（1）事業所の概要

　　社会福祉法人幸風会（以下「幸風会」という。）は平成5年設立で、同年7月に特別養護老人ホーム「芙蓉苑」を、8月にはデイサービス、居宅介護支援センター、ホームヘルプセンターを開設し、平成11年10月にグループホーム「あじさい」を、平成25年9月に地域密着型特別養護老人ホーム「長谷の里」を開設している。地域の福祉、介護の拠点として令和5年7月には創立30周年を迎えている。

　＜基本理念＞

　・当施設で生活する全ての人々の幸せを願い、心優しいケアをする事を第一と考えます。

　・ご利用者様及びご家族の皆様、そして、施設職員全員をかけがえのない仲間と考え、施設の運営を行います。

＜運営方針＞

①明るく安全な環境のもとで、利用者様の楽しい生活のため、心のこもった介護サービスを行います。

②ご利用者様の方々の人権とプライバシーを尊重し、毎日をより快適に過ごせるように努めます。

③より良い介護サービスが提供できるよう常に研鑽に努めます。

④地域の福祉や保健のニーズに貢献します。

（2）障害者雇用の経緯

　　障害者雇用の経緯としては、基本理念にある施設職員全員をかけがいのない仲間と考え、また、運営方針にある地域の福祉や保健のニーズに貢献するという考えの下、幸風会として積極的な障害者雇用に努めている。採用に関しては県立中種子特別支援学校（以下「中種子支援学校」という。）や、くまげ障害者就業・生活支援センター（以下「くまげ支援センター」という。）などと連携しながら、採用前の職場体験や職場実習（以下「実習」という。）などを通じて介護のやりがいを感じてもらい、採用につなげていった。現在4名の方を雇用している。

　4名とも特別養護老人ホーム「芙蓉苑」に勤務している。
　次に採用時期別に4名の従事業務などを紹介する。

（1）  Aさんは法人開設時の平成5年から勤務しており、主に施設内の清掃業務、ご利用者様の見守りや移動の介助などを担当している。他人の言動を気にすることも多いが、周りの方にも積極的に声かけなどができ、職場になじんでいる。現在勤続30年になる。

（2）  BさんとCさんは平成27年4月から勤務している。

2名とも介護業務全般、入浴介助・食事介助・排泄介助・移動介助・ベッドへの移乗介助などを担当している。最初の頃は、言葉数も少なくおとなしい感じだったが、今では慣れてきて利用者さんに積極的に言葉かけする様子が見られる。

（3）  Dさんは令和2年2月から勤務している。

同法人採用後に介護職員初任者研修を受講し、「芙蓉苑」で介護職員として身体介護業務全般を担当している。

（1）取組の内容

　ア　募集・採用

　　ハローワーク、くまげ支援センターと連携しながら、募集・採用活動を進めている。また、中種子支援学校からの職場体験や職場交流（在校生と同法人で働く障害のある職員との交流会）を積極的に受け入れ、それを契機に採用した者もいる。

イ　個別の取組内容など

　AさんとBさんはグループホームに入所されており、バスにて通勤しているがバスの本数が少なく、ダイヤの変更も時々ある。そのため、変更に合わせ就業時間の変更を随時行っている。また、急遽バスが不通になった場合などは職員による送迎を行っている。

＜同僚の鎌田氏のコメント（Ａさんへ）＞

　「トイレ掃除などいつも丁寧な仕事をしてもらっています。利用者様の移動介助などもしていただき、細かいところにも気がついて助かっています。これからもよろしくお願いします。」

　BさんとCさんは一昨年普通自動車免許を取得し、自動車通勤を始めた。自動車通勤には心配な面もあるが、本人達は安全運転に心がけ、余裕をもって通勤し、前より早めに職場に到着することが多くなった。

Cさんはグループホームに入居されていたが、本人の希望で一人暮らしを始めている。その影響からか精神的に不安定になることもあり、嫌なことがあったりするとふさぎ込むことなどがあり、出勤を渋ることなどもあった。また、夜勤に入ることが嫌になって急に休みの連絡を入れたり、それが申し訳ないと思い誰にも言えずに無断欠勤につながるようなときもあった。そんな時には、看護師、同僚、上司など色々な人が話しを聞き寄り添いながら、休みを入れたり、勤務時間を調整することなどにより乗り越え、現在は安定している。ふだんから色々な話をして現在の心理状態を把握し何でも話せる人がキーパーソンとなって寄り添っていくことを心がけている｡気持ちが落ち着くと表情も明るくなり、以前から課題であった余暇の過ごし方も好転した様子がうかがえる。

＜同僚看護師夏田氏のコメント（Ｃさんへ）＞

　「ストレスの溜まる仕事で大変だと感じることも多いと思います。困った時、悩みがある時などは何でも遠慮せずに相談に来てほしい。これからも一緒に頑張っていきましょう。」

Dさんは転職により同法人に入職した。当初はグループホーム「あじさい」で清掃作業を中心に勤務していたが、昨年介護職員初任者研修を受講し、実際の介護業務にも興味を持ち、現在は「芙蓉苑」で介護職員として身体介護業務を中心に担当している。

＜同僚の鎌田氏のコメント（Ｄさんへ）＞

　「コツコツと仕事をやり遂げる力がついてきていると思います。資格取得などにもどんどんチャレンジしてほしいと思います。」

（2）取組の効果

くまげ支援センターや社会福祉法人暁星会の相談支援センターあかつきなど、様々な支援機関と連携し多くの支援を受けてきた。当初、どのように接していっていいか分からず不安視していた職員も、現在は障害のある職員の同僚、先輩、友人として共に悩み、共に成長することができた。そして、施設職員全員をかけがえのない仲間だと思う気持ちがより強くなったと同法人は感じている。

　2類から5類へ変わったことで施設利用者と家族などとの面会の緩和が行われているが、職員の出勤時の検温、体調確認、マスク着用は現在も行われている。

　以前から行ってきているが、手で触る場所（机や手すりなど）の消毒、清掃の実施なども毎日行っている。

　それらの対応が的確に行われるよう、障害のある職員にはポイントをわかりやすくまとめた資料を配付するとともに、機会を設けて検温などの必要性を説明している。朝礼などでも注意喚起を行っている。

　今後の障害者雇用について、幸風会の担当者は次のように話された。

4名のそれぞれの悩みや不安の把握と解決には上司や同僚に話しやすい環境作りが重要だと考えている。4名が持つ悩みや、困り感、つまづきはそれぞれ異なる。それらがいつのまにか生じ、大きくなり、自分でどうしようもできなくなってしまうこともあると思う。そんな時は、職員の誰かに胸のうちを話してほしい、伝えてほしいと思っている。そんな時、社会福祉法人幸風会は、基本理念にもあるように施設職員全員をかけがえのない仲間と考え、各人の話を聞き、寄り添いながら悩みの解決などに取り組んでいきたい。それはまた、職員が成長することにもつながると考える。