京都府北部の自然豊かな綾部市に本社を置く日東精工株式会社（以下「日東精工」という。）は、“誠実を基とし内外に信用を獲得し地方の発展に寄与すること”という経営理念のもと誕生した。その理念の実践として、子会社である日東精工SWIMMY株式会社（「以下「当社」という。）は、障がい者に配慮した会社として令和元（2019）年に設立された。令和2（2020）年１月17日付けで特例子会社として認定され、同年5月11日付けで京都府より「京都はあとふる企業」（京都府障害者雇用推進企業）として認証され、令和5（2023）年2月1日付けで厚生労働大臣より「もにす認定制度」の認定を受けた。

(1)社名の由来

社名の「SWIMMY」は、絵本「スイミー」（レオ・レオニ作）の、みんなで力を合わせて大きな成果へと結びつけるお話から名付けている。絵本のように、みんなが主役、みんなで支えあう、そういうチーム作りを目指している。

(2)日東精工グループが障がい者雇用で目指すところ

・障がい者が喜びを感じて一歩一歩成長していく職場を提供する

・障がい者が安心して能力を発揮できる環境を提供する

・地域の障がい者雇用に貢献する

(3)経営理念

一人ひとりの個性の単純な足し算に留まらない創造的な成果を生み出し、日東精工グループの一員として、感謝の心で社会に貢献する。

(4)行動指針

・私たちは、「感謝の心」で社会に貢献します。

・私たちは、一人ひとりの個性を尊重し、親和協力して仕事をします。

・私たちは、積極的に、自主的に行動し、清掃・清潔・挨拶で、明るい職場を作ります。

　親会社である日東精工では古くから障がい者雇用を行ってきたが、法定雇用率の引上げと障がいのある従業員の定年などによる退職が重なり、法定雇用率を満たせない状況になっていた。また、新たに障がい者を雇用しても、配属後のフォローができずに現場任せになってしまっているという課題があった。そのため、令和元年に特例子会社設立のプロジェクトを立ち上げ、子会社（当社）を設立し、以下の体制で操業を開始した。

