土と自然に触れあいながら自立を目指す
- 事業所名
- タマアグリ株式会社
(法人番号: 1290001047952) - 業種
- 農・林・漁業
- 所在地
- 福岡県筑後市
- 事業内容
- ・農作物の生産、加工、販売に関する事業
・印刷物の印刷、仕分け、発送代行及び出版に関する事業
・製材仕入販売事業、物販事業 ほか
- 従業員数
- 31名
- うち障害者数
- 19名
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障害 人数 従事業務 肢体不自由 2名 農場作業 知的障害 14名 農場作業 精神障害 2名 農場作業 発達障害 1名 名刺印刷作業 - その他
- 特例子会社
- 本事例の対象となる障害
- 精神障害、発達障害
- 目次
-
事業所外観
1. 会社の概要について
タマアグリ株式会社(以下「タマアグリ」という。)は平成21(2009)年6月に親会社であるタマホーム株式会社の特例子会社として創業した。みんなで明るく、楽しく、土や自然に触れ合いながらできる仕事が最適である。農業を通じて地域貢献をしたいという思いで農業を主事業としている。農業が直面する課題である耕作放棄地の全国的な増加や農業就労人口の高齢化に伴う担い手の減少など、農業の直面する課題に少しでも歯止めをかけたいとの思いで事業を始めた。また、企業の社会的責任を果たしたいとの思いもあり、障害者雇用と地域農業の保全と活性化に役立てばとの強い理念に基づき農業を主事業として取り組んでいる。
タマアグリの農業用地は全て、地域の耕作放棄地を借り入れたもので、ハウスではアスパラを、水耕栽培ではレタス、スプラウトにんにくなどを生産し、露地ではタマネギ、レタス、ニンニクなどを作っている。地域の食の安全・安心と農業の担い手不足へ貢献をしている。現在のタマアグリの社長の野田忠氏(以下「野田社長」という。)は、タマアグリが設立の翌年(平成22年)に新規業務として立ち上げた印刷事業の担当者として、親会社から出向して来た。そして、平成31(2019)年4月からは5代目社長として、タマアグリの舵取りを担っている。親会社では支社勤務を担当していたとのことで、農業経験はなかったが地域の農家の皆さんの応援を受けながら障害のある従業員と一緒に取り組む農園運営を行っている。経営理念として「タマホームグループとして、人と人の出会いとつながりを大切にし、社会の福祉と発展に貢献する」とある。
本稿の作成にあたり、筆者は野田社長をはじめとするタマアグリの皆さんからお話を伺い、実際に働く様子を拝見した。そして、タマアグリが特例子会社として、親会社発祥の地で地域社会の課題解決と、経営理念の実現に取り組み、社会の発展に貢献している姿を素晴らしいと感じた。
2. 障害者雇用の経緯、背景
タマアグリは、親会社創業の地でもある福岡県筑後市に障害者の就労場所を確保したいとの思いもあり、筑後市を設立場所として創業した。創業にあたっては、地元行政機関と障害者の求職状況や事業内容などに関する相談を行い、農作物の生産、加工、販売を行うことで地域の活性化及び障害者の雇用促進と自立に寄与することができるとの思いから、設立と同時に農業を開始した。設立時には1期生として6名の障害者を採用し、その後も継続的に採用を続けた。現在では、従業員31名のうち障害のある従業員が19名となっており、農作業を中心に日々生産活動を行っている。
会社の収益面では、農産物の生産だけでの収益確保は難しく、親会社からの支援として業務委託を受けている。受託した住宅用製材仕入販売事業を行いながら、将来は農産物の生産による収益確保を目指している。
農業に関する知識や経験者が乏しい中でスタートしたが、地元の農家の方々の指導を受けながら農作物の生産を開始した。
当初は、農業に関する知識不足と障害のある従業員への理解不足の二つの大きな課題と直面することとなったが、地域の関係者の協力を得るなかで課題の解決を図っていった。農業については農家の方々の支えが大きかったそうである。また、障害のある従業員の育成や定着については、障害者の就労支援機関の支援が大きかったとのことである。
障害者雇用を進める際には色々と課題が生ずることがあるが、タマアグリでは地域の関係者・関係機関と連携しながら進めることで、解決につながったと感じた。
3. 障害者の従事業務と職場配置
(1)農業部門
農業部門には、18名の障害のある従業員が働いている。筆者が取材で訪問した際は、レタスを収穫した後にニンニクの植え付け作業を行っていた。トラクターで畑を耕し、マルチシートを施し、その後にニンニクを植える作業である。農業部門の責任者である係長の野間口雄一氏(以下「野間口係長」という。)に農園を案内していただいた。ハウス内では、アスパラの収穫が続いていた。11月初旬までは毎日午前中の収穫作業が忙しいとのことで、全員で作業を行っている。午後は、収穫が終わった畑の耕しや草刈り、苗づくりなど作業が途切れることのないように予定が組まれている。
