新潟県労働金庫（以下「当金庫」という。）は昭和27（1952）年に労働金庫法に基づき設立された、労働組合や生活協同組合の組合員が相互扶助のために資金を拠出して運営されている協同組織の福祉金融機関である。業務内容は預金やローン、各種金融サービスなど、一般の銀行とほとんど変わらないが、事業を通して生まれた利益は利用しやすい商品やサービスとして利用者に還元している。

本店は新潟市中央区にあり、新潟県内に27店舗（出張所・インターネット支店含む）を有している。

（2）障害者雇用の経緯

　当金庫の障害者実雇用率は、平成28（2016）年までは1.5％前後で推移していた。しかし、平成29（2017）年に法定雇用率（当時は2.0％）を大きく下回る0.92％まで急落した。同年にはハローワークから法定雇用率の達成に向けて早急に取組を進めるよう指導を受け、改善が図られない場合には、ハローワークから「障害者雇入れ計画」の作成命令が発出されることも契機となり、法定雇用率の達成に向けて積極的な取組を展開した。その結果、平成30（2018）年には法定雇用率（当時は2.2％）を達成した。平成31（2019）年からは3％台を維持している。

定着状況についても、離職者は少なく良好であると認識している。平成31（2019）年度以降、障害のある職員を6名採用し、全員定着している。

（1）取組の内容

ア　募集・採用

（ア）  ハローワーク合同面接会への参加

　当金庫は平成28（2016）年までハローワークを通じた求人を通年で実施していたが、平成29（2017）年度からは年2回開催されるハローワーク主催の合同面接会に参加している。この面接会は複数の応募者と直接面談できる重要な機会であり、現在も採用活動の中心となっている。

（イ）  求人票の公開及び面接

　ハローワーク合同面接会で公開している当金庫の求人票には、精神科の勤務経験のある産業看護専門職による支援があることや、企業在籍型ジョブコーチが複数名配置されていること、障害者実雇用率が法定雇用率を上回っていること、職場のバリアフリー化が進んでいることなどが掲載されている。そのことによって、障害者でも働きやすい環境が整っていることを求職者へアピールしている。また、採用面接には産業看護専門職が同席し、受け入れ側として把握・検討すべきことなどの確認・判断を行っている。

イ　職場定着に向けた取組

（ア）  社内規程の制定

　当金庫にとって、障害者雇用は人事部門に限らず組織全体で取り組むべき事項である。そこで、平成31（2019）年に障害者の雇用に関する社内規程を制定した。

　この社内規程には、障害者雇用に積極的に取り組む過程で培った経験や、失敗から学んだことが反映されている。社内規程は役職員の障害者雇用への理解醸成に役立っており、各部署が協調して取り組む姿勢につながっている。

　また社内規程の別紙として、採用選考におけるポイントや質問事例、勤務時における合理的配慮や就労状況記録シート、面接機会の設定と面接担当者の確認事項などがフォーマット化されている。それらにより得られた情報や配慮事項は人事部門だけでなく、障害のある職員の配属部署での体制整備や円滑な業務運営の基盤となっている。

（イ）  採用選考基準

　社内規程の別紙には採用選考に関する「職業準備性のポイント」が定められている。具体的には障害特性や病気に関する自己管理、日常生活技能、基本的労働習慣といった項目が記載（設定）されている。他方、業務経験や専門的なスキルについては不問となっている。このように協調性や人柄を重視する選考基準が、職場定着につながっているものと思料する。

（ウ）  ジョブコーチ

　当金庫には企業在籍型ジョブコーチが4名在籍している。そのうち3名（人事部次長、産業看護専門職、人事部再雇用職員）が、障害のある職員へのヒアリングや職場改善の橋渡し役を担っている。産業看護専門職は産業カウンセラーの資格も保有しており、健康面での相談や、変調時のケアなども行っている。

　当金庫のサポート体制に関して、障害のある職員に話を聞いたところ、「障害者の受け入れ体制が最初から整っていた」、「困ったことがあれば言える環境である」、「採用面接の際にジョブコーチが対応してくれたため話しやすく、採用後の働くイメージが持ちやすかった」という声があった。ジョブコーチの存在は職場定着だけでなく、職場を選択する上でも心強い存在であると思料する。

（エ）  各種制度及び面談

当金庫は、障害によるリハビリなどの入院のための休職制度や、仕事と治療の両立支援制度を整備している。また職員の健康管理を支援するため、産業看護専門職が必要に応じて障害のある職員の配属先へ訪問し、面談する機会を設けている。

