（1）事業所の概要
　社会福祉法人和幸園（以下「同法人」という。）は、昭和38（1963）年6月の設立で、「ふるさと（地域）と生きる」を法人の基本理念に掲げ、青森市内を中心に保育園や特別養護老人ホーム、デイサービスセンター、グループホーム、ヘルパーステーション、ケアハウスなどの施設を次々と開設。職員の処遇改善や人材育成、地域交流・コンプライアンスの取組、サービスの質の向上などが評価される「青森県介護・保育サービス事業所認証」を取得し、「あおもり働き方改革推進企業認証」を受けるなど、事業に関することのみならず、働きやすい環境づくりにも力を入れている。

（2）障害者雇用の経緯
　同法人では以前から障害者の就労支援施設などの依頼により職場実習の受入れや障害者雇用を行っていたが、定着が図れていなかったため、採用から職場定着に向けた、より積極的な取組を実施することとした。
　これまでは、知的障害者や精神障害者の雇用が多かったが、令和3年度に多様な人材の活用を進めることを経営方針とし、身体障害者を3名雇用することとしたほか、「3．取組の内容と効果」で紹介する取組を進め、現在（令和4年7月）、12名の障害のある職員を雇用している。

（1）視覚障害のある職員1名（取組内容を次項「3．取組の内容と効果」で紹介）
　Ａさんは採用当時、書類の整理や請求書の押印作業、定型的なパソコンの入力作業から開始し、現在では総務の事務的作業を行っている（採用後約9か月経過）。

（2）聴覚障害のある職員2名（1名について次項で紹介）
　2名とも施設利用者の洗濯業務・清掃業務を担当しており、そのうちの一人であるＢさんは現在、清掃業務を主に担当している。（Ｂさんは採用後9か月、もう1名は7か月経過。次項で紹介するのがＢさん）

（3）知的障害のある職員5名
　施設内の清掃業務を担当のほか、利用者の歩行補助や話し相手などの介護補助も行っている（全員が採用後７年以上経過）。

（4）精神障害のある職員4名
　施設内の清掃業務や洗濯業務を担当している（1名が採用後10年、3名が2～3年経過）。

（1）取組の内容
ア　採用に向けた取組と法人内の支援体制の整備
（ア）障害者職業生活相談員資格認定講習の受講
　多様な人材活用には、まず雇用管理などの担当である法人本部の総務課長が、障害特性の理解や就労支援機関（以下「支援機関」という。）の機能及び利用方法、支援制度などを知ることが大事と考え、障害者職業生活相談員資格認定講習を受講し、採用時や定着に向けた進め方を考えることとした。
（イ）外部研修への参加など
　総務課長は、障害者就業・生活支援センター（以下「支援センター」という。）主催の研修会などにも積極的に参加し、障害特性や支援の方法を学んだり、他社との意見交換会で知り得た取組などを参考に、障害に応じた業務を切り出したり、面談シートを取り入れた面談を行っている。
（ウ）相談窓口の一元化
　何かあった時の相談窓口を障害者職業生活相談員（以下「相談員」という。）でもある総務課長に一元化することで、状況を把握、判断し、早期の課題解決へ向けた対応がとれる体制とした。また、支援機関との連携が必要な場合には迅速に連携できる体制を整備した。
（エ）情報共有体制の整備
　総務課長から障害のある職員が配属された施設長や現場の担当者には面談内容について報告し、現場で困っていることや気になった点についても、都度連絡を取り合い、情報共有できるような体制を整備した。

イ　募集・採用
　従来は支援機関などからの職場実習の受入れを契機とする採用や支援センターからの採用を行ってきたが、新たな試みとして、人事部の担当者と相談員が一緒にハローワーク主催の障害者合同就職面接会に参加し採用を行った。

