(1)事業所の概要

東洋染工株式会社（以下「同社」という。）は昭和38（1963）年創業。生活資材や衣料、農業資材および工業資材などの繊維製品となる繊維ロール素材を繊維メーカーより受け入れ、染色機能加工及びコーティング加工の付加価値を付け、繊維メーカーに出荷する事業を営んでいる。

同社は高度な技術を要する薄地の染色加工を得意とし、従来の委託加工企業から、技術・製品開発を含めた形で顧客に提案のできる企業へとレベルアップを目指している企業である。平成28（2016）年に環境面では世界で最も厳しい基準の一つといわれる環境・健康・安全の全ての面において解決策を提供すべく設計された繊維業界標準「ブルーサイン認証」を取得、また令和元（2019）年に「ＫＥＳステップ2SR認証」環境マネジメントシステムを取得するなど、品質や安全性、環境に対応したものづくりに長年取り組んでいる。

　製造工程の概要は以下の流れになっている。

　　ア　受入（繊維ロール状）

　　イ　生地準備（ロールに巻かれた生地の端同士をつなぎ合わせ、加工ロットサイズにする）

　　ウ　染色

　　エ　乾燥

　　オ　仕上げ（コーティング加工など）

　　カ　出荷検査（色彩・物性テストなど）

　　キ　梱包出荷

(2)障害者雇用の経緯

　同社では平成20年台後半まで身体障害のある社員3名の雇用が続いていた。平成29（2017）年に左腕に障害のある社員を採用し、検査部門に配属したが、本人は一生懸命業務を行うものの、職場環境になじめず一年で退職となった。社長は、「このことをきっかけに、障害者本人への物理的な作業環境への配慮は勿論だが、ともに働く周りの社員の理解を深めることも重要であり、障害のない社員への教育を含め、障害者を雇用する職場環境作りに本腰を入れる必要があると感じた。」と話す。

　その後、障害者就労支援機関（以下「支援機関」という。）の支援を受けつつ、令和元(2019)年度に精神障害者1名、令和2（2020）年度に知的障害者と精神障害者を各1名、令和4（2022）年度に身体障害者を1名、新規に採用した。そのほかにも在職中に病気による中途障害者となった社員が1名あり、現在8名の障害のある社員を雇用している。

　なお、次項（「3.取組の内容と効果」）では、障害別に3名（Ａさん、Ｂさん、Ｃさん）の取組事例について紹介する。　

(1)身体障害のある社員4名

　聴覚障害のある社員1名と肢体不自由のある社員3名を雇用している。聴覚障害(両側感音性難聴)のある社員Ａさんは令和4年4月に入社、技術部の試験室に配属され、製品の色や機能に関する試験評価の業務を担当している。

　Ａさん以外の3名は肢体不自由（指の欠損、手足のしびれ）があり、設備保全、経営企画、機械オペレーターの補助の業務を担当している。

(2)知的障害のある社員1名

知的障害のある社員Ｂさんは令和2年4月に入社し、生地準備工程で、ミシンでの生地の縫製業務を担当。幅の広いロールに巻かれた生地の端同士をミシンにより直線的につなぐ作業には技能を要し、技能習得するまでには長期間を要する作業である。その後、ロール状の生地をラックから降ろす作業や台車の運搬作業なども担当している。

(3)精神障害のある社員3名

　3名を雇用しているが、そのうちの一人であるＣさんは平成31年4月に入社し、当初は乾燥工程のオペレーター補佐として従事し、その後、同じ職場内での事務業務を担当している。

　ほかの2名は検査の工程にて包装の業務、及び施設サポートの部門で設備保全作業補助を担当している。

(1)聴覚障害者の配置と配慮事例

　令和4年4月に入社したＡさんは難聴により、機械音が大きい場所や早口で話されると聞き取りづらい、後方から話しかけられても気づけないことがあったため、技術部の試験室に配属され、製品の色や機能に関する試験評価業務の担当となった。会議や打ち合わせに参加することのあるＡさんには、話し手との距離が遠い場合や複数人との会話には支障があった。また、同社で聴覚障害者を雇用するのはＡさんが初めてであることから、福井障害者職業センターのジョブコーチ支援を採用時から利用することとした。Ａさんはジョブコーチの支援のもと、職場でのコミュニケーションスキルの向上（メモの活用や自発的な確認・質問の励行など）に加え、周囲からの配慮（聞こえにくさを補うための声の大きさ、話すスピードなど）を得ながら、業務に必要なスキルを着実に習得していった。なお、確実にコミュニケーションをとるために、同社は4月入社時より独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構（以下「機構」という。）中央障害者雇用情報センターの就労支援機器貸出制度を利用し、補聴援助機器を6か月間試用して有効性を確認、10月に補聴援助マイクロホンシステム「ロジャーセレクト」及び複数人会議専用の「ロジャーテーブルマイクⅡ」を購入した。購入に際しては、機構福井支部を通じて障害者作業施設設置等助成金制度を利用し、全購入費用の3分の2の負担低減を図っている。

