ジブラルタ生命保険株式会社（以下「当社」という。）では、障害の有無に関わらず、一人ひとりの社員が貴重な戦力であり、業務能力をいかんなく発揮してもらいたいと考えている。現在、さまざまな障害のある多数の社員が、さまざまな部門において、それぞれの適性や能力を活かした仕事に就いている。特に、精神障害、発達障害、知的障害のある社員の配属に際しては、専門チームであるジェネラル・サービスチーム（以下「ＧＳ」という。）において、本人のこれまでの業務経験・適性・障害の程度を、担当のジョブコーチが充分に考慮して担当業務を決め、必要なサポートを実施しており、ＧＳが関わった社員の入社1年後の定着率は90%以上を維持している。本稿では当社における障害者雇用について、ＧＳの取組を中心に紹介する。

当社は、世界最大級の金融サービス機関、プルデンシャル・ファイナンシャルの一員として平成13（2001）年4月に営業を開始した。複数企業との統合による社員数の増加に伴い、障害者の実雇用率が低下したため、障害者雇用への取組を進めていたが採用は難航していた。当時は精神障害者・発達障害者・知的障害者の採用に積極的な企業は少なかったが、法定雇用率の対象に精神障害者が加わったこともあり、当社では障害者雇用専門チームであるＧＳを平成25（2013）年に設置し、精神障害者・発達障害者・知的障害者の採用を積極的に行った。その後、当社の実雇用率は徐々に向上し、令和5(2023)年6月時点における実雇用率は2.7%となった。

ＧＳのスキームを紹介すると、設置されているのは本社の人事部門である。当社では本社機能が東京の品川と長崎の2拠点にあり、ＧＳは両本社に設置されている。メンバーには企業在籍型ジョブコーチ（以下「ジョブコーチ」という。）の認定を受けた者も配置されている。ＧＳは先に紹介したように精神障害のある社員、発達障害のある社員、知的障害のある社員の採用・配置、定着などに関するサポートを行う（サポートを行う社員を以下「サポートスタッフ」という。）。サポートを受ける社員（以下「障害者スタッフ」という。）はサービスチームに所属し、本人の適性や希望などに応じて各本社内の業務に従事している。なお、ＧＳではチームに所属していない障害のある社員についても、必要に応じてサポートを行っている。

障害者スタッフは、生命保険に係る事務業務を行う各部門（以下「派遣先チーム」という。）に派遣され、補佐業務を担当している。ＧＳでは、ジョブコーチの認定を受けたスタッフが派遣先チームの担当者と毎月面談を行い、障害者スタッフの業務進捗状況を確認し、お互いが協力して対象社員の成長を促している。また、ＧＳでは対象社員に対して、ベーシックなビジネススキルを身につけるための研修を定期的に開催し、個々のスキルアップのための機会を提供している。

両本社には、簡単な手作業から慎重な取扱いが必要な個人情報を取り扱う作業まで様々な業務がある。ＧＳでは、幅広い様々な難易度の業務の中から、一人ひとりの障害特性や得意分野に合わせた業務を設定している。例えば、手作業は苦手だがパソコンスキルが高い社員には、システム開発系の業務を設定する。パソコンスキルは高くないがイラストが得意な社員には、イラスト制作やデザイン系の業務を設定する。判断することは苦手だがマニュアル通りにこなしていくのが得意な社員には、単純作業を大量にこなす業務を設定するといった、多種多様な業務の設定を可能としている。業務のミスマッチが生じた場合は、本人と相談の上、配置転換をするなど、改めてマッチングを図っている。

知的障害のある社員には、業務をスムーズに覚え、覚えたことや能力を発揮できるよう、毎日の仕事の全体像を示す作業管理表の作成、絵や写真を使ったマニュアルの作成などの工夫を行っている。また、ＧＳのジョブコーチに加え、定年後の再雇用者をサポートスタッフとして配置し、業務指導などを担当してもらっているが、知的障害のある社員の場合には家庭との連携や協力が不可欠であることから、6か月に一度、家族との情報連絡会を開催し、家族に職場環境などを理解してもらえる場を設けている。

視覚に障害のある社員には、視覚障害者用の画面読み上げソフト、音声拡大読書器を導入・活用している。

聴覚に障害のある社員に向けては、手話通訳士の資格を持つ正社員2名を採用した上で配置している。さらに、音声文字変換ソフトの導入及びコミュニケーションボードの活用などにより、情報保障を行っている。

精神障害のある社員や発達障害のある社員の勤務時間については、入社時は6時間勤務からスタートし、体調に応じて徐々に時間を延長し、最終的にはフルタイム勤務で働くことを目標としている。また、障害のある社員にも対応した評価制度を導入し、本人が行っている業務のレベルや勤務時間に合わせた報酬体系で運用することで、本人のモチベーションアップにつなげている。

