現在16名のケアメイトが、博愛会病院及び老健センターささおか、デイサービス草ヶ江に勤務している。 

（1）博愛会病院

　知的障害のあるケアメイト5名が、入院患者の朝食の下膳、ゴミ回収、拭き掃除などの病棟の環境整備を担当している。

 

（2）老健センターささおか

知的障害のあるケアメイト7名が、利用者のシーツ交換やベッドメイキング、配茶、物品管理などを担当している。

 

（3）デイサービス草ヶ江

　知的障害のあるケアメイト2名と精神障害のあるケアメイト2名が、利用者の食事準備やドライヤーで髪を乾かしたり、室内清掃などを担当している。

（1）取組の内容

ア　募集・採用

ハローワークや福岡障害者職業センター、福岡市立障がい者就労支援センター、学校などの関係機関と連携しながら、募集・採用活動を進めている。

採用面接前には応募者に職場実習（以下「実習」という。）を体験してもらうこととしている。実習前にまず実習現場の見学を行い、その後に2日間から14日間程度の実習を実施している。実習を通して、障害特性や業務内容、職場環境などへの適性を確認したのちに採用している。

 

イ　障がい者雇用推進室の発足

平成29年に推進室を発足している。発足前は、各部門ごとに就労支援を行っていたため、取組方法や状況が異なっていたこと、部門間での情報共有が不足していたことなどから発足に至った。現在、月1回の会議を通して、各部門の取組や課題の共有などを行っている。推進室の構成メンバーは各部門のリーダーなどであることから、決定事項を各部門へ周知しやすく、障害者の就労支援に組織全体で横断的に取り組めるようになったという点で効果を感じている。

 

ウ　キャリアアップ制度

モチベーションの向上、職場定着を図ることを目的に、キャリアアップ制度を設けている。制度は、人事評価に基づき、「非常勤・パートタイマー」から「キャリアアップ職員（嘱託職員として1年契約の雇用形態）」にキャリアアップする、そして「キャリアアップ職員」から「正規職員」にキャリアアップするものである。

年に1回、博愛会が独自に作成したチェックシートによる人事評価を実施しており、本人及び企業在籍型ジョブコーチ（以下「ジョブコーチ」という。）や現場職員が評価者としてシートに記入する。評価項目は、①職業生活、②対人関係、③作業面、④条件に分けられており、「できる」「だいたいできる」「あまりできない」「できない」の4段階評価である。80点以上でキャリアアップ職員、90点以上で正規職員の面接を受けることができる。面接は希望制で、目標までに必要な点数や目標達成に向けた今後の取組などを確認し合う時間を設けている。なお、本人の自己評価と現場社員の回答を比較し、乖離（かいり）している部分があれば、面談を通してフィードバックしている。

その結果、すでに1名が評価をもとにキャリアアップしている。

 

エ　個別の取組内容など

長く戦力として活躍してもらうために、①実習での適切なマッチング、②職場内のサポート体制の構築、③働き続けるモチベーションの維持、④外部支援機関との連携で生活面の安定を重要視している。

（ア）業務の切り出しと調整

実習の段階で、本人の「できること」と「やりたいこと」を確認し、能力や特性に合わせて業務を切り出している。実際に取り組んだ結果、業務の遂行が難しい場合は、期間を設けて再度確認を行い、それでも難しい場合には業務変更などの調整をしている。

（イ）実習成果の見える化

新型コロナウイルス感染症流行以前は、実習中に学校教員による実習巡回や保護者の見学を行っていたが、感染症拡大時期は院内感染防止対策として入室制限をしたため、取りやめた。それに替わる取組として、実習中の様子（業務内容や社員食堂メニューなど）を学校や保護者にわかりやすく伝えるため報告書作成を開始した。また、取り組んだ成果を見える化（報告書を校内で共有）することで、在校生も実習の様子を知ることができ、医療・介護現場での業務内容を知る機会につながっている。

 （ウ）業務スケジュールの掲示

各施設ではケアメイト一人ひとりの業務の時間帯などを記載した「業務スケジュール」を作成し、掲示している。スケジュールを確認することにより、他のケアメイトの休みなどによる業務の変更があっても混乱することのないよう配慮を行っている。

（エ）業務マニュアルの作成など

博愛会では、障害者雇用について2種類の業務マニュアル（以下「マニュアル」という。）を作成している。ひとつはケアメイト用マニュアル、もうひとつはケアメイトが配属された部署の現場職員用マニュアルである（部署によっては前者だけの場合もある）。ケアメイト用マニュアルは障害特性などに合わせてわかりやすく作成したもので、業務の取り組みやすさにつながっている。

また、ケアメイトには原則として本来業務以外の業務は行わせないよう各部署に伝えている（ケアメイトの混乱を防ぐため）。しかし、なにか必要があって追加の業務を行わせるような場合には、ジョブコーチなどと相談し、各人に応じた適切な方法で指示などを行うよう現場職員に伝えている。

（オ）体調管理表の記入

デイサービス草ケ江では、ケアメイトの体調を把握するために、「体調管理表」を活用している。本人に「元気」「普通」「やや不調」「不調」と4段階でマグネットを貼ってもらい、「やや不調」「不調」としたケアメイトには、上司などが面談を行っている。

面談をとおして、その理由を聞き、職場内で対応が難しい場合、必要に応じて支援機関につなぐなどの対応を行っている。 

（カ）日頃からの声掛け・様子観察

所属部門の職員が、日頃からケアメイトの働く様子の観察や声掛けを行い、「褒める」「承認する」ことで、ケアメイトが組織への貢献度・帰属意識を感じられるように配慮している。

 

（2）取組の効果

支援機関を含む関係機関と連携しながら、募集・採用活動を進めることで、ミスマッチを防ぎ、戦力となるケアメイトの採用につながっている。シーツ交換や配茶、片付けなど、これまで介護職・看護職が担っていた間接的な周辺業務をケアメイトが担うことで、介護職・看護職にしかできない専門的な介護・看護業務に専念する時間ができ、他の職員の業務の負担軽減につながっている。

今後の展望としては、障害者雇用50名を目標としている。障害者だけでなく、外国籍の方や高齢者などの多様な人材の積極的な活用などを進め、「誰もが働ける職場」を目指している。

介護専門学校の定員割れなどの介護人材の不足が深刻化しており、現場からもケアメイトの増員の意見が挙がっているものの、法定雇用率の引き上げ及び除外率の引き下げなどの背景から、他の企業も障害者雇用に積極的に取組を進めているため、障害者の応募数が減少している。

また、障害者雇用は現場の理解が大切であるが、一人ひとりの障害特性や生育歴などは様々であることから、「現場へ、どこまで障害特性や配慮事項を伝えるか」という難しさがある。特に、ケアメイトが抱えるプライベートな事情については、「雇用主はどこまで踏み込むのか」という線引きの難しさがあるため、関係機関などと連携を図りながら解決に向けて取り組みたいと考えている。

ケアメイトの存在は、ケアメイト業務に関与している職員には理解が深まっているが、より組織全体に周知を広げるため、障害者雇用に関する職員研修や、ケアメイトと職員の交流会などを検討している。ケアメイトが誇りを持てる職場となるよう、「多様性を認めて受け入れる風土づくり」や「障害者を特別扱いせず、大切な仲間として受け入れる組織づくり」を進め、障害者雇用をさらに推進し、地域の患者・利用者・職員にとって安心できる病院・福祉施設でありたいと考えている。