（1）事業所の概要

　社会福祉法人明悠会（以下「明悠会」という。）は、施設長の中川氏（以下「施設長」という。）が知人を通して障害者との関わりを持つ中で、障害者ご本人・家族からの要望で施設の必要性を感じ、平成14（2002）年に身体障害者療護施設（当時）「ゆめの里」を開設。その後、就労継続支援A型事業所・B型事業所「ピーターパン」、共同生活援助（グループホーム）「きらら」、相談支援事業「ゆめの里相談支援センター」を開設し、障害者の福祉事業を展開してきた。

　基本理念である「福祉の心は原点である。仕事はどれだけしたかより、どんな心でしたかが大切である」をモットーに、障害のある方々が地域でその人らしい生活を送るための支援に取り組んでいる。

（2）障害者雇用の経緯

　最初に障害者雇用に取り組むこととなったきっかけは、採用後に働きづらさを感じて心身の不調を起こし、休職していた正職員Aさんからの相談であった。相談後、病院受診をすることとなったAさんは発達障害の診断を受け、発達障害を前提とした復職を希望した。明悠会としてもAさんの希望に応えて復職を認め、障害に応じた支援を行い、現在も雇用を継続している。

さらに、施設長が運営する別法人の障害者就労支援事業所から、施設外就労（職場実習）として知的障害のあるBさんを受け入れ、清掃業務に従事してもらった。その仕事ぶりととても就労意欲の高いBさんの「一般就労をしたい」という希望を考慮して採用した。現在もお二人は正職員として継続して働いている。

（1）取組の内容

ア　発達障害への配慮など

仕事を覚えることが苦手で、ミスが多いことに落ち込み、休みがちであったAさんはご自身の希望で「自分のできることとできないこと」を施設職員全員に伝えた。Aさんの特性を聞いた職員は、Aさんの不得手な業務に対するサポート方法などを、みんなで考えた。
　具体的な配慮としては、Aさんの担当業務を、自身の得意なことが活かせる業務とし、業務指示を具体的に伝えることにした。
　また、障害についての勉強会を実施し、職員一人ひとりが発達障害に関する学びを深めた。そのため、障害も含めてAさんのことを理解したいという職員の姿勢と配慮が、Aさんが安心して仕事に取り組める職場環境を作り、Aさんは自分が任された業務をきちんと遂行できるようになった。

イ　知的障害への配慮など

　業務遂行に時間を要してしまうBさんに対しては、業務手順に合わせたタイムスケジュールを細かく示し、できるだけ時間内で業務が終わるような工夫をしている。そのスケジュール表をBさんと職員が確認しながら進めることとし、時間が押している場合はスピードアップを促し、できている時は「できているよ」、「頑張っているね」と声をかけることで仕事へのモチベーションを高め、自信を持って働くことができるようになった。

　また、採用当初はあまり話かけてくることのなかったBさんが職場で孤立してしまわないように、まずはBさんが話しやすい職員からBさんに話しかけるような体制をつくったことで少しずつ会話も増え、Bさんのコミュニケーションの力も高まり、徐々に人間関係の輪も広がって、今では冗談も言い合いながらチームの一員として働けるようになった。

ウ　共通の配慮など

（ア）業務の限定化

お二人が勤務する施設は入所型で、職員は四交代制の勤務である。勤務する時間帯によって業務内容が変わるため、仕事を覚えたりする際に混乱しないように、4交代制の中から自分に合った勤務シフトを選んでもらい、担当業務を限定化することで働きやすくしている。 

（イ）日頃から職員間の会話を増やす

明悠会では日頃から職員間のコミュニケーション（会話）を大切にしている。職員間でしっかり向き合い、よく会話をしていることで、周りの職員はお二人の表情や言動からその時の調子の良し悪しがわかってくるようになった。調子が良くない場合は、職員全員で声をかけたり、業務のサポートをしたりすることで体調を大きく崩すことなく働き続けられるようになった。
（ウ）職員全体での支援体制づくり（チームによる支援）

お二人が従事している介護業務部門だけではサポートに限界があるため、他職種とも障害特性や得手不得手を共有し、AさんやBさんが困っていたら声をかけるなど、施設全体でサポートする体制をチームでつくっている。
（エ）意見を出し合える職場の雰囲気作り

周りの職員はお二人に対し、「抱えている問題はないか」、「仕事への要望や意見がないか」を折に触れ確認し、問題があれば早めに把握する、希望などがあればできるだけ応えるなど、業務改善に取り組んでいる。自分の意見などが反映されることで働く自信や就労意欲を高め、できる仕事も増えステップアップにつながっている。

（2）取組の効果 

お二人の働く職場では、障害への配慮はしつつも、職員全員がお互いの得意なことを活かし、苦手なことをフォローしあって、声をかけ合いながらチームで仕事に取り組んでいる。それは障害のある職員だけでなく施設全体として働きやすい職場環境の実現につながっている。そうした、みんなで支え合っているという実感は安心感につながり、ご自身の持っている力を発揮することができる。さらには、誰かに頼られるということが働くモチベーションを高め、お二人が日々成長する力となっている。

施設長は、今後の展望として「障害の有無に関わらず、その人の人生を担うというつもりで職員を採用している。これからも職員一人ひとりの人生設計を応援していきたい」という想いを語った。好きな人と結婚し家庭を持ちたいという希望を持っておられるBさんの結婚式の時の挨拶をどうしようかなと言って笑った施設長のお顔はとても嬉しそうであった。