取材時には野間口係長が障害のある従業員に作業指導を行う場面を拝見したが、野間口係長のコミュニケーション方法を見て素晴らしいと思った。作業指導では言葉は少なく、自ら作業をして見せる方法をとっている。言葉で伝えるのではなく、実際の動作で伝えたうえで最後にポイントとなることを言葉で伝えることで、その場の雰囲気も穏やかで指導された従業員も分かりやすいようであった。
こうした方法をとることになった経緯について野間口係長に尋ねたところ、障害のある方に接するのは現在の会社に入社してからとのことで、障害のある従業員と一緒に働くなかで培ってきた方法であるとのことであった。農業についての経験も初めてで、どちらもゼロからのスタートでここまで来たとのことであった。そして、野間口係長は、「障害者が農業に従事することは、非常に良い効果もあるようです。太陽を浴びることで精神の安定や睡眠に良い影響を及ぼしているように感じています。」と、太陽を浴びて仕事をすることの良さも語ってくれた。障害のある従業員との接し方や農産物の生産も特別の経験がなくても、実体験を繰り返すことで、障害者への理解と指導のノウハウ、農業の知識などを身につけられたようである。
ハウスのアスパラ部門には、精神障害のあるAさんが責任者として働いており、直接お話を伺った。タマアグリ創業開始時から働いているとのことで、野間口係長によると、今ではアスパラ栽培のスペシャリストでもあるそうで、お話の途中でもアスパラの生育が気になるようであった。
障害との付き合いかたについても、ご本人はご自身の障害(苦手なことや対処法など)と体調管理の重要性についても十分認識をしているようで、真面目過ぎることが体調にも良くないことだと自覚をされていた。採用時は契約社員であったが、現在は正社員に登用され責任も感じるが給与面も安定し、やりがいもあり、今後は若い人の育成に力を入れたいと語ってくれた。会社の印象を聞くと働きやすい会社であると語ってくれた。Aさんはタマアグリへ入社する前に3回の離職を経験されたとのことで、前の会社では障害者への理解が乏しく、体調不良で休むような際には罵声を浴びることもあったが、タマアグリでは、従業員が体調不良の時は無理をすることなく働くことを会社も従業員も認めているそうである。
障害のある従業員を会社全体で理解し、長く働き続けるために無理をさせないことを職場全体で意識していることを感じた。
また、農業部門では繁忙期と閑散期で勤務時間の調整や、障害のある従業員の体調に配慮した勤務時間の調整を行っている。野菜の収穫時期には、早朝の収穫が増えるため、早朝からの勤務などフレキシブルな勤務体系となっている。
(2)印刷部門
タマアグリには農業部門とは別に、印刷事業部がある。親会社の印刷物として営業用のチラシや名刺を印刷している。印刷部門は次に紹介するBさんを含めて4名体制で業務を行っている。
発達障害のあるBさんは入社8年目となり印刷部門の名刺作成の仕事を一人で行うことができる。
入社当初は、農業部門が忙しい時は、半日は農業部門で仕事をし、残りの半日は印刷部門での仕事を行い、肉体的にも精神的にも疲れることが多くあったようだ。現在は、印刷部門の業務量が十分にあり、農業部門へ応援に出かけることはなくなった。印刷部門では、入社時は3名で分業していた名刺作成作業を、現在は、一人で自己完結の作業体制となっている。作業を一人で完結することができるようになり、達成感や責任感も増したようだ。昼休みなどは、一人で隣接地にあるモデルハウスの中で休むことで体調管理を行っているとのことで、昼休みの昼寝が楽しみでもあるとのことである。
印刷部門の責任者である係長の劉氏は、Bさんの良き理解者でもあり、業務上の品質チェックや体調など日々配慮し、自己完結作業であっても最終出荷物はダブルチェック体制で間違い防止を図ることで顧客への品質保証を徹底している。
全てにおいてチームでの業務遂行を大切にしようとする姿勢が強く感じられる職場であった。
4. 取組の内容と効果
(1)社会人としての成長を目指した取組
設立当初の障害者の採用は、ハローワークへ求人票を提出し、面接選考を経て採用を行った。しかし、障害者と接した経験が少ないことから、採用にあたって確認すべきことや応募者に説明すべきことに不足があり、採用のトラブルとなることもあった。障害のある従業員の配属先では、障害特性や特性に応じた指導法などが分からず、腫れ物に触るように接したことで、十分な役割を果たせなかったり、社会人としての意識・自覚が不十分な場合があったそうである。
