（1）事業所の概要
　株式会社星光舎（以下「同社」という。）は、株式会社ダスキン（以下「ダスキン」という。）と契約を結び、ダスキン滋賀工場（以下「同工場」という。）として、レンタル用ダストコントロール商品の洗浄、仕上げと配送までを担当している。工場の創業は1998（平成10）年10月である。
　担当エリア的は滋賀県全域と京都府、愛知県の一部を受け持ち、48か所の営業所から回収された商品（ウエス、モップ、マット）を集約し、洗浄などの工程を経て各営業所に配送している。

（2）障害者雇用の経緯
　同工場の障害者雇用は、工場の立ち上げと同時期に2名採用したことに始まった。立ち上げ当初は人手が必要な時期でもあり、ハローワークに求人を出していたが、その際、工場にとって必要な人材として採用した方の2名が障害のある方であったとのことである。
 「やる気があれば障害のあるなしは関係ない」という先代社長の考え方と、業務の中に障害のある方の特性にマッチしやすいものがあったこともあり、その後も採用を継続し、現在は障害のある従業員が6名在籍している。6名の平均勤続年数は16年で、そのうち3名の方は勤続25年以上となる。
　採用については、ハローワークの障害者求人への応募者がほとんどであり、採用の前に職場実習（以下「実習」という。）の機会を設けることとしている（実習の目的などについては「3．取組の内容と効果」で紹介している。）。
　採用後はフルタイム勤務が基本となるが、時差出勤・短時間勤務が可能な制度を就業規則に定めている。これは障害のあるなしに関わらず、全従業員が対象で、個人の状況に応じて利用できるようにしている。特に障害のある従業員については、無理なく通勤できるようにバスの時間に合わせて出勤時間を調整したり、採用当初は短時間勤務とし、慣れていくにつれて勤務時間を延ばしたりするなど、各々の特性に合わせて柔軟に対応できるようにしている。

障害のある従業員6名は全員が、工場内においてクリーニングの作業工程に従事している。障害別に従事業務（作業）を紹介すると以下のとおり。

・精神障害のある方（1名）・・集められた使用済のウエス・モップ・マットを検品し種類ごとに仕分ける作業

・肢体不自由のある方（1名）・・仕分けられたウエスを洗濯機に投入する作業

・知的障害のある方（1名）・・仕分けられたマット・モップを洗濯機に投入する作業

・知的障害のある方（1名）、精神障害のある方（1名）・・洗浄、乾燥後のマットのしわを伸ばす作業

・知的障害のある方（1名）・・仕上げと検品が終わった商品を配送するため、ロケーション（商品ごとに指定された保管場所）へ納入する作業

　作業工程としては以下のとおり。

次々と到着するレンタル商品を検品後、種類に分けてさらに洗濯機に投入するために200kgごとに仕分ける。仕分けは作業工程の初期段階の工程となるため、スピードと集中力が欠かせない。

　次に仕分けられた商品を洗濯機に投入する作業となるが、200kgの商品が一度に入る大型の洗濯機に投入するため体力が必要となる。

　洗濯、乾燥が終わったマットを伸ばし台に積む作業となるが、続々と搬出されてくるため、作業の素早さが求められる。

　検品を経て配送ができる状態になった商品を種類ごとにロケーションに納入する作業は、配送前の最終段階の作業であり、確実性が求められる。

　（１）作業環境づくり

同工場ではヒューマンエラーをなくすために、誰が見てもわかりやすい表示や誘導をしている。

　例えば、配送の作業工程におけるマットなどのロケーションでは、商品名ではなく、マットの裏に印字している記号（アルファベットと数字）と同じものを棚にも大きく表示し、同じ商品がどこにあるか、わかりやすく誘導できるようにしている。

　また、作業手順書においても、文字だけでなく視覚的に分かりやすいようにそれぞれの手順に写真を付け、その手順書は作業中いつでも確認できるように現場で保管している。

　このように誰が見てもわかりやすいようにすることで、結果的に誰にとっても働きやすい環境となっている。

　　　　　　

　　　　　　　　ロケーションの表示例（1）　　　　　　　　ロケーションの表示例（2）

(2)体制づくり

　障害のある従業員が勤務する部署においては、当該従業員ごとに部署の従業員と工場長による社内の支援体制と、外部の支援機関（障害者就業・生活支援センターなど）による支援体制を構築し、それをリスト化した「障害者支援体制名簿」を作成し、活用している。

