障害者雇用専任担当者の配置とトップダウンで
強いメッセージを発信し、短期間で雇用が進んだ事例
- 事業所名
- 株式会社ホンダカーズ千葉
(法人番号: 204000101696) - 業種
- 卸売・小売業
- 所在地
- 千葉県千葉市
- 事業内容
- Honda車(新車・中古車)の販売、修理、自動車部品・用品の販売、自動車保険代理店
- 従業員数
- 766名
- うち障害者数
- 29名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 1名 パソコン(PC)入力 内部障害 5名 営業、事務 知的障害 17名 洗車作業など 精神障害 5名 事務、洗車作業 発達障害 1名 庶務作業 - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害、発達障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社ホンダカーズ千葉(以下「当社」という。)は、本田技研工業株式会社100%出資で、千葉県内に新車販売店31店舗、U-Select店(中古車販売店)6店舗を持ち、千葉から京葉・東葛エリアを中心に、成田、茂原、木更津と展開している。
(2)障害者雇用の経緯
本稿では当社の障害者雇用の状況と推移、具体的な取組について紹介する。紹介に際しては当社の取組などをまとめたパワーポイントを資料とする。
ア.障害者の雇用状況
図1 実雇用率の推移
当社の障害者の実雇用率は平成31年(2019年)まで過去10年間、法定雇用率に達していなかった(図1の赤枠の「低迷期」)。その時期の採用活動はハローワーク主催の「障害者雇用促進就職面接会」に年一回参加することだけであった。その間の平成30年(2018年)には、ハローワークから「障害者雇入れ計画書」作成命令が届き、このまま法定雇用率を達成しないと行政指導、企業名公表などの対象になることとなり、ここで初めてことの重大さに気づき、手を打たなければいけないと考えた。イ.最初の取組:他社に学ぶ
いざ採用を始めようとしたが、何をやっていいかわからなかったため、他県のホンダカーズで法定雇用率を達成している会社を訪ね、話を聞いた。そこでは下記のような取組が必要なことがわかった(図2参照)。
・専任担当者を配置している。
・障害者就業・生活支援センターや特別支援学校などと密な連携をとっている。
・障害のある従業員の人件費は店舗が負担していない(本社が負担している)。
ウ.次の取組:当社の方針と体制づくり
わかったことを基に当社でも取組を始めた。令和2(2020)年1月の社内会議で管理職向けにトップダウンで障害者雇用を進める方針であるとのメッセージを強く発信した。それまでは、現場や配属先の理解が進んでおらず、障害者雇用に対してネガティブな意見が多数あったが、『会社全体で障害者を雇用して、企業の社会的責任を守っていく。そのため、人件費は本社でまかない積極的に雇用していく』という発信をトップから行い、社内体制づくりを進めることで、当社の障害者雇用は進んだ。
2. 障害者の従事業務と職場配置
(1)洗車作業
図4 洗車作業の様子
障害のある従業員の多くが業務として従事しているのは洗車作業である。29名中の約20名がこの作業を担当しており、半数の店舗に1名~2名が配属されている。作業内容は、洗車機で洗った車の拭き上げや、洗車機がない店舗の手洗い洗車となる。また、人によっては室内清掃や有料のコーティング作業も行っている。作業の指示の仕方などは社内で統一しておらず、各店舗にまかせている。それは、各店舗の規模や状況などに違いがあり、それぞれの店舗での作業の流れがあるからである。店舗の指導者は洗車担当の個人の性格や能力も加味しながら指示を出し、お互いに上手く作業ができるように配慮している。
(2)ネット掲載用写真の撮影作業と商品化作業
次に、業務として行っているものは中古車のネット掲載用撮影で、現在1名が担当している。撮影は撮影専用の建物内や屋外で行う。担当者は自分で車を運転し撮影場所まで移動し、車の外観と室内を撮影するが、その際の撮影ポイントは暗記しており、ひとりでこつこつと撮影を行っている。撮影も上手だと評判である。また、中古車の商品化作業も担当している。これはお客様から下取りした車や、オークションで購入した車を販売できるように、清掃やボディ磨きなどを行う。この作業は、整備士スタッフとペアで作業しており、ペア作業で本人はとても安心して作業を行っている。
(3)事務作業
本社部門には3名が配属されており、事務作業を担当している。具体的にはドアノブの消毒作業やシュレッダー、タオルの洗濯や草取りなどを行っている。また、パソコン担当者などの補助として、サーバーの容量チェックや棚卸作業の補助を担当している。
3. 取組の内容と効果
(1)体制づくり~専任担当者の設置~
当社の取組として、まず社内の新しい体制づくり(障害者雇用を推進する専任者の設置)を行った。本社の人事部門に障害者雇用専任担当者(以下「専任担当者」という。)を選任した。専任担当者は店舗と障害のある従業員、障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。なお、図中では「なかぽつ」と表記。)、特別支援学校(以下「学校」という。)とそれぞれ連携をとり、三位一体で現場をフォローする体制とした(図7参照)。これにより、現場(店舗と障害のある従業員)の努力に任せるのではなく、本社もサポートすることが明確になり、店舗と障害のある従業員に安心感を持ってもらうことができ、障害者の雇用が進展した。
図8 取組の2:専任担当者の取組また、専任担当者は新規の採用に向けた取組も行った。県内の支援センターと学校を訪問し(挨拶まわり)、当社の考え方の説明や関係づくりを行い、職場実習(以下「実習」という。)の実施を働きかけた。その結果、実習を経て学校からは翌年度に5名を、支援センターからは10名を採用することができた。これは、当社の従業員(専任担当者)が支援センターなどの担当者と実際にお会いするなかでお互いのことがわかり、また、実習を通じて応募者についても理解することができ、ひいては関係者間での信頼関係を築くことができたからだと考えている。