ウ　採用の際の個別的取組
（ア）視覚障害と精神障害への配慮
　Ａさんは視覚障害（弱視）のほかに精神障害も有しており、緊張しやすい傾向があった。また、これまでに就職の経験はなかった。そのため、Ａさんが利用していた就労移行支援事業所（以下「支援事業所」という。）の支援担当者も同席の上、採用に係る面接を実施した。
　面接では、文書作成や表計算ソフトを一通り使用できることや拡大読書器などを使用し、パソコンの画面設定を調整すれば作業ができること、通勤も最寄駅から送迎待ち合わせ場所までは、自力で大丈夫であることが確認できた。また、一生懸命頑張りすぎるところがあるため、無理のないようにまわりからの声がけが必要であること、そして、時間はかかるかもしれないが、業務内容のレベルアップやできる業務を増やしていきたいと希望していることが分かり、採用することとした。そこで以下のような取組を行った。
　視覚障害については、Ａさんに聞きながら文字の大きさやコントラストの調整、拡大読書器を設置できる広いデスクを準備したり、目の負担にならないよう、蛍光灯が明るすぎない場所に作業スペースを作るなどの職場環境を整備した。
　精神面については、初めての就職ということもあり、仕事に対する意欲が強すぎるところがあり、焦らずに一つ一つ作業ができるように声がけを行うとともにその都度の相談や定期的な面談を実施し、事業所で対応が難しい課題については、支援事業所と連携し、早期の解決に向けた体制を整備した。
（イ）聴覚障害への配慮
　Ｂさんは聴覚障害があるため、ハローワークの手話協力員を介して手話での採用面接を行った。前職では保育所において送迎バスの運転や作業員をしていたが、Ｂさんの希望や障害状況について確認し、清掃作業員として採用することとした。そして、以下のような取組を行った。
・洗濯業務をする上での作業手順書を作成。また、洗濯機や乾燥機が終了したら振動するタイマーを用意し、Ｂさんが仕事を遂行しやすい配慮を行った。
・入社当時は現場からどのように教えれば良いのかが分からないという意見があったため、Ｂさんと相談員や手話ができる職員とで話合いを持ち、どういう作業が苦手なのか、どのように対応してもらうとよいかなどを確認し、現場の職員に伝え、相互理解を図った。
・現在、現場の職員と電子パッドや筆談でのコミュニケーションをとっており、今では作業にも慣れ、現在は勤務時間を延長し、短時間以外の常用雇用者として勤務している。
・Ｂさんには、ほかの聴覚障害のある職員へ業務に係る指導をお願いし、責任感ややりがいを感じてもらうことにも配慮し、職場定着につながっている。

　　　　　　　
　　　　　　　　　Ａさんの事務作業の様子　　　　　　　　　　　　　Ｂさんが使用している電子パッド

エ　採用後の相談員による定着支援の実施
（ア） 障害のある職員と相談員との定期的な面談の機会を設けている。障害者職業生活相談員資格認定講習の資料をベースに「定期面談シート」を作成。相談員は定期面談シートを活用し、業務に支障の出ない時間帯で月1回程度の障害のある職員との面談を実施。面談では通院日や薬の服用、仕事で困っていることや不満、相談しやすい職員などをヒアリングし、状況把握や働きやすい職場づくりに努めている。
(イ)　面談などで課題などが明らかになった場合は、相談員は現場のリーダーや担当者と相談しながら、解決を図っている。また、施設・法人内だけで解決できない場合には、支援機関や支援センターに相談し、早期の解決が図れるよう連携体制を整備している。
（ウ） 定期面談や課題への対応状況については、施設ごとに開催される月1回の施設内会議（各ユニットリ－ダーなどが出席）で情報共有し、適切な対応がとれるようにしている。Ａさん、Ｂさんについても会議で情報共有が図られ、就労継続につながっている。
　また、会議では同法人が障害者雇用を進める意義などについても確認し、障害の有無に関係なく、職員みんなが働きやすい職場環境づくりに努めている。

 
オ　支援機関との連携
　支援機関の支援者の来所時には、障害のある職員の現状を伝え、情報共有を図ると共に、どのようなサポートをしていけば良いのかについての助言をもらうなど、連携体制を整備することで、課題が起きた時の早期解決につながった。

（2）取組の効果
・相談員が月1回程度の定期面談を行う中で仕事上の課題などを聞き取り、現場の担当者やリーダーと解決に向けた相談を行い、課題を一つ一つ解決することで退職者が減少し、障害のある職員の定着につながっている。また、施設長や担当者が情報共有し、障害のある職員に「明日通院日だよね」などの声がけを通じてコミュニケーションを図ることで、みんながより安心して働くことができる職場作りにつながったと感じている。
・「Ｂさんのおかげで助かっている」という現場の職員からの感想があったり、Ｂさんから手話を教えてもらう職員も見られ、仲間意識を持って一緒に働くことができるようになった。
・様々な支援機関と連携できる体制を整備したことで、課題の早期解決につながっており、支援機関側も同法人に安心して相談できることが、障害のある職員の定着につながっているのではないかと考えている。