(1)事業所の概要
　社会福祉法人和幸園（以下「同法人」という。）は、昭和38年6月に設立。『ふるさと（地域）と生きる』を法人の基本理念に掲げ、青森市内を中心に特別養護老人ホームやデイサービスセンター、グループホーム、ヘルパーステーション、ケアハウス、保育園や児童福祉事業と多岐にわたる事業を展開している。

また、事業のみならず、職員の働きやすい環境づくりにも力を入れており、職員の処遇改善や人材育成、地域交流・コンプライアンスの取組、サービスの質の向上などが評価される「青森県介護・保育サービス事業所認証」を取得したほか、「あおもり働き方改革推進企業認証」を受けている。

(2)障害者雇用の経緯
　令和3年度に多様な人材の活用に取り組んでいくことを経営方針とし、障害者雇用にも積極的に取り組んでいる。また、就労支援機関等（以下「支援機関等」という。）から職場実習（以下「実習」という。）の受入れを行うとともに、採用から職場定着に向けた、より積極的な取組を行っている。
　さらに、障害種別を限定することなく採用し、その人に合った職場配置を心掛け、冒頭の一覧表にあるように、現在13名の障害のある職員が様々な業務で活躍している。

本稿では、そうした同法人の障害者雇用の取組について、視覚障害のある職員（以下「Ａさん」という。）の事例を中心に紹介する。

　障害のある職員は、事務・マッサージ、清掃業務、介護補助など様々な業務に従事している。

Ａさんは全盲の方で、盲学校を卒業し、あんま・針・灸の国家資格を取得している。同法人では機能訓練指導員として1年半勤務しており、デイサービスの利用者や隣接する同法人の別施設での施術を行っている。

施術記録の入力や職員とのメールのやり取りについても、音声読み上げソフトを利用して、スムーズに処理している。

(1)取組の内容

ア　募集・採用

障害者の採用については、支援機関等からの実習の受入れを契機とした採用のほか、障害者合同就職面接会などに参加するなど、様々なルートからの採用を行っている。

Ａさんについては、本人から同法人に問合せがあったことを契機とし、面接を実施することとなった。面接には、Ａさんが卒業した盲学校の教員と、Ａさんが利用していた障害者就業・生活支援センター（以下「支援センター」という。）の就業支援担当者（以下「支援員」という。）が同席した。面接では、Ａさんが採用された場合に想定される職務遂行上の困難や、職場での安全確保を図るための配慮や環境整備等について、どのように実施していくかなどを含めて採用の方向で話を進めた。

イ　採用後の具体的取組

（ア）視覚障害への配慮について

〇通勤手段・就業時間、担当者の選任とバックアップ体制等への配慮

・就業場所である施設までの通勤は、公共交通機関の利用が困難であることから、施設利用者の送迎用車輌を活用することとした。その際、運行経路や時間などを工夫した。また、それに合わせて就業時間を調整するなどの配慮も行った。

・配属施設の責任者を担当者とするとともに、何かあったときや担当者が不在の時は、総務部長が対応することとし、迅速に対応可能な体制を整備した。

・担当者が積極的に声がけをすることで、その日の体調等を把握し、何か困りごとがあった場合は、早期に対応できるように意識してコミュニケーションを図っている。

〇就労スペースの決定と危険箇所への配慮、移動練習の実施

・Ａさんの採用前に、本人が利用するトイレや出退勤時の移動経路、利用者や職員の動線も含めて、安全を確保しながら就労スペースを決定した。決定の際には配置が適切であるか盲学校の教員に動線などを確認しながら見ていただくなど、専門家のアドバイスを参考に職場環境を整備した。

・Ａさんの動線上に衝突やつまずきの危険性がある場所には、物品設置禁止エリアを設け、色付きのテープで目印をつけ、本人の動線スペースの確保、エリアへの注意喚起を図り、本人と他の職員等の安全確保のための環境を整備した。

・トイレや出退勤の施設等への出入りに関して、一人でも白杖を使い移動できるよう盲学校の教員立会いの下で動作確認や練習を重ね、職業生活に支障がないよう配慮を行った。

〇周囲への周知について

・Ａさんの同意を得たうえで、障害状況や配慮事項について施設の職員に伝えるともに、施設利用者が理解できるように案内板を作成し、周知に努めた。

　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　案内板

〇声がけなどによるコミュニケーションの促進、支援機関との連携

・定期的な面談はあえて行わず、担当者は、お昼休みや休憩時間や業務中に毎日声がけを行うこととしている。毎日の声がけにより、Ａさんと担当者との人間関係は深まり、コミュニケーションもスムーズである。声がけ等から体調の変化や困りごとなどを早めに把握でき、信頼関係をベースに本音での相談ができている。コミュニケーションを意識しながら声がけを行うことで、困りごとや課題を早期に把握し、解決できるよう配慮を行っている。

・職場での解決が難しい課題や生活上の課題等については、支援センターと連携し、早期に解決を図っている。また、障害特性による課題については、盲学校からの協力を得ながら解決を図っている。支援機関とは連絡を密に取り、情報共有しながら課題解決に向けた連携体制を構築している。

〇職務や職域拡大に関する配慮について

・利用者の施術記録等をパソコンに入力するため、以前、Ａさんが使用した経験がある音声読み上げソフトを導入した。導入の際には当機構の助成金を活用し、業務の遂行しやすい環境を整備した。

・採用当初は一施設のみでの施術であったが、同法人では多数の事業所を運営しているため、他の施設での施術（業務拡大）を検討した。様々な利用者へ対応するためには、多様な技術の習得が必要となることから、盲学校の協力を得て、勤務中に定期的に技術が習得できるようした（盲学校の理療科で月2回の技術指導を受講した。受講は職員研修とした）。

・対象者が施設を移動して業務を行う場合は、職員が介助者として同行することとしており、周囲の理解と協力を得ながら業務が遂行できる体制を整備した。

　　　
　　　　　　　　施術風景1　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　施術風景2

　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　音声読み上げソフトを使用した記録作成業務

  (2)取組の効果

・採用選考にあたり、盲学校の教員や支援センターの支援員が同席したことで、障害状況や配慮事項、職務能力などを把握することができたため、どのようにして就労してもらうか具体的に想定できた。

・障害状況や配慮事項等を理解することで、具体的な職場の環境整備や必要な機器等について準備することができた。

・トイレや勤務先の施設等への出入りに関して、一人で白杖を使い移動できるように盲学校の教員立会いの下で動作確認や練習を重ね、移動できるようになった。

・就労スペースの環境整備だけでなく、通勤等の手段を整えることで、安心して就労できる体制を整備した。 

・盲学校と連携した能力開発や職域を拡大することが、Ａさんのやる気やモチベーションにつながり、職場定着にもつながっている。