「自分らしく働く」を支えるナチュラルサポート
- 事業所名
- 社会福祉法人正和福祉会
(法人番号: 7300005003325) - 業種
- 医療・福祉業、うち除外率設定業種
- 所在地
- 佐賀県武雄市
- 事業内容
- 社会福祉介護・幼保連携認定こども園・児童福祉・障害者福祉事業
- 従業員数
- 167名
- うち障害者数
- 12名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 1名 看護業務 知的障害 8名 介護補助・清掃業務 精神障害 3名 介護、看護業務・清掃業務 - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、知的障害、精神障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
社会福祉法人正和福祉会(以下「同法人」という。)、その始まりは、昭和初期にさかのぼる。同法人の設立母体である寺院では、農繁期に寺の本堂で近所の子どもたちを預かり面倒をみていたそうだ。そうした活動の原点となるのが仏教精神の「慈悲」による、貧困救済と地域貢献である。昭和53(1978)年1月に同法人が設立され、その精神は現在も児童(幼保連携型認定こども園・こども絵本図書館)、高齢者(特別養護老人ホーム・デイサービス・居宅介護支援事業所・在宅介護支援センター・ショートステイサービス・ホームヘルプサービス・ケアハウス・住宅型有料老人ホーム)、障害者(共同生活援助事業所・居宅介護・重度訪問介護)への地域に根差した福祉事業へと引き継がれている。
超高齢社会、地域コミュニティの希薄化、核家族、ジェンダー問題、環境問題など様々な社会問題がある今、本来の「人と人の繋がり」を大切にし、ありのままのその人を受入れ、寄り添い、地域で暮らす全ての人に笑顔と希望があふれるコミュニティづくりを同法人は目指している。
(2)障害者雇用の経緯同法人の創設者は、障害者施設での勤務経験があり、そこで目の当たりにしたのは、閉鎖的な社会で生活する障害者の姿であった。創設者は、誰もが自分らしく、地域コミュニティのなかで共生・協働し信頼関係を築きながら生活できる地域社会を作りたいと考えていた。そのような想いから、地域の中で障害者がありのままに生活し、働くことができる社会を支えることの必要性を感じ、平成11(1999)年の特別養護老人ホームの開所時から、積極的に障害者の雇用に取り組んでいる。
平成17(2005)年には「障害者地域生活支援事業グループホームWarmly ひだまり山荘」(以下「グループホーム」という。)を開所し、障害のある職員の生活の場も提供することで、就業と生活の両面で支えている。また、グループホームから職場への送迎を行うことで、通勤困難な障害者についても採用が可能となり、雇用促進に繋がっている。
2. 障害者の従事業務と職場配置
(1)肢体不自由のある職員 1名
・高齢者施設での看護業務
(2)知的障害のある職員 8名
・高齢者施設などでの介護補助及び清掃業務
(3)精神障害のある職員 3名
・高齢者施設などでの介護、看護業務及び清掃業務
3. 取組の内容と効果
(1)募集・採用
武雄市が主催する「事業所向け障がい者雇用普及啓発セミナー」や就職説明・面接会への参加、特別支援学校からの職場実習の受入れ、社会福祉協議会から寄せられる相談や、障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)との連携などがきっかけで採用に結びついている。
採用計画を立てる際には、ハローワーク、佐賀障害者職業センター(以下「職業センター」という。)、支援センターといった就労支援機関(以下「支援機関」という。)と連携しながら、施設内の業務について障害者が担当可能な作業の創出などを行っている。
また、採用面接においては、支援機関の同席の下、応募者の体調、障害の状況や特性などを確認し、配慮事項の情報共有を行っている。
(2)支援機関との連携
受け入れる施設の職員の体制などを整備するため、職業センターの事業主支援を活用し、リーダークラス(各部署の統括責任者)に対し、障害についての内部研修を実施した。この研修により障害特性への理解、指示の出し方や配慮事項についても理解を深めることができた。
また、現在、同法人で働く障害のある職員の半数が職業センターのジョブコーチ支援制度を活用しており、その時々の状況に応じた個別の支援を得られたことが職場定着の一つの要素となっている。
(3)情報共有のための取組
ア 担当区域とスケジュールの共有
