事業所と就労支援機関の連携した支援により実現した職場定着
- 事業所名
- 社会福祉法人 湯沢市社会福祉協議会
(法人番号: 6410005002738) - 業種
- 医療・福祉業
- 所在地
- 秋田県湯沢市
- 事業内容
- 域福祉事業、介護保険など・児童発達支援事業 ほか
- 従業員数
- 106名
- うち障害者数
- 2名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 1名 事務 高次脳機能障害 1名 清掃・介護業務補助 - 本事例の対象となる障害
- 高次脳機能障害
- 目次
-
デイサービスセンターコスモスの外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
社会福祉法人湯沢市社会福祉協議会(以下「同法人」という。)は、「湯沢市における社会福祉事業とその他の社会福祉を目的とする事業の健全な発達及び社会福祉に関する活動の活性化により、地域福祉の推進を図ること」を目的とし、児童クラブ、福祉サポートセンター、介護保険事業、放課後等デイサービス事業などを行っている。
本稿では、同法人が運営するデイサービスセンターコスモス(以下「コスモス」という。)で働く高次脳機能障害のある職員(以下「Aさん」という。)について紹介する(詳細は次項以降)。
コスモスは高齢者向けのデイサービス(通所介護)を提供する事業所である。湯沢市内のデイサービスには入居施設に併設している事業所が多いが、コスモスは、デイサービス単独の事業所として地域で唯一の存在である。また、コスモスでは、要支援の人から重度介護の人まで幅広く受け入れているところも特徴である。湯沢市内全域に対応し、一日の受け入れ人数は35名定員で毎日平均30名前後が利用しており、特に自立支援と重度化防止に力を入れているため、関係機関からの期待も高い。
デイサービスでは、ケアマネジャーの立てたケアプランをもとに、利用者一人ひとりに対応した個別援助計画を作成した上で、バランスのよい食事の提供、入浴や機能訓練などの支援を行う。コスモスでは主に、午前中に利用者へ入浴を提供し、午後は機能訓練やレクリエーションを楽しむ活動などを提供しており、家庭内(自宅)ではなかなか手の届かない心身の健康増進ができる。
比較的元気な人や、認知症、麻痺、寝たきりなどの多様な方々に対して、介護保険に基づきサービスの提供を行っている。
(2)障害者雇用の経緯
同法人は自身が社会福祉協議会であるため福祉に関する造詣が深いことと併せ、上記の目的にあるように、地域福祉の推進を図る方針であることから、同法人における障害者雇用も大切なことと考えている。
また、日頃の社会福祉事業を通じ、障害者雇用について考え、気づかされた出来事などからも障害者雇用の重要性を学んできた。例えば、事業の一つである相談援助の中で、ある生活困窮者から話を聞くと、その人は障害を有していることが判明した。そこで担当職員が障害者手帳の取得や各種の支援制度の利用に向けた支援をすることで、就労も含めた生活全般の改善につながることがあった。また別のケースでは、それまで人間関係が上手く築けず生きづらさを感じていた人が、障害者として認められたことで障害者サービスの受給及び障害者専用求人の対象となり、障害者向けの求人枠で雇用につながることもあった。
このように障害者福祉事業に関わる中で、障害者を雇用することの大変さやありがたさ、重要性を経験し理解してきた経緯があり、障害者雇用の貢献に資するものとなった。
2. 障害者の従事業務と職場配置
(1)障害者の従事業務、職場配置ア 従事業務(概要)
先に紹介したようにAさんは高次脳機能障害を有している。
現在、Aさんはコスモスに13時30分から17時30分までの4時間勤務している。業務内容としては、利用者専用のトイレ清掃及び職員専用トイレ・休憩室・ロッカーの清掃、デイサービス利用者の見守り、レクリエーションの手伝いなどを行っている。採用当初は清掃を確実に覚えるため清掃に絞って従事し、業務遂行能力の向上に伴い、その後利用者の見守りやレクリエーションの手伝いなど介護業務の補助的な業務にも幅を広げた。
さらに、これらの業務に慣れ、時間が短縮されるようになってからは、利用者が使用する浴室の準備業務もAさんの担当業務となった。次に、Aさんの従事業務の詳細を紹介する。
イ 従事業務(詳細)
(ア)出社後の業務
