本事例の事業所（以下「事業所」という。）が障害者を雇用したきっかけは、以前に採用担当者が民間団体主催の障害者雇用に関する勉強会に出席したことで、5年前に初めて採用した。
令和5年にも新たに採用することとし、ハローワークへ求人を提出し、紹介された対象者との面接を実施した。面接に際しては、上記勉強会の講師であった支援機関の職員からアドバイスをもらいながら、対象者を採用するに至った。

対象者を採用するに当たり、面接で障害の内容や特性、配慮事項等を確認した。
対象者は前職の経験として小売業に5年ほど勤務しており、そこでの接客はマニュアルどおりであれば問題なかったが、マニュアルにないケースだとうまく対応ができず、日々つらい思いをしていたとのことであった。

・以前に障害のある従業員を担当し、苦慮しながら対応した経験のある従業員を担当者（以下「担当者」という。）として選任した。
・対象者はマルチタスクが苦手で、複数の作業を整理し、順序立てして実施していくことが困難であったため、担当者が作業の割り当て順位を決めて、ひとつずつ対象者に指示している。また、複数の作業をまとめて指示する場合には、作業の優先順位を示して、ひとつの作業が終了してから次の仕事に移るようにしている。
なお、対象者はパソコンのスキルが高いため、パソコンを使用する作業を優先して行うようにも指示を出している。
・職場で何かあれば、担当者は対象者の上司（以下「上司」という。）へすぐに報告する体制にしている。また、他の従業員と情報共有が必要なケースでは、すぐにその場で情報共有等を図っている。

対象者の作業は、担当者の作業の一部を担うことからスタートした。そのため、上司は、最初に対象者が理解しやすいマニュアル作りを担当者に指示した。
また、対象者への指示をするのは担当者のみに限定し、複数の人間から指示されて本人が悩んでしまうことが無いように配慮している。

出退勤時刻は対象者も含め全従業員が同じである。しかし、勤務場所については、対象者が前職では障害のあることでのつらい思いをしたことなどから、大勢の従業員がいる事業所の事務所で働くことに多少不安があったため、就業時間の一部をテレワークでの勤務とした。事業所では従業員の多様な働き方の一つとしてテレワークを導入しており、対象者は自宅と勤務地の中間にあるテレワーク用オフィス（以下「オフィス」という。）に週2日程度勤務することとした（テレワーク以外の日は所属部署の事務所に勤務）。オフィスには社会福祉士の資格を有するカウンセラー（以下「カウンセラー」という。）が見守役として常駐しており、対象者の体調変化や相談等に対応している。

カウンセラーは、担当者や上司に対して、対象者に関する状況報告を行うほか、懸案事項等があった場合には対処策等についての専門的なアドバイスを行っている。担当者や上司は報告やアドバイスに基づき、必要な配慮の提供等を行っている。