採用と長期継続雇用にあたって社内調整
ならびに職場定着支援に成功している事例
- 事業所名
- 大久保歯車工業株式会社
(法人番号: 3021001019495) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 神奈川県厚木市
- 事業内容
- 工業用歯車製造業
- 従業員数
- 496名
- うち障害者数
- 10名
-
障害 人数 従事業務 内部障害 1名 事務作業 知的障害 7名 歯車の機械加工、組立、ピッキング作業・部品洗浄作業、CAD操作、書類のスキャン作業、図面・作業票の仕分け、社内検針・点検業務、データ入力 精神障害 2名 組立作業・事務作業、物流倉庫での梱包作業、歯車の機械加工 - その他
- 障害者職業生活相談員
- 本事例の対象となる障害
- 内部障害、知的障害、精神障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
大久保歯車工業株式会社(以下「同社」という。)は、昭和13年の創業以来、歯車関連技術を基盤に様々な工業製品を製造しており、建設機械・大型車両のアクスル(車軸)や減速機、工作機械の工具交換を瞬時に行うATC(オートマチック・ツール・チェンジャー)の開発・製造技術についてはトップクラスの評価を得ている。現在は、国内(神奈川県内)に2工場の生産設備がある。
(2)障害者雇用の経緯
同社の障害者雇用の状況は、平成25(2013)年時点の障害のある社員の数が法定雇用率に基づいて雇用すべき数を5名下回っており、所轄ハローワークの調査を契機に、総務部(現:経営企画室)が中心となって継続的な障害者雇用に取り組むことを目指した。
どのような形態であれば障害者雇用ができるかについて、社内で検討したところ、安全面、生産効率などの観点から障害のある社員を1か所に集めて仕事を行う形態は困難であると判断し、様々な職場に配属する形態で進めることとした。そして、総務部が中心となって各職場への障害特性に関する説明などを通じて障害者雇用への理解促進を図り、雇用することを前提に調整を進めた。
当初は、「なぜ障害者を雇用する必要があるのか」「どのように働いてもらうのか」という声もあり、社内の理解を得ることに苦労があったが、障害者雇用の社会的意義や同社ならではの雇用の実現を何度も議論し、「会社として決意を持って取り組もう」と役員からの声もあり、社内のコンセンサスが得られ、具体的に進めていくこととなった。
まずは、どのような障害特性があり、どのような配慮をすれば雇用できるかを学ぶため、近隣の特別支援学校(以下「支援学校」という。)や、先進的に障害者雇用に取り組んでいる企業、就労移行支援事業所(以下「支援事業所」という。)などを訪問し、情報収集などを行った。学んだことは社内各職場に伝え、全社的な理解の促進を図った。
次に採用活動を始めるにあたり、過去に支援学校から知的障害のある方の職場実習を受け入れていた経験もあり、知的障害のある方の採用を中心に行うこととした。また、通勤面や仕事に慣れていただくことを第一目標として、一日6時間以上の勤務時間を目指して採用活動を開始した。また、障害のある社員の従事業務の切り出し、指導方法などについても検討・工夫を進めた。
具体的な取組については、「3.取組の内容と効果」で紹介するが、そうした取組により障害者雇用は進み、現在、法定雇用率は達成している。
2. 障害者の従事業務と職場配置
現在10名の障害のある社員の所属、障害状況、従事業務は以下のとおりである。
・管理部2名(精神障害1名、身体(内部)障害1名):物流倉庫での梱包作業、事務作業
・総務部1名(知的障害):社内検針点検業務、廃棄物関係の取りまとめ、データ入力
・開発部1名(知的障害):CADを用いた設計変更業務、図面のスキャン作業
・製造部6名(精神障害1名、知的障害5名):歯車の機械加工、組立作業、ピッキング作業、部品洗浄作業
3. 取組の内容と効果
(1)取組の内容
ア.業務の切り出し
支援学校や支援事業所の見学などから得た情報を踏まえて、社内での業務切り出し作業を行ったが、どうしても「障害のある方にやってもらうこと」として聞き取りをすると簡易・軽作業に偏ってしまい、業務量の確保が難しかった。そこで、「障害者ができる作業」という視点ではなく、日常業務のなかで、「誰かに任せたい」「誰かの手を借りたい」と純粋に感じている作業を各職場から聞き取ることから始めた。聞き取った内容は、ハローワーク、支援施設などからのアドバイスを受けながら整理し、41項目・70程度の作業を切り出すことができた。下表は切り出した作業を一覧にしたものである。
「仕事の切り出し表」
イ.採用・募集