(2)知的障害者の配置と配慮事例

　Ｂさんは令和2年4月に障害者就労支援施設（以下「支援施設」という。）の紹介を受け、1週間の職場実習実施後、3か月間のトライアル雇用を経て入社、生地準備工程に配属された。Ｂさんは意思疎通をはかることは苦手ではあるが、単独でこつこつと作業を継続し、技能を発揮できるとの判断からの配属である。また、採用と同時にジョブコーチ支援を利用した。

　生地準備工程では、ロールに巻かれた薄い生地の端同士を重ねてミシンを用いてつなぎ合わせる作業を行うが、ゆがみなく、かつ直線的に縫い合わせるためのミシンの操作、生地の取り扱いはなかなか難しい作業であり、Ｂさんへは口頭で説明することよりも、やって見せることを意識した指導を実施した。

　なお、Ｂさんには人間関係のトラブルなどの課題が発生した。その際には、同社の障害者職業生活相談員（以下「相談員」という。）はジョブコーチやＢさんを同社に紹介した支援施設の担当者と連携をとりながら対応を図った。その後も時折、相談員や支援施設の担当者はＢさんから相談を受けることがある。その際は、相談員やジョブコーチ、支援施設の担当者間で情報を共有し、対応をとっている。

　入社後約2年7か月を経過した現在、同社の工場長は「生地準備工程での難しい技能を習得したＢさんは今では当社にとってなくてはならない人財となっている。」と話す。

　　　　　　

 　　　ミシンを使い、生地のつなぎ合せ作業を行うＢさん

 (3)職務内容の創出事例

　Ｃさんは、平成31年に1週間の職場実習実施後、3か月間のトライアル雇用を経て同社に入社し、乾燥工程に配属された。乾燥工程には乾燥設備が7台あり、Ｃさんはそのうちの1台を担当するオペレーターに付いて補助作業を担当した。Ｃさんは当初より2週間に1回の通院と薬の服用が必要であり、職場においても休暇取得に配慮していたが、前後工程のオペレーターとのコミュニケーションがうまくとれなかったり、薬の副作用で体調を崩したりすることがあり、負担となっていた。そこで、職場の上司と障害者雇用推進担当部署である総務部門の担当者で業務内容の変更を検討し、Ｃさんはパソコンの操作が得意であったため、乾燥工程部門の事務作業を受け持つこととした。具体的には、従来は各乾燥機それぞれのオペレーターが行っていた帳票類のデータ入力、印刷作業をＣさんがすべてまとめて担当するよう業務内容の変更を行った。このことにより、Ｃさんにとっては体力的な負担低減となるとともに、比較的ほかの社員とコミュニケーションが少なくて済む業務となった。Ｃさんは徐々に事務作業量を増やしており、やりがいを感じ、精神的にも安定してきている。また、各オペレーターからも帳票準備などの事務的作業が不要となったことで作業負担が低減し、喜ばれている。

なお、Ｃさんを採用する際、社長以下、同社の関係者はジョブコーチ支援についての情報を知り、上記のＣさんの職場定着の取組においてジョブコーチ支援を利用した。同社はそれ以降も障害者の雇用に際しては障害者本人の同意を得た上でジョブコーチによる支援を利用している。

　　　パソコンにて帳票類作成などの作業を行うＣさん

(4）勤務時間の確認による不調、不安などの把握

　同社の社長及び工場長は、随時、障害のある社員の勤務時間を勤務表により確認し、就業の不安定さを感じた場合には、直接本人に声がけするか、もしくは職場の上司に状況を聞くなど、障害のある社員の発する不調、不安の兆候を把握するよう努めている。必要な場合には当人との対話や支援機関の協力を得るなど、対応を図っている。

　社長は、「障害者はコミュニケーションをとることが不得手である人が多く、本人に無理がかかっている時などをどう察知するか、特に声がけを行うことが大事である。また、兆候が見えた時に、相談のできる体制を作っておくこともポイントの一つである。」と話す。

　取材の最後に社長は同社の障害者雇用について次のように話された。
　「当社は製造ラインの自動化、ＩｏＴの導入を進めているものの、これからも人の手に頼るところが多くある。今後、労働人口が減少していく環境の中、思い通りに人材を採用することは難しく、先を見ると若い社員たちのみで当社が成り立っていくとは思えない。女性、高齢者、障害者の人たちの手を借りて会社を経営していかないといけない。いわゆるダイバーシティを受け入れた会社の風土、職場にしていきたい。

また、障害のある社員が職場に定着するためには、当人に合った仕事が社内のどこにあるのか、どう創出できるかの見極めを行うことが重要で、その職場で当人が自分で解決し、達成感を得られるようにもっていきたい。障害のある社員と職務内容がマッチすると想像以上の力を発揮するので、周りの社員も助かる。」
 

今回の取材を終えて、社長、工場長以下、総務部の障害者雇用推進担当の方々の障害者との共生に向けた考え方、取組に真剣な思いが感じられ、同社の近年の障害者雇用者数の増加の理由が理解できた。今後、更なる障害者雇用の定着、促進に期待したい。