（1）事業所の概要

コマツNTC株式会社（以下「当社」という。）は平成20（2008）年に建設機械・車両などの製造メーカーである株式会社小松製作所（以下「コマツ」という。）のグループ企業となり、現在の社名に改称している。国内外の自動車業界や半導体業界を中心に、工作機械、ワイヤソー、車載電池設備など多岐にわたり世界経済の成長に欠かせない生産設備を提供している。

世界の総合工作機械メーカーとして、「品質と信頼性」を追求し“カーボンニュートラル”や”半導体需要”などの環境変化に対応し、顧客ニーズに答える技術・商品を提供し、高付加価値な独自の技術で常に新しい製品を生み出しビジネスパートナーと共に世界標準機（Global Standard）を世界中のお客様にお届けしている。

それを支える「５Ｓの文化（整理、整頓、清掃、清潔、躾）」の醸成に注力すると同時に、「プラス１Ｓ」（Safety=安全）を徹底し、誠心誠意でCSR（企業の社会的責任）を果たすべく日々取組んでいる。

 
　＜モットー＞
　　「品質第一主義」と「顧客満足度向上」

　＜概要＞

　社名          コマツNTC株式会社

　本社住所      富山県南砺市福野100（国内外に工場・営業所などあり）

　代表者        取締役会長　　　帯金　英文
　　　　　　　　　代表取締役社長　高橋　正明

　設立          昭和20（1945）年7月

　創立          昭和25（1950）年7月

　資本金        60億1,455万円

　従業員数      単体　1,183名（男980名　女203名）（2023年3月末現在）

　連結          1,755名（男1,466名　女289名）　
　　主な事業内容  工作機械、産業機械の開発・設計・製造・販売（トランスファーマシン、マシニングセンタ、
　　　　　　　　　クランクシャフト加工機、各種研削盤、太陽電池・半導体製造装置、電池製造装置・検査装置など）

 

また、社会福祉活動として「ジョブボン」（注1）への協力、地域貢献活動として地元の皆さんと花植え・除草ボランティアの実施や、「14歳の挑戦」(注2)・会社見学・インターンシップ受入れなど、積極的な活動で地元南砺市に貢献している。

障がい者雇用については、平成21（2019）年より総務部の直下に障がいのある社員を中心に構成されたビジネスクリエーションセンタ（以下「BCC」という。）を本社工場に設立した（注3）。現在、BCCでは社内便の集配業務と清掃業務をメインに、各部の協力のもと、各部の社員と共に様々な業務に従事している。本稿では当社の障がい者雇用について、BCCの取組を中心に紹介する。

 

（注1）「ジョブボン」はJOB（仕事）＋本の造語で、一般社団法人ワーキングバリアフリーが進める活動。会社や団体の協力により役目を終えた本を回収し、障がい者就労施設で再生、ネット販売を通じて再び必要な人に届けることで、本のリユースと障がい者の就労支援を目指している。

（注2）「14歳の挑戦」は、富山県内の中学2年生13・14歳を対象に富山県内で行われている職場体験学習事業の略称。事業所や福祉施設などでその一員として活動する（日数は5日間で一日の活動時間は7時間を越さない）。富山県が始めたものだが、ほかの地域でも行われている。

（注3）「ビジネスクリエーションセンタ」はコマツが始めた取組であり、コマツのグループ企業でも設立している企業がある。以下、特に断りがない場合にはBCCは当社のBCCを指す。

 

（2）障がい者雇用の経緯

ア．新たな取組に向けて　

当社の製品は、お客様のオーダーメイド製品を主としている。その特徴からこれまでの障がい者雇用は、軽度の身体障がいがある方を中心に行ってきた。

しかし、工作機械や産業機械などのメーカーとしてグローバルに事業を展開するなかで、社員数は国内外合わせ1,000名を超えるなど、増加の一途をたどり、雇用すべき障がい者数も増加していた。また、法定雇用率の対象となる障がい種類が拡大するなど、多様な障がいのある方を雇用することが企業に求められるようになってきた。そうしたなかで、当社が法定雇用率を達成するとともに、障がいのある社員の戦力化などを図るには、これまでの障がい者雇用の進め方や体制を変えることが必須となった。そこで検討を重ね、軽度の身体障がい者、精神障がい者だけでなく、雇用拡大のために知的障がいのある方も計画的に採用することとした。そして、障がい者雇用を進める専門部署としてBCCを設立することとした。