以上のように専任担当者は採用から採用後のフォローまで幅広く対応しており、会社としてもその活動をバックアップしている。そうしたこともあって、障害者雇用は進んでおり、障害のある従業員の賃金もアップし、定着につながっている。
図9 賃金アップの状況一方で個別には様々な課題に直面した事例がある。次にそうした事例での取組を紹介する。
(2)事例から~ジョブコーチ支援の活用~
当社では、専任担当者には様々な機会を捉えて障害や障害に応じた対応について学べるように配慮していた。職場適応援助者(ジョブコーチ)についても同様で、高齢・障害・求職者雇用支援機構の実施する企業在籍型ジョブコーチの養成研修を受講させ、社内ジョブコーチとしていた。そうしたなかで新たに採用した方がAさんであった。
ア.Aさんについて
Aさんは知的障害と発達障害(自閉症スペクトラム)のある方で、学校卒業後に入社した。配属先は店舗で、各部署から業務を切り出し担当してもらっていたが、次のような課題が生じた。
・2か月ごとにパニック症状が出て、作業継続が困難となる。
・学校に相談するもなかなか改善が見られない。
・配属先で指導を担当していた従業員の負担が大きくなっていた。
そして会社としてどのような対応をとればよいのか困っていた。
こうした事態を改善するため、当社では千葉障害者職業センター(以下「職業センター」という。)と連携したジョブコーチ支援を活用することとした。
イ.ジョブコーチ支援の概要
専任担当者でもある社内ジョブコーチと職業センターのジョブコーチが連携して行った。実施の概要は次のとおり。
(ア)実施期間 3か月
(イ)課題(目標) ・パニックの抑制と周囲の適切な対応
・Aさんに適した職務(業務)の設定と指導方法の確認
・ジョブコーチの支援がなくても職場で必要な支援が提供できる
ウ.支援の内容と経緯
AさんとAさんの保護者や、職業センターと相談しながら次の内容で支援を進めることとした。
・本人に対する能力評価(職業評価:強みと弱み。必要な配慮などの明確化)
・能力に合わせた業務の切り出し
・保護者との話し合い
・ジョブコーチがいなくても無理なくサポートできる体制づくり
・作業手順・スケジュールの作成
・新しい業務の指導
そして、実施状況は次のとおりであった。
・本人の能力検査をし、能力に合わせた業務の切り出しにより、本人の適性を理解
し業務の決定ができた。
・保護者との話し合いにより、パニック時の対処、本人の得意なことの把握などができた。
・ジョブコーチがいなくても無理なくサポートできる体制づくりとして、主担当3名を選出し、体制を整えた。
・作業手順・スケジュールの作成・新しい業務の指導については適性に沿った作業
内容の設定と指導ができた。
支援が全部スムーズにいったわけではなく、やってみて駄目な時は違う方法を試してみるということを何回か繰り返し、本人がやりやすい業務と方法を探した。職業センターとも何度も打合せ・相談し、色々アドバイスを受けた。そうした支援の結果、パニックが激減し、一人でも業務をこなせるようになった。
本人に合った仕事をみつけ、支援の体制を確立でき、本人もやりがいをもって仕事ができるようになり、現在では周囲のスタッフもAさんがいないと困る、というくらいの存在になってきている。
(3)フォロー体制の重要性
図10 当社におけるフォロー体制
図10は、当社における障害のある従業員を中心としたフォロー体制である。本人を取り巻く配属先拠点(店舗など)、本社、行政・学校、支援センター間にはそれぞれ連携があり、情報を共有し全員で障害のある従業員をフォローしている。私(筆者)がジョブコーチ、そして専任担当者として支援するなかで、このフォロー体制の重要さがとてもよくわかった。
フォロー体制について、当社が特に重要だと考えているのは次の点である(図11参照)。
<現場との情報共有と連携>」
実際に毎日フォローするのは、配属先の現場スタッフである。つまり現場の理解が必要ということで次のことを行った。
まず、配属前に店長や工場長と話し合い、それぞれの状況を確認するとともに、障害のある従業員にどんな業務をやってもらうのか、本人やスタッフに負荷がかかりすぎることはないか、そして本社や専任担当者がどのように関わるかなどを詳しく説明すると、安心して受入れてもらえると感じている。また、店長や工場長が代わった際には訪問し、前述と同様の確認と説明を行うことで、理解・配慮してもらうようにしている。
しかし、様々な課題が生ずる中では、現場の一人の担当者だけでは、正直大変な時もある。店舗の責任者には、特定の一人に任せっきりにせず、まわりのみんなでフォローしていこうということを伝え、「みんなで解決しましょう」と話すととても安心してもらえる。
実は、専任担当者や本社の担当者も困った時はすぐに支援センターや学校、ハローワーク、職業センターなどに相談している。みなさんとてもやさしく対応してくださり、的確な意見をくださる。みんなでフォローし解決する、と考えると気持ちが楽になり、良い結果につながると考える。
(4)取組の成果
以上の取組により、活動を始めた令和2年(2020年)度は10名採用でき、法定雇用率も達成することができた(図12、図13参照)。そして、障害のある従業員に対する社内の評価が高まり、本人たちもやりがいを感じている。
4. 今後の展望と課題
図14 現状と今後の展望現在、障害のある従業員の雇用形態は全員がアルバイトである。今後も長く働いてもらうためには雇用条件の整備が必要と考えており、今後は評価基準や給与体系の導入やキャリアアップ制度の導入を行っていく方針である。このことにより当社の従業員として達成感と自己成長を実感でき、ずっと働いてもらえる会社であり続けることが目標である。
執筆者:株式会社ホンダカーズ千葉本社人事・総務部人事・総務課 主任 橋本 美帆
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