日本海冷凍魚株式会社（以下「同社」という。）は、昭和45（1970）年の設立で、国内で水揚げしたベニズワイガニの解体、カニを材料とした加工製品及び冷凍食品の製造、販売を行っている。「企業は人なり」をモットーに安全管理と衛生管理を推進し食の安全を追求し、日本一の食材を全国に届けている。若年層の雇用にも尽力しており、令和3(2021）年には「ユースエール認定」を受けている。

（2）障害者雇用の経緯

　同社は平成12（2000）年に鳥取県障がい者雇用優良事業所等知事表彰を受けたが、その後障害のある社員の任意離職が続き、在職者が0名となる事態となった。そのため、「障害者雇用は地域貢献であり企業の責務」という社長方針の下、障害者雇用に取り組み、地域の特別支援学校（以下「支援学校」という。）からの依頼をきっかけに職場実習（以下「実習」という。）を受入れ、その後の正式採用に結びついた。その後も支援学校からの紹介された方を中心に採用を行い、現在5名が働いている。

（1）取組の内容

（ア）採用に至るまで

支援学校からの依頼を受け実習を行い、障害特性や適性を把握した上で採用や配属部署を決めている。また、支援学校では障害者雇用に関心のある企業を対象に就労促進セミナーを行っており、そこには卒業生である同社の社員、その上司や社長が出席し、講演の講師やパネリストとして協力している。その結果、在校生の同社への理解や興味が深まり実習希望者が増えた。

（イ）入社後の支援体制

ａ．人的配慮

・入社当初は特定の先輩社員がペアを組み、ぶれのない指導や助言を行うようにしている。業務上は作業記録の作成などが必要であるが、書くことに対する得手不得手に配慮して各人がそれぞれ記入しやすいように工夫している。例えばチェックリスト形式にするなど、書式を変更した作業日誌を作成して、毎日書いてもらい、同じ現場の障害者職業生活相談員（以下「相談員」という。）が内容を確認することで体調変化や悩みに早期に気づけるようにしている。何らかの課題があると感じられたら、現場リーダーやほかの相談員などと情報を共有し、支援を行うようにしている。日常的には「特になし」にチェックすることが多いが、時には「かんしゃくをおこしそうになった」などの記述がなされることもあり、日誌持参時に相談員は本人と会話し、確認するようにしている。
　　　

 　　　　　　　　　　　　　　作業日誌の記載例（1）　　　　　　　　　　　

 　　　　　　　　　　　　　　作業日誌の記載例（2） 

・同社では、障害特性が影響し、困りごとを自分から発信しにくい（うまく言葉にできない）人が多いと感じていた。そのため、製造現場に相談員を男女各1名配置し、性別や年齢に応じて対応者を変えたところ悩みを打ち明けてもらうようになった。また、現場で日常的に仕事ぶりを見ている人が相談窓口になることで迅速な対応をすることができている。

・障害者就業・生活支援センター（以下「支援センター」という。）との連携もとっており、支援センターの職員による本人との定期的な面談を行ってもらっている。その際には年齢・性別の異なる職員2名体制での担当を依頼し、話しやすいように配慮いただいている。

支援センターとの面談の際に、障害のある社員から聞き取った内容は、本人の承諾を得たうえで、会社としても共有している。会社への要望があった場合は、社内で検討し、対応している。　

・社内でも障害のある社員との定期的な面談を実施している。ふだんから顔を会わせることで、言いたいことが言える関係・環境づくりに注力している。また、関わりのある同じ現場の社員だけでなく、他部署の社員も折に触れて障害のある社員に声かけをするなどのサポート体制をとっている。

ｂ．環境配慮

　公共交通機関での通勤が不便な地域性のため、障害により自動車免許の取得が困難な社員には交通機関の時刻表に合わせた時差出勤を認めている。さらに、自宅より公共交通機関の路線が遠くて利用が難しい地域には、障害の有無に関係なく、同社所有のマイクロバスで送迎を行っている。

（2）取組の効果（個別事例から）

ア．Ａさん

Ａさんは支援学校在学中の実習を経て採用された最初の方である。人と話をすることが不得手で、うまく気持ちを伝えることができなかった。勤務時間中にリーダーと対面していても、困りごとがあると母親に相談し、母親がリーダーに電話をかけて当人の思いを伝えるということを繰り返していた。さらに、自分の気持ちが伝わらない不安から体調不良となり欠勤が続くようになった。支援センターの助言もあり、会話以外のコミュニケーションの手段として、毎日の体調や仕事の振り返りなどについて作業日誌に書くようにしたところ、どんどん自分の思いを書いてくれるようになり、リーダーも状況を理解し的確に返すことができるようになり、お互いわかりあうようになった。その結果、遅刻や欠勤もなくなり仕事をやり遂げることができるようになり本人も自信がつき、勤続11年目を迎えた。

イ．Ｂさん

「困りごとがあっても言葉にして表現できない」ため、感情のコントロールがうまくできなくてしばしば周りとトラブルを起こしていた。例えば、リーダーが仕事を指示する前に、配慮事項を確認する意味で「○○できる？」とかけた質問を「（たぶんＢさんは○○できないだろうけど）できる？」という否定的な意味での言葉と解釈し、機嫌を悪くして仕事ができない状況に陥ったこともあった。その後、作業日誌を通じたやりとりを時間をかけて行い、本人がどのように理解し感じたか把握するとともに、本人に質問の意図などを分かりやすく伝えることで気持ちの整理ができ、安定した。リーダもＢさんが不満を感じる点や配慮すべき点がわかり、その後に活かしている。

そして、今後は、障害のある社員の業務と貢献が社内で評価され、各人が自分のやっていることに責任を持つようになると仕事に対する姿勢が変わってくるところに着眼して人事制度を見直し、やりがいを感じられる仕組をつくっていきたいと総務部長と現場マネージャーは語った。

本稿の作成にあたり、筆者は同社を訪問し、障害のある社員の方たちの働く姿に接し、真剣に仕事に取り組む姿勢と、お話をうかがった際の「ここでは周りの人がやさしい。自分ができないことがあっても誰かがフォローしてくれる。」と周囲の人への信頼感を語る姿に、同社の社風の温かさを感じた。

周辺地域には水産物加工業の同業他社が多いが、社員が自社で働くことに喜びを感じることができる経営は同社の強みであり、独自性を持つものと思われる。同社の更なる障害者雇用の進展と事業の発展に期待したい。