人手不足、憂うなかれ。気づけばそこに、磨けば光る原石が
- 事業所名
- モルツウェル株式会社
(法人番号: 4280001002889) - 業種
- 卸売・小売業
- 所在地
- 島根県松江市
- 事業内容
- 1.全国の高齢者施設向け調理済み食品の製造販売
2.システム及びソフトウェアの開発・販売・保守・コンサルティング
3.在宅高齢者弁当配食サービス事業
4.買い物生活支援、ロジスティクス事業
5.高齢者施設の厨房運営受託運営サービス事業 - 従業員数
- 124名
- うち障害者数
- 10名
-
障害 人数 従事業務 知的障害 4名 食品製造業務 精神障害 6名 食品製造業務、製造事務業務 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害、精神障害
- 目次
-
事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
モルツウェル株式会社(以下「当社」という。)は、高齢者施設向け調理済み食品の製造・販売や在宅高齢者弁当配食サービスを柱に買い物代行や生活支援など幅広い事業を展開している。高齢者施設向けに北は北海道から南は鹿児島県まで全国38都道府県の約400施設に年間700万食の調理済み食品を供給している(以下「シニアフード事業」という。)。
それらの事業をスタートする前は大手弁当チェーンのフランチャイズ店を松江市内で経営し、デリバリーサービスに挑戦するなど独自の事業展開をしていた。来店客と接しているうちに、子供の来店が少なくなる一方、高齢者の利用が増えていることに気が付き、それが高齢者向けの配食サービスを始めるきっかけになった。弁当のデリバリーは消費期限もあり、配送エリアが限られるが、下ごしらえした食材を専用のフィルム袋に入れて加熱調理殺菌加工する「真空調理法」と出会い、全国に事業展開できるようになった。
「真空調理法」はパック前に加熱調理する方法と異なり、限りなく食中毒をゼロに近づけることができる。食品衛生管理を徹底したHACCP(ハサップ)認証を受けた工場で調理している。顧客である高齢者施設の厨房の担当者は調理する必要がない。届いた食材を冷たいまま盛り付け、再加熱するだけで利用者に提供することができる。「楽盛」と名付けたこのサービスは、調理の手間を削減し、安心安全でおいしく、高齢者の健康に配慮したヘルシーで栄養価の高いメニューで、利用されている施設から高い評価をいただいている。
多くの高齢者施設は人手不足が慢性化し、厨房を担当する人材の確保に苦労しているため、当社のサービスを利用していただくことで現場の負担軽減にもつながり、コアの介護業務に集中することで、高齢者施設全体のサービス向上にもつながっている。
また、給食・配食の現場は、労働集約型で効率化が難しく、生産性が上げにくいため、当社では、作業や工程を科学的に分析するIE(生産工学)やITデジタル技術を現場に導入することで生産性を上げるための支援(コンサルティング)も行っている。
さらに、地元島根では在宅高齢者向け配食、買い物支援サービス「ごようきき三河屋」を展開している。利用者それぞれの要望に合わせた食事や日用品を一軒一軒配達して回っている。配達担当者は利用者との何気ない会話を通じ、元気な姿を確認し、高齢者の暮らしを見守っている。
(2)障害者雇用の経緯
平成15(2003)年にシニアフード事業を始めた頃、人手が足りず困っていた中、近隣の養護学校から職場実習の依頼があり、食品製造部門で受け入れたところ、実習の作業が速く、丁寧であったため、この方を雇用したことから当社の障害者雇用はスタートした。
ここ数年は養護学校から新卒の方を毎年採用しているが、そのほかにも障害者就労継続支援事業所(以下「支援事業所」という。)の利用者を訓練を経て、正規雇用として採用するケースもある。
支援事業所からの一例を紹介すると、当社では障害のある社員を配属した部署の社員(以下「スタッフ」という。)向けに障害特性などについて学ぶ勉強会を、外部講師を招き実施している。そして、講師を依頼した支援事業所(A型)の株式会社そらまめらんど(以下「そらまめ」という。)から利用者のAさんを紹介された。Aさんは発達障害のある方で、次の経緯を経て、今年(令和5年)に当社に正規雇用された方である。
Aさんは、6年前に大学院を修了したが就職活動がうまくいかず、不安障害を2次的に発症、そらまめで就職に向けた訓練を受けていたが、イレギュラーに弱く課題が自分に返りにくい特性があったため、そらまめでも適応できず一度はリタイアを考えるまでになっていた。そらまめとしてもどのような支援を行うか模索し、当社での訓練(作業体験など)を希望したもので、当社は協力することとした。
当時、当社が事業展開をする介護施設の厨房で、そらまめの施設外就労制度を利用し、内容を変更して訓練を進めた。最初は洗浄のみの仕事だったが、スピーディで正確な仕事で評価も高く、盛り付け・配膳など職域を拡大し、利用者からそらまめの職員に登用され、支援側となった。その経験からAさんは「自分はこの先、モルツウェル製造工程に携わりたい」と、そらまめを卒業(退職)し、当社に就職することを自ら決断し、当社の社員となった。