知的障がい者の採用については、まずは特別支援学校（以下「学校」という。）の生徒さんの職場実習（以下「実習」という。）を受入れることから始めることとした。実習に先立ち、関係者（学校の先生、親御さん、ハローワークや就労支援機関の担当者など）に当社の考えや就業環境などを理解いただくことが大切と考え、会社においでいただき、説明や見学、意見交換などを行った。

 

イ．BCCの設立

BCCは、障がいのある社員が力を発揮するとともに、継続的な雇用につながることを目指して、本社総務部の中のひとつの部門として設立した。障がいがある人とない人が共生するノーマライゼーションの理念に基づき、障がいのある社員と障がいのない社員が同じ職場で活躍できることを目指している。

BCCは、知的障がいのある社員と精神障がいのある社員（以下「メンバー」という。）と、メンバーの指導や社内調整などを行う社員（以下「指導員」という。）で構成されている（筆者も指導員の一人である）。BCCの設立に際しては、指導員はコマツグループ内企業のBCCや地域の就労支援機関から、障がいについての知識や障がい特性に応じた指導方法などについて情報収集を行った。

設立時のメンバーは3名（知的障がいのあるメンバー2名、精神障がいのあるメンバー1名）に対し、指導員は1名、担当する仕事は清掃や簡易な事務作業であった。メンバーを指導するのは専門機関の指導者ではなく、総務部より抜擢された社員である。

　なお、BCCの社員（メンバーと指導員）以外の社員については、便宜的に以下「社員」と表記する。

 

（1）取組の概要

ア．受け入れ準備

BCCという専門的な部署が当社にあることをハローワークより発信していただいたところ、学校以外からも多数の問い合わせや応募があり、その都度BCCが中心となり会社見学を行った。その際にも、ハローワークや就労支援機関などの担当者には就職希望者とともに同行いただき、業務内容や就業環境をご覧いただくとともに、希望者が当社で働く場合に必要な就業環境の整備や工夫などについて確認した。そして、採用が決まった場合には、確認内容に基づく受入れ準備を行った。

受入れ（採用）の際には、指導員からメンバーに対し、新しいメンバーを温かく迎えること、互いに助け合うこと、互いを理解することを熱意をもって指導し、採用後のフォローも行った。令和2（2020）年には9名をBCCに受け入れた。

 

イ．入社時教育

新たに採用したメンバーに対する入社時教育にも力を入れている。コマツグループの一員として、同じベクトルを持って働けるよう、５Ｓの文化をはじめとした安全活動・コマツの行動基準・コンプライアンス・情報セキュリティなど、必須とされている内容を、メンバーにも分かる言葉、教材に落とし込み、教育を行っている。

 

取組のポイント

・障がいを持つ方に適した職場環境を整える

・メンバー同士の信頼を大切にする

・コマツグループの一員である自覚を育てる

 

（2）担当業務

　先に紹介したようにBCCの業務は社内便の集配業務と清掃業務からスタートした。次に両業務の取組について紹介する。

ア．集配業務の取組　

（ア）集配業務について～社内便内製化へのチャレンジ～

東京ドーム3個分の敷地を持つ本社工場では、「郵便・宅配便・メール便」などの集配業務を協力企業に委託していたが、その業務をBCCの業務とする内製化に取り組み、まず敷地内にある各部署（約30か所）の集配先と作業内容を知ることから始めた。

BCCで確実かつ無理なく作業が行えるように、指導者とメンバーとで根気よく準備を行った。作業全体の把握から始まり、どのようにすれば作業しやすく、かつ、間違えることなくできるようになるのかという視点で、メンバーの特性を考えつつ担当できる業務の範囲と手順を決めていった。