コスモスでは14時まではデイサービス担当職員が交代で昼休みをとるため、比較的利用者の見守りが手薄な時間となる。この時間帯になると徐々に利用者は昼寝から起きてくるので、Aさんは13時30分に出勤し、利用者の見守りを行う。見守りは、利用者に声掛けをしながら、要望によってトイレ誘導、レクリエーションや機能訓練前の水分補給(ポットから湯呑に水を入れて配る・湯呑の回収)なども行う。
その後、予定時間になると体操やレクリエーションの手伝いなどを行う。
(イ)レクリエーション業務内容
レクリエーションの内容は週替わりで、週初めにAさんの指導担当をしている施設管理者(以下「指導担当者」という。)がAさんに手伝って欲しい内容を伝える。Aさんは月曜出勤時にレクリエーションを手伝うことで、内容や流れがわかり、利用者にレクリエーションに必要な道具を手渡したり、ゲームの点数の集計などを行ったりする。Aさんは明るい性格であり、積極的な姿勢でレクリエーションの現場を盛り上げてくれる。終了後は、手指用消毒液を持ってきて、利用者に声掛けしながら消毒を促す。
(ウ)清掃業務内容
レクリエーション業務が終了し、15時15分からは先に職員用トイレ2か所、休憩室、ロッカーを清掃する。16時20分頃になると利用者のトイレ使用が終わり、帰宅準備が始まるので、その時間に合わせて3か所ある利用者用のトイレを清掃する。
障害のない職員の場合、トイレの清掃はおおよそ15分ほどで終わるが、Aさんは慣れるまでは40分ほどかかってしまい、清掃終了が17時30分頃だった。次第に慣れて仕事が早く終わるようになると、Aさん自身の仕事に対する前向きな姿勢もあり、この後に業務を追加することが可能と判断し、浴室の準備業務を増やした。
(エ)浴室の準備業務
浴室は、大浴場が2か所と、機械浴を設置している特別浴室がある。大浴場では大きな浴槽のほかに、個浴(一人用浴槽)が2つあり、洗い場には3か所シャワーが設置されている。浴室では特に高齢者に配慮した準備が必要とされており、例えば転倒防止のため、滑りやすそうな場所にはマットを敷いている。
大浴場の準備業務としては、脱衣所の脱衣カゴやタオルのセット、出入口用マットの設置、浴室内のいすの準備などを行っている。
3. 取組の内容と効果
(1)取組の内容ア 募集・採用
Aさんの採用前から同法人では在勤10年以上になる障害のある職員を1名雇用している。法人として障害者法定雇用率は達成していたが、当該職員は勤続年数も長くなってきており、これからも障害者雇用を続けていくためには新たな雇用が必要と考え、ハローワークに障害者専用求人を登録していた。
なかなか応募がなかったが、日頃から同法人と協力関係にある障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)より、ほかの事業所に勤務する障害者が通勤で苦労しているとの情報提供があった。その方は自宅が遠く、通勤には家族の送迎が必要であるが、その家族も高齢となり日々の送迎が負担となってきて困っているということであった。その方の自宅はコスモスであれば歩いて通える距離であり、また、その方は当時の職場でトイレ掃除を丁寧にきれいにできるという実績があるとのことであった。コスモスでは介護業務を主とする職員数は一定数確保しているが利用者も多く、介護業務を主とする職員以外で、清掃などを専門的に行う職員がいると業務改善につながると考え、支援センターを通じて求人情報の提供や面談などを行った(面談は支援センターの職員やその方の家族も同席した)。その結果、労働条件も折合ったため、採用内定の運びとなった。その方が今回紹介しているAさんである。
イ 個別の取組内容など
(ア)採用に向けた準備
Aさんの採用にあたり、就業に至るために対応が必要な事項があった。
歩いて通える距離ではあるが、冬場は雪がとても多い地域であり道路状況が心配であることから、冬場の通勤は天候・道路状況によっては家族の援助が必要であると考え、協力を仰いだ。
受入側としての心配は高次脳機能障害についての知識を持つ職員が少ないことだった。対象者の就業予定先であるコスモスでは、介護業務を主とする職員が多く、高次脳機能障害の人と関わるケースは多くなかった。また、同法人内で相談援助業務に関わる職員も一定の知識はあるが、直接対応するケースがなかったため、多くの職員から「高次脳機能障害の方の特徴や留意すべきことなどを学びたい」との要望があった。そのため、採用決定後に支援センターに依頼し、コスモスの職員だけでなく、法人内全体の希望する職員を対象に高次脳機能障害の特徴や必要な配慮についての勉強会(支援センター職員が講師)を行い、受入側職員の障害に対する知識や認識を深めた。