入社後も製造工程の真空パック作業や器具の洗浄などを担っていたが、本人の器用さと積極性から職域が広がり、現在は真空パック作業を中心に状況に応じてクロージング全般をフォローできる人材に成長している。
Aさんがここまで成長することができたのは、そらまめによる継続的な支援を受け、基礎力がついていたからこそ、当社でも成長できる機会を持てたからだと思う。
障害のある社員が職場に定着し成長するためには、本人の意思を大切にしつつ、機会を作り、成長を期待して、本人を鍛えることができる環境を、会社と地域の関係機関が連携して作ることが大切だと感じている。
2. 障害者の従事業務と職場配置
当社の業務は、主に次の4つに分けられる。真空調理済み食材の製造のための「製造業務」、受発注、請求業務や製造事務、開発業務などの「事務業務」、在宅高齢者向けのお弁当の宅配や生活支援サービスを中心に行う「配達業務」、介護施設の食事の配膳などを行う「厨房運営業務」である。現在、障害のある社員は製造業務に8名、製造事務業務に2名が従事している。
食品の成分表示などの業務に携わるBさん
細かい作業も正確で丁寧
製造工程のCさん。一連の作業も速くて正確、
新しい取組にも前向きにチャレンジ
3. 取組の内容と効果
(1)体制づくり
ア.組織面での取組(社内の環境整備、社外の関係機関との連携)
(ア)障害者の活躍推進のためのリーダーシップ・部署横断体制を決定しフロー図を作成の上、社長自ら全社員に対してメッセージを発信するとともに社内に掲示するなど、各部署で働く障害のある社員が活躍できる環境づくりに取り組んでいる。
(イ)障害のある社員の配属部門にセクションリーダー及び現場サポーターを配置し、障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)とも連携しながらサポートできる体制を整備している。
イ.人材育成
先に紹介したが、スタッフ向けに外部講師(そらまめの職員など)による「障害者雇用に関わる勉強会」などを開催するなど、障害のある社員とともに働く人材の育成にも積極的に取り組んでいる。
(2)仕事づくり
ア.職務選定・創出
(ア)食品製造工場現場への作業指示を献立システムから抽出し、作業チェック表を作成する業務や、製品の成分表示抽出など、障害特性に合った職務を選定し、その作業を任せている。
(イ)食品製造工場内の各工程で障害特性に合った職務を選定し、食材の重量を測って真空包装をする作業や、真空パック後次工程のパネルに並べる作業などを任せている。
イ.新たな事業創出
新たな職域の開発にも取り組んでいる。施設の給食現場の人手不足問題を解消するため、発達障害のある社員がワンオペレーションで施設内の食事の盛り付けや配膳などを処理することが可能となるシステムの構築を目指しており、実証実験も行っている(「5.今後の展望と課題」参照)。システムの構築により、多くの高齢者施設で障害者の雇用が可能となることを目指している。
(3)環境づくり
ア.職場環境
(ア)コミュニケーションがあまり得意でない場合が多い障害のある社員のために、企業向けビジネスチャットツール「LINE WORKS」(ラインワークス)により作業指示に関するコミュニケーショングループを作成し、日々の指示や改善点の共有、日報の提出をその中で行っている。
(イ)製造品目や製造量に応じた材料や調味料の分量や作業時間の設定などは、これまで担当社員が暗算で対応していたが、「品目や量に応じた早見表を作る」、「炊飯器に開始時間をシールで表示する」など、見える化した。また、作業ごとに写真や早見表などを入れた「ワンポイントレッスンシート」を作り、指導に活用することで、計算などが苦手な障害者でも作業が滞らないようにしている。
ワンポイントレッスンシートの例
イ.キャリア形成
障害のある社員と一般スタッフ共通の人事評価規程を整備し運用している。
ウ.そのほかの取組
(ア)島根障害者職業センターや支援センターの支援担当者、養護学校の先生との面談や交流の場を作り、課題が生じた際に支援を速やかに受けられるよう、平時から連携を密にしている。
また、養護学校の清掃班の生徒さんに社屋の窓清掃をお願いするなど、養護学校の先生や生徒の皆さんと関わり、信頼関係を築いている。
(イ)成果発表の場などの機会を創出している。島根県特別支援学校職業教育就業支援事業(あいワークショップ)での「学校の先生による企業訪問」では、20名を超える参加者の前で、上司が見守る中、養護学校から新卒で入社した社員Dさんが日頃の仕事の成果を発表した。
在学当時の担任の先生も参加されており、Dさんは自分の成長した姿を見せることができて誇らしげに発表ができていた。
あいワークショップで発表するDさん(左)と上司のEさん
4. 新型コロナウイルス感染症などへの対応
令和2(2020)年3月10日時点で下記の内容を社内に徹底した。
その後も国(政府・関係省庁)及び各都道府県などの指示に従いながら見直しを進めた。