また、1.5km離れた場所にある工場への自動車による集配もあったが、移動ルートや安全な駐車位置の確認、構内歩行ルールの徹底などを、指導者とメンバーが何度も一緒に練習した。

（イ）実施体制と作業内容などの工夫、具体的な取組の例

協力企業では担当者がひとりで集配車に乗り、作業を行っていたが、この作業をメンバーひとりに担当させることは難しいと考え、作業を細分化し、ふたり体制で役割を分担し、一緒に行動することと、作業の見える化を始めた。

そして、メンバーの特性や作業能力に応じて少しずつ覚えていけるスモールステップ方式により習熟するための取組を進め、ふたりで協力企業の担当者と同じ行動ができるようにしていった。次に紹介するのはそうした取組の例である。

 

A　取組例1：「宛名、事業所所在地の確認」 (留意点：事業所名や所在場所が頻繁に変わる)

＜内容（工夫や調整の内容、経緯など。以下同じ）＞

集配部署の正式名称、略式名称、以前の名称 (何度目かの名称変更があり、複数の名称がある場合もある) を学習し、現在の所在場所を確認した。

 

B　取組例2：「集配経路の確認、選定」 (目標：徒歩、車でも行えるように)

＜内容＞

・敷地内を3ブロックに分け、各ブロックの集配ルートを検討した。

・1.5km離れた工場への集配ルートを含め、BCCから各ブロックまでの距離と作業時間を見込み、午前・午後と一日のスケジュールに組み込んだ。

 

 　　　　　集配経路の検討に使用した構内図

  

C　取組例3：「一日のスケジュールの確認」

＜内容＞

・集配回数や時間の確認　(部署によって異なる。一日2回、午前、午後のみ、必要なときのみなど)。

・郵便、宅配便、社内の書類の集配など、複数の形態で物が届き、届く時間も日によって変わることがある。臨機応変な対応を苦手とするメンバーには、事前にこのようなことが起こることを繰返し説明し、イレギュラーな事態にも慌てずに対応するように指導。

 

D　取組例4：「天候や集配手段の変化・変更に応じた道具・用具などの選択」

 (天候や集配物の状況に応じた道具・手段（運搬機器、徒歩・車など）の選択を適切に行う)

＜内容＞

・天候対応　→　雨具・防寒具・傘

・運搬手段　→　キャリーカート (段差も越えられるもので、必要に応じて使用)

鞄 (郵便物を仕分けして入れるビニールケースの大きさに合わせ、使用時の強度と重さも含めて検討し作成)

サブバッグ (折りたたみのできる手提げ袋)

ビニールケース (集配物を濡らさない・運搬時に郵便物が混ざらないよう仕分けに使用)

・安全面　→　　車の運転を行うメンバーには運転適性検査による指導および運転講習の実施

ヘルメット・安全靴の着用 (敷地内の移動はヘルメット・安全靴着用)

 

E　取組例5：「環境整備、コミュニケーションの教育」（メンバーと社員の意思疎通を図る）

＜内容＞

・集配中のメンバーが社員に質問を受けた際には、必ず指導員が回答する流れをつくる。また、メンバーの障がいを認識せずに、口頭での依頼や質問を続ける社員がいたことから、「支援や援助を必要としている」ことが分かるよう、メンバーと合意の上で、ヘルプマークを着用することとした。

・メンバーが重要書類（車検証など）を収受する際には、担当社員からのサインを記録する書類(「重要書類受領簿」)を新たに作成し、対応いただけるように各集配部署へ依頼した。

・集配物には、配達物と廃棄文書などの回収物があるため、専用の箱を準備し、区別しやすいように「配達」あるいは「回収」と表記する。また、箱の置き場所を固定した。

・集配部署の漏れなどがないように、「配達等確認表」を作成し、メンバーは「配達」と「回収」が終わるごとに確認、記録することとした。

・社内便の宛先記入様式が統一されていないため、ミスの出ることが想定されたので、様式の統一についてBCCから提案し、統一化された。

・各集配部署へ入る際の適切な挨拶についての教育にも力を入れた。部署によっては一日に何回もまわるため、時間帯に応じた挨拶や声かけができることを目指した。その際の言葉（表現）はBCCで日常行われているものに統一し、継続的に練習した。障がい特性としてコミュニケーションが苦手なメンバーもいたが、BCCで毎朝笑顔で挨拶することなどを継続することで、徐々に挨拶できるようになっていった。また、メンバーの適切な挨拶や仕事ぶりに接することで、社員のメンバーに対する理解や評価、協力につながっていった。

