はじめての障害者雇用に向けて、支援機関
と連携して取り組み、採用・定着を実現
- 事業所名
- 株式会社タムラカントウ
(法人番号: 2040001004390) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 千葉県千葉市
- 事業内容
- ダクトの施工・製作・販売
- 従業員数
- 120名
- うち障害者数
- 1名
-
障害 人数 従事業務 発達障害 1名 工場(ダクトの製作) - 本事例の対象となる障害
- 発達障害
- 目次
-
事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社タムラカントウ(以下「同社」という。)のスタートは、昭和42(1967)年10月に創立された田村ダクトである。田村ダクトは昭和46(1971)年に田村冷熱工業株式会社(以下「田村冷熱」という。)として法人化し、平成3(1991)年には田村冷熱の販売施工部門が分離独立したのが「株式会社タムラカントウ」である。
同社は、一般的な空調・換気・排煙用ダクトからクリーンルーム用の超高性能ダクトまで、あらゆるタイプのダクトの製作・施工管理や熱絶縁工事及びダクトクリーニングまで手掛ける会社である。建築物の構造や周囲の環境に合わせて最適なダクトを構築するだけでなく、施工後のメンテナンスや改修工事も行っている。
安全衛生活動を積極的に進めており、「高品質で安全な施工」を重視し、どんなにささいな事故も起こさない「完全ゼロ事故」をモットーに掲げ、(1)現場パトロール、(2)協力業者連絡会、(3)安全衛生大会などのさまざまな取組を習慣化している。
また、施行管理及び安全管理に関する資格取得を社内で奨励し、安全かつ質の高い施工を徹底できるよう体制も整えており、登録ダクト基幹技能者、管工事施工管理技士、ダクト板金技能士、熱絶縁施工技能士等、ダクト製造に関するさまざまな資格を持った技能者集団となっている。
事業拠点は千葉市に本社(営業所、工場含む)、旭市に営業所及び銚子工場、東京の秋葉原に営業所がある。
(2)障害者雇用の経緯
同社は令和5(2023)年に初めて障害のある社員を採用した。それまで同社の採用活動は新卒者が中心であり、障害者雇用が事業主の義務であることは理解していたが、具体的な一歩が踏み出せていない状態が続いていた。しかし、年々新卒者を含めた人材の確保が難しくなるなか、同社は雇用に関わる組織の再構築を図り、仕事の分担を行い、積極的に人材を獲得すべくそれまでの受身の採用体制を見直すことにした。見直しの一環として、障害者雇用にも本腰を入れて取り組むことに決め、管理部のトップである管理部長と生産部門のトップである生産本部長がその任にあたった。本稿で紹介する同社の取組は、見直しの段階から関わってきた生産本部長と管理部長にお伺いした内容に基づいている。
障害者雇用に取り組むにあたり、はじめにハローワークの専門援助部門への相談をした。その中で、社内の障害者雇用に対する意識を変えることが課題として浮かび上がった。そこで障害のある社員を受け入れる前段階として、千葉本社(営業所、工場含む)と銚子営業所、銚子工場の社員を対象に、障害者雇用に関するセミナー(研修)を実施することにした。ハローワーク専門援助部門の職員を講師に、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害などの障害特性や配慮すべきことについての研修を実施した結果、障害者と一口にいっても様々な人がいること、百人いれば百人の特性があることについて社員の理解が深まり、障害のある一人ひとりに合う仕事をみんなで考えようという意識が生まれたという。
ハローワーク専門援助部門への相談と並行して、千葉障害者職業センター(以下「職業センター」という。)や障害者就業・生活支援センターにも話を聞きに行くなど、障害者雇用について広く情報収集を行った。また、就労支援機関の利用者と職員の事業所見学を受け入れ、工場を見てもらうなど障害のある人との関わりを積極的に持った。その結果、社員の側も障害のある人と関わることに次第に慣れて、少しずつ意識が変わっていった。
(3)障害者の採用について
社内研修や事業所見学の受け入れなど障害のある社員の採用に向けた土台作りを進めている中、同社の工場勤務に合いそうな方ということで、ハローワークからAさんの紹介を受けた。
Aさんは職業センターで職業準備支援(就職に向けて、模擬的作業の体験、講習、グループミーティング、個別相談などを通じて、作業面・対人面に関する自身の得意なこと、苦手なことについて理解を深め、課題解決を目指すプログラム)を受けたのち、就職活動をしていた。
紹介を受け、同社では職業センターの同行のもと、Aさんとの面接と工場見学を行った。見学では、Aさんが入社した場合に働くことになる職場を見てもらい、面接では、Aさんのできそうな作業、できそうでない作業や配慮が必要な事項、応募意向などの確認を行った。その後、同社はハローワークのトライアル雇用(3か月間)を利用し、Aさんの適性や能力を見極めることにした。トライアル雇用では現場のグループリーダー(以下「グループリーダー」という。)がマンツーマンでAさんを指導することとなったが、見学・面接時に確認していた「色々なことを同時にこなすのが苦手」というAさんへの配慮として、作業が一つ終わるごとにグループリーダーに報告してもらい、その都度グループリーダーが次の指示を出すという手順を徹底した。
