（1）事業所の概要・沿革

　株式会社ＮＴＴネクシア（以下「同社」という。）は、日本電信電話株式会社（ＮＴＴ）のグループ企業であり、昭和61（1086）年に設立された「ＮＴＴテレマーケティング株式会社」を前身とする。同社は、その企業理念である「お客様と、ともに未来を描き、ともに成長するパートナーであり続ける。」をもとに、コンタクトセンター構築・運営受託、運用コンサルティング、ビジネスプロセスアウトソーシング（以下「ＢＰＯ」という。）を担う企業として事業を展開している。障害者雇用については、令和5（2023）年10月の時点で97名である。

　本稿では同社のさいたま新都心センター（以下「同センター」という。）における障害者雇用の取組について紹介する。

同センターは、現在、企画総務部シェアードサービス部門を担う事業所であり、社員60名のうち障害のある社員は46名であり、約8割となっている。

障害のある社員は様々な業務で活躍されており、長く勤務している社員も多い。勤務年数が10年を超える者は26名で、そのうち同センターの開設当初（平成21年）から勤務されている者は7名である。

令和4年には障害者雇用優良事業所表彰にて、障害のある社員の働きやすい環境の整備や定着率の高さにつながっていることが評価され、同社は独立行政法人高齢・障害・求職者・雇用支援機構理事長賞を受賞した。

（2）障害者雇用の経緯

　同社は、主な業務として外部の顧客と対話する機会が多いこと、またバリアフリーが行き届いていないコンタクトセンターが多かったことから、障害者の雇用については過去限定的に行う程度で、障害者の実雇用率が必ずしも高くはなかったことから、より積極的に取り組むこととした。
　そこで、平成21（2009）年10月1日に、「障害者の雇用機会の創出や雇用の拡大を図る」ことを目的として、外部の顧客とのコミュニケーションを特に必要としない業務を集約すると同時に、障害者が働きやすいバリアフリー環境を整備した就業場所として、同センターが開設された。

また、令和6（2024）年4月、令和8（2026）年7月に段階的に引き上げられる法定雇用率の遵守に向け、同センターを同社全体の障害者雇用に関する管理・運用部門としての役割を明確化し、全体の障害者雇用を一元的にフォローする拠点となった。そのため、同センターでは障害者雇用に関する専属スタッフを配置している。現在の専属スタッフは、企業在籍型ジョブコーチ（以下「ジョブコーチ」という。）1名とスーパーバイザー（以下「ＳＶ」という。）1名（ジョブコーチ兼任）で、同センター以外の同社の障害者雇用にも必要に応じて関わっている。

（1）従事業務について
　障害のある社員の従事業務については、以下のとおり。

　ア　印刷業務（同社・グループ会社の名刺、封筒、帳票、テキスト印刷など）

　イ　勤怠管理（ＢＰＯ業務により、別企業に勤務している同社社員の勤怠管理）

　ウ　コンタクトセンター業務内容のマーケティング、通話内容や会議議事録などの書き起こし

　エ　ＤＸ業務（社内支援や改善のためのツールの提案及び構築）

　オ　契約書管理業務

　カ　ノーマライゼーション業務（障害者雇用状況の把握・報告、障害者雇用に関する支援等）（新規業務）

　キ　総務業務

　ク　ＩＴヘルプデスク業務

（2）職場配置について

　個々のスキルや能力、障害特性や作業への適性を考慮した上で業務・職場に配置しており、障害種別だけで業務を決定していない。また、本人の希望及び適性、心身のコンディション、社員同士の関わり状況を考慮し、必要な場合にはジョブコーチとの面談や支援なども行いながら決定し、配置後も随時配置転換や仕事量の調節を進めることでトラブルを未然に防いでいる。

（1）採用時の取組

ハローワークや就労支援施設からの紹介にて採用することが多い。令和元（2019）年より、採用活動の一環として、応募者には1日半から2日程度の職場実習（以下「実習」という。）を行い、実習終了後に面接を行っている。面接では同センターの所長（以下「所長」という。）とＳＶが同席することで本人の特性を確認し、応募者と企業相互の認識のミスマッチがないようにしている。

　なお、同社ではリモートワークを取り入れており、同センターでも現在障害のある社員の4割がリモートワークである。リモートワークにより職場スペースに余裕が生じ、障害者も含め、当初の予定より採用枠を増やすことができた。

（2）採用後の職場定着に向けた取組

ア　ジョブコーチ、ＳＶ、管理者によるきめ細かなケア

同センターでは、障害がある社員の悩みや困りごとを１人ひとり認識することが大切であると考えている。

　企業側と障害のある社員をつなぐ役割が先に紹介したＳＶとジョブコーチである。現在、ＳＶが1名、ジョブコーチ兼ＳＶが1名在籍している。主にジョブコーチが障害のある社員との相談窓口となり、仕事面、生活面、体調面など多岐にわたる悩みや困りごとの相談などを適宜行い、社員別の「個人カルテ」を作成し、相談状況などを記録・更新・保管している（情報の可視化）。そして、相談内容によって、「個人カルテ」を管理者（所長・担当課長）及びＳＶと共有し、業務理解度の把握や周囲との関わり方などをもとに、課題の早期解決に向け、管理者・ＳＶ・ジョブコーチが連携して悩みや困りごとに直面した社員へアドバイスを行い、雇用の安定と継続に向けた支援を行っている。

