障害者雇用の新たな挑戦、一流のサービスを提供する空間へ
~「おいしかったよ」の声に支えられて~
- 事業所名
- 社会福祉法人博愛会 住吉浜リゾートパーク
(法人番号: 8320005000526) - 業種
- サービス業
- 所在地
- 大分県杵築市
- 事業内容
- 宿泊業、飲食業、農業
- 従業員数
- 25名
- うち障害者数
- 13名
-
障害 人数 従事業務 知的障害 12名 ホテル部門、レストラン部門、外周部門、農業部門 精神障害 1名 レストラン部門 - その他
- 就労継続支援A型
- 本事例の対象となる障害
- 知的障害、精神障害
- 目次
-
ホテル外観キツキテラス外観
1. 事業所の概要
(1)事業所の概要
住吉浜リゾートパーク(以下「リゾートパーク」という。)は、母体である社会福祉法人博愛会(以下「博愛会」という。)が平成22年(2010)に運営を開始した大規模リゾート施設であり、県内の景勝地である住吉浜において、ホテル、レストラン、キャンプ場、農業施設を運営している。
リゾートパークは、福祉・観光・農業のコラボレーションによって障害者雇用(就労環境の充実)を生み出すことを目的とした就労継続支援A型事業所(以下「A型」という。)、就労継続支援B型事業所(以下「B型」という。)、就労移行支援事業(以下「移行支援」という。)を行う多機能型事業所である。A型の従業員は現在13名であり、ここではA型で雇用されている従業員を中心に説明する。
(2)博愛会について
博愛会は、昭和39年(1964)ごろから主に知的障害者の支援を法人の主たる目標に掲げた総合的な法人施設であり、入所更生施設、授産施設、地域総合支援センター(障害者就業・生活支援センター)、福祉工場、グループホーム、飲食等の運営を行っている。福祉的な支援だけではなく障害者が自立した生活を営めるようできるだけ高い賃金・工賃を支給するために多角経営を行っており、多種多様な現場において障害者雇用を増やし続けている。
2. 障害者の従事業務と職場配置
リゾートパークにおいて障害のある従業員が従事する業務は、①ホテル部門(接客、メンテナンス、清掃等)、②レストラン部門(接客、調理補助等)、③外周部門(樹木剪定、環境整備、キャンプ場整備)④農業部門(主にいちご栽培)の4つに分かれている。
各人の従事業務の選定にあたっては、初めに本人が希望する部門に配置をしたうえで、一人ひとりの習熟に合わせ試行的な期間を設けながら勤務状況等を把握しつつ、継続して勤務できる業務を見つけていくこととしている。④の部門は、様々な業務を経たうえで、複数名での作業を苦手とする者が配置されることが多い。業務ごとに人数を固定するのではなく、観光シーズンやイベントスケジュール等に基づき月単位で配置枠を決め、利用客の予約状況等に応じて週単位で担当作業を決定し、毎朝全従業員が集まる朝礼において確認や調整を図っている。
3. 障害者の雇用創出及び職場定着等への取組
(1)リゾート施設運営への挑戦
社会福祉法人が大規模リゾート施設の運営を行うことは極めて異例であるが、障害者がやりがいを感じ、高水準の給与を得て、働ける場所を作ること、地域における観光・交流 の拠点、地域連携を促進する中核施設の役割を担うといった地域貢献を目指して、大きな決断を行った。
社会福祉法人が運営する以上、障害の有無、年齢、性別、国籍を問わず、誰にでもやさしいリゾートであることを柱とし、誰もが来ることのできる場所で障害のある従業員が、来場された方に対する『笑顔で挨拶』を心掛けながら、ごく自然に、売店、レストラン、メンテナンス業務などで働いている場所であることを目指した。
(2)業務の最適化と習熟期間の設定
スタートから14年が経過した現在は、障害のある従業員が従事する業務の切り出しが進み、接客・メンテナンス・外周整備といった多くの作業がマニュアル化されている。