トライアル雇用に併せて、職業センターのジョブコーチ支援も活用した。ジョブコーチは初めの1か月は週1回、2か月目からは2週間に1回のペースで、同社を訪問して支援を行った。
3か月のトライアル雇用を経て、Aさんは同社の正式な社員に採用された。
2. 障害者の従事業務と職場配置
Aさんは工場の中で機械に鉄板を入れて折り曲げる加工の作業に従事している。
ダクトは一本ずつ大きさや形が違う完全受注生産であるため、鉄板の加工も一つ一つ仕様が異なる。はじめはグループリーダーがマンツーマンで教えていたが、働きだして1年が経過した現在、Aさんは指示書を見ながらほとんどの作業を一人でこなすことができるようになった。加工は基本的には一人で行う作業で、コミュニケーションが少し苦手なAさんには合っているのではないかと、採用時からAさんを見守ってきた生産本部長は話す。鉄板の大きさによってはペアでの作業となることもあるが、そちらも問題なくこなしている。工場内には外国籍の技能実習生も働いており、彼らとペアを組んで作業する際もAさんは適度な距離感で付き合うことができている。
さらに、最近Aさんは全体を見渡して動けるようになってきたと生産本部長は評価している。他部署にアドバイスしたり、本人が自ら申し出て動く姿が見られ、仕事にも職場にも慣れて能力を発揮することができている様子である。採用時に利用したジョブコーチ支援は、現在はフォローアップとして3か月に1回程度の訪問となっているが、問題なく働くことができているとのことで、社内での特別扱いしないナチュラルサポートが機能している様子がうかがえた。
作業風景できあがったダクト製品3. 取組の内容と効果
Aさんを特別扱いはしていないと話す生産本部長だが、詳しい話を伺うと、Aさんも周りの社員も気持ちよく働くための細やかな配慮や工夫が随所に見られた。
一例として「体調管理シート」(以下「シート」という。)による体調管理がある。トライアル雇用期間中、Aさんの体調が悪い日があったことをきっかけに、ジョブコーチと相談してAさんの体調や生活リズムを「見える化」するためのシートを作成し、睡眠、服薬の状況、血圧や体調について毎朝Aさんに記入してもらうことにした。シートは、Aさん本人とグループリーダー、ジョブコーチ、生産本部長の間での情報共有を容易にした。
シートは現在も生産本部長が始業時に確認し、睡眠時間が少なかったり、体調を崩しそうな兆候が見られるときには面談をしている。
Aさんは自分をアピールすることが少し苦手で、体調が悪くても我慢して仕事を頑張りすぎてしまうところがあるが、Aさん自身でもシートの記録を見ながら体調について客観的に確認をすることができるようになっている。
また、口頭で説明を受けるのが苦手なAさんの希望を受け、図や写真を活用した見やすく分かりやすいマニュアルを作成した。すると、スムーズに情報を共有することができるようになり、Aさんだけでなく他の社員にも役立っているとのことである。マニュアル以外にも様々なことの「見える化」を進め、細かいことをしっかり表示するようにしたところ、社員みんなにとって情報がわかりやすくなるという効果があった。
4. 今後の展望と課題
取材の最後に生産本部長は次のように話された。
当社が障害者雇用の取組を始めてから現在までの社内の最も大きな変化は、「障害者雇用についての社員の理解と意識」である。
障害のある社員を受け入れることについて、当初社内では、「障害者にどのように接すれば良いのか分からない」、「障害があると事故につながらないか」など、消極的・否定的な意見が多く見られた。だが、ハローワークによる社員向け研修、支援機関の利用者や職員の事業所見学、Aさんの採用を経て、否定的な意見は見られなくなった。Aさんの採用前は、障害のある社員の配置は一人で勘弁してほしいという反応だったグループリーダーは、現在、障害のある社員を受け入れることについて「大した話じゃなかった。まだ受け入れられると思う」と考えが変わった。
現在、当社は障害者の法定雇用率が未達成であるが、2人目、3人目の障害者雇用を積極的に進めていくこととしている。その際には、Aさんとは別の障害のある方の雇用にもチャレンジしたい。そして、Aさんについて、将来はグループリーダー職を目指してほしいと考えている。
Aさんの採用を通して、社内の障害者雇用への理解が進み、支援機関とうまく連携した同社の経験は、更なる障害者の採用にも必ず活かせることと筆者は感じた。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
千葉支部 高齢・障害者業務課
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