採用・募集については、ハローワークでの公募、県内の支援学校、高等学校、訓練施設、関係者の紹介などを通じて行っている。支援学校・高等学校からの採用は新規学卒者の採用日程と同じである。支援事業所などについては随時行っているが、支援事業所などの協力を得て、3~6か月間の職場実習(以下「実習」という。)を経て採用することも多い。支援学校の生徒についても在学中に実習を行ってから採用する場合が多い。
募集活動で学校などを訪問した際に、作成した「仕事の切り出し表」を持参して説明すると、担当者の方からは具体的な作業の様子がイメージしやすく、作業特性に合った就労希望者とのマッチングがしやすくなるととても喜ばれた。
採用については、障害別(身体障害、知的障害、精神障害)に整理し、対応している。
具体的には、①募集(募集対象機関や説明資料など)、②採用方法(実習の検討)、③試験内容(筆記、面接)、④面接官への事前教育、⑤採用判断基準に基づいた判定、⑥採用の決定、⑦配属方法(入社前職場教育)、⑧定着支援(採用後の配慮、指導方法など)の8項目について、対応している。
また、採用時の労働条件や将来などについても分かりやすいかたちで関係機関や応募者に伝えている。詳しくは以下のとおりである。①実習を行った者の配属職場、担当業務は、実習段階からいくつかの現場を設定し、本人の希望や実習状況を踏まえて決める。
②週30時間以上の就労を目指す。
③雇用契約は有期契約からスタートするが、契約更新時には職場定着の状況や技能の習得度合いに応じ勤務時間の延長や正社員へ
の登用を検討する。ウ.就業環境の調整
同社では障害のある社員が働きやすい環境の実現に向けた調整・支援も重視している。
総務部では配属職場で障害のある社員への支援・指導を担当する従業員(以下「支援者」という。)との相談、障害特性などに応じた支援などに関する援助(助言など)を実施している。
障害のある社員を職場へ配属するにあたり、総務部では、まず本人の安全が確保できること、次に作業内容、就業時間内の仕事量があるかを職場も交えて確認する。
また、職場の上司、同僚に対して障害者雇用についての啓発と、支援者を選定し支援の仕方等を助言しながら教育を行っている。その後、「受入職場事前チェックシート」(以下「チェックシート」という。)を用いてハード面、ソフト面での受け入れ体制について確認している。
チェックシートは、作業場所、作業内容、標準書、支援者、職場内啓発活動、緊急対応、実作業確認の7項目について、各項目の着眼点(判断項目)により各職場の状況を整理し、受け入れ体制が整っているかどうかを確認するもので、実際の記入(活用)例は下のとおりである。
チェックシートの記入例
また、職場によってはもともとあった「手順書」を参照しやすく掲示するほか、職場主体で考え、「組立作業手順書」を作成し、図と説明で逐次確認事項をチェックしながら作業を進められるよう工夫している。エ.定着支援
総務部には障害者職業生活相談員(以下「相談員」という。)と職場適応援助者(企業在籍型ジョブコーチ)(以下「ジョブコーチ」という。)が配属され、職場定着に向けた支援を行っている。
障害のある社員については、定期的な面談を通じて支援している。また、日々の体調や就労について「作業日誌」を活用して把握するとともに、本人、家庭、企業をつなぐツールとして活用し、フォローアップに役立てている。家庭からは職場での様子がわかってよかったという声があったり、逆に家庭から連絡で本人が寝不足気味であるなどの様子を確認し、職場での対応に活かしている。関係者がタイムリーに状況や課題の共有ができるところが作業日誌の利点である。
職場定着については、職場についての家庭の理解と協力が重要と同社は考えている。そのため、理解を深めていただくことを目的に、ご家族の方を職場見学にお招きし、働いている様子をご覧いただく機会も設けている。
また、職場定着については、関係機関との連携・協力も必要と考えている。
何らかの職場定着上の課題が生じ、職場と家庭だけでは対応が困難な場合には、支援機関や出身校などの担当者と、相談員やジョブコーチなどが相談しながら取り組むことで解決につながることもある。そのため、支援機関などとも定期的な面談を実施している。
そして、定着については障害のある社員のスキルアップとキャリアアップも重要である。一人ひとりに応じた目標設定を行い、スキルアップとキャリアアップのプランを策定し、実現に向けた指導・育成を行い、本人の自信と意欲の向上につなげることを目指している。そうした取組は、雇用契約の長期化、正社員への登用など、労働条件の改善にもつながると考えている。
(2)個別の取組事例
ア. 感覚過敏を有する社員への配慮事例
歯車加工に従事する知的障害のある社員Aさんの事例。