(1)創業時の体制

従業員7名、役員1名の8名体制でスタート。従業員の内訳は以下のとおり。

・親会社からの転籍者　4名（身体障がい1名、精神障がい1名、知的障がい1名、発達障がい1名）

・新規雇用者　2名（身体障がい1名　知的障がい1名）

　・指導役の従業員　1名（親会社からの出向）

（以下、当社の指導役以外の障がいのある従業員を「従業員」という。）

(2)実雇用率の推移

日東精工における近年の障がい者実雇用の推移は下表のとおりであり、当社設立以降、障がい者雇用は着実に増えている。

　現在、当社の仕事（業務）には日東精工グループ内の仕事とグループ外の仕事があり、具体的には以下のとおり。
(1)グループ内の仕事

・文書電子化　・保管文書のスキャニング　・データ入力作業　・印刷　

・名刺作成　・社内便の集配　・荷受け　郵便発送　・機密文書のシュレッダー

・ポリ箱の修正　・金属製品の面取り作業　・箱の組立　・美化作業　

・公用車の洗車　・グループ内の障がい者雇用相談窓口
(2)グループ外の仕事

・封入、封緘、発送の作業　・農業支援　

・セミナーへの講師派遣

　当社は設立4年目になるが、これまでに様々な事象や課題が生じ、試行錯誤しながら取り組んできた。これまでの3年間の状況や取組について以下に紹介する。　

（1）1年目（2020年）

～就労準備性や障がい特性への理解、マッチングの重要性を実感した1年～

特例子会社であるため、障がいのある従業員が多いことや、障がい特性も様々であることなどがあってか、以下のような事象が発生した。

①  外部支援機関の支援を拒む　

当社では必要な場合には外部支援機関と協力し、従業員への働きかけなどを行うこととしていたが、従業員の中には支援機関の関わりを拒む方がいた。

②  指導に従わない

上司や先輩の指導・助言を受け入れられず、感情的に反発するようなことがあった。

③  ルールを守らない

職場のルールや作業手順などについて、自分のやり方にこだわり、順守しないことがあった。

④  確認できていない特性があとで判明した

採用後に把握された障がい特性などへの対応が分からず、職場として苦慮した。

⑤  スキルと作業がマッチングしない

ある従業員は特定分野での高いスキルがあったが、当社にある作業が単調であるためそのスキルを活かせず、本人も悩んでいた。

①から③は従業員の「就労準備性」（職業人として基本的に必要とされる就労への理解と意欲、職場のルールや上司の指示の順守意識など）に関する課題と考えた。そこで、当社としては改めて、「就労準備性の重要性」、「当社の経営理念」、「当社が従業員に求める人財像」、「支援機関の支援の重要性」について従業員に伝えた。伝える際には、会議や研修会だけでなく、日常の業務を通じて十分な時間をかけた。

④については、障がい特性などに関する理解と対応が必要と考え、京都障害者雇用企業サポートセンターの実践アドバイザー、ハローワークや障害者就業・生活支援センター（以下「支援センター」という。）の職員からの助言などの支援を受けながら、従業員の指導などに取り組んだ。

こうした取組の結果、従業員の就労準備性は向上するとともに、①～③のような事象は減少し、仕事のパフォーマンスも一定程度改善した。

しかし、残念ながら1年目にして2名が退社となった。

こうした経験を踏まえ、当社ではこの時、従業員採用の判断基準を明確に定めた。

＜定めた採用判断基準＞

ア．当社で継続的、長期的な雇用を希望する者

イ．以下の条件に合致している者

　 a．就労準備性が備わっている

　 b．本人、家族が障がい特性を理解し、対処法を学んでいる

　 c．健康管理ができている

　 d．採用後、各外部支援機関に登録が可能であること

ウ．仕事に関する当社の評価、諸注意を受け入れ、改善していく意思がある

エ．当社が必要と定めた場合には支援機関の支援を受け入れる意思がある

⑤の従業員については、親会社である日東精工と調整し、日東精工に転籍、今ではスキルを活かせる仕事で活躍している。転籍にあたっては、スキルを活かせる仕事の開拓、開拓した仕事（部署）への出向を経るなど、グループ企業であることを活かした取組を行った。

（2）2年目（2021年）

　～従業員の雇用の安定と次へのステップ　「もにす認定制度」の基準を目指そう！～

1年目の状況を踏まえ、日東精工グループの中期経営計画において、当社の最終年度のあるべき姿を以下のとおり設定し、目標数値をたてて具体的施策を実行した。また同時に、「10年後、もにす認定の基準を満たせるような企業を目指す」と宣言をした。

