（1）事業所の概要

ふぁみーゆツダコマ株式会社（以下「当社」という。）は、津田駒工業株式会社（以下「親会社」という。）が、社会貢献活動の中核として平成23(2011)年4月に設立した子会社で、北陸初の特例子会社である。

親会社は、石川県内で100年以上の歴史を持ち、繊維機械に関しては世界のトップシェアを誇る企業である。当社の障害のある従業員も、親会社の機械製造に関する仕事を受け持ち、重要な役割を担っている。この「本業に携わる」というところが、当社の障害者雇用の大きな特徴である。

設立までの準備期間には2年ほどかけた。その間に、親会社と特別支援学校、関係機関と連携を組み、親会社従業員の障害者への理解を図りつつ、就労する障害者の意識を高めることにも取り組んだ。設立後は、障害者理解の促進やダイバーシティを重視し、各自の個性を活かせるような組織をつくることにより、個性豊かな人々が適材適所で、各自の能力を発揮できるよう取り組んでいる。

「すべてのあしたのために」を理念に、「社会に認められる会社」「地域・家族に愛される会社」「従業員を育成する会社」を目指し企業活動を行っている。

(2)障害者雇用の経緯

雇用のきっかけは、親会社の当時の人事担当者の思いが津田駒工業の社長を動かしたことにある。設立の数年前、人事担当者は障害者の就労意欲を知る機会があり、自分たちの会社でも障害者を積極的に雇用したいという思いを社長に話したところ、社長も同じ考えで「いつか自分たちの会社でも実現できれば」と二人で話したことが出発点となった。

準備を始めた当初は、障害者が生き生きと働くためにはどんな仕事をしてもらえば良いか、まったくイメージができず戸惑うことも多々あった。そのため、特別支援学校の生徒を職場実習（以下「実習」という。）で受け入れた。実習は、本業である製造現場で受け入れたが、工場内からは、「製造現場に足を踏みいれるのは危険では？」という不安の声もあがった。しかし、黙々と真面目に仕事に取り組み続ける実習生を見て、本業を任せる不安はなくなり、障害者雇用への理解が深まることで、当社の請負業務の選定（切り出し）が始まった。

　10名は工場の製造部門、2名は事務部門に勤務している。なお、当社では、障害のある従業員への業務指示や育成などを担当する従業員を「スタッフ」と総称していることから、それらの従業員を以下「スタッフ」と表記する。

製造現場のスタッフは障害者職業生活相談員資格の認定を受けている。また、そのうち1名は企業在籍型職場適応援助者（ジョブコーチ）の資格を持っており、製造現場部門に従事しながら支援を行っている。

(1)製造部門
　知的障害のある従業員10名は、親会社の製造ラインに直結した作業をする「作業グループ」に所属し、部品組立やボルトのピッキングなど、約58種類の軽作業をローテーションで担当している。

（2）事務部門

身体障害のある従業員2名は、事務系の作業を請負う「庶務グループ」に所属し、親会社及び関係会社の名刺作成、給食の集計・発注、社内印刷、代表電話オペレータなどを担当している。

（1） 取組の内容

ア　募集・採用

ハローワーク、就労支援機関と連携しながら募集・採用活動を進めている。また、石川県内の特別支援学校からは在校生の実習を受け入れており、12名全員が実習を契機に採用した。

イ　個別の取組内容など

（ア）  業務の選定、多能工化の必要性とその育成方法について

親会社の製造業務は、メインである製造ラインと、製造ラインに供給する部品の組み立てなどを行っている「サブライン業務」がある。当社の担当業務の選定は、サブライン業務から「危険度の少ない作業」「工程の短い作業」「比較的単純な作業」を選別し、スタートした。作業に対する真面目さ、取り組む姿勢、不良品を出しにくい工夫などから、親会社からの信頼も得ることができた。

一方、親会社で手掛けるのは専門機械のため、受注生産であり、部品も小ロット生産となる（いわゆる多品種少量生産）。親会社に準ずる当社も同様であるため、必然的に一人が4～5種類の担当作業を持ち、日々の作業内容が変わっても対応できること（多能工化）が必要となる。そのため、年に一度のジョブローテーションでは各人に新たな作業を担当してもらうこととしている。その際には、前担当者が次期担当者へ指導（スタッフ同席のもと）を行うこととしている。

多能工化により、従業員が休むことがあっても、そのフォローはスタッフではなく障害のある従業員がカバーできる。また、従業員のスキルアップを図るだけではなく、できることが増えるという自信から従業員のモチベーションを上げ、離職の予防にもなる。 

（イ）  スキルアップ・戦力化に向けたツールの活用について
　「メモリーノート」（各人の作業の目標や実績、体調や連絡事項などを、本人とスタッフが日々記録する）を活用し、目標や進捗状況、体調などの確認や、目的の意識化などにつなげている。

また、スタッフが企業在籍型職場適応援助者（ジョブコーチ）の研修で得た資料をもとに作成した「プロフィールシート」(各人の障害特性や得意・不得意なこと、必要な配慮などをまとめたもの)を作成し、スタッフ間で情報共有し、各人の特性や状況に合わせて対応をとっている。シートはスタッフだけでなく社長も目を通しており、各人の状況把握や会社としての対応を考える際のベースとしている。

