本事例の事業所（以下「事業所」という。）へは普通科高校を卒業後すぐの入社。在学中に数社の採用試験を受験し、学力ではいずれも合格点に達していたが、苦手の面接で不採用を繰り返した。担任の先生の紹介で事業所を受験。面接には担任の先生、家族も同席し、対象者の障害特性や配慮事項を伝え、事業所からは丁寧に作業内容や労働条件を説明した。

採用試験に併せ、時間をかけて職場見学を行い、業務や職場について具体的に理解できる機会を設けた。面接や見学を踏まえ、対象者の特性を十分に生かせる職務内容をお互いに検討した。

短時間勤務から始め、対象者の適性を確認しながら配属先を決定した。

・社歴13年のAさんを支援担当者（以下「支援担当者」という。）とし、日頃の作業指導を任せた。入社直後には人事責任者（総務部門）から対象者に基本的な会社のルール等の説明が行われ、勤務がスタートした。支援担当者は、対象者に応じた指示の出し方、接し方等について人事責任者からの指導を受けながら、対象者の意向、体力等を確認しつつ、担当業務の指導を行った。また、指示通りにできるようになると、その結果を対象者にフィードバックすることにより、本人の自信につなげている。
・支援担当者、所属長、人事責任者で情報共有しながら支援体制を構築している。日頃の相談は、人事責任者が定期的に面談を行っているが、自分の思いを上手に表現できないことや、面談の内容を家族へ正確に伝えられないことが多々あったため、連絡帳を使って家族とコミュニケーションを取りながら、会社の様子や家庭での様子を情報共有し、定着支援を行っている。

・変化による不安を軽減するために、作業時間や作業内容をあらかじめ確定し伝えるようにしている。
また、一度に複数の指示を出すと優先順位が分からなくなるため、一つずつ出すようにしている。
・分からないことなどがあっても、周りの人に上手く質問や相談ができなかったり、他者からの言葉を読み取ることが苦手のため、仕様書や手順書をそれまでの文字中心のものから写真中心に変更することで、対象者は容易に理解することが可能となり、安心して仕事に集中できるようになった（下の図は変更した仕様書の例）。
・職場の支援担当者にその日の体調を知らせるサインとして社服の肩に色付きのクリップ（例．良好な時は黄色、不安な時は青）を付けることとしている。これにより周囲は体調等を理解し、必要な配慮をしている。また、クリップの色は対象者自身が選んでおり、自分で体調管理ができることも目指している。

作業仕様書の例

・対象者と家族は当初フルタイム勤務を希望していたが、身体的・精神的な疲れやストレスを溜めないことを第一に、対象者・学校・事業所が相談して4時間勤務からスタートした。現在では職場に慣れて6時間勤務になっている。なお、遠方からの電車通勤のため、勤務終了時間も帰りの電車の時間に合わせるよう配慮している。
・定期的に通院しているが、その際には有給休暇を利用している。職場でも通院の必要性を理解し、配慮している。

機械等の音がない倉庫内での出荷・検査作業であり、少人数の静かな環境の中で、落ち着いて作業ができるように配慮している。

人事責任者が支援担当者及び所属長に対象者の障害特性や配慮することなど説明している。また、日頃作業指導を行う支援担当者には、対象者の得意なこと、苦手なこと、職場での暗黙のルールや接し方など細かく指導が行われている。

人事責任者が窓口となり、家族と連絡帳等を使い、職場での様子、家庭での様子、体調等を確認し安定した就労ができるよう配慮している。