(1)事業所の概要
　株式会社エー・オー・シー（以下「同社」という。）は、石川を発祥とし、現在では、福井、富山、滋賀、愛知、静岡の中部地方に展開する人材派遣企業。「モノづくり」企業をお客様とし、モノづくりの現場そのものを請け負ったり、ヒト（人材）を派遣することを通じて、日本のモノづくりを支えてきた。

　「AI」「自働化」で生産工程が省人化し、これからの働き方が大きく変わることを見据え、令和4（2022）年より【エンジニア事業部】を立ち上げた。こちらの事業部では、自社で正社員エンジニアを育成し、モノづくり企業の技術部門へ派遣し、機械の操作・保全・修理や電気に関わる分野の支援を行う。
 

(2)障害者雇用の経緯
　同社では十数年ほど前から障害者雇用促進法に定められた障害者の法定雇用率を達成するため、取り組める部署・業務を選定し採用を進めてきた。
　現在では受入部署の幅も広がり各職場の環境改善につながっている。

　障害のある社員7名の配置と従事業務は下表のとおり。従事業務別の状況は後述のとおり。　　　　
　　

(1) 常駐労務管理(Aさん)
　　　視覚障害のある方で、派遣先の管理事務所にて派遣スタッフの労務管理業務を担当。
　　　勤務時間8：00～17：30。昼休憩時間は1時間。月～金勤務。
　　　派遣先担当者の対応、派遣スタッフへのフォローや連絡などが主な仕事。

(2) 製造機械オペレーション業務（Bさん）
　　　肢体不自由のある方で、派遣先事業所にて製造機械のオペレーション業務を担当。
　　　勤務時間は9：00～19：15　/　21：00～7：15
　　　昼休憩時間は45分（他休憩が30分あり）。4勤2休の交代制。

(3) 清掃(Cさん、Dさん、Eさん)
　　　いずれも知的障害のある方である。管理者1名と障害のある社員3名でチームをつくり作業に当たっている。社宅を清掃するのが
　　　主な仕事。
　　　3階建ての社宅を曜日ごとに清掃箇所を決め、ルーティン化して作業を行っている。突発的に入る他業務もあるが、管理者が
　　　具体的にやって見せ指導を行っている。
　　　勤務時間は3名とも9:20～16:40。昼休憩は1時間。月～金の勤務。
　　　下表は作業のタイムテーブルで、曜日別の作業日程と作業内容・留意事項が分かりやすいように記載されている。

　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　タイムテーブルの例
　
(4）事務補助(Fさん、Gさん)
　　・Fさん
　　　ブログ記事の更新、求人票作成、その他事務補助業務。勤務時間は10:00～16:00。昼休憩は1時間。月～金の勤務。
　　・Gさん
　　　郵便物と請求書のスキャン、契約書整理、ファイリング、など事務スタッフの補助業務が中心。勤務時間9:00～17:30。
　　　昼休憩は1時間。月～金の勤務。

(1)取組の内容
【募集・採用】
　Ａさんは、障害認定を受ける前から同社に勤務していた方。在職中の発症により視覚障害となったが、その際に、どのような業務であれば問題ないかを本人と会社で十分に確認し、配置転換のうえで継続雇用し、現在に至る。

　Ｂさんは、同社の派遣社員の求人に本人から直接応募があり、採用担当者にて特性や症状を確認し、職場環境・作業上の支障がない派遣先を選定し派遣、現在に至る。

　Cさん・Dさん・Eさんはハローワークへ出した障害者求人に応募され、採用した方たち。採用後は石川障害者職業センターにフォローアップいただいている。

　Fさん・Gさんは、同社の担当者から就労移行支援事業所（以下「支援事業所」という。）に障害者雇用の相談を行い、支援事業所利用者に対して実施した同社の職場見学を契機に採用に至った。

　また、採用活動などについては、石川県が行っている「障害者雇用促進支援事業」を活用し、障害者雇用の専門家に採用前準備・採用活動・職場定着まで一連の流れをアドバイスいただきながら進めていった。
　両名の受入れに当たっては、石川県障害者職場実習制度(1か月)の後に、障害者トライアルコース(6か月)（以下「トライアル雇用」という。）を利用している。すでにトライアル雇用を終了したFさんは正式雇用となり、現在に至る。Gさんは現在トライアル雇用の期間中。


【受入時の配慮事項】
　Ａさんは、視力に関する障害であったため、運転を伴う業務が難しくなった。発症前は運転による移動もある営業兼労務管理の業務を行っていたが、発症後は業務上移動を伴わない現場常駐での労務管理への配置転換を実施した。

　Ｂさんは、両足関節と右手指の軽度機能障害であったため、業務遂行上支障のない職場を選定した。
　Ｂさんは階段での移動が負担となるため、事業所にあるエレベーターを使用しているが、ほかには特に支障ない。

　知的障害のある社員については、作業指示などは難しい言葉を使わず短い表現で伝えるよう努めた。特に新しい作業は、実際にやって見せ作業が定着するまで繰り返し指導を実施。また、指導者を常駐させることで都度細やかな対応を行うことが可能となった。

　精神障害ある社員については、座席の配慮を行い環境に慣れてもらうことから取り組んだ。指導者を明確にし、不明点があればすぐ確認できる体制を作り、勤務時間や日数を徐々に伸ばし無理なく就業できるよう体調面にも配慮を行った。


【入社後のフォロー体制について】
　知的障害のある社員へは、管理者との信頼関係を築くことで本人たちが思ったことを言える環境を作った。常に管理者がほかの社員との間に立ち指導や助言を行っているため、トラブルは起きておらず長期就労に結びついている。
　また、配属部署の管理者についても一人で抱え込まないよう人事部門の社員が定期的に困ったことはないか聞き取りを行っているため管理者業務の負担は軽減されている。

　精神障害のある社員へは、定期的な三者面談を(本人・同社・支援者)実施し、仕事内容、職場環境、人間関係など困りごとがないか確認し都度対策を行った。支援機関には、不定期に二者面談(本人・支援者)を実施していただき、職場で言えていないことはないか、生活面の聞き取りも合わせて実施していただいている。実施後、必要なことがあれば同社にもフィードバックがあり、対応を行っている。

　Eさんは、管理担当者にて週1回の定期訪問にて状況をヒアリング、仕事内容、職場環境、人間関係など困りごとがないか確認し都度対策を行った。

 
(2)取組の効果
　7人全員がそれぞれの職場で、戦力として活躍している。
　障害者雇用に取り組んだことで、ふだん社員が行っている業務を洗い出し業務効率を考えることができた。
　社員が手分けして行っていた作業を担ってもらうことで、各社員が本来の業務に専念し取り組めるようになった。
　また、受入れにあたり座席や社内レイアウトを変更することでほかの社員も働きやすい職場環境を作ることができた。

(3)障害のある社員の声
　本稿作成のための取材時に、同社の障害のある社員から直接話を聞くことができた。
　以下はその際の声であり、同社の取組が働きやすさなどにつながっていることが分かる。

　　・作業指示がわかりやすい
　　・なんでも意見することができる
　　・仕事が楽しい、頑張ります
　　・定期的な面談をしてもらっているため、不明点などが確認しやすい
　　・障害特性に合った配慮をもらっているため働きやすい
　　・前職より働きやすい環境である
　　・ルーティン業務、穏やかな環境、適度な声掛け、誰に質問してよいか明確であること、働く時間への配慮など今後も
　　　働き続けたいと思える職場である
　　・緊張が強く困ったことを自分発信ではできないが、支援者に相談することで対応をしてもらえ働くことができている
　　・今後も働き続けたい