作成の目的は、障害のある従業員は個々で社内の担当者や外部の支援機関が異なることから、支援体制を分かりやすい組織図のような形でリスト化し、相談すべきことなどが発生した場合には、社内外含めて必要な部署・従業員に迅速に連絡して、対応するためであり、障害者雇用を担当している総務課とも共有している。

なお、外部の支援機関とは、必要に応じて連絡を取っており、会社と本人の面談の様子や就業状況の確認などについて共有している。

（3)業務へのマッチング

同社では、就労意欲のある方にはぜひ長く働いてもらいたいと考えている。障害のあるなしに関わらず、人には誰しも性格や個性の違い、得手不得手があることから、適切な業務へのマッチングを重要視し、作業ミスが起こりにくい仕組みを作ることに努めている。ひとつは、先に紹介した実習であり、もうひとつは実習状況の確認と確認結果に基づく従事業務の選定であり、以下に紹介する。

ア．実習について

障害のある方については、採用前の実習で従事する仕事を体験してもらうこととしており、実習期間中に向いている作業を採用担当者が的確に判断し、ミスマッチを防ぐようにしている。採用担当者は実習の様子を見ながら、少しでも手を止めたり、考えている場面があった場合は、本人や支援機関を交えてどの作業のどの部分が難しかったのかの確認、逆に他の作業ならストレスなくできそうかなどについて、時間をかけて話し合う場を持つこととしている。

イ．実習状況の確認と従事業務の選定

適切な業務とのマッチングを行うために、実習の際はすべての作業に対して「身体的負担」「理解・判断」「コミュニケーション」「資格・スキル」などの項目を共通に設定し、確認をしながら、最終的に従事する業務の選定を行っている。

　確認結果は、「職務整理票・選定報告書」（以下「報告書」という。）にまとめ、共通化・視覚化している。具体的には、障害のある方を雇用するにあたり従事してもらう職務を選定する際には、この職務整理票の「適」の職務の中からとすることにしている。こうした方法をとる前には、実習ごとに異なる採用担当者が直感で判断していることもあったが、項目設定や報告書により社内で共通認識を持ちながら、業務の選定などができるようになった。

障害のある方に実習を通じて実際の仕事を体験的に理解してもらう。会社としても本人の得意、不得意や障害特性について、これから一緒に働く他の従業員とともに確認・理解する。そして、実習状況をもとに本人と話し合いながらストレスなく従事できる業務を選定するようにしたことで、採用後の配置転換や、業務のミスマッチからの離職はほぼなくなっており、工場全体においても定着率があがった。

　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　職整理票の作成例（一部を抜粋したもの）


（4）コミュニケーション面

障害のある従業員の配属部署では相談などを担当する従業員（以下「相談担当者」という。）を選定し、仕事に関する教育・指導や悩みの解消、人間関係の改善、職場環境の改善に当たっており、日ごろからコミュニケーションは欠かさず、声掛けをするようにしている。

一見して変化はないように思えても、話すと実は気分が落ちこんでいたり、調子が悪かったりということが分かるということも多く、そのような時は相談担当者だけでなく、周りの従業員が自然に世間話をしたりして、気分を落ち着かせてくれることもある。

　相談担当者だけが関わるのではなく、誰もがお互いに理解と思いやりをもって障害の有無に関係なく自然に接していることで、居心地のよい職場となっていることが、誰もが長く働ける職場環境の形成にもつながっている。

(5)キャリア面

障害のある従業員についても、全従業員に適用される給与、昇給評価、昇格評価及び賞与評価に係る基準を同一としている。

 
　取材の最後に、同社の社長は次のように語られた。

　
　当工場は自動化・省人化が進む中でも機械化が難しい手作業の業務が多く、昨今の情勢による人手不足に直面しており、欠員があると業務が多忙になることもある。

様々な理由から従業員が休むこともあるが、従事している作業はいずれも工場にとって必要な作業工程なので、代わりに誰かが作業をしなければならないこともある。そのため、すべての従業員が会社にとって必要とされている人材として責任感を持って仕事をしてくれている。これは障害のある従業員も同様である。

　これからも、障害のあるなしに関わらず、すべての従業員が働きやすい職場環境づくりに努め、今以上に定着率を上げていきたいと考えている。