⑴事業所の概要
　大徳食品株式会社（以下「大徳食品」という。）は明治38年米穀・薪炭販売商店として創業する。昭和24年には現在の製麺業を開始している。現在は山崎製パン株式会社のグループ企業の一員でもあり、本社・奈良事業所のほか、中京・富士宮・宇都宮・札幌各事業所が展開されている。大徳食品は人と環境に密接に関わり、地域社会においては、福祉施設への麺の提供、緊急時における麺の配給契約、イベントでの商品を提供するなどのサポートでの貢献も果たしている。

⑵障害者雇用の経緯
　大徳食品の基本方針として、食の安全・安心を第一としている。また、基本方針には、「全員参加の本物の5S（整理・整頓・清掃・清潔・躾）」の取組により、働きがいのある職場づくりと人材の育成を図る必要があるとされている。大徳食品では基本方針に基づく社員教育に力をいれており、社員の仕事への意識は高く、仕事にはまったく妥協を許さない厳しい姿勢で生産に従事している。それは障害のある社員にも同じく対応してもらう必要があると考えている。
　他方、大徳食品の創業者は、企業は地域に貢献すべきであると考えており、障害者雇用もそのひとつであると考えていた。しかし、以前の採用担当は、障害があることは業務遂行能力が低いと判断してしまい、大徳食品における障害者雇用はあまり進んではいなかった。そんな中、同社、現社長は障害者雇用をより積極的に進めることとし、「障害には様々な特性があり、勝手に判断してはならない。」、「大徳食品には、様々な仕事があるので、その障害者に応じた仕事に従事してもらうことができるはずである。」、「障害者の雇用は、地域への貢献でもある。」との考え方を社長就任時の平成30年に社内に示した。このことが同社の障害者雇用の原点となっている。
　本稿では大徳食品における障害者雇用の取組について、製麺業務の拠点である奈良事業所の取組を中心に紹介する。

　奈良事業所では7名全員が製造部門に配属され、勤務している。基本的には、配属された部署で継続的に業務に従事することになっている。

（1）知的障害のある社員（6名）
　調理麺製造ライン業務（スーパーマーケットで販売される透明なプラスチック容器に入った調理済みのそばなどの製造）であるが、作業内容には習熟度に応じて以下のステップアップがある。
　① 配属時には、「盛り付け作業」で簡単な「（調味料の袋など）入れるだけ」作業で規定時間の作業に従事する。
　② これから習熟度があがると、前述作業に加えて「（シールの貼り位置など）作業結果が正しいか」のチェック作業を含める。
　③さらにステップが上がると製造ラインのスピードに合わせて「ふたを閉める」（容器種別によって閉じ方にコツがあってスピード
　　に合わせるのが難しい。）までの一貫作業をこなせるようになる。

現在の6名のうち、1名は就労25年目で、そのほかの5名は6年前より毎年1名ずつ採用され現場に配置されている。

（2）内部障害のある社員（1名）
　採用時に障害はなかったが、在職中に内部障害となった社員。一時休職し、復職後に身体的負荷を考慮し、生産管理事務業務に異動している。通算の就労は20年以上。

⑴取組の内容

ア　募集・採用

創業者から示された考え方を原点に、6年前から、奈良県内の特別支援学校の１校（以下「A校」という。）と連携しながら定期的な募集・採用活動を進めている。先に紹介した6年前からの5名の障害のある社員はA校の卒業生である。

A校からは、まず在校生の職場実習（以下「実習」という。）の受け入れからスタートしている。

A校以前の障害者の採用については、大徳食品では実習を1回行った後、採用を決定していたが、結果として安定雇用につながらず、短期間雇用になってしまっていた。そのことを反省し、A校との連携においては、職場と応募者との最適なマッチングを目指すため、応募者一人当たり最大2回の実習を行い、双方の意思を確定させて採用している。具体的には、1期あたり受入人数を1名として、1回目は8月末に約1週間実施し、終了後に実習生に意思を確認し、実習（就職）希望が継続していれば2回目を11月に実施している。2回の実習結果をもとにして採用へつなげている。

また、実習の開始前に、A校から各人の性格や障害特性から必要な配慮点などについて情報提供を受け、具体的配慮事項（「説明は必ず複数回繰り返す」など）として現場に伝えている。こうした取組が、実習生の力を発揮させることや現場の社員の理解につながり、採用後の安定した雇用にもつながっている。

また、採用後の安定した雇用には就労支援機関との連携も重要と考えている。そのため、採用決定後には、本人が学校卒業まで利用していた障害者就業・生活支援センター（以下「支援センター」という。）への引き続きの利用登録を本人に勧めている。そして、本人と支援センターとの相談の機会を設けることや、必要に応じて大徳食品の担当者も相談に関わることなど通じて連携している。

イ　個別の取組内容など

（ア）  知的障害への配慮

調理麺製造ラインでの必要な一貫した作業は、一人ではなかなかできないのが現状である。そこで大徳食品では、現在できる仕事を当事者本人に、「ゆっくり・ていねい」に説明してからトライさせる手法をとっている。また、この際の説明担当者は作業のことをよく熟知しており、知的障害の障害特性などを理解したうえでていねいに説明できる社員を配置している。

（イ）  内部障害への配慮

　勤務時間の短縮や、定期的な通院の確保。

 （2）取組の効果
　A校からは事前に実習について、各生徒に必要な配慮事項に関する的確な情報提供があり、実習現場での適切な対応が可能となった。また、2回の実習を経ることで、本人の業務や職場に対する理解や意欲につながるとともに、大徳食品としても各人に適した作業設定や指導方法について実行できるようになっており、職場への適応・定着が進んでいる。採用後についても、A校からの支援に加え、支援センターが関与することで（例えば、意思表示が苦手な社員については休暇の取得を「家族の手紙」により行うよう助言するなど）、障害のある社員と会社側の意思疎通がスムーズになるなど、課題の発生防止や早期の解決につながっている。
　また、ライン製造現場で働く彼らが作った製品が世の中に出回ることで、人々の食生活に役立っていることが実感できるように、消費者からの声などを折に触れてフィードバックを行うなど、達成感や意欲につなげる人材育成も行っており、定着につながっている。

 　しかし、感じるのは、知的障害のある社員については、ただ作業の細分化による切り分けられた単純作業に従事させているだけではないかという疑問である。現在、彼らの多くは20歳代なのだが、果たして10年後にこのままでよいのかということである。今後の課題として、「責任とやりがいのある仕事を探してあげたい。」それにはどこまで責任が持たせることができるかと同時に、その役割に応じた雇用形態の用意、そのために必要な評価制度の設定など、配属部門の判断に留まらない企業全体として熟慮すべき点が多いと感じている。大徳食品はこれまでの取組を継続していきながら、新しい課題にチャレンジしていきたいと考えている。