 

【練習例】

集配部署（事務所）へ入るとき：「お疲れ様です。」

事務所を出るとき：「失礼しました。」

 
　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　【練習用教材】

　　　　　　　

 イ．清掃業務の工夫など

BCCでは、会議室、来客用玄関、男性用ロッカー、女性用ロッカーの清掃を担当している。担当内容（清掃場所と作業内容）と担当者を明記した当番表を作成し、メンバーは当番表に基づき作業する。　　

担当場所の選定にあたっては、実施のタイミングをある程度変えられる場所を選定した。それは、メンバーが不調でいつもと同じように始められないときがあっても、気持ちを落ち着かせてからとりかかることが可能な場所に限定するためである。調子が悪いのに焦らせることのないような環境づくりが大切と考えている。

また、人によって掃き方・拭き方が異なり、誰が合っているのかなどのトラブルになったため、全員が同じ方法で行えるよう、アビリンピックの映像を参考にマニュアルを作った。マニュアルには、BCCが実際に担当する場所の作業風景の写真も入れ、リアリティのある「見える化」に配慮した。

 

ウ．更なる業務の拡大

BCCではメンバーの職域拡大を目指し、社内調整を図った。具体的には、スキャン作業、CAD作業、取扱説明書の作成、工場見学の準備と片付けなどである。

　拡大を進める際には余裕をもって作業できるように、基本的に短納期以外の業務を受け入れるようにした。なかには納期が少々短い仕事の依頼もあったが、依頼部門の協力も得て、部分的に取り掛かるなどにより早め早めの作業を可能にするなど、メンバーに寄り添った仕事の進め方ができた。

また、ある部門からスキャン作業を受けた際には、文書によるマニュアルではなく、当該部門の社員がモデルとなって作業手順を動画で撮り、注意書きも挿入した「見えるマニュアル」を作ってくれた。メンバーはその映像を見ながら作業を進めることができ、分からなければ見直すこともでき、安心感をもって担当することができた。

 

（3）BCCにおける雇用状況と定着に向けた取組

ア．雇用状況

　BCC設立以降の雇用（採用）状況は下表のとおりであり、現在は9名がBCCに所属している。

なお、指導員は設立当初は１名でスタートしたが、現在は2名に増員している。

　　 
　　　　　　　　　　　BCCにおける年度別採用状況

 

イ．雇用形態とコミュニケーションの重視

メンバーは有期雇用（一年間）からのスタートとなる。一年の雇用期間の間には2回の業務評価（指導員とメンバーの面談含む）を行い、終期には一年を振り返りながら、各人の意向確認などを行う。雇用継続を希望する場合には、今後の目標を確認したうえで、雇用を継続（更新）している。BCCでは、本人が継続を希望する場合には基本的に継続雇用している。また、ステップアップ制度も設けており、5年を超えて雇用するメンバーについては、本人が希望すれば無期雇用に移行することも可能としている。

指導員はメンバーとのコミュニケーションを重視しており、先の評価のタイミングだけでなく、日常的に細かく時間をとり、信頼関係の構築に努めている。その際には、メンバー自身は何を苦手としているのか、どのように対応するとパフォーマンスの向上につながるのかなどについて、自分の言葉で話をしてもらうようにしている。そこからも指導員は各人に応じた指導方法について多くを学んでいる。

 

ウ．定着を目指した様々な取組

（ア）安全教育

当社では安全教育に力を入れており、毎月一回の「安全の日」を設け、危険予知訓練（KYT）を行っている。BCCでもメンバーに対するKYTに取り組んでいる。その際には、「（メンバーは）障がいがあるから危険のリスクに気づかない」、「危険への対処法が分からない」といった予断を排し、メンバーが理解できる設定や説明を行い、各人の「気づき」を大切に、いろいろな考えが出るようにした。そうすることで、「このやり方は難しいけど、このやり方ならできる」などの前向きな発言が多くでるようになっている。