 　　　　　　　　　　　　　　　　メモリーノート　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 プロフィールシート

（ウ）  人的体制の効率化と生産性の向上について

当社への信頼が得られることで、親会社の製造部門で退職者がいた際は、人員配置前に当社の業務とすることがまず検討されることになっている。時には難易度の高い業務もあるが、検討時には親会社製造現場と当社スタッフが協力して可能性を探っている。具体的には当該作業の工程分析や再構成などを行う。また、作業指示書や仕様書・図面などを簡略化して、分かりやすいものとし、作業場に掲示する。必要であれば治具なども開発する。そうした取組の結果、当社の業務とすることにつながり、親会社の要員数の抑制に寄与した。また、検討・受託により、部品運搬の一部が省略されるなど、作業の効率化にも寄与することとなった。

 
（エ）  社員教育の重視と教育体制について

モノつくりの基本となる「品質・納期・コスト」の重要性については、社員教育で重視し、指導している。特別支援学校の実習生についても、職業生活への理解促進などの観点から指導している。

指導に際しては、作業の目標時間を設定し、部品の置き場所、身体の動き、手の動きなどを指導し、目標時間達成に向けて取り組む。目標達成までの経緯をグラフ化にすることで、成長具合が可視化され、本人の達成感にもつながる。

また、当社の従業員には、どの作業にも標準作業時間があることを周知し「より良いものをより早く」の意識を持って作業に取り組む。

品質に対しての意識向上・スキルアップのための「FBK」(不良防止活動)を月に1回実施している。FBKでは不良品を出した従業員を責めるのではなく、原因を話し合い、次に同じ不良品を出さないための改善策を出し合い、情報と目的意識を共有することを目指している。そして、どのような作業でも自主検査を徹底することとしている。また、作業グループの指導は、お父さん、お母さん、お姉さんのような存在のスタッフが、様々な立場からの指導や支援を行っている。社名の「ふぁみーゆ（famille）」はフランス語で家族を意味しており、まさに家族のような会社を目指している。

　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　目標達成までのグラフ例１　　　　　　　　　　　　　　目標達成までのグラフ例２ 

（オ）  社内外職場環境の改善について

当社内では、月に一度、安全教育「KYK」(危険予知活動)を実施している。KYKでは少人数グループに分かれて、各グループがテーマに対して、「どのような危険が潜んでいるか」の問題点を出し合い、その危険を回避するための改善策を話し合う。

(２)取組の効果

ア　親会社からの信頼と受託業務の拡大

これまでの親会社への功績などから、当社への信頼度もあがり、また親会社にとっても戦力として捉えられている。設立当初は約20種類だった受託作業が、現在は58種類にまで増加した。また、設立後数年は、年間の不良件数は20件以上発生したが、現在は58種類の作業に増えたにも関わらず、年間の不良品発生件数は10件を下回るなど、作業の確実性も向上している。

イ　障害者雇用への理解

「明るく元気に！」をモットーに、「『チームふぁみーゆ』は仲間を大切にする気持ちも大切にしている。また、当社の製造現場の一部は親会社の製造現場内にあるので、親会社の従業員は、毎日一生懸命に働く当社の従業員姿に日常的に接している。その結果、親会社の従業員も、障害者に対しての意識が大きく変わった。以前は「どう接すればよいかわからない」と言っていた人も、今では直接、話しかけることができるようになり、親会社も含め、障害のある従業員と周りの従業員が共に働ける職場が実現している。　　

ウ　スタッフ、従業員の成長

当社の製造現場を支援するスタッフ3名は、親会社からの出向である。これまでは親会社をリタイヤする年代の出向が多かったが、近年では、親会社で今後のリーダー職を担う若手の出向も増えている。そうした従業員が当社に出向することで、人を見る力、育てる力などが養われ、様々な気づきもあり視野が広がることにつながっている。当社の障害のある従業員にとっても、同年代のスタッフと接することで、世界観が広がっている。

（３）家庭との連携について

毎週金曜日に家庭とのやり取りをする連絡日誌には、会社で起こった出来事や、重要連絡事項などを記入する。本人の一週間の感想欄や家庭からの記入欄があり、家庭での様子、困りごとなどを共有することで、会社と家庭との関係づくりが構築でき、連携強化につながった。

また、新型コロナ禍で中止していた「ふぁみーゆバーベキュー大会」についても、今年（令和6年）は5年ぶりの開催を予定している。大会には従業員の家族も参加し、スタッフや親会社の従業員とも交流を行う。

今年の5月には、8年ぶりの家族向け会社見学会を実施した。見学会では、会社で従事している作業の様子や、不良を出さないための工夫、いろいろな治具類、そして親会社のショールームで完成した織機を実際に見ていただくことで、当社従業員の手掛けた部品が織機のどの部分に取り付けられているかなどを知っていただき、当社の業務や障害雇用の取組について理解いただく良い機会となった。また、ショールームの見学には当社従業員も参加した。完成した織機を見ることで、自分が担当する仕事の重要性やどのように社会に貢献しているかを理解することができ、モチベーションの向上につながった。

今後も更なる親会社の生産現場を支える大事な戦力となり、作業範囲を拡大していくことで、雇用の安定・拡大を目指していきたい。そのためには、支援者となるスタッフ不足への対応が今後の課題となるが、障害のある従業員の中からリーダーとなる者の育成を図ることで、部下や後輩の指導・育成などを担う人材としたい。そして、リーダーの育成を通じて障害のある従業員の社内評価の向上や昇進を実現し、社外にも発信することで、障害者雇用への理解が地域で進むことに貢献していきたいと考える。

（機構からの補足）