(1)障害者が働きやすい環境づくりのために、ジョブコーチの認定を受けた社員が全面サポート！
　ＧＳでは、品川・長崎両本社で合わせて10名のジョブコーチを配置している。障害者スタッフ一人ひとりに担当のジョブコーチが付き、カウンセリング、育成、定着を図っている。定期的な面談に加え、体調が良くない時はすぐに面談を実施するなど、不調の原因に応じて臨機応変な対応を実施している。体調や症状の程度に応じて社内の産業医との面談、本人の主治医からの助言を得たり、本人が登録している支援機関の協力を得るなど、本人の体調が戻るまで複数機関と連携してフォローしている。品川本社には、精神保健福祉士と社会保険労務士の資格を持った社外コンサルタントが常駐しており、何か不安なことがあった場合は、業務以外の相談にも対応できる場を設けている。

　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　長崎本社での面談の様子

(2)本社で直接採用し、障害者のある社員との協働・共生の実現！

障害者スタッフの採用は両本社のＧＳで行い、入社後はＧＳに所属の上、障害特性に合わせた業務を設定し、当該業務を担当する派遣先チームで業務に従事する。障害者スタッフは各派遣先チームで障害のない社員と一緒に働きながら、個々のペースで業務のステップアップを目指している。下の図は入社後の成長モデルをステップごとに示したものである。

　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　入社後の成長モデル

こうしたステップを踏むことで成長し、担当業務の幅が広がり、障害への配慮事項が減っていくケースもある。また、派遣先チームでの業務で力を発揮した障害者スタッフが、補助的業務を中心に担うことで、ほかの社員がコア業務により集中できる環境となり、派遣先チーム全体の効率化や残業削減に貢献したケースもある。

(3)社内での障害理解促進活動を、障害者スタッフ自らが企画・運営！
　スキルアップや自立を目的として、ＧＳ内にコミュニケーション委員会、コンプライアンス委員会、環境整備委員会など6つの委員会を設け、障害者スタッフが中心となって運営している。各自の取組をチーム全体でのミーティング内で発表するなど、キャンペーン企画などを通して障害者スタッフ一人ひとりの意見が反映される体制を取ることで、より良いチーム運営を計っている。また、「チームのためにやりたいこと」を気軽に話し合える風土があるため、障害者スタッフのアイディアをプロジェクト化し、それに賛同するメンバー同士でプロジェクトを推進している。更に社内での障害理解を促進するため、年一回、国の障害者週間中に社内でも「障害者週間フォーラム」を開催している。このフォーラムも障害者スタッフが自ら企画・運営しており、社員から「分かりやすい」、「知らなかった障害や特性が分かり、自分も気を付けようと思う」などの感想が毎年多く上がっている。当事者だからこそ伝えられるということが、効果につながっていると感じている。

(4)3年間での自立とスキルアップを目指すビジネスモデル体制
　当社では、原則として、入社後3年間での自立・スキルアップを目指しており、入社3年目には障害者スタッフと担当のジョブコーチで、今後の働き方を考える話し合いを設けている。話し合いでは、これまでの状況や現状の能力を確認し、引き続き当社で継続して働きたいか、事務職以外の職業に就きたいかを考える。また、それ以外の選択肢、例えば専門学校で学び直すかなど、各人の将来の進路について幅広く考える機会としている。これを踏まえて、社外でのステップアップを本人が希望する場合には、ジョブコーチと一緒に転職活動などを行い、更なるステップアップを目指している。当社でのステップアップを希望する場合には、一定基準を達成できるようジョブコーチと一緒に更なるスキルアップを目指すことになる。つまり3年間で当社とのマッチングを図り、その後は一人ひとりが輝ける場所を探し、自己を確立させていく体制としている。

　現在は、品川・長崎両本社内での業務支援が中心だが、令和4（2022）年8月から、営業職社員にも少しずつ障害者雇用に対する理解を深めてもらうため、本社近隣の支社・営業所への業務支援を増やし、営業事務の補助的業務を開始した。今後は全国の支社や営業所、営業部などで障害者の業務支援を広げていきたいと考えている。そして全国の当社の仲間から、何か困ったことがあったら「そうだ、ジェネラル・サービスチームに相談してみよう」と信頼される存在を目指している。また、社内だけでなく、品川・長崎それぞれの地域の障害者への理解促進活動も積極的に行い、地域の障害者に関わる方々と協力して、地域全体で障害者に優しい環境となるような取組を行っていきたいと考えている。その先駆けとして、令和5年度には長崎本社では、長崎県や障害者雇用に積極的な近隣の企業と協力して、長崎県庁内で「ながさき障害者フェス」を開催した。このフェスでは障害者本人に向けての企業説明やお仕事体験ブース、障害者座談会に加え、障害者を雇用することに壁を感じている企業の担当者や、障害者雇用のノウハウを知りたい企業に向けて、障害者雇用の事例紹介や雇用相談ブースを展開した。また盲学校専攻科生徒によるあんま体験（無料）も実施するなど、社会全体で障害者雇用が広がる一助となることを目指している。今後は活動地域を拡大し、一人でも多くの障害者が楽しく働ける環境作りに協力していきたいと考えている。