しかし、当初はリゾート施設の運営経験が全くないため、文字通り手探り状態で膨大な時間と労力をかけ、リゾート施設におけるサービスとは何か、その中にある多くの作業を一人ひとりに合う形にするにはどうすべきか、試行錯誤と検証を繰り返しながら最適化に粘り強く取り組んできた。
現在は、各業務の経験者が多くいるため、新人は先輩から学びながら徐々に独り立ちしていく。できるようになるまでの期間は人それぞれであり、調理場の補助業務を円滑に行うまで6年を要した従業員もいるが、本人は「自分に任されたことが嬉しい」と前向きに勤務を継続しており、中長期的に業務に習熟する期間を設けることが必要と考える。
(3)適材適所とレベルアップ
従業員は、同じ知的障害であっても、その程度、身体障害や精神障害の重複状況、性格、得手不得手などが全て違う。
リゾート施設の運営には多種多様な職種が存在するため、本人と話し合いながら希望する業務を経験させている。その際には、障害のある従業員への作業支援等も行う従業員(以下「職員」という。)1名が、複数名を担当する。職員は現場で把握した課題等の解決方法を検討しながら本人に合った仕事を見つけ、適材適所の配置を目指しており、障害のある従業員が意欲をもって活き活きと仕事することにつながっている。
また、障害のある従業員の更なるレベルアップを目指し、1人ずつ半年ごとの作業支援面における個人支援計画(個人ごとの目標)を策定している。さらに日常的なコミュニケーションを通じ、働く意義をアドバイスすることで働く意欲とその持続性を高めつつ、個々の状況把握に努め、適切なタイミングで面談等を行うことで、精神的にも安定した状態で仕事ができるように工夫を行っている。
(4)人間関係への配慮
障害のある従業員の中には感情をストレートに表現する人がいる。人間関係が良好であれば仕事に良い影響をもたらすものの、悪い方向に向かう場合もあるため、相性を完全に無視してチームを組むことはできない。近年、若年者層においては、恋愛感情を含む好き嫌いが顕著に表れる傾向にあり、特にグループホーム等で共同生活を送っている人の場合は接する時間も長くなることから、相性を考えながら組合せを行い、プライバシーに関しても配慮しながら関係性等を把握することが必要となっている。
必要に応じて、配置等を変更するなどの対応を行う場合もあるが、まずは「大人としての自覚をもって、最低限のルールやマナーはしっかり守ること。働いて給与を得ているからには、社会人としての意識を持って、私生活を過ごすこと。」といった非常に基本的なことを、粘り強く繰り返し伝えることが重要である。
(5)チャレンジの場所
年間で3万5千人以上が来店する海鮮バーベキューレストラン『キツキテラス』では、障害程度や個性が違う従業員が一緒に働くことで、『調理の補助をやってみたい』『お客様にドリンクをサーブしたい』などのチャレンジ精神が芽生えることがある。その時は、本人の意思を尊重し、しっかりと練習して自信をつけた後、職員や先輩従業員のフォローを受けながら希望した仕事を担当してもらうと、職員側の『この仕事は難しいかも』といった先入観が覆ることが多くある。このようにサービスの最前線であるレストランは、障害のある従業員一人ひとりがチャレンジャーとして、秘めた可能性を引き出す、働くことが喜びにつながる場所として存在し続けることで、一般就労につながっていくものだと考える。
キツキテラスで働く従業員(食材の準備)4. 一流のサービスを提供する空間
サービス業において多数の障害者が勤務する場合、利用客等からのクレームが発生することを想定し、何かしらの案内を表示することもあるが、リゾートパークには社会福祉法人が運営していることや障害のある従業員が働いているといった掲示が一切ない。これは『サービスの対価としてお客様から大事なお金をいただく以上、障害の有無は関係ない。常に一流の空間を提供するのがプロであり、そこを目標にするべき』との法人理事長の理念に基づいている。