また、地域の交通事情から、メンバーのほとんどが車通勤のため、毎朝の朝礼時に交通KYTを行っている。法令順守、歩行者への配慮などについて、毎日メンバーが交代で発表し、安全運転への意識などの向上を図っている。

（イ）「BCCニュース」による情報発信

社内への活動報告として毎月「BCCニュース」を発信している。BCCの毎月の作業内容、メンバーへの教育内容、メンバーの近況などを発信することで、BCCの活動や可能性について社内共有ができている。そして、社内各部署から「この業務であればメンバーに業務を依頼できるのではないか」などの連絡があり、実際に新たな業務につながることもあった。

（ウ）朝礼・昼礼・終礼の活用

BCCでは、毎日、朝礼・昼礼・終礼を行っている。

朝礼では一日の始まりにお互いの安全を確認することから始めている。

　【朝礼の内容例】

1.連絡事項の共有、作業確認

2.健康・身だしなみのチェック

５Ｓのひとつである「躾」として、二人一組のペアになって指差し呼称チェックで行う。

以下は具体例。
　　・健康・・・（互いの健康状態を確認）「確認よし！」（胸を指す）
　　・あいさつ・・・（笑顔であいさつ）「笑顔であいさつよし！」（顔を指す）
　　・服装・・・（身だしなみの確認）「服装よし！」（胸を指す）
　　・バッチと名札・・・「バッチと名札よし！」（名札を指す）
　　・安全な靴・・・「安全な靴よし！」（足元を指す）

 

昼礼では、スケジュールの変更の連絡や体調の確認を行っている。

終礼でも、必要な連絡や確認などを行うが、毎週金曜日には一週間の振り返りを実施している。メンバーからは、業務中の良かったこと、困ったこと、改善したいことを発表している。また、信頼関係を強化するため「褒め合いタイム」も実施している。「褒め合いタイム」は、メンバーを褒め讃え合う時間であり、始めた当初はなかなか言葉が出にくいという印象はあったものの、誰かがひとつ発言してくれると、次々に褒める言葉が出てくるようになり、現在では活発な交友の場となっている。普段の作業場面でメンバー同士の声掛けなどはあるものの、あらたまった褒め言葉となるとなかなか口に出しにくい人が多いが、「褒めあいタイム」では皆が活発に発言でき、信頼関係づくりにつながっている。また、みんなの前で褒められることはメンバーの自信や自尊心の向上につながっている。

【褒め言葉の例】

「○○さんに荷物が重くないか気遣ってもらえてうれしかった。」

「○○さんのあいさつが元気でこちらもパワーをもらえた。」

「新入社員の〇〇さんが大きな声で返事をされていてよかったと思う。」

　　

（エ）「コミュニケーションタイム」

メンバーの人となりを知り、相手に興味を持って、コミュニケーションをとることを目的に週2回（水曜日・金曜日）の「コミュニケーションタイム」を行っている。そこではメンバーが自分の趣味や興味のあることなどについて発表することや、ゲームなどを通じてお互いを理解し、更なるコミュニケーションを円滑に進める機会となっている。

【活動例】

・絵しりとり

・クイズ、連想ゲーム、トランプ、自分紹介など

 

（オ）全社的に行うボランティア活動

駐車場から会社に到着するまでの通路に地域の方が植えられた花壇がある。当社の社員の和みになればと植えていただいたお花が、少しでも長く咲き続けられるように、除草などのボランティア活動を社員と一緒にメンバーが行っている。また、本社の敷地内には南砺市が所有している緑地公園がある。その緑地公園の生物調査や環境整備（清掃など）に関しても社員とともにボランティア活動を行っている。花壇や緑地公園は地域の方にも開かれており喜ばれているもので、ボランティアとしてかかわることは地域社会への貢献であるともに、メンバーと社員との交流が図れる機会でもあると考えている。