現在は、当時の失敗を活かし、会社として求めること、社会人として最低限必要なことを見える化し、日々伝えている。以下の五つが見える化したものであり、従業員が見やすい場所に掲示し、折に触れて指導している。
1.挨拶を徹底しよう
2.整理整頓
3.報告・連絡・相談
4.職場内のルールの徹底
5.明るく楽しく仕事をしよう
設立当初は障害があるからこれはできないだろうと考えて指導しないこともあったが、色々な経験を重ねるなかで、最初からはできないだろうと考えることは間違っていたと現在は考えているとのことである。
会社が求めることは最初から伝え、理解させるためにはどうすればよいかの工夫が必要であるとタマアグリでは考えている。伝えてもできないことも、あきらめるのではなく、どのように伝えて理解させるのかが重要である。管理者など指導する側が我慢強く伝え方を工夫し、障害のある従業員もそれに応えることで、両者とも成長しているとのことである。
(2)農業部門での取組
農業部門では、作業の正確性と品質管理の観点から、障害の有無に関係なく全員が作業を間違いなく、楽にできる工夫を行っている。
アスパラ収穫では、収穫可能な長さが一目で分かる基準棒(ゲージ)を作り、ゲージをあてることで収穫するかの判断が簡単にできるようにしている。ゲージも最初は、ハサミと別々にしていたが、ゲージを取る手間を省くために、ハサミと合体させている。また、良品と不良品の選別作業では、選別基準となる写真などを作成し、迷うことを防いでいる。
作業手順や判断ポイントを詳しく覚えるのではなく、基準となるモノを使うことで迷うことなく作業ができるように改善している。小さな改善の積み重ねが障害のある従業員を含む作業者全員が楽に作業ができることへと結びついている。
作業手順について、当初は言葉で伝えることが多かったようであるが、現在は、言葉を少なくし、作業が分かる道具を増やすことに注力しているとのことである。
農業も日々進化をしているそうで、作業方法も変わっているようである。
露地栽培では、マルチシートを使い雑草の抑止を図っている。ニンニク畑では、マルチシートに最初から穴が開けられていて、その穴にニンニクの種を植え付けていた。シートへの穴あけ作業も不要となり、作業能率が向上している。
アスパラ収穫用長さゲージ付ハサミ
アスパラ選別基準の見本写真
野間口係長
隣の畑では、トラクターでレタス畑を耕していたが、運転席が全面ガラス張で空調も付いており、快適な農作業ができるトラクターが活躍していた。タマアグリの従業員の皆さんが、太陽の下で、進化した農機具を使い、野菜の生育を楽しみながら生き生きと働いている姿を見ることができた。
農作業は苦労が多いと思われがちであるが、実際の農作業はそれ以上に楽しみがあることが分かった。
筆者は、障害者を雇用している企業の方から、障害のある従業員の加齢に伴う業務の確保などが課題であると聞くことがあるが、タマアグリでは障害のある従業員の状況に応じて、柔軟な体制を取り、工夫することで働き続けることができている。障害のある従業員に農業の魅力を伝える管理者と職場の雰囲気が相まって、障害のある従業員の就労意欲と定着率の向上につながっている。
5. 今後の展望と課題
タマアグリの現在の借地面積は31,756㎡と広大な畑を有し、今後も障害のある従業員の増員を図りたいと野田社長は語る。
また、タマアグリに出向するまでは、障害者との関わりを持つことはなかったが、ここでは、障害のある従業員と一緒に働くことで、多くの気付きを得ることができたとも語る。
広々とした畑で野田社長は今日も障害のある従業員と一緒に農業に励んでいる。そして、タマアグリでは付加価値の高い農産物を育て、企業としての収益向上と障害のある従業員の自立を目指している。
そして、取材の最後に野田社長は、「私たち(タマアグリ)の農業は、広い畑を相手に明るく楽しく土や自然に触れながらできる仕事であり、人間らしく働ける場である。人間らしく働くところにこそ本当の障害者雇用の現場がある。」と胸を張る。
タマアグリでは長年の試行錯誤により現在では一定の収穫ができるようになり、生産性も向上している。農業の機械化も進んでいるので、新しい機械を障害のある従業員が使いこなし、一人ひとりが農業の魅力をさらに感じることができることを筆者は期待したい。そして、近い将来にタマアグリの野菜は、この地域でのブランド品になるのかもしれないと思いつつ、タマアグリの取組に尊敬の念を抱き取材を終えた。執筆者:公益社団法人全国障害者雇用事業所協会
福岡相談コーナー 西村和芳
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