トップの決断から出発し、担当者間の
理解・連携を通じて戦力化を図った事例
- 事業所名
- 株式会社マスヤ
(法人番号: 3190001007213) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 三重県伊勢市
- 事業内容
- 食料品製造業
- 従業員数
- 204名
- うち障害者数
- 8名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 2名 内部障害 1名 知的障害 4名 菓子製造(包装) 精神障害 1名 菓子製造(包装) - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害
- 目次
-
事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社マスヤ(以下「同社」という。)は、昭和40年の設立で、米菓製品を中心とする菓子製造業が主要事業である。「みんなが幸せになれる会社をつくりましょう。」をミッションとして、新しい菓子ビジネスの確立に取り組んでいる。
(2)障害者雇用の経緯
平成25年に社長から「障害者雇用の取組を進めていく」との方針が出されたことがきっかけとなっている。
それ以前にも、パートタイム労働者を募集した際に障害者を採用したり、社会福祉法人から紹介された障害者を採用したケースはあったが、意識的に障害者を採用することは行っておらず、また障害に応じた環境の整備なども工場の担当任せになっていた。
しかし、積極的に障害者を雇用している企業の経営者から影響を受け、同社として障害者雇用の取組を進めることとし、会社にとって戦力となってもらうための支援に管理部門も積極的に参画することとなった。
取組を進めるに当たっては、県内・県外で障害者を雇用している事業所を見学し、実際に働いているところを見るとともに、ハローワーク、障害者就業・生活支援センター、特別支援学校などとも相談して課題の解消に取り組むとともに、社内でも管理部門と工場の担当が情報交換し、連携しながら進めることとした。
そして、平成26年から本格的に採用活動などをスタートし、令和4年9月現在、8名の障害のある社員が働いている。
現在、障害者の採用は、職場の状況と、「バスなどを活用して工場まで通うことが可能か」を判断しながら行っており、特別支援学校から職場実習を受け入れているほか、ハローワーク、障害者就業・生活支援センターとも連携を取りながら進めている。
本稿では同社の障害者雇用の取組について、同社の本社管理部門で障害者雇用を担当する方(以下「雇用担当者」という。)から伺った知的障害のある社員と精神障害のある社員への取組を中心に紹介する。
2. 障害者の従事業務と職場配置
知的障害のある社員と精神障害のある社員は、看板商品の製造業務に従事している。障害のない社員と同じ業務であり、中には難易度が高い業務もあるが、本人の様子を見ながら、できる仕事から始め、徐々にステップアップするようにしている。
そのうちのおひとり(以下「Aさん」という。)は、単独で行う「機械に段ボールを設置する作業」に配置したが、「スピードに追われ自分のペースで行うことができない」、「相談する人がおらず不安だ」との訴えが本人からあり、複数人で行う「完成した商品が入った段ボールを積みなおす作業」に配置転換を行い、転換後は順調に勤務している。当該部門にはAさん以外にも障害のある社員が配置されているが、様々な仕事があるため、現場の管理職や社員が各人の適性をさぐりながら、まずは短時間から仕事を任せ、できる仕事を増やしていくよう心掛けている。
また、別の方(以下「Bさん」という。)は、産業雇用安定センターからの紹介で採用した方である。Bさんは、同社が初めて採用した精神障害のある方で、現在、菓子の製造業務に従事しているが、様々な支援機関と相談・連携しており、ジョブコーチ支援を活用し職場定着を実現している。
3. 取組の内容と効果
知的障害のある社員と精神障害のある社員は、入社後は、まず、挨拶・着替えがスムーズに行えるよう訓練を行ったり、会社の理念について理解を深めるための研修を3週間程度実施している。また、全ての作業の基礎となる米菓製品の選別について、時間をかけて訓練し、本人が十分理解し、安心して業務が行える状態になってから工場に配属している。なお、米菓製品の選別、包装などの業務については障害のないパートタイム社員と共に行っている。
職場で課題となる行動が見られた場合は、その都度、雇用担当者が工場の担当者(以下「現場担当者」という。)と相談しつつ個別に対応している。
例えば、当日欠勤が多い障害のある社員(以下「Cさん」という。)については、工場からの連絡を受け、Cさんと雇用担当者とで相談し、原因として考えられることや改善案について話し合った。その結果、Cさんからの申し出で「①毎朝、業務が始まる前に食堂で雇用担当者に会うと決める、②計画的に月2回有給休暇を活用する」を実施することにより、休まず出勤できるようになった。現在ではCさんは①を終了しており、障害のある別の職員で欠勤が多い者について①を実施している。
障害者雇用の取組の効果としては、「採用した障害のある社員が会社の戦力となった」ことがまず挙げられる。戦力となったことに伴い、雇用担当者は周囲から「あの社員がんばっているから誉めてあげて」と言われることが増え、採用してよかったと感じるとのことである。
