令和3（2021）年3月に創立70周年を迎えた株式会社北海道銀行（以下「北海道銀行」という。）の設立は、戦後間もない昭和26（1951）年に遡る。戦後の新興産業の勃興と人口の急激な増加による旺盛な資金需要を受け、北海道における普通銀行設立の機運が高まるなか、昭和25年8月3・4日開催の全道中小企業者大会（旭川）および同月9・10日の全道商工会議所大会（旭川）において「北海道銀行」設立の要望が満場一致で可決され、全道各地各層より400名にも及ぶ設立発起人のもと、昭和26（1951）年3月3日の創立総会において、まさに「北海道に根差した銀行」が設立（設立登記：昭和26年（1951）年3月5日）された。その設立発起人の多さより、いかに北海道に根差した銀行の設立が望まれたかをうかがい知ることができる。

　その後、地域を支える金融機関として役割を果たしていくものの、昭和末期のバブル崩壊では金融機関全体が経験したことのないダメージを受ける中、北海道の地域に支えられ北海道に欠かせない「どさんこバンク」として苦難の時期を乗り越え、現在では北海道内を中心に店舗数144（本支店136・出張所8）を構え、海外駐在員事務所3か所を擁するに至っている。

北海道銀行は経営理念として、「地域共栄」「公正堅実」「進取創造」を掲げておりその内容はそれぞれ次のとおりである。

　　「地域共栄」 社会的使命を実践し、地域社会とお客様とともに発展します。

　　「公正堅実」 公正かつ堅実な経営による健全な企業活動を目指し、信頼に応えます。

　　「進取創造」 創造と革新を追求し、活力ある職場から魅力あるサービスを提供します。

銀行の職務内容は非常に多岐に渡るため、それぞれの障害特性に応じた職場での勤務となるが、営業店活動のバックオフィス業務を担う本部で勤務する障害のある職員が多い。配属については、ダイバーシティ推進室が障害者雇用について各部署に事前説明を行い、理解を得ながら進めている。 

　最も配属人数の多い「事務センター」は、障害のある職員が働きやすいよう、同じチームまたは近くのチームに配置する。一例として、聴覚障害のある職員は可能な範囲で同じチームに配置しており、聴覚障害者同士のコミュニケーションに配慮し、周囲の職員も関わりやすい体制を整備している。そうすることで、現場から随時報告しやすい体制を築き、何か問題が生じそうなときはすぐにフォローできる体制としている。

北海道銀行の障害者雇用の取組に関し特筆すべきものとして、ダイバーシティ推進室による障害者配属部署へのあらゆるバックアップが挙げられる。

　障害者の採用はダイバーシティ推進室が担当し、勤務可能な部署の選定、当該部署との打合せ、配属部署の上司を含めた面接機会の提供を行っている。また、各人の情報（障害特性や配慮すべき点など）の周囲への共有方法についてなど、面接から配属まで本人・配属部署の上司と綿密に打ち合わせている。採用後の定着支援についてもダイバーシティ推進室がフォローをしている。

　また、障害者支援機関との連携にも力を入れており、例えば、精神障害者に関しては、北海道障害者職業センターのジョブコーチと連携し、障害のある職員本人へのフォローや、本人への関わり方などを配属先の職員に説明してもらった事例もある。障害者雇用は障害の多様さと特殊性などによりなかなかハードルが高いという先入観を持ちがちであるが、そのような場合にジョブコーチなどの障害や障害に応じた支援に詳しい専門家からのアドバイスは非常に有用である。しかしながら、それぞれの現場でそのような専門家の存在を見つけ出しつながりを持つのはなかなか難しく、この点でもダイバーシティ推進室が両者をつないだ意義は大きいと言える。　

勤務は障害のある職員一人ひとりの状況に合わせ対応している。障害者雇用でよく課題になる体調面への配慮については、通院への配慮や業務量の管理なども行われており、必要に応じ休暇を取ることも可能である。必要な配慮がなされるためには周囲の理解が決定的に重要であるが、北海道銀行では周囲の理解が得られている。これは、ダイバーシティ推進室が採用時から本人の事情を把握、配属部署の上司と共有し、周囲の理解を得ながら働ける環境づくりをしていることによるところが大きい。

そして、職場の物理的な環境整備についても取り組んでおり、事務センターのあるビルでは、車いす利用者の雇用に合わせ10年ほど前よりスロープやトイレも整備している。

　このような取組により、「ダイバーシティ推進室のような相談部署があることは、障害者雇用についての安心感につながる」との声が各部署から挙がっているとのことで、この声こそがダイバーシティ推進室の果たしている役割、ひいては大きな組織における障害者雇用推進の秘訣を物語っていると筆者は考える。大きな組織において障害者雇用に取り組む場合、個々の現場でそれぞれバラバラに取り組むのは非効率であり、本社の障害者雇用に対応する部署が実効的機能を持つことが非常に重要である。むろん、経営トップの障害者雇用に関する理解も重要であるが、掛け声だけ掛けても実際に障害者雇用が進まない組織はそこに問題があることが多い。

その点、北海道銀行では「地域共栄」という経営理念のもと、「障害者雇用による地域経済への貢献も北海道の企業としての重要な役割のひとつである」という経営トップの確固たる意志のもと、専門部署であるダイバーシティ推進室が担当し、それを自行に具体的に当てはめていくという取組を行うことにより、配属部署も障害者雇用への理解が進むという良い状況にある。

以上のような北海道銀行の例に学べば、大きな組織で障害者雇用が進まないと悩みを抱えている会社は、次の二つについて再考することが有用と思われる。

まずは経営トップの障害者雇用への意志が確固たるものかどうかである。障害者雇用を進める際には、様々な課題（障害に対する理解、従事業務の選定、指導・育成、コストなど）が想定される。しかし、障害者雇用は社会的存在である企業に社会連帯の理念に基づき課せられた法的責務である。様々な課題があっても進めようとするトップの意志が重要である。

次に組織内（本社など）に障害者雇用に取り組む部署（以下「担当部署」という。）があり、そこが各現場に向けて実効的機能を有しているかどうかである。担当部署があってもどのような取組をしたらいいか分からず実効的機能を有していないという場合は、ハローワークをはじめ、全国にあり無料で利用できる地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターなど、国や県などが設置・整備している支援機関などを利用することから始めるのも一法である。北海道銀行の例でも見たように、それらの専門家とつながるだけでも障害のある従業員が配属された現場は非常に心強いものである。

これからの障害者雇用に関し、「学校や支援機関との関係をより強化することで採用の間口を広げ、引き続き障害がある人がいきいきと働くことのできる環境を整備していきたい」とダイバーシティ推進室の山内室長は語る。

金融機関を取り巻く環境は世界的に不透明性を増しているが、北海道銀行はきっとそれらを乗り越え、掲げる経営理念の「地域共栄」の一つとして障害者雇用をさらに充実させモデル事例であり続けると想像させる。経営トップの障害者雇用に対する確固たる意志、ダイバーシティ推進室の活躍、そして何より地元北海道民の銀行「どさんこバンク」なのだから。