(1)事業所の概要

　タナカメディカルグループ 社会福祉法人緑誠会（以下「同会」という。）は、昭和56年（1981年）9月に特別養護老人ホームを開設することからスタートした。現在、ケアハウスホワイトキャッスル（入所定員100名、デイサービス、特定介護サービス）、特別養護老人ホーム愛輪園（入所定員80名、ショートステイ10名）、老人保健施設愛の里（入所定員100名、通所リハビリテーション）、サービス付き高齢者住宅ライフコートステラ（入所定員51名）、居宅介護支援事業所、介護予防センター訪問介護の運営を行っている。

(2)障害者雇用の経緯

　令和元（2019）年度、障害者の法定雇用率未達成により、障害者雇用納付金の納付義務が生じたことがきっかけとなり、障害者雇用による地域貢献を社会福祉法人としての使命として考えるようになった。その後、障害者雇用を進めることが、法人理事会の議案として、提案・協議を経て決定され、事業計画に盛り込まれた。そして、職員への周知も行われ、障害者雇用への取組がスタートした。

しかし、新型コロナウイルス感染症の流行により、障害者雇用の事業計画が中断してしまった時期もあり、障害者雇用に壁を感じることもあった。

　その後、新型コロナの収束にともない、障害者雇用の取組を本格的に再開した。まず、北海道障害者職業センター（以下「職業センター」という。）やＮＰＯ法人クロスジョブの協力により、障害者雇用に係る職員向け研修会を実施し、併せて札幌市内の高等支援学校、養護学校、障害者雇用企業などへの見学を実施した上で、障害者を雇用するに当たっての求人職種や担当してもらう業務内容の洗い出しを職場ごとに行い、障害者を受け入れる体制を整えていった。

その後、職場見学（以下「見学」という。）や職場体験、職場実習（以下「実習」という。）を通じた採用活動を進め、令和6（2024）年8月現在までに4名の障害者雇用につなげることができた。

　現在、北海道札幌高等養護学校、札幌みなみの杜高等支援学校からの実習の受け入れを実施しているほか、職業センターが主催する各種研修において障害者雇用についての講演(注)を行うなど、関係機関と連携を取りながら継続的に障害者雇用に取り組んでいる。

(注) 就業支援基礎研修（令和6年7月）では「企業における障害者雇用の実態」をテーマに、事業主支援ワークショップ（令和5年10月）では「企業での障害者雇用の取り組みについて」をテーマに講演を行った。

　冒頭の表にあるように、現在4名の障害のある職員が様々な業務に従事している。次に各人の従事状況などを紹介する。

(1)ケアハウスホワイトキャッスルで勤務するＡさん

職業センターからの紹介をきっかけに、就労支援センターソエルの支援のもと、見学と実習を実施した上で、令和4年8月に採用。

主に施設内共用部の清掃業務やゴミ処理、備品補充、感染症対策の消毒作業に従事しているほか、事務補助的な業務や、施設内に設置してある植物の世話等の施設内外の環境整備にも従事している。

　勤務時間については、入社当初より変わらず一日5時間、週4日勤務となっている。

(2)デイサービスセンターホワイトキャッスルで勤務するＢさん

　職業センターからの紹介をきっかけに見学（親同伴）と実習を実施した上で、令和4年12月に採用。

当初はケアハウスの清掃、介護補助業務に従事していたが、介護業務で働きたいという本人からの強い希望により、現在はデイサービスの介護業務に従事している。最初は担当できる業務が少なかったものの、従事していく中で徐々に担当できる業務を増やしていき、現在では体操、水分補給、トイレ誘導、昼食の配膳下膳、テーブル消毒拭き、レクリエーション準備等、幅広い業務に従事している。

勤務時間については、当初は一日6時間、週5日勤務していたが、現在は身体の負担を考え、医師や家族と相談し、一日4時間、週4日勤務している 。

(3)特別養護老人ホーム愛輪園で勤務するＣさん

職業センターからの紹介をきっかけに見学と実習を実施した上で、令和5年2月に採用。

主に利用者の毎日の洗濯物たたみと仕分け及び運搬、居室内ベッド周辺の清掃及び消毒等の業務に従事している。

　勤務時間は一日5時間、週4日で、入社当初から変わらず勤務している。

(4)特別養護老人ホーム愛輪園で勤務するＤさん

　施設職員からの紹介により令和5年11月に採用。

主に事務補助業務を担当しており、シュレッダー処理、事務備品整理、事務室内の清掃業務に従事している。

　勤務時間は、当初は一日2時間からスタートし、1時間ずつ段階的に増やしていき、現在は一日4時間、週5日で勤務している。

求人に当たっては資格の有無は問わず、希望者がいれば見学や実習を実施した上で、各施設において面接を実施している。採用については、配置する職場や従事する業務内容について本人の希望を重視しつつ、前職の経験や本人の能力を踏まえて総合的に判断している。

また、配属時には、本人の了解を得た上で、配属施設の職員だけでなく、ケアハウス等の利用者にも障害特性等を周知することで本人の性格や個性を知ってもらい、より早く職場環境に溶け込めるようにしている。

　同会が障害者雇用に取り組むことを表明した当初は、障害者を雇用することについての職員の不安・戸惑いや、業務量確保の観点からのハードルは高かったが、法人として事業計画に障害者雇用計画を盛り込んだことで、前に踏み出していく体制を整えることができ、様々な取組が進められた。

　特に障害者を雇用するに当たって効果のあった具体的な取組として、「代わりにやってもらえたら助かる業務」について全職員から意見を出してもらい、障害のある職員が担当する業務の洗い出し（確保）を行ったことである。

　ごみの回収や車いすの清掃、ベッド周辺の消毒清掃、洗濯、食事の準備及び片付け、検温、入浴介助等といった介護関係の業務のほか、コピー用紙の補充や廃棄書類のシュレッダー処理、受付簿の用紙補充、物品整理等といった事務作業など、多数の業務を洗い出すことができ、それらの業務を障害のある職員が担当することで、周りの職員の負担軽減につなげることができた。

また、障害のある職員と一緒に働いていく中で、障害のある職員が一生懸命に働いている姿を見て、新型コロナウイルス感染症の流行によりモチベーションが下がっていた周りの職員への良い刺激となった。「周りの職員の負担軽減につながっていることへの感謝の気持ち」や「自分たちもちゃんとしなくてはいけない」という足元を見つめ直すきっかけになった。

介護業務においては、これまでは「一人で全部の業務をしなくてはいけない」という意識が強かったが、現在は「チームとして業務を行う」といった意識の変化が見られ、職員の負担軽減や業務効率の向上につながった。

介護業界では人手不足が深刻であることから、人材不足を補うため、障害者を含む幅広い人材が活躍できるように間口を広げて雇用の促進を図っていきたいと考えている。