清掃業務は、単独作業が多く担当区域が別れているため、誰がどこでどのような作業を行っているかが把握しにくい面がある。そのため職員がお互いに確認しやすいよう、掲示ボードに情報を集約している。作業に慣れるまでは個々の業務スケジュール表を示し、内容に沿って目標を設定している。一つ一つの作業の進捗や、出勤状況の把握などにも活用されている。
掲示ボードの拡大図1:個人別に色で表示 掲示ボードの拡大図2:表示例
業務スケジュールの内容は、各部署の業務内容を熟知した指導担当者が作成している。作業の様子を注意深く見守り、「できること」、「できないこと」、本人のペースに合わせた(障害特性に応じた)時間配分や業務量を考慮しながら決定し、作業能力の習熟度に応じて内容を変更している。また、障害のある職員が相談しやすいよう指導担当者の変更を行わないことが、着実な作業能力の向上と本人の自信へと繋がっている。イ 一日の振り返り(業務日誌の活用)
障害のある職員は必要に応じて業務日誌(以下「日誌」という。)を作成し、指導担当者などとのコミュニケーションに活用している。日々交わされる日誌には、「今日の目標」、「就業状況」、「健康状態」、「相談」、「今日の反省」、「部署の職員からのコメント」などの項目があり、その人の障害特性によって記述しやすいよう配慮している。
日誌の一部を紹介すると、知的障害のある職員の場合にはあらかじめ選択肢を設定し、作成しやすいようにしている。例えば、就業時のモチベーションについては「前向きに頑張れた」・「頑張れた」・「落ち着きがない」・「やる気をなくした」を、業務内容については「順調にこなせた」・「難しいこともあったがクリアできた」・「難しかった」を、人間関係については「良好」・「うまく話せなかった」を設定し、心境に近いものを丸で囲むようにしている。
相談ニーズの把握については、日誌に「困りごと」や「悩みごと」を記入するほか、掲示ボードを利用して気軽に意思表示ができるように工夫している。就業面に影響する個々の悩みは様々で、業務に関することだけでなく生活面や人間関係が原因となっていることもある。そのため、ふだんの会話の中でのさり気ない相談や、じっくりと耳を傾ける相談など、その内容に応じた形を取ることで、相談のタイミングを逃がさず悩みの本質に触れ、寄り添うことができている。
(4)取組の効果
ア ステップアップ
同法人ではステップアップのための部署異動を随時行っている。異動先や異動時期については、先の取組から本人の様子を見て、業務への意欲の高まりや、他部署でも自信を持って業務ができるかなどから判断している。もちろん、本人の意思を尊重し話し合いで決定するが、業務を見守る指導担当者や人事担当者が協議・検討し、本人にとってベストなタイミングで行い、ステップアップの背中を押してあげている。本人が納得した上で異動を行ったとしても、異動後間もなくして「なぜ慣れない業務をしないといけないのか(うまくできない)」など、不満や不安に対する本人からの相談が増えるが、次第に業務や環境に慣れてくると、その人の新たな能力や魅力が現れ、安定してくる。
イ 知的障害のあるAさんの事例
Aさんは、入職当初から真面目でコツコツと頑張る性格で、着実にステップアップを進めてきた一人である。Aさんの業務は、特別養護老人ホームの食堂、廊下、浴室などの共用スペースの清掃業務からスタートし、現在は、デイサービスの職員と一緒に、食事の配膳や食器洗いのほか、持ち前の手先の器用さを発揮し、入浴時には衣服の着脱の介助や利用者の髪をドライヤーで乾かすなど、身体介助も行っている。人員不足のなか、ほかの職員が多忙で困っている時には、積極的に業務の助けに加わり頼れる存在となっている。筆者が取材で訪れたこの日も、多数のテーブルの食器を手際よく片付け、テーブルを次々と拭き上げていくAさんの姿があった。取材にはAさんの支援を担当した職業センターのジョブコーチが同行した。ジョブコーチが話しかけると、Aさんは柔らかな笑顔で応えてくれた。デイサービスの利用者と接する機会が増えたことで、Aさんは明るくいきいきと働いている。
同法人が思い描く障害者雇用は、障害のある職員とほかの職員が共に在り、誰もがその人らしく働き、歩を進めていくことである。Aさんは単独業務からスタートし、多くの人の中に在って協同する業務へと徐々にステップアップしてきた。Aさんの事例は、本人の努力と周囲の支えが、障害のある職員を法人の主業務を担う存在へと押し上げたものであり、同法人の思いが実現したものである。
ウ 余暇活動
同法人の敷地内には「こども絵本図書館うららの森」が併設されている。この図書館は、子育て支援事業の一環で開設された施設で、認定こども園の園児、放課後児童クラブに通う児童をはじめ、一般の利用者にも開放されている。