(1)本社工場・受託厨房、在宅高齢者向けサービス部門における新型コロナウイルス感染症への対応
【対応方針など】
①工場見学の停止
②モルツウェル株式会社の主催するすべてのイベントの停止
③社員が37.5度以上の発熱もしくは強いだるさや息苦しさを感じる症状が発生した場合は、欠勤扱いとせず特別有給休暇として
出勤停止とし、自宅療養もしくは病院受診を促す。(出勤停止期間中は自身の体温を計測し、会社へ報告する)④社員の同居人が37.5度以上の発熱もしくは強いだるさや息苦しさを発生した場合は、欠勤扱いとせず特別有給休暇とする
⑤在宅勤務が可能な社員についてはリモートワークを推奨する
⑥業務において不急な外出・出張をしない
⑦全社員マスク着用・出勤時の体温チェックの徹底
(2)商品配送部門での対応
【対応方針など】
①納入先へ受け渡しする際のマスク着用。
②37.5度以上の発熱もしくは強いだるさや息苦しさを感じる症状が発生した配送員は、配達を担当しない。
(3)共通事項
上記(1)及び(2)の指示に併せ、全部門に以下の連絡も行い、指示などの徹底を図った。
「上記対応は3月31日までの実施を予定していますが、国(政府・関係省庁)および各都道府県等の指示に従いながら期間の短縮・延長、内容の見直しを随時行ってまいります。」
5. 課題と今後の展望
団塊の世代のすべてが75歳以上になる「2025年問題」、高齢者を支える現役世代が急減する「2040年問題」など将来的な人材不足が懸念されている。これらに対応するため高年齢層や外国人、障害者の活用など効果的に人材を活用できる新しいシステムや新たなビジネスモデルの構築に当社はチャレンジしている。
その一つが高齢者施設での疾病や障害を持つ方々の活用である。一般の企業では働けない就労困難者を支援する松江市の障害者就労支援事業所などと連携し、働きたい障害者と人材不足の施設厨房とを組み合わせるため、令和2(2020)年から障害を持つ社員だけで有料老人ホームの厨房を運営する実証実験に取り組んでいる。
実証実験の様子:介護施設厨房の盛り付け作業
実証実験は、現在、松江市内の施設で実施しているが、そこでは発達障害のある社員がワンオペレーションで施設内の食事の盛り付けや配膳などを担当している。実証実験を通じて、多くの高齢者施設で障害者の雇用を可能にするためのシステム構築を目指している。
例えば、障害のある方の中には、その時の精神状態によって仕事ができたり、できなかったりする人がいる。その心の動きをビックデータとAIなどデジタル技術で「見える化」し、支援者(会社であれば上司など)が適切な指導や対応ができるように支援する「障害者の気持ち見える化システム」(以下「システム」という。)の開発を進めている。システムを活用して、障害者の心の動きを支援者がしっかりと読み取り、安定的に働けるよう支えていくことを目指している。
高齢者施設の厨房の運営は早朝勤務や覚えることが多く、働き手が少ない分野である。一方で、障害者の就労支援事業所の多くは赤字経営だといわれている。当社のシステムを活用した取組が全国に広がれば、少なくとも3万人の障害者の雇用を新たに生み、自立する障害者を増やすことができるうえ、就労支援事業所の経営健全化、給食現場の人材不足解消にも効果が期待できると考えている。
また、デジタル技術を活用して、高齢者施設の利用者の配膳情報を管理するシステムの開発や厨房での作業を支援するシステムの開発にも当社は取り組んでいる。
利用者の日々の献立の内容、好き嫌い、健康上、提供してはいけない食材などの情報を一元的に管理し、その情報をもとに一人ひとりの配膳を誰でも覚えずとも簡単にできるようにする。介護施設給食の栄養管理、調理製造から配膳までのバリューチェーン全体の品質向上、生産性向上を実現するシステムを構築することを目指している。効率化を進めることで、利用する高齢者だけでなく、これらを支える施設や施設で働く人たちの労働環境を改善する。
「誰もが最期までごきげんな社会をつくる」が当社のビジョンである。サービスを受ける側、サービスを提供する側の双方が「ごきげん」であり続けられる環境を創り出し、日本の高齢化社会を障害者の活躍とともに、もっとポジティブなものにしていきたい。
それを実現させるためにも、地域の障害者を支援する機関や、学校、訓練支援事業所などと企業の経営者や社員が交流できる場づくりが必要だと感じる。
当社は障害者雇用を始めて20年になるが、今では当社にとって、障害のある社員全員が欠かせない存在となっている。一つひとつの出会いがあったからこそ、ともに成長できている。
『障害』は本人の特性だけでなく、『出会いの機会の喪失』という社会活動における「障害」(制約)でもあると感じる。明らかに障害者は出会いの数が少ないのが課題である。当社は地域(関係機関など)と連携しながら、障害者と当社がお互いを知り、障害者の可能性を信じて「チャレンジの機会」を作って、「期待」して「鍛える」場づくりを今後も続けていきたい。
執筆者:モルツウェル株式会社 専務取締役 野津昭子
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