての障害のある社員に対して行っている。定期面談を行っているのは、相談員と障害のある社員との間の信頼関係が重要であると考えるからである。それがないと、何がその人にとって苦手なことなのか、症状が出ているときのサインはどんなことなのかなどの情報を把握することも必要な対応をとることもできない。そう考えて始めたものであったが、人によって性格や特性が違うので、面談する側も学びの場になることが多い。次に相談員が支援した2例を紹介する。
ア.Cさん
Cさんは精神障害のある方で、検査業務に従事している。20代前半に精神障害を有することになり、長く就労移行支援事業所を利用したのちに当社へ就職したが、社会人経験はほぼなかった。そのため、社会人としての考え方や行動に未成熟なところがあり、目標の見つけ方や達成の仕方を自分で考えることが不得手であった。そこで相談員はCさんの直属の上司も交えて、まずはCさん用の不良品のサンプルを作った。並行して、毎月の面談で目標の達成状況を検討したり、課題の洗い出しと対策を一緒に行ったりして少しずつ生産性を上げていくことができた。また、自分に自信がない傾向があったため、1年の終わりにはその1年間でできるようになったことを一緒に書き出し、「見える化」することで成果を実感することができ、自信につながった。その作業は本人にとっても有意義なものであったとのことであり、相談員冥利に尽きた出来事であった。こういった経験や支援センターの担当者との信頼関係もあり、Cさんは令和3(2021)年に支援センターから求職者向けの講師を依頼されることとなり、見事にそれを成し遂げるに至った。その時の映像は本人の了承のもと、所属部門全員で視聴するなど、当社の障害者雇用を進めるうえでの勉強材料としても活用している。
イ.Dさん
Dさんは前職の時に発達障害と診断された方であり、令和3(2021)年の鹿屋・大隅地区障害者就職面接会に支援センター同席のもとで当社に応募いただいたのがきっかけで雇用につながった方である。当社はそれまで発達障害の方の雇用経験がなかった。発達障害の特性上、現場の社員に発達障害がどのようなものか理解してもらうことが必要と考え、職場実習を行う前に支援センターの担当者に相談して、社内で「発達障害とは」というテーマで勉強会を行っていただいた。それによって逆に身構えた社員もいたようではあったが、大方の社員は、想像していたより大変ではなかったという反応で、職場実習も比較的順調に推移し、採用となった。
採用後は、Cさんは突然の予定変更が不得手なタイプであったため、担当の相談員が一日のスケジュールを表に書き出し、最初は極力予定変更が起きないような業務管理を行った。また、人に質問をするタイミングを読むことも不得手であったため、毎日午前と午後に1回ずつ質問タイムを設けた。一日の終わりに振り返りの時間を30分設け、そこで不明点の解消や聞きそびれたことの確認、目標管理などを具体的に行った。これが功を奏してか、本人も職場環境に馴染み、早々にパートタイムから正社員に登用、作業の習熟度でいえば周囲のベテラン社員と遜色ないところまで成長している。
4. 今後の展望と課題
鹿児島県から表彰いただいたことにより、県内の障害者関係機関からの問合せや、見学依頼なども年間数件いただき、今後も前進していかなければならないと責任を感じている。
当社はここ数年で社員数が約3倍になっているため、障害者雇用の目標値との乖離が出てきている。相談員も年々増員し、現在では9名在籍しているが、実際に障害のある社員に深くかかわっている相談員は限られており、相談員間の経験やノウハウの共有が必要である。他方、相談員の中には自身の希望で企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)の研修を受講予定の者もおり、今後の当社の障害者雇用の将来は明るいと感じている。
現在当社には4つの工場があるが、工場によっては養護学校や支援センターからの職場実習を特別なこととしてではなく、日常のよくあることとして捉えている工場も出てきている。
「障害者雇用」という切り口で考えることも、課題を整理し対応していくためには必要なことではあるが、障害があることも、男性、女性、若者、高齢者といった社員の個性のひとつととらえ、当たり前のように障害のある社員がほかの社員と一緒に仕事をしている職場を実現する、そしてそれが社員一人ひとりにとっても当たり前のことと理解される職場の実現を目指していきたいと当社は考えている。
執筆者:有限会社鹿屋電子工業 障害者職業生活相談員 瀬戸口 幸代
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