　また、面談で把握された社員やジョブコーチの意見をくみ取り、なるべく仕事をしやすい環境を整えている。例えば、本人の障害特性に応じた作業環境（人の目が気になる社員の周りにパーテーションを設置する、電話応対を苦手としている社員の個人机に電話を設置しない、車いすを利用する社員が通りやすいように入り口近くに机を配置し、周囲のスペースも確保するなど）を随時整備している。また、私生活の悩みや困りごとから業務に影響が出てしまう社員がいた場合は、障害者就業・生活支援センターと連携を図り、生活面での課題解決を進めたりすることで、雇用の安定と継続につなげている。

イ　可視化による社員個人の障害特性の理解、業務習得支援体制の整備

障害のある社員全員に、個々の障害特性や会社に希望する配慮事項、ストレスとなる場面、薬の種類、通院頻度など記録する「社員情報調書」の提出を依頼しており、年に一度、情報を更新し、トラブルや緊急時の対応の参考情報として活用している。併せて、障害のある社員とジョブコーチとの面談状況を「個人カルテ」に記載し、社内で共有することで心と身体の推移を把握し、障害のある社員の変化を把握し、随時対応している。

また、業務習得のサポートの一環として、業務内容・手順を可視化したマニュアルを作り、障害のある社員はそれをもとに日々業務を行っている。そして、社員の理解度の向上を図るため、その日に行った業務内容や留意事項を本人が自ら記録し、確認（復習）するための時間を設けたり、社員にマニュアル作成を依頼したりするなど、きめ細かなＯＪＴをＳＶが行うなど、業務習得に向けた職場全体としての支援体制を整えている。

ウ　社員の強みを見つけ、伸ばす

同センターでは、社員一人ひとりの強みを見つけ、伸ばすことを指針としているため、日々行う業務や関わりの中から社員の得意なことを発見することを大切にしている。そして、周りの社員や個人の様子を見つつ、任せる業務範囲を徐々に広げたり、実習生に教えるという新たな役割を与えたり、必要があれば配置転換を行ったりすることで、社員個人の強みを伸ばしている。

また、希望する社員には従事している業務と異なる仕事に挑戦できる環境を設けることで、新たな強みを発見することもある。

令和5（2023）年のＮＴＴグループのテーマが「社員満足度をあげ、社員の推進力をあげること」を目的としたため、同センターの取組として「社員満足度調査」を行った。その結果、自分が従事していない業務の内容を知りたい、今までと異なる仕事に挑戦してみたいという意見の社員が多かったため、業務ごとの発表会用の映像を作成するという、直接の業務とは異なった業務を設けた。従事している業務ごとに希望者を募り、自分がふだん行っている業務内容についての映像作成を依頼した。映像を作成することで自分たちの業務内容を復習し理解を深めると同時に、他の業務を知ることで新たな刺激を受けることができ、担当者自身の成長につながる機会につながった。

社員満足度調査では「お互いを褒めあおう」という意見も出た。そこで社員同士が書き込める社内掲示板を作った。ポジティブな意見を可視化するこの取組は、その人の良いところを伸ばすこと、また新たな強みを見つけることにつながった。

　さらに、同社では社員の資格取得を推奨しているため、同社が定めている資格を取得した場合は、奨励金がもらえる制度がある。同センターでも社員の意欲向上につながり、目標をもって挑戦している社員が障害の有無に関係なく大勢いる。

こうした多くの取組を行うことで社員の希望や意見が実現され、風通しが良く、挑戦しやすい環境を作り出し、職場定着率の向上につながっていると考えられる。

　令和2（2020）年5月から新型コロナウイルス感染防止対策として、自宅での作業可能な障害を持つ社員は在宅勤務（リモートワーク）を実施している。その際、在宅勤務者が疎外感を感じないようにＴｅａｍｓ（ビデオ通話やｃｈａｔ）を活用し、朝のグループミーティングではビデオ通話を使って周知事項などの連絡や体調管理の呼びかけを行い、通常業務中も作業に関する質問の受付やタイムリーな面談ができる環境を用意している。また、出社している社員には、職場の入口でのアルコール消毒、検温を続けている。

　令和5（2023）年5月より新型コロナウイルス感染症の分類が2類から5類に移行したため、令和2年より実施していた時差出勤はやめることにした。また、マスクは個人での判断による着用となり、社員間に置いていたパーテーションも撤去となった（ただし、人の目が気になるなどにより、社員より希望があった場合は、周りの社員に許可をもらい、継続してパーテーションを設置している。）。

令和5年から、新型コロナウイルス感染症の流行により中止していた特別支援学校（以下「支援学校」という。）の実習の受け入れを再開した。今後も実習内容を変更したり、職場見学の受け入れ回数を増やしたり、学校カリキュラムとの連動性を図ることで、支援学校と連携を取り、支援学校の卒業生からの採用を実現させるように取り組んでいる。

現在、視覚障害や聴覚障害のある方の雇用はしていないが、今後は様々な種別の障害のある方への雇用に努めていきたいと考えている。その一環として、視覚障害のある方を雇用する際に必要な知識を習得するため、筑波技術大学（視覚障害者・聴覚障害者のための国立大学）の「企業のための視覚障害学生雇用セミナー」へ参加することとした。セミナーでは、特に、業務面、環境面、アフターケアについて学び、視覚障害を持つ方の雇用の実現に向けて取り組んでいきたいと考えている。