一方で現場においては、実際にクレームへつながるケースも発生するため、職員から掲示すべきではないかという意見が出たこともあった。しかし、障害のある従業員が働いていることを案内したことが甘えにつながり、従業員のサービスへの意識が低下した場合には、今まで苦労を重ねて積み上げてきた高い評価のみならず、サービス業としての価値そのものも下がる。それは、結果的に働く場所を失うことにつながる。あえて緊張感のある形で運営することで、お客様相手のサービス業として使命感を持って勤務することができている。
また障害のある従業員にとって、サービスの現場におけるお客様とのやり取りは、職員が思いがちな『(障害のある従業員は)ある程度フォローが必要な対象』という視点にはない新鮮さがある。
お客様からの「おいしかったよ。」「ありがとう、また来るね。」などの言葉は、従業員にとっては非常に良い刺激となって、モチベーションも上がり目の色も変わってくる。現場では一日も同じ日はなく、毎日、何かしら動きがある。それは大変なことではあるが、常に創意工夫していくことは、全ての働く者にとって良い刺激になると感じている。
一方で、クレームが発生した場合は、まずお客様に対するフォローを優先することになるが、同時に原因となった障害のある従業員の意欲や自信を喪失しないよう、丁寧な言葉を選びつつも、同じことを繰り返さないような指導が必要となる。起きた原因を考えること、どうすれば、どこに注意すれば、ミスにならないかを一緒になって考えることが、更なるサービスの向上にもつながるものだと捉えている。
5. まとめ
取材の最後に、リゾートパークの現場で、長く指揮を執っている副施設長は次のように話された。
障害のある従業員と接する立場の場合、『どうしてあげれば、この人が幸せになるか』『どうやって今の安定した生活を維持できるか』という視点になることが多くある。しかし、過去に法人が運営するグループホームで生活している20代の女性が、アパートで一人暮らしがしたいと申し出たことがあった。理由を聞くと「今の生活に不満はないが、私は、自由でもっと幸せになりたい。」と言われ、守られている環境や現状を維持していくことだけが、本当に本人が望んでいることにつながっているわけではないことに気付いた出来事であった。
本人の意思を確認するために、施設長、管理職及び職員は、障害のある従業員とそのご家族の方も交えた個別の面談を定期的に実施し、日頃の仕事についての考えや将来についてヒアリングを行っている。
「今度はレストランのホールで接客の仕事をしてみたい」「車の免許を取りたい」「ホテルで今の仕事を頑張りたい」「独り暮らしがしたい」「結婚したい」等、従業員から様々な目標が意欲的に出てくる。現状では難しい目標や夢であっても否定するのではなく、意思を尊重し、考えを肯定し、そこを目指すのであれば、今何をすべきか、どうあるべきか、実現に向けた具体的な話をする。そうすれば、目の前にある仕事に意欲的に取り組むための動機づけになってくる。
一般企業では、事業規模、業種、従業員数等によって、当法人のような配置や組合せを柔軟に変更していくことは難しい面があると思われる。
一方で、本人の目標、意欲や興味がどこにあるのかを確認するため、本人と向き合い本人の意思を尊重することは、どういった組織であっても取り組むことができるのではないかと考える。そのうえで職場へ定着するためには、就労環境をどこまで高めることができるのか、組織として対応し得る最適解を模索することは重要であると思われる。
また障害があっても、『この仕事はできないのでは』といった先入観に捉われることなく『チャレンジ』を促すことで、今やっていることの精度が上がる効果も期待できる。こういった組織としての試行錯誤と挑戦する動きが地域社会からの評価につながり、対価を得ることが、そこで働く者の待遇が向上するといった好循環となって、ひいては障害のある従業員の夢の実現、更なる幸せに向けた歩みになると考える。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
大分支部 高齢・障害者業務課
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