グループホームの世話人からの働きかけで、グループホームの入居者向けに、司書による選書で絵本の読みきかせ会が行われている。大変反響が良く、回を重ねるなかで参加者(入居者)のリクエストに応える会に移りつつある。
このような余暇活動を行うなか、Aさんは色々な分野に能力の幅を広げている。Aさんはこの図書館にある折り紙の本で折り紙を独自で学び、佐賀県障がい者文化芸術作品展での入賞を果たすまでとなった。今では放課後児童クラブの児童に折り紙を教え、児童からも親しみを持たれており、将来的には、デイサービス利用者への折り紙の指導係としての役割も期待されている。
エ ナチュラルサポート
Aさんのジョブコーチ支援をはじめ、平成17(2005)年から同法人において幾度も支援を行ってきたジョブコーチは、同法人と共にこれまで行ってきた支援を振り返り、次のように話す。
「ジョブコーチは一定期間、事業所と本人の橋渡し役として支援に加わる。障害のある職員の相談先は、支援機関など外部にも存在するが、働いている実際の日々を支えるのは、あくまでその事業所の職員である。事業所内での支援は、まず障害のある職員を受入れることに始まる。スケジュール表やチェック表の作成では、本人が実力を発揮しやすいよう、試行錯誤を重ね、繰り返し指導を行っていくことになるがうまく運ばない場合もあり、できることを見定めるまでは、かなり根気を要する支援となる。ジョブコーチ支援終了後は、事業所の職員のサポートが職場定着の要となるが、同法人の職員は、ジョブコーチと同等の役割を果たしている。ジョブコーチ支援時に伝えてきたノウハウが、今も同法人が行う支援に反映されており、支援体制もしっかり構築されている。ジョブコーチ支援の最終目的である、職場内でのナチュラルサポートが同法人においては機能しており、職場定着に繋がっているのを感じている。以前に同法人の創設者とはジョブコーチ支援で関わりがあったが、『本人にとっての適材適所が必ずある』と確信を持って障害者雇用に向き合う方だった。」
同法人が時代と共に成長し、施設や職員が増え変化を遂げても、創設者の思いは今も継承されていると筆者は感じた。
オ 知的障害のあるBさんの事例
同法人の着実な職場定着への取組の結果、現在勤務している障害のある職員のうち、約半数が10年以上勤続している。
勤務年数15年を超え60歳を迎えた知的障害のあるBさんは、生活の場をグループホームから、高齢者向けケアハウスへと移した。現在もケアハウスから出勤しており、特別養護老人ホーム内の共用スペースの清掃業務を担当している。働き続けたいとの本人の意向に添って、同法人では負担なくできる範囲の業務量を任せている。勤務時間は、ケアハウスに移る前は一日6時間15分の週5日であったが、現在は午前8時30分から11時30分までの一日3時間の週6日に短縮している。就労後の午後はケアハウスでゆっくりと過ごし充実した日々を送っている。
高齢者になっても働き続けたい障害のある職員の希望に応じ、身体に無理のないよう時短勤務や業務量の調整など配慮する同法人の取組は、働く障害者の高齢化が進む中において、先進的な取組といえよう。
4. 課題と今後の展望
これからも本人のできることを増やし、職域の拡大に繋げ、仕事にやりがいを持ち続けることにより職場定着してもらいたいと同法人は考えている。そのためには、評価などを工夫することで本人が成果や成長を実感できるよう、より「見える化」することが課題となっている。「高齢者介護の現場では慢性的な人材不足となっているため、障害のある職員一人ひとりが、かけがえのない存在となっており、介護士をサポートする介護助手の役割を担える人材としてこれからも活躍を期待している。」と施設長は最後に話してくれた。
介護助手の仕事は、「食事の準備・後片付け」、「歯磨きの準備」、「シーツ交換」、「寝具類の準備や整え」など非常に幅が広い。これらの業務のステップアップと共に、自主的に介護に関する入門研修を修了した障害のある職員もおり、当該職員は介護福祉士の資格取得を目標にしているそうで、同法人としても応援していくこととしている。
一人ひとりの能力と目標に応じた育成とサポートを行う同法人の取組こそが、自分らしく生きる、共生・協働社会の実現の第一歩となるのではないかと筆者は考える。執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
佐賀支部 高齢・障害者業務課
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