(イ)障害特性に応じた支援制度の活用と、就業上の課題の把握
コスモスの職員とAさんが不安なく勤務に臨むことを目的として、事前に秋田障害者職業センター(以下「職業センター」という。)のジョブコーチ支援を活用した。
採用前に一週間程度、Aさんはコスモスにおいて職場実習(以下「実習」という。)を実施し、この段階からジョブコーチ支援を活用した。実習では、職業センターのジョブコーチが同席のもと、採用後に担当予定業務であるレクリエーション業務及び清掃業務について、高次脳機能障害の特性である注意障害、記憶障害及び遂行機能障害などを踏まえて、作業状況と課題、支援方法などについての確認を行った。レクリエーション業務においては、主に利用者とのコミュニケーションが円滑に図れるか、清掃業務においては作業方法及び作業手順、作業場所の理解に関して確認を行った。
なお、職業センターのジョブコーチは、以前にもAさんへのジョブコーチ支援を担当しており、両者の関係性はすでに構築されていたため、Aさんは安心して支援を受けることができた。
実習ではレクリエーション業務と清掃業務に従事したが、そこで確認された障害特性の影響による就業上の主な課題は以下であった。
【課題と状況】
(1)作業手順の理解・記憶・定着に関する課題 ※下段の()は状況の例示で以下同。
(作業手順の指示の理解に手間取る。特に口頭指示ではその傾向あり。いったん理解した手順であっても、記憶の定着には時間と回数が必要。)
(2)施設内の部屋や場所の認識に関する課題
(部屋や場所の名称や用途、位置などの理解に時間が必要。)(3)備品・用具などの使用・管理上の課題
(備品などの保管場所、使用後の返却場所が不確か、用途に応じた用具の選択、使用上の留意点の理解が苦手。)(4)作業完了後の空き時間に関する課題
(一つの作業が完了した後に完了したと伝えることができず、次にどのように行動してよいかわからなくなり、空き(待ち)時間となってしまう。)
(ウ)課題に応じた取組(その1):作業手順書の作成など
上記の課題について、コスモスではAさんやジョブコーチと相談しながら対応策を検討し、次の取組を行った。
(1)については、以前の職場ではひとりで業務を行うための作業手順書を使っていたということで、言葉・イラスト・写真による清掃作業手順書(以下「手順書」という。)を作成し、Aさんに活用してもらった。(2)についても手順書を活用することとし、手順書には、清掃作業の実施方法、実施順番及び実施場所を確実に理解できるよう工夫した。
(3)については、作業に応じて必要な備品・用具を置き場所から選んでくる、使用後に物品を所定の場所に戻す、あるいは置き場所が変わると混乱することなどがあるため、Aさん専用のカートに使用する物品を入れて作業し、作業終了後の片づけも、物品をカートに入れた状態でカートごと所定の場所に収納するようにした。また、道具使用上の留意事項についても手順書に分かりやすく記載した。
清掃作業手順書の例1
清掃作業手順書の例2
Aさんの専用カート(エ)課題に応じた取組(その2):手順書の活用、周囲の声掛け、場所の表示など
清掃業務においては、手順書に基づき終了した作業について、課題(1)の作業手順の確実性(忘れたことがないか、ミスはなかったのかなど)について、Aさんと指導担当者双方で状況を確認し、必要なフィードバックを行った。また、課題(4)についてはすべての作業後に共通する課題であり、Aさんが何について困っているか、指導担当者や同僚が声をかけ状況を確認しながら進捗管理を行った。
レクリエーション業務においては、利用者の手指消毒を行う際や、レクリエーション前後の日常会話などによりコミュニケーションを図ることで、補足的サービスの提供につなげている。会話の際に、Aさんは興味のあるテーマになると、自身の取り組むべき業務を忘れてしまうほど話に夢中になってしまうことがあるので、その際は指導担当者またはほかの職員が声がけすることで業務のメリハリと進捗管理を行った。
そうした取組によりAさんの業務遂行能力(作業の確実性や効率など)は向上した。