Aさんは優れた五感を持ち、製造現場で加工中の異音に気づきすぐに上司に報告し対応したことで不良品製造を未然に防いだことが評価され、社内表彰を受賞した実績を持つ。
入社2年目までは、感覚の過敏さや工場内の暑さなどにより体調を崩し、有給休暇を使い果たすほど休みがちになってしまった。そこで、Aさんと職場、総務部が相談し、汗を吸って涼しくなるアンダーウェアを着用するようにしたことで暑さが和らぎ、体調が安定し業務継続が可能となった。
また、製造現場の騒音の悪影響を防ぐため耳栓の着用が義務化されたところ、Aさんは違和感を強く感じてしまい、作業能率が低下したことがあった。その際には、本人が通勤時に使用しているヘッドフォンから類推し、代替品を探し、イヤーマフを用意し着用したところ安定した作業ができるようになった。
イ. 集中しすぎて体力の消耗が激しくなってしまう社員に対する配慮事例
開発部で設計を担当する知的障害のあるBさんの事例。
Bさんは開発部での設計、CAD作業及び図面のスキャンを担当し、入社までに培ったパソコンスキルと本人の関心がある自動車部品に関する業務がマッチし着実にスキルアップをすることができた。その結果が評価され、当初はパート社員であったところを正社員に登用、現在活躍中である。
しかし、自身の興味のある分野や得意分野には集中しすぎて疲れて、帰宅後ずっと寝てしまうような状況であった。そうした状況を家族との面談で確認した総務部では、職場へも伝えることで配慮をお願いすることとした。
具体的には、「Bさんは、集中しすぎて疲れる傾向があるため、時々休憩をとるように上司から声掛けをするなどの配慮を行う」を職場に伝えるなど、総務部と職場が連携して対応した。そうした配慮によりBさんはメリハリを持って就業ができている。
ウ.不安になりやすく必要以上に確認作業を行う社員に対する配慮事例
歯車の機械加工を担当する精神障害のあるCさんの事例。
Cさんは歯車の機械加工を担当しているが、障害の特性上、ちょっとしたことで不安を抱えることが多く、数回の確認(チェック)で良いところを何十回も確認するということがあり、作業効率に課題があった。そこで、以下の対応をとることとした。
①Cさんの近くにベテラン社員を配置して、不安なときはいつでも確認できる体制とした。
②任せる機械が複数台であったのを1台に限定することで、作業の種類・チェックポイントを少なくした。
③Cさんが精神的に安心して働けるように次工程や品質保証部を見学することで、本人が万が一ミスなどを見逃してしまった場合
でも、会社としてチェックすること(不良品の発生防止)ができることを伝えた。
そうした配慮によりCさんが不安を感じることや必要以上の確認は減り、精神面での安定と効率面での向上につながった。
エ.全社員に対する安全衛生の配付物への配慮事例
安全意識向上のため、週1回「安全通信」を全社員に向けて発行している。
以前は、漢字にふりがななどは無かったが、社員の多様性が進むなかで下記のような変化(配慮)が見られるようになった。
障害のある社員や外国人技能実習生などが理解しやすいように、漢字にはふりがなをつけ、平明な表現にして作成、配付するようになった。
4. 今後の展望と課題
同社では今後の課題は、大きく2点あると考えている。
1点目は継続的な採用という課題である。現在は採用できた方の定着支援に注力しているが、採用計画を新たに策定し、コンスタントに新規採用をしていきたいと考えている。採用にあたっては、本人と職場・仕事とのマッチングが大事であるため、「仕事の切り出し表」を見直し、刻々と変わる情勢に対応して変化する社内の状況に合った最新のものへと前向きに流動的に対応していきたいとしている。
2点目は、社内の雇用制度の体系整備(スキルアップやキャリアアップなどの整備)についてである。具体的にどのようなスキルアップを図っていくのか、正社員登用はどの段階で行うか、といった課題である。本人が正社員登用を望まない場合もありうるので、その場合どのように折り合いをつけていくのかなど、採用人数が増えたことによりそれぞれの事情がある中で雇用体系の整備を検討している。
障害のある社員の成長と定着のためには、一人ひとりの状況を確認するため、作業日誌などのツールや、実際に足を運んでの面談などを活用しながら定着を支援し、本人と職場そして会社組織がお互い高めあえるようなキャリアプランを策定し、多様な障害者雇用に取り組んでいくことが必要だと捉えている。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
神奈川支部 高齢・障害者業務課
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