さらに障害のある職員が配属されている部署の管理職を支援担当者として設定し、労務を管理している。職場への定着を支援するため、採用後3か月間は2週間に一度の頻度で障害のある職員と支援担当者とのマンツーマンでの面談を実施している。3か月経過後も毎月一度以上の頻度で面談を実施しており、仕事上の悩みや必要な配慮事項などを共有している。なお、支援担当者不在時のための副担当者も設定している。

そうした制度や相談体制が奏功したケースがある。徐々に進行する身体的障害により退職は避けられないと苦悩する職員に対し、支援担当者は当該職員と相談しながら継続に向けた社内の調整などを行い、休職制度を活用しながら雇用を継続した事例があった。当該職員は治療期間を経て復職し、勤務時間を短縮して仕事とリハビリを両立させ、現在も勤務している。

このように、障害の特性などを見極め、面談を通じて本人の意向・悩みをくみ取り、働き続けられる環境を整備することは、職場定着の基本である。

　　　　　　　　　産業看護専門職との面談の様子

（オ）  職員研修

　当金庫は社内規程に基づき、教育研修計画の中で職員が障害者の就労支援に関する研修を受ける機会を設けている。平成31（2019）年7月にはハローワーク主催の「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」、令和3（2021）年6月には独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構（JEED）の新潟障害者職業センターから講師を招いて実施された「障害者の就労支援に関わる研修会」に、障害のある職員の配属先の管理職や職員が参加している。さらに部店長会議の場で、障害者の健康面への理解と配慮に関する研修を実施し、障害のある職員が休暇や休職制度を利用しやすい環境を整えている。

（カ）  ハード面

当金庫は、事務集中センターのバリアフリー化、本店内の多目的トイレの改修、階段やトイレへの手すり設置、職員による執務室の扉の開閉補助のための呼び出し用ブザー設置、ドアノブ改修などを実施し、物理的にも働きやすい職場環境を整えている。これらの取組は求職者へのアピールポイントになるため、採用後に適時に実施するだけでなく、対象者の有無に関わらず実施することが重要である。

 　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　多目的トイレ

　　　　　　
　　　　　　　　　手すりが設置されたトイレ

　　　　　　　
　　　　　　　　　　事務室出入口ブザー

（キ）  配属・業務の切り出し

当金庫は障害の特性や得意分野を考慮し、能力を伸ばすことができる業務がある部署へ配置することを基本としている。具体的には営業店の事務、事務集中センターでのシステム処理（口座振替のデータ処理、書類整理など）、本部事務（データ集約やパソコン作業など）である。

　また社内規程が定められていることによって、協調して業務を切り出す姿勢が各部署内に浸透している。このことが障害のある職員の活躍につながっている。

（ク）  賃金・労働条件

当金庫は障害に特化した人事制度を設けていない。3か月間のトライアル雇用期間を経て準職員Ｃ（主に定型的な業務を行う職員）として採用し、障害のない職員と同様に処遇を決める。雇用契約の契約更新サイクルや無期雇用転換時期、給与体系の水準に関し、障害の有無は影響しない。無期雇用転換は本採用から一定期間経過後に希望者へ対応している。

なお、障害のある職員でも昇給・昇格が可能である。上位職への昇格や検定試験の受験に積極的に取り組む障害のある職員もいる。準職員Ｃとして勤務する職員に話を聞いたところ、「他社では正規職員として就職してもなかなか昇給できなかった。その理由が能力の問題なのか、障害者だからなのか判然としなかった」という声があった。当金庫には昇給・昇格制度が明確にあるので、障害のある職員にとって働きがいを感じられ、モチベーションの維持につながっている。

（2）取組の効果

当金庫は、以上の取組により法定雇用率を超えていることと職場定着に向けた適切な雇用管理を推進していることなどが評価され、平成31（2019）年度障害者雇用優良事業所等表彰事業において、「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞」を受賞した。

　各々が能力を十分に発揮できるように就業環境を整えることはもちろんのこと、働きがいを感じて働くことも重要となる。そこで当金庫では、すべての職員に対し、今後の仕事やライフステージを踏まえた自身のキャリアについて考える研修を実施している。障害の有無に関わらず、本人が能力を最大限発揮し、長期的な戦力として活躍できる職場づくりを進めてまいりたい。