　BCCは、今でこそ当社組織の一つとして社内で認識されてきたが、設立当初はメンバーが挨拶して集配部署に入って行っても、集配部署の社員は「誰がきたのだろう？」というような様子で、なかなか障がいのある人たちが「ともに働いている仲間である」という理解や、障がいに応じた配慮は難しい状況であった。

そういう状況の中で、BCCは、社員同様に安全確認 (指差呼称)を当たり前に行い、集配部署への出入りの際には元気に大きな声で挨拶するということをメンバーに徹底させた。時には挨拶が返ってこず、落ち込んで事務所に戻る日もあったが、「大切なことは何か、自分はどうしたいのか」を話し合い、メンバーのモチベーションを維持する寄り添いを続けた。メンバーが毎日継続して行動した結果、いつの間にか「BCCの挨拶は素晴らしい」、「いつも元気な声をありがとう」と感謝されるようになった。その結果、障がいのある人たちが「ともに働いている」という状況が徐々に理解され、各集配部署の社員たちも挨拶を返すようになり、にこやかに接してくれるだけでなく「今日はいつもより元気がなかったように思う」などメンバーを心配する声もBCCに届くようになった。メンバーは、同じ会社で働くひとりの社員として見られることが社内で当たり前になったと感じている。

BCCの担当業務についても、障がい特性に応じた工夫や配慮があればメンバーは十分こなせること、そうした工夫は障がいのない社員にとってもやりやすいことが広く理解されるに伴い、「こんな工夫を考えてみたので、BCCでこの仕事を担当してもらえないだろうか」というような連絡が入るようになった。設立5年を経て、メンバーが中心になる作業も増えてきた。もちろん、毎日うまくいくことばかりではなく、スローステップで仕事をするメンバーに各部署が寄り添ってもらうことも多い毎日でもある。しかし、そうした現状は、BCC設立当初より当社が目指してきたノーマライゼーションに沿った企業活動に近づいてきたと確信している。

（1）今後の課題

当社は世界の総合工作機械メーカーとして生産活動を行っている。BCCはこの生産活動により多くの貢献をすべく、メンバーの業務を創出していく必要がある。また、今後の障がい者雇用には更なる多様性などへの対応が求められることも考えると、担当業務の拡大・作業量の確保も重要と考えられ、具体的に検討していく必要があると考えている。

さらに、ワーク・ライフ・バランスの視点から、仕事と生活の両面をメンバー自らの力で考え、自立した社員へと成長するための教育や支援教育も必要と考えている。

 

（2）まとめ～最後に～

筆者はBCCの立ち上げ段階からかかわってきた。当時を振り返ると、今もなおそうかもしれないが、筆者自身も障がいについて理解できているようでできていない点があり、まだまだ勉強中の身である。メンバーに伝えたことに対して何の反応もなかったり、急に休まれたり、時には対立するかのような厳しい言葉をメンバーから聞いたこともあった。しかし、同じ会社で働くひとりの社員として、真剣に真心をもってコミュニケーションを重ねることで、信頼関係を構築できてきたことを日々の業務で実感している。メンバーにはそれぞれに個性があり、その個性を活かし仕事を成功させていく醍醐味も味わうこともできた。メンバーの頑張りたいという気持ちがある限り、私たち（当社、BCC）は働きやすい環境を提供していく必要があると考えている。

また、真のダイバーシティ＆インクルージョンの実現は、障がいの有無にかかわらず、そこに働く人の「人柄育成」が必要であると筆者は考えている。部門を越えたつながりと心のかよったコミュニケーションで心理的安全性のある「働くことが楽しい職場づくり」を全社に広めていきたいと考えている。そして、筆者の指導員としての心得は「にっこり笑って、聴く・待つ・褒める」である。笑顔をもって、どうしたらできるか意見を聴く、できるまで待つ、できたら褒める、そのシンプルなやり取りでメンバーの可能性を引き出し、障がい者雇用にまい進していきたいと考える。

 

　「さ（支え合い）わ（和をもって）や（やりがいがある）か（感謝される）企業活動」を目指し、BCCは今後も活動を展開していく。