＜最終年度（2031年）のあるべき姿＞

①障がい者の特性に配慮した仕事を確保し、職場環境を整備することで、障がい者の持てる力を最大限に発揮し、成長し続けられる職場を提供できている     

②職務や事業の創出で、発注先企業の本来業務の生産性が向上し、利益率向上に役立ち、自社も利益を出せる会社になっている           

　③グループ企業との連携・協力により、障がい者雇用の拡大・定着化（戦力化）を図り、法定雇用率を満たすことで社会的責任を果たせている             

④グループ会社および北部地域にて信頼される会社になっている（企業価値向上）   

＜具体的施策＞

ア　定着支援のための取組強化

・毎月個人面談、外部支援機関の定期個人面談、必要な場合には家族と面談（従業員と上司との意思疎通、従業員の状況把握）

・作業日報改善（体調管理、作業振返り、コミュニケーションツールとしての活用）

・評価表を活用（課題と目標設定）

・KYT活動を従業員で自主運営（リーダーシップ、フォロワーシップの醸成）

・サンクスカード実施（感謝の習慣化）

・パソコン教育の実施（タイピングと基本操作）

イ　従業員の生産性向上に取り組む

・作業手順の改善（ゲージ、道具）　

・スキマ作業の工夫　

・従業員ごとの目標数値設定と見える化

ウ　グループ会社からの仕事だけでなく、外部からの仕事も確保

・綾部市の発送業務受託　

・農業支援参入（京都府中丹広域振興局の仲介）

エ　キャリアアップのため、さらにレベルの高い仕事の切り出し

・グループ会社の生産補助的作業

・グループ会社の女性が担ってきた補助的作業

オ　グループ全体での障がい者雇用の方向性を共有

・当社がグループ内の障がい者雇用推進チーム（障がい者雇用に関する窓口）を担うことを提案。グループ各社の賛同を得て活動開始。

カ　健康経営実施（前年度定期健康診断結果　有所見者率100％）

・歩活（あるかつ）、生活習慣病リスク低減取組、体力測定実施など

　　　　
　　　　　　　　作業（仕事）切り出しのコンセプト

（3）3年目（2022年）

～当社の従業員が社内外で活躍する会社へ（従業員の顔が見える会社へ）～

ア　当社の求める人財像を明確化（評価する基準を改めて提示）
　　

　　　　　 　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　 　　　当社の人財像と評価基準
イ　キャリアマップ作成（成長見える化）と個別育成シート作成（3年後の成りたい姿）

ウ　評価表の改善（自己評価＋会社評価で強みと弱みを知る）

エ　自己啓発のための教育訓練制度導入

オ　昇給の方法検討（モチベーションUP）

カ　納品先への従業員の顔の見える化（従業員の自立）
・作業の組立（優先順位や効率の良い作業の流れ）を自分達で考える
・作業後の品質確認と納品を自分達でする（公用車免許登録で外部への納品も自分達で）
・依頼を受けた作業内容についての不明点を自分達で依頼元へ確認する
・荷受けや電話応対を自分達で積極的にやっていく
・障がいのある従業員2名をリーダーに登用（名刺を持って外出も）
・工場見学の会社説明を自分達で行う

キ　グループ企業内の障がい者雇用相談窓口を当社内に設置

・当社の従業員がグループ内ジョブコーチとして活動

・グループ会社と連携し、知識・経験・支援方法などの情報を共有し、定着を支援

ク　社会貢献

・小学校の人権研修に従業員を講師として派遣

・職場実習や工場見学を積極的に受入れ

　※令和4（2022）年には京都府教育委員会から感謝状をいただいている。

　　 

 　　　　　　　小学校での講師

（4）現在までの取組の概要（令和5年6月時点）

　主な取組を分野別にまとめると次の表のとおりである。

 
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　主な取組の一覧

～日東精工では、これまで取り組んで来たことが芽を出し、成果という花が開く！～

平成30年（2018）年に「障害者雇用基礎セミナー」を日東精工の班長以上の役職者を対象に3工場で実施した。その中で、ある従業員（以下「Ａさん」という。）との接し方に悩んでいた女性班長が質問の手を上げた。セミナーでの質疑を契機に、日東精工では京都障害者雇用企業サポートセンターの実践アドバイザーとの連携、ＳＰＩＳ（WEB日報システム）の導入といった取組につながり、班長が直面していた課題も解決した。そして、Ａさんも職業人として成長し、令和3（2021）年の京都府障がい者雇用優良事業所・勤労者等表彰式において、「優良勤労者」として個人表彰されるなど、今では会社の貴重な戦力となっている。

　また、この取組は様々な多様性を尊重してきた結果、女性ならではの気づきという多様性が功を奏した事例と思っている。

詳しくは、「働く広場2022年12月号」で紹介されているので、以下を参照されたい。

働く広場2022年12月号

　当社の将来に向けての計画として令和3（2021）年に以下を作成している。特例子会社を作った以上、現状のままではその意味が無く、親会社である日東精工との連携を強化してグループ全体で障がい者雇用の推進に取組んでいかなければならないと考えたからである。

　そして現在第3段階であるが計画通りに進んでいる。今後も日東精工とグループ企業と連携・協力しながらグループとしての障がい雇用の推進に貢献してゆくこととしている。

＜SWIMMYの今後の計画（2021年時点）＞
①第1段階（2021年）　　　創業と安定

②第2段階（2022年）　　　補助的作業の集中請負で売上安定

③第3段階（2023年）　　　体制強化とグループの共通業務の請負で売上安定

④第4段階（2024年以降）　さらなる人員増のための新規事業を検討する