業務遂行能力の向上により、清掃業務終了後にできた空き時間の業務として、翌日来所する利用者のための浴室の準備作業(バスマットの設置など)を新たに追加した。浴室は広く設備も特殊なため、浴室の準備業務の修得までは時間もかかり、指導にも工夫が必要だった。特に出入口が数か所ある広い脱衣所は、課題(2)にあるように、位置関係の把握が難しいため、Aさんは当初、方向が分からなくなり迷うことがあった。浴室の準備作業も手順書を作成したが、手順書だけでは位置の把握や正確な作業が困難なことから、脱衣所にA、Bの記号を貼り、手順書も記号に合わせた記述とすることで、Aさんが一人で作業できるようにした。記号表示の仕組みや手順書の作成に際してはジョブコーチからの支援(助言など)を受けた。
※Aさん(対象者)は自分の立位置(視点)に応じた場所と作業手順の変更が苦手で、
混同が起きることから、2か所の脱衣所にそれぞれ記号(AとB)を表示した。
浴室の様子
(オ)そのほかの取組Aさんは過去にてんかんの発作があり、発作予防に向けた体調管理などが必要である。そのため、本人・家族とは緊急対応の方法の確認などを含め、体調管理に関する話し合いの場を設けた。なお、現在勤務しているコスモスにおいて、勤務中に発作を起こしたことはない。
また、勤務上の不便さや悩みごとは、プライバシーに配慮し、指導担当者だけに相談し、対象者への指示もこの指導担当者だけが行うこととしている。
Aさんは、出勤時に少し早く出社して、業務開始時間まで広いホールの同じ席に座って過ごしている。指導担当者より、「この場所は、Aさんが自分で見つけた場所で、ここで仕事に向けて気持ちを切り替えていると思う。」との話があった。
就労環境の整備、Aさんの障害特性(課題)に応じた対応(手順書の作成、場所の表示等)及びフィードバック、Aさん自身の仕事に対する前向きな姿勢から、Aさんは、業務が早く終わると空き時間がないように、指導担当者に相談しながら時間内に完了できそうな廊下の手すりの消毒などを行うこともある。
Aさんが出勤して一度気持ちを切り替える場所
仕事の幅を広げていくAさん
(2)取組の効果
ア 障害者雇用の波及効果やメリット
今まで障害のない職員が行っていた清掃や浴室準備などをAさんが専門的に担当することで、介護業務を担当する職員の負担が減り、業務効率が向上した。Aさんの休日には、同僚は改めてその存在のありがたみを感じている。
また、Aさんは柔和な印象を与え周囲の人を癒す存在のため、Aさんが雇用されたことで施設の雰囲気がより和やかになった。
Aさんは自身の家庭にも高齢の家族がおり、高齢者とのコミュニケーションに慣れていることから、利用者に対して自然に接することができている。これにより清掃だけでなく、施設内の雰囲気作りにも一役買っている。
イ Aさんからのコメントなど
取材時にAさんは次のように明るく話してくれた。
「徒歩通勤できることが、一番助かっている。皆さん優しくしてくれる。前の職場ではショートステイで泊まっているお客さんがいたが、今の職場はデイサービスなので施設の感じが全然違う。」
ショートステイでは、日によって利用者が異なり、コミュニケーションをとる機会も少なかったようだが、コスモスのデイサービスでは、同じ人が利用されることが多く、顔なじみとなるような関係性が作れ、Aさんにとって良い影響を与えているように思われる。
Aさんの家族は同法人の指導担当者に次のように話されているそうだ。
「以前の職場では他者とのコミュニケーションの機会が少なかったようなので、人と話をさせてもらえる経験がありがたい。ずっと続けていると、中だるみみたいになることもあるかもしれないから、今の状態が継続できればうれしい。」
4. 今後の展望と課題
同法人の担当者は、「障害による本人の戸惑いや仕事上のミスを最小限にとどめるため、職員一人ひとりがAさんに関心をもって接し、精神的なフォローも含めた支援で職場定着を目指すこととしている。今後の課題としては、Aさんは、作業に慣れてマンネリ化した時にミスが発生するため、目で見るマニュアルを随時更新していくなど、安心安全に働き続けるための工夫が必要と考えている。」と話す。
このように同法人では現状を大切にし、障害のある職員がより長く働き続けられる職場環境づくりを目指している。
執筆者:フリーライター 藤原 里香
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。