また、障害のある社員と同じ職場で共に働くことにより、多くの社員が障害のある社員一人ひとりの特性を理解し、良さ(「分け隔てなくみんなに挨拶をしている」「手拭き用のペーパータオルの補充など、誰かがしてくれると助かる仕事を率先して行っている」など)を認めるようになったことも大きな効果である。
雇用担当者も、平成25年に障害者雇用の取組を進めるに当たり先行企業を見学した際に、トラブルが起こっても障害のある社員が自発的に対応する姿を見て、「(障害者は)お世話をする対象」というイメージから、「会社にとっての戦力になる存在」というイメージに考え方が変わったとのことであり、「(障害者雇用に不安をお持ちの人事担当者なども)障害のある社員が働いているところを実地に見学していただくと、それまでの考え方が変わることも多い」と話された。また、障害者就職面接会に初めて参加した時に「応募者の働きたいという意欲が伝わってきて、会社にとっての戦力となりうる人たちだ。」との印象をもったということで、実際に会ってみることの大切さを話された。
実際に障害者を採用し、定着を図るに当たり、周囲の社員が障害のある社員の行動を誤解したり、嫌な思いをすることもあるし、障害のある社員が不満を持つこともある。そういった場合、例えば障害のある社員が感じた不満については、雇用担当者から本人に「不満になることをノートなどに書く」よう指示することによって気持ちを落ち着かせるとともに、不満をとことん聞く中でも「あなたはこういう風に考えているけど、別の視点で考えたらこうなるのではないか。」と話すことによって本人の視点を変えるよう促し、不満の解消につなげている。一方、周囲の社員が持つ不満についても、雇用担当者はできるだけ中立の立場に立って、障害のある社員の特性などについて説明することにより理解をうながし、不満の解消を図り、障害のある社員の戦力化に努めている。
なお、雇用担当者が障害のある社員と現場担当者との板挟みに陥ることもあるが、前述したとおり、できるだけ中立の立場に立ってコミュニケーションを図ることによって、雇用担当者が抱える精神的な負担をできるだけ軽減するようにしているとのことであった。
このほかの取組としては、家族、支援機関(出身校、就労支援機関など)の支援者と連携をとることも重要とのことである。家族、支援者は障害特性なども含めて本人をよく理解していることが多く、採用前の段階から採用後の定着に至るまで積極的に連携することが有効である。何らかの課題に直面した際にも連携しながら取り組むことが課題の円滑な解決のためにはよいとのことである。
4. 今後の展望と課題
同社では、現在、就労継続支援事業所(以下「支援事業所」という。)利用者の施設外就労を受け入れている。包装機械の老朽化のため製造方法について再検討していた商品「おにぎりBOX」について、支援事業所に相談したことをきっかけに、包装業務を委託することになった。約半年の準備期間を経て、令和4年5月から、1名の指導者と7名の利用者に週3~5回会社へ来てもらい、袋詰めされた半製品を紙箱に詰め、封をする作業を委託している。社内の様々な部署のメンバーが関与しており、障害者雇用に対して徐々に協力的な雰囲気が生まれている。
また、地域の障害者を対象とした工場見学も受け入れており、米菓製品の選別作業の体験や業務内容の説明を実施している。見学を契機に、特別支援学校から職場実習を経て雇用につながった事例もある。
雇用担当者によると、平成25年ごろに見学した企業の担当者から同社の担当者に「マスヤで障害者雇用を進めることによって、地域の雇用を増やすことができる。有限の雇用が地域全体に拡がっていくことになる。」といった発言があり、この発言が同社における障害者雇用の取組の起動力の一部となっている、とのことであった。
一つの企業として雇用できる障害者は数人単位にしか過ぎないものかもしれないが、採用・定着に至った好事例が地域のほかの企業に与える影響は大きく、今後も「みんなが幸せになれる会社」を作り上げていくため、採用・定着のための努力を継続し、発展していくことを筆者は期待したい。
今後の課題として、雇用担当者は社員全体の理解や、障害のある社員の労働意欲、作業態度に対する不安について挙げていた。身体障害(肢体不自由、内部障害)がある社員に対しては人事管理面についての配慮、知的障害や精神障害がある社員に対しては障害者職業生活相談員の配置などの配慮が職場定着に最も効果があるものと考えられるが、「3.取組の内容と効果」の中でも述べたように、周囲の社員が障害のある社員の行動を誤解したり、嫌な思いをすることもあるし、障害のある社員が不満を持つこともあるなど、職場定着に当たっての課題は種々様々であり、全ての課題が解決できる妙案はないものと考えられる。このため、一つ一つ、障害のある社員、雇用担当者、現場担当者、家族や支援機関の支援者などが、状況や特性を把握し、理解しつつ、連携しながら地道に取り組み続けて、少しでも課題のある現状を改善していく努力を続けていくことが課題解決のための近道になるのではないかと筆者は考えている。
執筆者:国立大学法人三重大学
人文学部准教授 岩崎 克則
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